第12話 激闘!バイクレース

「「変身ッ!!!」」



  みずきと風菜の声が一つに合わさった時、 二人の体が赤と青の閃光に包まれた。


  やがてその光は消えて行き、中からは魔法少女へと姿を変えた二人が歩み出た。



「さあ、お前の罪を数えろ」



  颯爽と変身したみずきは、人差し指を前に出し全力のキメ顔で台詞を言い放った。



「……そこはパンチマンじゃないのか」


「いや、一度でいいから言ってみたくて……おっほん、では改めて……悪を拳で打ち砕く正義のヒーロー、パンチマン参上!貴様の最後に、俺の拳を刻み込め!!」



  ぐだぐだと緊張感のない会話をしながら、みずきは改めて宙に浮く男に向かって拳を突き上げた。肩を並べ真っ直ぐと敵を見上げる二人の姿は、以前よりも遥かにどっしりと威厳あるものに見えた。



「……えっ、マジで言ってんのこれ……」



  一方、そんな二人の姿を見ていた息吹は騒然としていた。

  謎の生物と同い年くらいの二人組にいきなり魔法少女と宣告され、突如ゲームの世界へと引きづり込まれ、そして馬鹿馬鹿しいと否定した魔法少女が目の前に現れた……。あまりにトントン拍子に進む現実離れした現実に、息吹の顔は真っ青になった。



「そうだ、これは夢だ、きっと夢なんだ、でなきゃこんなこと起こるわけ………もし、もしこれが現実なのだとしたら、ボクも魔法少女の力を……?」



  受け入れ難い話に一度はふさぎ込んでいたが、しばらくして、息吹は意味深に何かを呟きながら顔を上げた。 大きく深呼吸し、長く伸ばされた黒い髪をかき流す。少し落ち着いたところで、ゆっくりと静かにみずきの後ろに歩み寄った。




「……へえ、これが魔法少女ってやつか」



  相手が戦闘態勢に入っているのにも関わらず、男は余裕そうに指を顎に当て、みずき達を興味深そうに見つめていた。

 


「おいあんた、こっちはもうとっくに変身し終わってんだよ!いつまでも高いとこから見下ろしてんじゃねーぞ!何ならこっちから引きずり下ろしてやろうか!?」



  下から騒ぎ立てるみずきの声に、男は少し毛嫌いするように肩を揺らした。



「な、なんて野蛮なんだ魔法少女というヤツは……まあ待て、そう焦るなよ。まずは名を名乗られていただこうじゃないか。よく聴いくがいい人間、この気高く美しき僕の名を!!」

 

  そう言うと、男はスッと鼻から息を大きく吸い込み、両手を広げその名を大声で叫んだ。



「僕の名前は”ゴッドフリート”!!神の名を持つ男だ!!!」



  ゴッドフリートと名乗る男の声が響き渡ると同時に、辺りはまるで凍りついたかのようにシンと静まり返った。全員が死んだ魚のような目で彼の姿を見上げていた。

  先程まであんなに騒いでいたみずきですら、これでもかと言わんばかりの真顔で宙に浮かぶゴッドフリートを見上げていた。



「……なあ風菜、人は一体どんな育てられ方したらあんだけ自分に自信が持てるようになるんだ?」


「さあ……まあ、あやつはそもそも人ではないしのう」


「ああ、納得」



(フッ、決まった……またも僕の魅力で世界を圧倒してしまうとは、僕はなんて罪な男なんだろう……)



