第11話 たまに行くならこんなゲームセンター
”ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤ”
「……うな……ふうな……」
”ジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラ”
「……えっ?……なんて……?」
”ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ”
「…うな……だから……あああああ!!うっせえなここ!!!」
ガヤガヤと賑わう人々の声に、あちらこちらと辺りを飛び交う電子音の数々。密閉された空間に、ガチャガチャとあらゆる音が渦巻き合っていた。
ここ『ゲームセンターPK』は、みずき達が暮らす行俊町最大級のゲームセンターである。
とはいえ、あくまで地域のゲームセンター、いわゆるオタク街などに店を構えるゲームセンターや巨大アミューズメント施設などに組み込まれた物と比べれば当然劣る規模である。
だが、 ゲーム大会やイベントなどが頻繁に行われていたり、様々な世代の筐体を取り揃えている事から、隠れた人気店として一部の層に絶大な支持を受けていた。
「……で、三人目の魔法少女はこのゲームセンターの何処かにいるんだな?」
「ああ、ここから強い力を感じる。間違いないだろう」
2人目の魔法少女:潮見風菜が仲間になったその翌日、みずき達は休む暇なく3人目の魔法少女を仲間にするため、このゲームセンターを訪れていたのだ。
「お、なんだあの人集り?」
みずきが辺りを見回していた時、アーケードゲームが並ぶスペースの一角に、たくさんの人混みを発見した。
みずきは人混みに混じり、皆の視線の先を覗き込んだ。
「こいつは……格闘ゲームの大会か!」
盛り上がる観衆の中、大音量の実況アナウンスが辺りに響き渡る。前方には巨大なスクリーンが設置されており、舞台上に設置された筐体の映像がそのまま映し出されていた。
トーナメント表に大きく書かれた決勝戦の文字、今回最も注目であろうの試合に、観衆の盛り上がりは最高潮に達していた。
「凄い盛り上がりじゃな……他人がゲームしてるところを見て楽しいのか?」
「こいつら猛者にとって、ゲームはもはやスポーツと同じなんだよ……それにしても、平日の真昼間っからゲーセンにこんだけ人が集まるとか、世も末だな」
「まあ、学校も行かずこんな所に来てるアッシらも同罪じゃろうがな……お、あの赤い軍服のおっさんキャラ強いのぉ」
気がつけば試合も終盤、最終ラウンド・互い体力は残りわずかという手に汗握る展開。
会場全体が、息を飲んで試合の行方を見守った。
と、ここで赤い軍服を着たキャラが怒涛のカウンターラッシュを見せた。ぐいぐいと相手を押し込み、一気に体力ゲージを削り取る。
『おっと画面端ぃぃっ!!バースト読んでえぇっ!!まだ入るぅぅ!!………決まったぁぁ――――っ!!優勝は、Iion選手だぁぁぁ!!!』
ハイテンションな実況に、大観衆が湧き上がった。格闘ゲームに疎いみずき達も、その白熱した試合に思わず拍手を送った。
『優勝したIion選手には、ささやかながら賞金が授与されます。…………それでは、次回の大会でもお会いしましょう!!!』
と、ここで、壇上に立つプレイヤーの姿を見て、風菜はあることに気がついた。
「おいおい、あの優勝者。アッシらと同い年くらいの少女ではないか……?」
風菜の言葉を聞いて、みずきは目を凝らして壇上の優勝者を見つめた。
みずきの目線の先、地面に着きそうなほど長く伸ばされれた黒髪にキャップ帽を深く被り、ラフな格好が特徴的な少女の姿がそこにはあった。
少し幼くも見えるが、風菜の言うように、みずき達と同い年くらいの年齢だと思われる。
「あ、ほんとだ……って、という事は!」
「2人とも察したようだね。そう、彼女こそが3人目の魔法少女、獅子留息吹(ししどめいぶき)だ」
((うわぁ……またオタクかぁ……))
ニューンの誇らしげな表情に、みずきと風菜は少し戸惑いながらも、とりあえず愛想笑いをして見せた。
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「……で、魔法少女についてどうあいつに説明すりゃいいんだ?」
ゲームセンターの壁際に設置された手すりに、2人は腰掛けた。
自販機で購入した缶コーヒーをすすりながら、Iionこと獅子留息吹の様子をじっくりと伺う。
「いや、アッシに聞かれても……てか、あやつ今めっちゃ絡まれとるぞ」
