Chapter16

 キアロは青年と別れた後、街の中心部へと向かっていた。

 街は夜でも無数のライトに照らされ、人通りも少なくない。すれ違う人々は、見慣れない出で立ちの男を不思議そうに眺めていた。

 目的の場所は、海沿いから少し離れた丘の上にあった。周囲の家々とは一線を画する大豪邸。

 キアロはためらうことなく門番のロボットに話しかける。

「ロボットコレクターの御主人と話をさせていただきたい」

 ロボットは数秒の間どこかと連絡を取ってから、キアロを招き入れる。

「ヘンリー様がお待ちです。どうぞ中へ」

 言われるがままに門をくぐり、広い庭園を抜けて、宮殿を思わせる白い屋敷の前に辿り着いた。

 そこから別のロボットに導かれ、家の奥にある一段と大きな扉まで来た。

「ヘンリー様、アンドロイドをお連れしました」

 ロボットたちによって開かれた扉の先に、その人物は座っていた。

 キアロはその顔を見る間もなく、丁寧に礼をする。

「初めまして、御主人。私はアンドロイドの、キアロ=ヴァイスハイトと申す者です」

「そうか。よく来たな、キアロ。僕はヘンリー=マクファーレン。ロボットコレクターだ」

 予想よりも幼い声に、キアロは顔を上げる。驚いたことに、富豪の正体はステラと年の近い少年だった。

「ヴァイスハイト、というと。キアロはあの有名なエアデール博士の作品なのか?」

 ――『作品』?

 聞き慣れない言葉に違和感を覚えたが、それを表には出さずに頷いてみせる。

「お察しの通りです。私の創造主は誉れ高きロボットエンジニア、エアデール=ヴァイスハイトでございます」

 そこまで言ってから、自分は今アンドロイドの身体を持っていることを思い出す。

「そしてこの身体はニッポンの優秀な人形師がこしらえたものであり、二人の技術を合わせたのは他に類を見ない天才ロボットエンジニア、リアンという男です」

 なめるような視線を受けながら、キアロは男との交渉を始める。

「今日ここに来たのは、他でもありません。御主人に私を買っていただきたいのです」

 少年は不敵な笑みを浮かべる。

「高性能のアンドロイドは身売りもするのか?」

 蔑むような言葉にも、キアロは真顔を崩すことなく応じる。

「オーナーのためなら労苦は惜しまない主義ですので」

 富豪は目を輝かせると、近くのロボットを呼びつけてキアロに向き直る。

「気に入った。対価はそちらが指定していいぞ」

 アンドロイドは思案の末に、ステラの生活資金と生活必需品を定期的に提供してもらうことを提案した。

 少年は快くその条件を受け入れ、かくしてキアロは富豪の下で仕えることになったのだった。

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