第3話 初っ端ぐらい主人公無双させろよぉ!
「貴様の最後に、俺の拳を刻み込め!!」
キラキラと日の光に輝くヒーロースーツを身に纏い、 みずきはその拳を化物の群れに向かって突き立てた。
次の瞬間、挑発を受けた魔道生物達は、みずき目掛けて一斉に飛び出した。遠くに見えた小さな群勢が、だんだんと大きくなってこちらへ襲い掛かる。
その夥しい数に、挑発しておきながらもみずきの足は少し竦んだ。
「そ、そんな一遍に来るのかよ!?ちょ、おまっ、まだ魔法少女の戦い方とかよくわかってないんですけど!!」
「戦い方は君次第!想像するんだ!その想いに、きっと君の中の魔力が応えてくれるはずだよ!」
(戦い方……想像……!)
ニューンの言葉を受け、みずきの脳裏には"パンチマン第6話"の記憶が過ぎった。
大勢の敵に囲まれたパンチマンは、その尋常な数の群勢にも臆することなく、果敢にも正面から真っ向勝負を挑んだ。
一斉に突撃してくる敵の大群。パンチマンは一番先頭に出た相手に力強く"必殺のパンチ"をお見舞いする。と、先頭の一体だけでなく、その周囲にいた全ての敵を風圧だけで薙ぎ倒したのであった。
そう、こう叫びながら…………!
「くらえ、最強の一撃……"アルティメット・ブロウ"!!!!」
自分自身にパンチマンの影を重ね、みずきは己の拳を全力で振るった。
力を込めると同時に、腕に装着された手甲が巨大化した。一瞬驚きながらも、みずきは構わずその巨大な拳を魔道生物目掛けて突き出す。が、その攻撃は相手に掠りもせず、空を切った。
……しかし、次の瞬間、打ちつけたその拳から、空気が圧縮され解き放たれる感覚を覚えた。
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「……マジかよ」
気が付くと、みずきの直線上にいた魔道生物の群勢が綺麗さっぱりその姿を消していた。そして、地面には真っ直ぐにアスファルトをエグった跡がくっきりと残されていたのだった。
空想の世界が、今はっきりと現実になったのを感じた。
「……魔法少女ってすげぇーーーッ!!マジですげぇよ!!」
「うん、凄い力だ……!ただ、正直僕が想像していた魔法少女とはだいぶかけ離れている気はするけど……」
一人大はしゃぎしているみずきに対し、ニューンは小さく言葉を漏らす。
と、間髪入れず、生き残った魔道生物達が次々と容赦なくみずき目掛けて襲い掛かった。が、自分の力に確信を持ったみずきは、恐れることなく近づく相手を全て打撃で薙ぎ倒していった。倒された魔道生物達は、次々と"黒い灰"となり消滅していった。
「あっ、そうだ!もしかしてあの技も出来たりして……?」
そう思い立ったみずきは、先程と同様にパンチマンの動きを思い出す。
右手に力を込め、手甲を大きくさせる。左足を軸に体を大きく回転させ、勢いそのままに拳で地面を砕いた。
「"グラウンド・ハリケーン"ッ!!!!」
その拳が砕いた地面の亀裂から、みずきの周りを囲むようにして巨大な竜巻が吹き出した。近づく敵を吸い込み、一気に大量の化物を蹴散らしていった。
「おお……”技名を叫んで殴る”って戦い方が、実際出来るとこんなに気持ちがいいもんだとは思わなかったぜ!」
手甲が元の大きさに戻ると、関節部分から白いガスが噴出される。今、自分が輝いていることを直に感じ、みずきは満足気な表情を浮かべた。
「あっという間に大量の魔導生物を……凄いよ、みずき!よし、このまま一気にたたみ掛けよう!」
「あいよっ!」
ニューンの言葉に、みずきは調子良く返事をする。
……と、次の瞬間、突如、辺りに不穏な空気が立ち込めた。流れを一気に変えたその不気味な"気配"はどんどんと大きくなっていった。
すると、その気配に辺りが妙にざわつきだした。みずきが周囲を見回すと、その気配を恐れるように、生き残った魔道生物の群勢が、次々と姿を消していった。
しばらくして、みずきはゆっくりとこちらに近づく"男の影"に気が付いた。
