第23話 著作権違反には気をつけよう

  カモ カテ ペテー


  デンゴゴ デンゴゴ デデデデー

  デンゴゴ デンゴゴ デデデデー



『引き裂いた闇が吠えたり帝都が震えたり〜乙女たちが心まで鋼鉄に武装したりなんやらして正義を示したり〜♪走れーっ!!高速のーッ!!て(ry』


※著作権の都合上、歌詞を変更してお送りしております。



 軽快な音楽とともにみずきの歌声が狭い空間に響き渡った。


  マイクを強く握りしめ、大きく身を動かしながら実に気持ちよさそうに歌を歌う。カラオケボックスの小さなスポットライトがみずきの汗を照らし、彼女を眩しく輝かせた。



「……で、四人目の魔法少女である神童沙耶を仲間にしに来たはずが、何でアッシらはみずきの歌をひたすら聞く羽目になっておるんじゃ?」


「しょうがないじゃん、その新しい魔法少女さんとやらはこの壁の向こうで友達と一緒に楽しそうにやってるんだから。それにみずきもなんかノリノリで歌い出すし」



  風菜の言葉に対し、息吹は自分の真横にある壁を指の甲でトントンと叩きながら冷静な声で答えた。



  放課後、友達6人と学校付近のカラオケに立ち寄ったという神童沙耶の後を追い、みずき達もカラオケボックスに入店、彼女達のすぐ隣の部屋で動きを伺っていた。



「魔法少女の存在は一般人には絶対秘密だ。できるだけ彼女が一人になるまでは大きな動きは見せない方がいいだろう」



 ここで、先程から机の上にちょこんと座りながらストローでドリンクを啜っていただけのニューンがようやく口を開いた。



「まあそうじゃな。今は下手に動かないで辛抱するしか……」



『わたしたち 正義のために戦います。 たとえ それが 命をかける戦いであっても』



「そもそも、たいして知らない人達が溜まってるカラオケボックス入る勇気とかボクらにはないし、今は大人しくしてるのが一番……」



『わたしたちは一歩も引きません!それが帝国華劇団なのです!』



((( うるさい……こいつ目的を完全に忘れてるな…… )))



 ニューン達が話し合っている最中でも一人激しく歌うみずきに、周囲からは冷たい視線が送られていた。


  しかしそんな周りのことなど御構い無しに、テンション上がったみずきはひたすら熱く歌い続け、終いにはソファーの上で立ち上がり振り付けありの全力で一つの曲を歌い上げた。



「ハァ…ハァ…と、得点は……78点!?はぁ!?嘘だろ今の完璧に歌えてたじゃーん!!」



  息を切らせて汗だくになりながらも、納得いかない点数にみずきは大声でブチ切れた。どこまでもタフな少女である。



「……まあ、最初にとばしすぎたせいだろうな。荒くなってきたし一旦休憩〜……てかさっきから私しか歌ってないし、ここは景気付けに一発かましてやれ息吹!」


「はあっ!?何でボクにフってくるわけ!?いやいや突然すぎて無理……」


「ほら、歌えそうな曲ちゃんと次に予約しといたから」


「勝手すぎる!!」



  突然やってきたみずきからのふりに、息吹は赤面しながら必死に抵抗するも強引にマイクを押し付けられた。前奏が流れ出すと同時にみずきは大げさな拍手とガヤを飛ばし、息吹を引くに引けない状況にまで追い込んだ。



「くそ、今日は歌うつもりなかったのに……しかも何でこの曲……」


「ほら、始まるぞ〜」



 画面に浮かぶ歌詞を見て、息吹は一度目を閉じ深呼吸をした。

 顔を赤らめながらも覚悟を決め、ゆっくりと口を開く。



『……〜♪』



「「「 !!? 」」」



 可愛らしい曲調と共に息吹の歌声が響いたその時、みずきに電流走る。いや、みずきだけではない。息吹の歌声を前に、周囲の空気が一変した。



『きゃっちゅーきゃっちゅーきゃちみーきゃちみー待って〜、こっちをむいてェ、好きって言ってほしかったりして〜♪』



「こ、これは……人間じゃない僕にも感じ取れるこの圧倒的歌唱力!心が癒されていくのがわかる……」


「しかも歌うと雰囲気変わるとか反則じゃろ……息吹は実は天使なのではないか……?」


「いや……もう……最高です」



(ああ、死にたい……)



