第21話 純潔の魔法少女
「……はあ?マジかよそれ……」
八畳一間の小さな空間。あちらこちらに大量配置されたキャラクターグッズに一日中アニメ映像を垂れ流しにしているテレビが一台。
自堕落な生活が今にも目に浮かぶその空間に、三人の魔法少女が集結していた。
「だからさっきからそう言っとるじゃろ……アッシの出身高は海道高校じゃと」
「……同じく、海道高」
現在、”魔法少女会議”と称した会合の元、みずきの部屋に集まった風菜と息吹は、あまりにも散らかりゴミ屋敷と化したみずきの部屋を見兼ね、急遽手分けして部屋の大掃除をすることとなった。
そしてその最中、彼女達の間であまりにも今更すぎる事実が発覚していた。
「三人とも同じ高校かよ……」
今思えば、彼女達が出会った場所は全員横浜市内。学校が同じなど、よく考えてみれば不思議なことではない。
しかし、何故今までこの事に誰一人気がつかなかったのだろうか。
その決定的理由はやはり……。
「いやしかし、世界を守る魔法少女三人のうち二人が不登校とか流石にマズくないかのう……お主らがちゃんと学校に通っておれば、魔法少女になった時も初めからお互い顔見知り同士でやっていけたかもしれんというのに」
「偉そうに言ってる風菜も人の事言えねーだろ……今日平日だぞ?」
「今日は魔法少女休暇じゃよ、アッシの中ではな。まあ普段はちゃんと通っとるから問題あるまい」
「全くあんたって奴は、相変わらず都合のいいこと言いやがるぜ……」
屁理屈を並べる風菜に、みずきは呆れた表情を見せた。学校サボりを指摘する引きこもりという実に珍しい光景ある。
「別に、ボクは不登校とかそんなんじゃないし……ただ無気力なだけと言うか、登校中に面倒臭くなって、ゲーセンでバックレてるとかで……」
「不良っぽく言っても側から見りゃ息吹は私と同じだっての」
「……ッ!!」
見苦しい言い訳にみずきが容赦なく反論すると、息吹はムッとした表情でみずきを睨みつけた。
「そんな体たらくな君達にお知らせだよ」
と、突如積み上げたゴミ袋の上から聞こえてきた声に、全員が振り返った。
「あっ……なんだ、ニューンかよ」
「そういやお主もいたんじゃったな」
「……最近君達の中で僕の扱い雑じゃないかい?」
「最初は驚いたけど、ボクも流石に慣れてきたし……で、お知らせって何?」
ゴミ袋の上で愚痴を零しながらも、ニューンは一度咳払いをし、素早く話を切り替える。
「ゴホン、知らせることと言えば他でもない。ついに四人目の魔法少女が見つかったんだ 」
ニューンの言葉に、三人はざわつく。
みずき達は片付けそっちのけで円を組み、わらわらと話を始めた。
「おお、いよいよ四人目登場か!次は一体何オタクが来るんだろうな〜」
「アッシは俗に言う”撮り鉄”じゃから、キャラが被らないように次は”乗り鉄”辺りの魔法少女が来てほしいのぉ~。しかし、線路鉄や駅弁鉄のようなマイナー鉄オタも捨て難いものじゃが……!」
「いや、そもそも鉄オタ二人の時点で十分キャラ被りでしょ……」
「……って、いやいや、そもそも何で君たちは四人目の魔法少女がオタク前提で話をしてるんだい」
彼女達の違和感しかない会話に、ニューンは思わずツッコミを入れた。
「おいおいニューン、よく考えてみろよ。今揃ってる魔法少女はそれぞれが何かしらの属性を持っているんだ。アニオタ・鉄オタ・ゲーマー……むしろここで追加戦士がオタクじゃないとか、もはや詐欺だろそれ!!動物モチーフにした戦隊ヒーローに突然”忍者イエロー”が加入してくるぐらいの暴挙だぞ!!」
「なんだいその絶妙な例え話……」
「……まあ、実際何でこんなにも見事にオタクばかり集まってしまったんじゃろうな?」
みずきとニューンが議論を交わしている中、 風菜は根本的な疑問を持ち出した。
「それは僕にもわからない……というか、完全に偶然としか考えてられないよ」
「そこは運命がどうとかではないんだな……今更だけど、魔法少女になるのに条件とかはあるのか?」
「一応、魔法少女になるための条件は存在する。まず、そもそも根本的に魔力に耐性があること。これはアルコールに強い人、弱い人が存在するように、人によって生まれつき異なる要素だ。次に年齢。歳自体に制限はないが、人間で最も魔力を使いこなせる年齢は15歳〜19歳とされている……そして最後に、魔力を宿すための器が”汚れなき肉体”であることだ」
ペラペラと語るニューンであったが、遠回しに言われた最後の条件に一同は疑問を感じていた。
「汚れなき肉体って、それじゃみずきは魔法少女になれないじゃん……足臭いし」
「息吹あとでぶっ〇ろす」
「ま、まあ要はアッシらは綺麗な存在ってことじゃろ?素直に喜んでおこうじゃ……」
「汚れなき肉体ってのは比喩的な表現であって、まあ要は”男性経験がない”ってことだよ」
「「「 ……!! 」」」
聞くんじゃなかった……赤面しながら互いに目を逸らし、彼女達は深く後悔した。
「あっ、ちなみに魔法少女になった後に貞操をやぶったとしても、魔力がなくなるとかそんな事はないからそこは心配ご無用!好きなだけ繁殖活動に励んでくれて……」
「わかったわかった!聞いた私たちが悪かった!だからもうその話やめろっ!!」
「男性経験がないのが条件……なるほど、それなら魔法少女がオタクばかりなのにも何となく納得がいくのう……」
「複雑な気分……」
と、話を続ける風菜と息吹に対し、みずきはキッと鋭い視線を向けた。
「そこぉ!この話は終わりだっつってんだろ!今は四人目の魔法少女の話!脱線しすぎ!!」
「……ひそひそ(あの人何であんなに必死になってんの?)」
「……ひそひそ(ああ見えて人前じゃシャイなんじゃろ……)」
「……ひそひそ(案外可愛いとこあるんだね……)」
みずきの言う事を無視し、風菜と息吹は少し照れながらもこの話題をしばらく止めることはなかった。
「……で、肝心の四人目についてなんだけど……」
周りがようやくひと段落したところで、ニューンはすかさず話を切り出した。
「今から君達には四人目の魔法少女に会いに行ってもらう。そしてこれまでと同様、彼女を仲間に加えて貰いたい」
「今すぐか……まあニューンの瞬間移動があるわけだし、特に問題はないが……で、そいつは今どこにいるんだ?」
みずきが四人目の魔法少女の居所を尋ねた瞬間、ニューンは気まずそうに彼女から目を逸らす。それからしばらく黙り込むと、大きく息を吸い込み、重い口を開いた。
「四人目の魔法少女も海道高校の生徒だ。彼女とコンタクトをとるためにも、みずき、それと息吹、君達にはこれから学校へ行ってもらうよ」
ニューンの言葉に、みずきと息吹はまるで何を言ってるのかさっぱりわからないといった表情で目をパチパチとさせていた。
硬直した時間が、この空間一帯をしばらく支配した。
「……え、マジで?………次回、紅咲みずき最大のピンチ……」
乞うご期待ください。
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