人型ではあるが人間とは明らかに違う肌の色・質感、そして瞳の色。ジャラジャラと体中に付けられた金属アクセサリーに肩パットという悪趣味な衣装。さらに、出る作品を間違ったのではないかと疑いたくなるようなオールバックの険しい表情は、まさに”ザ・悪役”と言わんばかりのビジュアルだった。
男の首元に浮かぶ"奇妙な紋章"に、みずきは何故だか一際目立つ存在感を感じた。
「ちょ、ちょいちょい……あの世紀末みたいな奴も闇の手先なのか?」
「ああ……まさか勘づかれていたとは……かなり厄介な相手だ。充分に注意してくれ」
そう言うと、ニューンは隠れるようにしてみずきの背後へと周る。
男が真っ直ぐとこちらに向ける殺意に、みずきも思わず後退りをした。
「ふん、魔道適合者を見つけたってわけか……随分と悪足掻きしてくれるじゃねーか、"魔道生物キメラ”。だが、テメェのその運もここまでのようだな。俺達に歯向かう愚か者は、たとえ同種であっても皆殺しだ」
男は一度歩みを止めると、不気味な笑みを浮かべ話し始めた。"魔道生物キメラ"……おそらく、ニューンのことであろう。
「”闇の使者”……君達は何故この世界に執着するんだ?魔道生物のような意志のない破壊活動とは明らかに違う……君達の目的は一体なんなんだ!答えろ、"ドボルザーク"!!」
ニューンは今までにない気迫で、ドボルザークと呼ばれるその男に問い詰めた。
「聞きたいのはこっちの方だ、キメラ……テメェの存在は俺たちのシナリオには存在しねえ。魔道生物がこの世界に出現したのは本来、世界終焉を暗示するだけにすぎない。ただそれだけの存在だ……だが、テメェは他とは明らかに違う。魔道生物でありながら俺たち"知的生命体型"と対等の知能を持ち、あろうことか人間の肩を持つ……テメェは何者だ?何故存在している?」
ドボルザークの圧力に怖気付きそうになりながらも、ニューンは強い意志で答える。
「キメラじゃない……僕の名前はニューン。君へ言えることはそれだけだ」
「……あくまで敵対しようってわけか。だがな、魔道適合者なんざ所詮たかが人間。俺達を止めることなんてできやしねぇ……俺達の邪魔をしたこと、後悔させてやるよ……!」
(ダメだ、2人の会話がまるでわからん……)
完全に置いてけぼりをくらうみずき。内容のわからない会話のキャッチボールに、何処かむず痒さを覚えた。
「……話が長いわぁーーーーッ!!!」
いよいよ限界を迎えたみずきは突如大声を上げ、会話に無理やり割って入った。先程の戦いの余韻が冷めないのか、やけにテンションが高い。
「な、何だよみずき、いきなり大声なんか出して……」
「長いんだよ話が!まだ私自身細かい説明なんも聞かされてないのに、そんな物語の核を付くような会話されても何もわからんわ!!……要は、明らかに敵っぽいあいつを叩きのめせばいいんでしょ?どれどれ、いっちょ"ボス戦"といきましょうか!」
「はぁ……」
肩をバキバキと鳴らし、やる気満々のみずきに対し、ニューンは呆れて物も言えなかった。
「君って奴は……あのねぇ……」
話の邪魔をしないでくれ、とニューンが注意を促しかけたその時、みずきは拳を構え、勢いよくドボルザーク目掛けて飛び出して行った。
「まっ、待って!早まっちゃダメだ!ドボルザークの力はさっきまでの奴らとは比べ物にならない!!」
「ふっ……心配するなってニューンさんよぉ。確かに、この紅咲みずきはいわゆる引きこもりのレッテルをはられている。私の好きなアニメをディスる連中と日々レスバしたり、親の金でアニメサブスクに加入したり、部屋からなるべく出たくないという動悸でオムツァーデビューを真剣に考えた時期もあった。だが、こんな私にも吐き気のする『悪』はわかる!こいつは私の手で始末しなきゃいけないってこともなぁ!」
「ダメだこいつ、全然話聞いてない……」
ニューンの必死の呼び止めにも全く反応せず、みずきはただ我が道を独走する。その力に酔いしれ、完全に自分の世界にのめり込んでしまっていたのだ。
ドボルザークとの距離を一気に縮め、有無を言わさず攻撃態勢に入る。
「アルティメット・ブロウッ!!!」
みずき懇親の一撃。先程同様、巨大化させた手甲から強力な力を解放させた。
……が、先程の戦いとは違い、みずきの腕には全く手ごたえが感じられなかった。
