口付けに至る甘い距離
白いパーカーを着た少女がベッドに座り、プレッツェルにチョコレートが付いた菓子を、無心でポリポリとかじっていた。その様子を、シンプルな黒いネグリジェを纏った少女が、据わった目の笑顔で眺めている。
「……いるか? ユキホ」
箱から一袋取り出して、ユキホと呼ばれた黒い少女に訊ねる。彼女はそれを、貰うわ、と言って、どこか壊れた様に笑って受け取る。
「ねえスミちゃん、『ポッキーゲーム』って知ってる?」
「ポッキーゲーム?」
「そう、ポッキーゲーム」
「んだそりゃ? これでチャンバラでもやるのか?」
スミちゃんことスミナは、疑問の表情を浮かべ、手に持った一本の菓子を、剣のようにゆるゆると振り回す。
「貴女にそんなことさせられないわ、スミちゃん」
その手を優しく持って菓子を取り、それをスミナの口に運ぶ。
「じゃあどうやるんだ、ユキ? 教えてくれ」
もぐもぐと咀嚼そしゃくしつつ、ユキホに教えを請う。
「そうね。まず、それを口にくわえて」
「おう」
スミナは指示通り、手に持っている袋から菓子を一本取り出し、チョコが付いている方をくわえた。
「それをそのまま食べるの」
「ん」
手を使わずに、菓子をサクサクと食べていくスミナ。彼女は自分の相棒が、僅かにいたずらっぽい顔をしている事に気がつかなかった。
「それで私がこうするのよ」
もう一方をくわえたユキホは、それを一気に食べた。スミナの唇と、自らのそれとが触れあわさる。
「んぅ!? んン……」
スミナは最初、驚いて目を見開いたが、やがて頬を紅潮させ、うっとりとした表情でユキホに身をゆだねる。
「んふ……」
「は……、あ……」
一度唇を放し、スミナをゆっくりと押し倒して、またそれを触れあわせる。身体をくねらせる二人の口元から、しめった粘着質の水音がたつ。
ややあって、再び唇を放すとユキホの舌先から唾液が糸をひき、それはスミナの舌先へ、ほんの刹那の間繋がった。
「かわいい……」
ユキホは、額に汗して荒い息をする彼女の頬に触れて、そうつぶやく。
「……。なにか違う気がするんだがな……」
息を整えてから、押し倒されたままのスミナは、覆い被さったままのユキホにそう言う。
「大体、こんな感じでいいのよ?」
「そういうもんか?」
「そういうものよ」
ユキホは互いに火照っている身体を、再び重ね合わせる。
「ユキ、ちょっとまて」
「どうしたの?」
ユキホは忠実にスミナの指示に従った。
「……もう一回、頼めるか?」
彼女は菓子を手に、蕩けそうな顔でユキホにそう請うた。
「ええ、いいわよ」
それを受け取り、ユキホはスミナの口にくわえさせた。
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