風菜が指差す方向には、大会が終了した直後にも関わらず同じ筐体をプレイしている息吹の姿があった。そんな優勝者のテクニックを間近で見ようと、筐体の周りにはうじゃうじゃと人が集まっていた。
「そりゃ、優勝者が大会終わったのにも関わらず普通にアーケードプレイしてたら腕試ししてやろうって奴は山程いるだろ。まあ、あの感じだと全員返り討ちにしてるっぽいけどな……しゃーない、とりあえず人が少なくなるまで待つか」
「人が少なくなるまで果たしてあやつはここにいるのじゃろうかのう?」
「よく見ろ風菜、あいつの台の上に大量の100円玉が積んであるだろ?ありゃしばらくはあの筐体を独占するサインだ。本来ならクッソタチ悪い行為だが、今回に関しては都合がいい」
「……まあ逆に考えると、少なくともあの100円玉がなくなるまでアッシらはここを離れられないと」
「……マジカルバナナでもする?」
「……そこは素直にしりとりとかでいいじゃろ」
2人の長い長い暇つぶしタイムが始まった。
お互い気を使ってスマートフォンを開いたりしないところが意外と大人だったりする。
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「…………で、アニメ終了後にゲームが発売されたんだけどさ〜、ありゃダメだわ。制作の原作愛の無さがもろ出ちゃってて、流石にファン馬鹿にしすぎ。なんか適当にキャラゲー量産しとけって感じでさぁ……お、気付いたら私達以外客いねえじゃん!チャンス到来!」
(疲れた……こやつ後半パンチマンの話しかしておらんではないか……)
気がつけば日が沈み、辺りは薄暗くなり始めていた。
3人だけとなった静かな空間には、ガチャガチャとコントローラーが鳴る音だけが響き渡った。
「さて……どう説明すっかなぁ」
「お主……まだそんなことも考えておらんかったのか……」
「いや、だってこんな現実離れした話、どうやって信じさせりゃいいんだよ」
まだ何も始まっていないというのに、難題にぶち当たった2人が頭を抱えていると、何やら聞き覚えのある声が聞こえてきた。嫌という程聞いたこの声の主は……
「さあ、君も魔法少女になって人類の未来を共に救おう」
「……えっ……何?」
「「おいおいおいおいおいッ!!!」」
みずき達の目に飛び込んで来た光景は、筐体の上に乗り、堂々と息吹の目の前に立つニューンの姿だった。
突然、謎の生き物に突調子もない話を聞かされた息吹の表情は、明らかに困惑していた。あまりに直球すぎるやり方に、みずきと風菜は思わず大声を上げた。
「……さっきからチラチラとこっち見てたようですけど、ボクになんかようですか?」
息吹の冷たい視線に、みずきは少しテンパりながらも平常心を装い話しかけた。
「あ、いや、実は獅子留さんに折り入ってお願いがありまして……」
「ボクにお願い……っえ、てか何で名前知ってんの!?」
まさか身バレしてるのではという恐怖から、息吹の額に嫌な汗が流れた。
「あ、怪しい者じゃないって!私達は魔法少女で……」
ここまで話して、みずきの頭はようやく冷静に働き始めた。
(何を口走っているんだ私は…魔法少女なんて言っちゃったらますます怪しい奴じゃねーか!)
完全に言葉を誤った…と、みずきが心の中で思っていると、息吹から思いも寄らぬ反応が返ってきた。
「魔法少女って、もしかして最近ネットで話題になってた奴……?えっ、まさか君達が!?」
息吹の言った言葉に、みずきは苦い表情を浮かべた。
たとえネット上から特定の情報が消えたとしても、人々の記憶が消えるわけではないのだ。ネットとは全く恐ろしいものである。
「ま、まさかこんなにも広まっていたなんて……」
「まあ、そのお陰で話の信憑性はぐんと上がっておるがな」
少し落ち込みながらも、みずきは話を続けた。ニューンの助けも借りながら、出来るだけわかり易く状況を伝えようと必死に説明をした。魔法少女について、闇の使者について、そして、獅子留息吹が3人目の魔法少女だということを……
「ボクが3人目の魔法少女……馬鹿馬鹿しい、そんな話信じられるわけないだろ……?」
息吹は危ない人を見るかのような目で、みずき達を見上げた。
「うっわ、ごもっともな反応……でもこれは本当の話なんだって!事実、今あんたの目の前でこんな訳わからない生き物が人間の言葉で話してんだぜ?こんなのがいるんだったら、魔法少女だっていてもおかしくないだろ?」
「こんなのっていうなよ」
話に割り込むニューンを無視して、みずきは息吹を仲間にする次なる手を模索し始めた。