  その自身のその痛々しい言動が真下で小馬鹿にされてるとはつゆ知らず、ゴッドフリートは自分に酔いしれ、慢心そうな表情を見せた。




「……で、ゴッドフリートさんとやらよぉ。さっきからそんな態度で、あんたほんとに戦う気あんのか?」



  みずきは頭を掻きながら、面倒くさそうにゴッドフリートへ問いかけた。


  と、ここでようやく自分に酔いしれていたゴッドフリートが我に返った。髪をかき上げながら、済ました顔でみずきに答えた。



「ああ、戦う気ね……もちろんあるさ。だけど、ここはレースゲームの世界なんだぜ?戦いの勝敗はこいつで決めようじゃないか」



  ゴッドフリートが指を鳴らすと、突然、みずき達の目の前で足場が崩れだした。


  一つ一つ四角い形をした瓦礫が、まるでレゴブロックをのようにバラバラと崩れ落ちていく。

  そしてしばらくすると、その真下からはまた新たな足場がせり上がってきた。上昇した新たな足場には、みずき達にも見覚えのある乗り物がずらりと並んでいた。



「こいつは……バイク?」



  突如目の前に現れた大量のバイクに、流石のみずきも思わず困惑した。


  と、ここで、後ろにいた息吹が恐る恐るバイクに近づき、そっと手を置いた。

  そして何かに気づいたのか、今度はそのバイクを念入りに調べ出した。



「間違いない、これはBurnoutに登場するブースターバイク……てことは、やっぱりここはBurnout世界……」



  ゴッドフリートという男の言動、そして息吹の言葉を聞き、みずきは察したようにゴッドフリートの方を向いた。



「なるほど、私達をここへ連れてきたのは、差し詰めあんたの娯楽に付き合えってわけか……お断りだな。風菜、早いとこあいつ倒してここから出るぞ!」


「あいよ、わかっておる」



  みずきは静かに気をまとい、血を滾らせる。戦う覚悟を決めた表情で、みずきと風菜は前へと出た。


  しかし、意気揚々と歩み出した二人に待ったが入る。



「ちょっと待つんだ!」


「な…ニューン、なんで止めるんだよ!?」



  ニューンの声に、二人は渋々と振り返った。



「ここはゴッドフリートが生み出した世界だ。迂闊に近ずくのは危険だ……」



  ニューンがここまで言いかけると、ゴッドフリートは高い声で不敵に笑い出した。



「フフフ……どうやらキメラの方は冴えてるようだねぇ。そう、ここは僕が作り出した空間だ。もしここで僕がこの空間を強制的に圧縮したとしたら……魔力を持つ君達は無事でも、果たして魔力を持たないただの人間はその衝撃に耐えられるかな?」



  ゴッドフリートの言葉に全員がハッと息吹の方を向いた。

 

  息吹の不安そうに引きつった表情を見て、みずきは笑みを浮かべるゴッドフリートを睨みつけた。



「野郎脅しかよ……おい、汚ねーぞ!!あんたそれでもキン○マついてんのか!?男なら拳で語るのが礼儀だろうがッ!!!」



  声を上げてマジ切れするみずきを、ゴッドフリートは哀れむような目で見た。やれやれと肩をすくめた後、呆れたような声でみずきを指差してこう言い放った。



「やれやれ……なんて言うかなー、そういう『熱血=正義』みたいなのやめにしない?熱くなってやたらと善人アピールみたいなの今時ウケないでしょ」


「はぁ?」



 ゴッドフリートのこの発言に、みずきの頭はカチンとなった。

 

 自分に対する侮辱に怒ったのではない。ただ、その時、みずきは自らの憧れているヒーローを馬鹿にされたように感じてならなかったのだ。



「ああ、それとも、ゲームなんて人間界に来てから初めて知ったであろうこの僕に負けるのが怖いのかい?ゲームが下手なら言い訳せずに最初からそう言ってくれればいいのにさぁ〜」



 その向けられたゴッドフリートのうざったるい上目づかいの視線が、煽るようにみずきへさらなる圧力をかけた。


 

「……ちっ、ああいいさ。こうなりゃ敢えてあんたの策にはまってやるよ。どのみち、私達に選択肢なんてないに等しいんだろうしな……それにあんた、オタクに対して”ゲームが下手”とかなんとか言ったこと、そいつもついでに後悔させてやるからよ!!」



  ゴッドフリートの気に入らない態度の数々に、みずきの怒りはついに頂点へと至り、その彼からの挑戦を受けて立った。



  運動が下手だと言われても、”運動音痴だから〜”と言って笑っていられるくせに、ゲームが下手だと言われると何故か無性に腹が立つという習性に似たモノが、みずきの心を突き動かしていた。要は彼女は変なプライドを持った生き物なのである。



「決まりのようだね……さあ、バイクを選択してスタートラインに着くんだ。楽しいゲームのはじまりはじまり〜」



  そう言い残し、ゴッドフリートはみずき達の前から一旦姿を消した。


  気にくわない相手の姿が消えたことで、みずきの怒りが少しづつ静まり、やがて冷静さを取り戻していった。



「大丈夫かい、みずき?」


「あ、ああ、つい挑発にのっちまった……けど、どうせやるならとことんやってやるよ!」


「お主ならそう言うと思っておったぞ。やはりそうこなくてはのう」



  ニューンと風菜に支えられ、みずきは俄然やる気を取り戻した。



「よし、そうと決まれば、さっさとあいつに勝ってここから脱出するぞ!!」



  気を引き締め直し、みずきは拳を天に突き上げた。




「……何なんだこの集団は」



  未だに状況を受け入れられない息吹の苦悩はしばらく続くのだった。





―運命改変による世界終了まであと104日-



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