「なん……だと……」
予期せぬ事態に、みずきの頭が一気に冷めきった。そして、みずきはようやくその違和感の原因を理解した。
みずきの放った全力の必殺技は、ドボルザークの片腕にあっさりと受け止められていたのだ。
本来なら攻撃を受け止められた時点で状況を理解することができただろう。しかし、完全に慢心状態であったみずきは、あの一瞬、何が起こったのか全く理解することができず、それが違和感として体に認識されていたのだ。
「図に乗るなよ……下等生物がッ!!」
吐き捨てるような罵声とともに、ドボルザークの強烈な蹴りがみずきの腹部に突き刺さる。
「……ッ!!!」
あまりの激痛に、みずきは言葉を失った。
ドボルザークはみずきの腹部に突き刺さった足を振り切り、彼女を空を切る勢いで吹っ飛ばす。勢いそのままに吹っ飛ばされたみずきは、壊れたビルの岩盤へと叩きつけられた。
壁面には巨大なクレーターが描かれ、みずきはその中心で嗚咽しながら混乱していた。
「オ、オエェ……な、何これ超痛いんですけど……えっ、血!?やばいって、血めっちゃ出てるよこれ!!洒落になんない……マジで殺されちゃうって!!!!」
「みずき、落ち着いて……だからあの時ちゃんと早まるなって言ったのに……何で夢中になるとすぐ周りが見えなくなってしまうんだ」
全身を駆け巡る激痛と頭から滴る血にパニ狂うヒーローと、それを宥める謎の生物、いささか異様な光景である。
「なんだよ!これ私のデビュー戦だろ!?初っ端ぐらい主人公無双させろよぉ!私だって『またオレ何かやっちゃいました?』みたいなセリフ言ってみたいお年頃なんだよ!」
「何でも初めてだからって言い訳が通用するほど、世の中甘くはないよ……」
「やめて!!夢見る女子高生相手に、そんな耳が痛くなるような話しないで!!」
体を壁にめり込ましたままの状態で、みずきはニューンと小さな言い争いを始める……と、次の瞬間。
”キュイイイイイイイイイイイイイイン……”
何やら遠くの方で嫌な音が聞こえてきた。
「おいおい、マジかよ……」
みずきが視線を向けた先、ドボルザークの周辺には不気味に輝く大量の"魔方陣"が宙に浮かんでいた。
それぞれの魔法陣は中心に不気味な光を溜め込み、今まさにそれを解き放たんとしていた。
「この世界では獅子はウサギを全力で狩ると言うらしいな……慈悲は無い、死ね。"シャドウレイン"放射ッ!!」
ドボルザークの言葉と共に、シャドウレインと呼ばれる大量の魔道光線が一斉に発射された。禍々しい光を放つ光線が、みずき目掛けて一直線に急接近する。
「……絶望的すぎて失禁しそう」
「….…今更だけど君は魔法少女はおろか自分が女の子って自覚すらないよね?」
みずきは動揺しながらも、体を必死に動かし抵抗の意思を見せる。
壁に指をかけ、勢いよく回転、そのまま上へ上へと上昇し、光線が降り注ぐ岩盤から間一髪で脱出する。だが、後方からの光線は起動を変更し、引き続きみずきを狙い始めた。
「げっ、追尾してくるとか聞いてないって!」
崩れかけの窓にしがみ付いていたみずきは、意を決してビルの壁面を全速力で走った。外壁を削り取りながら追いかけてくる光線の雨の中を、がむしゃらに駆け抜ける。
ビルからビルへと飛び移り、歪に曲がった歩道橋や今にも引きちぎれそうな電線など、辛うじて足場となりそうな場所を活用し逃げ続けた。
「やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい……!!!」
「そんなに喋べりながら走ると舌噛むよ……このまま逃げていても埒があかない。奴との距離を縮めて、接近戦へ持ち込むんだ!」
「近づくったってどうやって!?」
その時、会話に意識が向き気が緩んだか、みずきの足元に光線が直撃した。足場が崩れ、バランスを崩したみずきの体は真っ逆さまに落下していった。
「あ、オワタ……」
落ちていく中で、みずきは心の中で自らの死を確信した。
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