「……魔法少女……もしそれが本当だっだとしたら、ボクは……」
と、ボソボソと自分にしか聞こえない程度の声で息吹は何かを呟いた。不愛想な表情をより一層暗くし、顔をうつむかせる。その目は遠くを見るかのごとく、まるで深海のように暗く淀んでいた。
(ん……なんじゃ、今のは。あやつから何か、嫌なものを感じたような……)
その時息吹の表情を見ていた風菜は、その後ろめた目に少し違和感を覚えた。
嫌な予感……そう言い表しても間違いないこの感覚を、風菜はあえて表に出さないようにして、息吹のから目を逸らした。
一向に話が前に進まず、みずきの中でもやもやとした気持ちがどんどん大きくなっていった。
(ああ、もどかしい。闇の使者め、どうせ出るならこういう時に出てきてくれればいいのに……いやいや、流石にそんな都合のいい事が起きるわけ……)
『お困りのようだねぇ……何なら、この僕が手伝ってやろうか?』
「うおっ!マジでなんか来た!何処だ、何処にいる!?」
突如、何処からか鼻に付くような声が聞こえてきた。
みずき達は辺りをキョロキョロと見渡し、身を寄せ合いながら警戒態勢をとる。
「気をつけんと、また地面が割れたりするかもしれんぞ」
「ああ、わかってる。とにかく、まずは獅子留の安否を最優先に頼むぞ」
「な、何?何なの一体……」
『おいおい、そんなに硬くならないでくれよ。ほら、こっちだよこっち』
みずき達は周りに警戒しつつ、声の聞こえる方へゆっくりと歩み寄った。すると、ある一台の体感ゲーム機がみずきの視界に止まった。
『Burnout』と書かれた真っ赤な筐体の画面には、電子世界のサーキット場を駆け回るバイクの映像が映し出されていた。
一向はその赤い筐体に惹きつけられるように近づき、画面を覗き込んだ。瞬間、画面が緑色に強い輝きを放った。
「うおっ、眩しい!何だこりゃ……」
全身が光を浴びる中、みずきは自らの意識が遠のいていくのを感じた。まるで眠りにつくような感覚、夢を見るかのように……
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「……ッハ!ここは!?」
ぱっ目を見開いた時ボヤた視界に、みずきは堪らず眉間を指先でつまんだ。
「やれやれ、今回もまんまと奴らにハメられてしもうたな」
光によって狭まられた視界が、徐々に広がっていく。
だが、目が慣れてきてもなお、みずきは自分のいるこの場所が何処なのかを理解するのに時間を有した。
一面真っ白な世界。鮮やかな緑色に光る足場は宙に浮いており、まるでジェットコースターのようにぐねぐねと曲がった道が果てしなく続いていた。
目がチカチカするほど眩しい蛍光色で塗り固められたオブジェクトが、至る所に設置されている。 辺りを無数に飛び交うブロック状の物体が、触れるたびにノイズを起こし、フワフワと遠くへ飛んでいった。
さっきまでいたゲームセンターとは明らかに別の世界だった。
しかし、みずきはこの異次元空間に何故か見覚えがあった。
「おいおいマジかよ……ここって……」
みずきは困惑した。こんな夢のようなことがあっていいのだろうか……と。
「ようこそ『Burnout』の世界へ!!歓迎するよ、魔法少女のお嬢さん方」
頭上から聞こえてくる声に、みずき達は一斉に顔を上げた。 視線の先には、ずっと隠れていた声の主が宙に浮いた状態でその姿を現していた。
みずき達の前に現れたキザな男が放った一言……そう、この不思議な空間はまさしく本物の『Burnout』の世界だった。
「ゲーム世界にダイブって……何なんだこの状況……」
次々と訪れる現実離れした展開に、息吹は頭を抱えた。
そんな動揺する息吹の様子を見て、男は満更でもない表情でニヤニヤと笑った。
「そう慌てるなよ魔法少女。さあ、せっかくゲームの世界に連れてきてやったんだ、仲良く遊ぼうじゃないか」
男はみずき達の警戒心を煽るように、余裕の表情・発言を繰り返した。
みずきと風菜は互いの目を見て、ゆっくりと自身の変身アイテムに手をかけた。
「遊ぼうとは、随分舐めたことを言う奴じゃな……のう、みずき」
「ああ、全くだ……どうせゲームの世界に連れてってくれるならエロゲの世界連れてけや無能がァァ!!」
(うわ、思ってた以上にアイコンタクトできてなかった恥ずかしい)
互いに噛み合わないまま、2人は変身アイテムを天に掲げた。
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