Chapter20

 最後の夜は明け、新しい朝日が昇っていく。

 リアンは重いスーツケースを抱え上げ、宇宙船から降ろした。

「本当に行ってしまうのね」

 彼の様子を宇宙船の中から見ていたステラが言う。

「そんな悲しい顔しない」

 リアンはいつも通りの爽やかな笑顔で、二人に向き直った。

「別れは〝終わり〟じゃない。新しい〝始まり〟だよ」

 ステラは宇宙船を飛び出すと、青年の両手を握った。

「リアンは、いつまでも私たちの家族だから。絶対にまた会おうね」

 泣き出しそうな彼女を見つめて、リアンは嘘のない瞳で笑う。

「必ず、再会しよう。あ、そのときまでに俺のこと忘れるなよ?」

「そんなの、忘れられるわけない」

 リアンはステラを軽く抱きしめてから、キアロに向き直る。

「世話になったな。キアロには、色々なことを教えてもらったよ」

 アンドロイドは、ステラとよく似た寂しげな瞳をしていた。

「リアン。あなたは、我が創造主エアデールに似ています。あなたはきっと、歴史に名を刻むロボットエンジニアになるでしょう」

 キアロの目が細められ、どこか遠くを見る目つきになる。

「ですが、あなたの姿は彼との日々を思い出させて。懐かしい反面、私には少し辛かった」

 リアンは右手を差し出して握手を交わすと、キアロを軽く抱きしめた。

「その苦しみは、絶対に無駄にはならないから。今いる家族を、ステラを大事にしろよ」

「はい。肝に銘じておきます」

 二人は離れてから顔を見合わせ、同時に頷いた。

「じゃあ、そろそろ行くよ」

 リアンは最後にもう一度笑うと、スーツケースを引き、くるりと背を向けて歩き始めた。

「リアン、約束だからね!」

 彼は振り向かないまま、左手を上げて答える。

 ステラとキアロは、いつまでもその背中に向けて手を振り続けていた。

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