第21話 スピリツトレギオン
《ギガースどもか。たった十二匹だが面倒だな》
六十万の軍団を見て、グラシャラボラスがそう波長をもらした。
よく観察すれば、六十万の軍団は体の色と
聖書には我々、神話などでは神群、と神を複数形で表記する箇所がある。神の威厳を強調するために複数形にしたと、いかにも人間的な解釈されたりするが、一体の中に複数の意志があったことを指しているのだろう。
言わばギガース巨人族は神群。五千の個体意識が集合した
そして、この
《少し手勢を……私の腕の存在よ、私の下僕に!》
赤エイ・フォルネウスは刃物に変形させた手で残り全ての腕を躊躇なく切り落とす。
青の血を噴出した断面の傷はたちまち修復するが腕は再生しなかった。腕の存在を、下僕の存在に転化したためだ。
五本の巨腕が腐ってゆき、無定形の渦、粘液の渦、腐臭肉の渦と一定の形象を保持できない精神体と転じていった。
――
破壊衝動のみ、殺戮感情のみ、と単一感情だけでなる負の精神体だった。ぐちゃぐちゃと渦巻く肉塊達が押し寄せる。
高位の精神体が数多の手下や下僕を創造するのは、そのエリア地域を自分が好む感情と運命の気勢で支配するためである。下僕が産む感情が、その主を強化するのだ。
【情感高揚】という神体が持つ基本事象である。
この情感高揚には力を上昇させる【情感高揚―力】、速度を上昇させる【情感高揚―速】、【情感高揚―マイト変換】などと多くの種類があり、その主を強化するのだ。
もちろんシュラン達も【情感高揚】を所持している。しかしまだまだ神のタマゴといっていいシュラン達では手下や家来を創造できないため、【情感高揚】が有効に働くことはまだない。
高位精神体の戦いとはこういうものなのである。
六十万のギガース巨人群全てが一つ目の前に光の玉を創った。光球から四方に光の線筋が伸び、別のギガースが創った光球と繋がっていく。五千の光球が繋がって、巨大な【
飛んできた【
造物主クラスの至高精神体が世界を浄化させるときに使う【
矢継ぎ早に発射される【
しかし、五本の腕から創造された
巨獣アンリがルオンを目指し、三色巨大石板達が斉射する赤い条光の中を驀進していた。
《くくくっ……稚拙な攻撃だな》
数百の超高熱レーザー線が無残に弾かれている。
「まずい! ルオが!」
シュランは青ざめた。白銀毛玉の猛攻に阻まれ、いくことができない。
すると、ルオンの危機を察知したギガース二体――一万の軍が動いた。
投射された【
――暗黒の破壊波動波!
は、ギガースの防禦壁に霧散する。ギガースは戦士と呼べる種族で、故郷のプレグアイから出なければ絶対負けないとある。ようは
しかし、成体となりギガースで最強と云われるポルピュリオーンやアルキュオネウスの二体がまだきてない。続々と、各地で世界を修繕していた巨人達が駆け付けている訳だが、古き巨人のティタン巨人族や魔眼巨人バラーを筆頭にしたフォモール巨人族達もだ。
特に、親族であり恐るべき力を誇る蛇や竜などの種族がきてないのは痛い。
《ギガースどもよ! プレグアイ
アンリは複雑怪奇な螺旋の立方体印を描いた。ミャウがウルリクルミに雷公を浴びせたときはシンプルな球体の印。印の性能に格段な開きがあるのは明白である。
《無垢なる混沌!》
螺旋印が発光し、どす黒い赤色のアメーバ状の物体が飛び出した。
陰の
人の顔、牙、丸や四角などが無限に蠢くアメーバ物体――【無垢なる混沌】が防御壁すら削ぎギガース群に飛弾すると、数百を消し飛ばした。
《――――!》
ギガース群は戦力差に歴然とした差があると判断した。戦士ゆえギガース群は竜や古き巨人が駆け付けるまで、身を犠牲にして時間を稼ぐ戦術を選択する。シュランとミャウの為に、二軍が踏み止まり、残りはアンリに挑む。
ギガース群五九万の軍勢が動く。一瞬、空が動いた錯覚を覚える。十の色で染め上げられたような空が雄大に進軍する。
そしてギガース巨人群は昇天の勢いで、ふざけたほどの【
連射! 連射! 連射! 連射! 連射!
聖念動【
もう、場は狂騒が包み、滅茶苦茶となった。
荒れ狂う【
嵐蛇アダドの時空震波長が――銀の尾が――赤エイ・フォルネウスの【
空間が持つ特性――捩れや穴を塞ぐ再生力は非常に強力なものだが間に合ってない。そのうえの維持能力持つ次元壁すら、過渡のエネルギーを受け、水膨れのようにぼこぼこと煮沸する。
それた光弾の一つが紫の太陽に命中し四散させた。闇の空間に、飛散した炎が紫の流線を引き、さーっとしなだれて落ちていく。
幾百もの美しい紫光に、ルオンの透明な神樹の森が照らされ、なんとも幻想的な瞬間が描かれた。儚げで心が奪われる。
だが、六個あった太陽があと一つだけとなってしまったのを見ると、現実をつきつけられ、言いようもない恐怖がこみあげる。おまけに、この凄まじい戦場が、時々、二次元化する始末。もはや人間の常識が通じる世界ではない。
シュラン達は正気を保つのがあやゆくなってきた。
もう支えるのは、アンリ達へ不当な怒りだけ。目は血走り、シュラン達は何かに取り付かれたように怪物達を殴りつけ、恐慌に堕ちかけるのを、その必死さで危なげに保つ。
そして――
強烈な光が、暗闇の世界に、閃いた。
「……嘘だろ!」
シュランが絶句した。その一撃でギガースの軍勢がほぼ壊滅させられてしまった。
《くくくっ!
三百の熱線を浴びながら、巨獣アンリが喜悦にうなる。
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