第5話 ロオウのホムンクルス

 ロオウの住まう本邸は、二階建ての瀟洒な領主館である。

 二階部分を主人のロオウが使い、一階をホムンクルス達が仕事場としている。それだけではない。仙術で動作する転移室があり、各地に散らばる五つの別邸が扉一枚で接続していてるのだ。

 それによって五つの別邸が、まるで一つの大きな邸宅のように便利に使われているのである。

 要するに管理には人手がかかるということだ。


 当然のことながら当家のホムンクルスは、アレクとリュリュだけではない。今は眠っているが他にも沢山のホムンクルス達が仕えてくれている。


 一般的なホムンクルスは老いることはないが、その寿命は長くても三百年程度だ。術式を展開すれば延命することはできるが、主が居なければみな寿命を迎えてしまう。

 仙人達は、眠りに入る前にホムンクルス達を一旦魂玉に還して眠らせておく。寿命を迎えてしまうとホムンクルスの魂玉は消滅してしまい、人格も身につけた技術も、そして大切な記憶もみな消え去ってしまうからだ。




 さて、今日は彼らを復元しょうと思っている。

 アレクたちに再三要求されているからな。


 産室うぶやにクリスタルのフラスコを人数分用意していると、アレクがホムンクルス達の魂玉が納められた櫃を丁重に運んで来た。


「リュリュはみんなを覚えている?」

 アレクの手伝いで、魂玉の箱を安置する机に布を敷き詰めていたリュリュに聞いてみる。


「はい。優しい女の人に可愛がってもらっていたのは、少し覚えています」

「ふふふリュリュ、それは家政婦長のウルスラ・エント夫人でしょう。あなたをずいぶん可愛がっていつもそばに置いていましたからね、彼女は」

 アレクが懐かしそうに笑う。


「それから、執事のイェレミアス・マッコネン、料理長のジュスト・ペール、そして家政婦長のウルスラ・エント夫人。彼らがアッパー・サーヴァントです。リュリュ、あなたの上司にあたる者達ですから、いろいろと教わるといいですよ」


「はい!早く会いたいですね。料理長さんもいるんですね!」

「おやおや、自分よりも料理長に早く会いたいとリュリュが言っていたと聞いたら、エント夫人はさぞがっかりするでしょうな」

 アレクがからかっている。


 その他にもロワー・サーヴァントとして、従僕と、料理助手、御者、庭師、それから小間使いが一人とハウスメイドが三人。全員で十一名分の魂玉と、その他全ての素材、準備が調った。


 さあ、始めるとしよう。



*……………………*

【参考文献】ロオウ式ホムンクルスのレシピ


術式を刻んだクリスタルのフラスコに、神木の花の蜜を1メモリ、主となる仙人が術式で精製した霊水を2メモリ分入れて混合する。


一時間程で上澄み液が澄んでくるのでこれを分離してフラスコに残す。

ここにホムンクルスの魂玉を一つずつ鎮めると、それは緩やかに加熱しながらまとまり始める。


一週間に二度、神木の花の蜜の水溶液を1メモリずつと、聖域の苔をすりおろしたペーストをひと匙ずつ加えていくとやがて半年程で、フラスコの中に赤子の形のホムンクルスが産まれる。


温かな産湯と清潔な布を用意してから、クリスタルのフラスコを割ると、そこに成人したホムンクルスが誕生するのだ。


※ 注意

素材が全て揃っても、安易に実行されないよう願います。術式の正確さと法力の練度が不可欠です。用法容量を守って正しくご使用下さい。


ローデヴェイク・デ・ランゲ・アルシュヴァラ

*……………………*

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る