 ざわつく周囲の反応に、息吹はより一層顔を赤くし縮こまりながらも必死な思いで歌い続けた。

  みずき達の空間に暫し幸せな一時が流れた。




>>



「ヒューヒュー!!」


「沙耶ちんカワイ〜」


「お粗末さまでしたあっ」



 息吹の歌声に一同がノックアウトされていた一方その頃、神童沙耶がいるすぐ隣の部屋もまた賑やかな雰囲気に包まれていた。



「次何歌う〜?」


「あ、じゃあ私エヴァ歌うー!!」


「やだーオタクー♡」



 辺りには楽しげな話し声にタンバリンやマラカスなど、様々な音が煌びやかに鳴り響く。


 しかし、周りが最高潮に賑わっている最中、沙耶は光の影に隠れるようにソファーの隅にもたれ掛かり、ため息を一つ吐いた。



(ふぅ……もう慣れたと思ったんだけどな。やっぱりこの空気はあんまり得意じゃないかも……でも一人だけ行かなくて付き合い悪いと思われたくないし、仕方ないよね……さて、時間的にもそろそろ頃合いかな……)



 天井で光るライトをボーッと眺めながらしばらく考え事をすると、沙耶はすぐさま手首に付けていた腕時計に目を向けた。


 一瞬見え隠れする沙耶の冷めた目が、彼女の心情を顕にしていた。




>>



「あ〜、スッキリした。飲んだレモネードそのまんま出てきたレベルのビックウェーブだったなありゃ……」



  尿意を催し一度席を外したみずきは、その帰りに神童沙耶のいる部屋の前を通った。



(……まあ、本来の目的はあいつを仲間にすることだし、本当はいけないとわかっているがちょっとくらい覗いてもいいよな……)



 心の中で自分にそう言い聞かせると、みずきは身を低くしてドアの窓ガラスからそーっと中の様子を伺った。


  ギラギラと光るライトに大音量の音楽、一目見るだけでわかるバカ騒ぎっぷりにみずきも若干引き気味になる。



「う、うわぁ、完全に住んでる世界違う人達のカラオケだこれ……あのタンバリンとかマラカス使ってる人初めて見た……」



 現実をエンジョイしている人々の異端文化を目の前にしてカルチャーショックを受けるも、みずきは沙耶の方へと視点を移した。


 一見、友人達と会話を楽しんでいるように思える彼女の姿。しかし、その沙耶の動きや挙動にみずきはある違和感を覚えた。



(あいつ……さっきから時計ばっか気にしてないか?それに何話してるかはさっぱりわからないけど、やったら短い返事しかしてないようにも見える……何よりあいつ、どんだけ表情取り繕っても目が死んでるんだよな……)



  学校で会ったあの時、久しぶりの登校に緊張しきっていたみずきの背中を押した神童沙耶。愛想が良く、優しくて明るい彼女は自分とは全く違うタイプの人間だと思っていた。

 だが、そうであると勝手に決めつけていた”自分の中での神童沙耶”が、みずきの中でゆっくりと崩れ出していった。


  考えを巡らせ、みずきはある答えにたどり着いた。



(愛想笑い、私もよく使ってるから見抜くのは簡単だった。神童沙耶は求めている、或いは守ろうとしてる、自分の居場所ってやつを……好き好んで集まって、群がって、友好関係を築こうとしているのに何故か気を使わなきゃならない……人間関係難易度高すぎだろ!そりゃ私も引きこもりになるわな)



 自問自答に納得しつつ、みずきは再び神童沙耶へ目を向けた。



「……それじゃあ、この後用事あるからそろそろ帰るね。お疲れ〜」


「えー、沙耶ちんもう帰っちゃうの〜?」


「こらこら。今日はごめんね、忙しい時に誘っちゃて。お疲れ様〜」


「全然いいよ!また誘ってね〜。じゃあっ!」



(げっ、やばい!!)



 突然勢いよくドアから飛び出してきた沙耶を、みずきはドア付近の壁際に身を寄せてやり過ごす。あまりにもギリギリの回避に息を切らせた。



「あ、危なかった……神童沙耶、私はまだあいつのことを何もわかっていない……」



 みずきは急いで部屋に戻りニューンにこの事を報告、そして再び神童沙耶の後を追った。











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