第12話 十垓歳とゼロ歳
「わしは十
ユミルが言った。
「十
「ミャウ! 一
「24個! そんなでっかい数字、普通使わんぞい!」
ゲオルグが驚いた。一垓を億にしても、一〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇億となる。
「無理して使うなら、星の質量かしら。ユプシロン星68垓トン。ユーイ星90垓トン。あ! この辺りの星域のほうが解りやすいわね。地球59垓トン。水星22垓トン。天王星234垓トン……」
「全然わかりやすくない。頭が痛くなってきたわい」
マーシャが淡々と説明したことに、ゲオルグが額を押さえた。
太陽は地球の質量の三十三万倍だから、垓で表しても足りないぐらいだ。更に更に上の、
「チビじじい、十垓歳……」
ミャウは唖然としつつ、ルオンを見た。
一六、一七歳。
それがルオンの外見から受ける印象である。
「地球時間ゼロ歳五日。一二〇時間? ……離れ過ぎ! 精神体って、こんな存在なの? ルオンちゃんも生まれたてなのに、なんだか利発で知識もあるじゃないかい」
「それはタマゴのとき、知識を溜め込んだですよ。【
「教えて! ルオンちゃん、それ!」
マーシャが身を乗り出した。
「花びらを、きゅと窄める感じです」
マーシャは肩をがくっと落とした。堅物のマーシャには不可能な感性だ。しかし、中年男のゲオルグが瞳をうるうるさせ、汚れを知らぬ乙女が恥じらうような仕草をしてみせると、
「ああ! マイトをもっと摂取すれば離れられるのね!」
「おお!
意識の中に閃光のようなものが迸り、【
「うまい! うまい! あれ、シュラちゃんもやってるの!」
シュランは目の焦点が合ってない表情をしていた。ルオンに指摘され、シュランが顔を背ける。その素っ気無い態度に、ルオンはしゅんとうつむきき肩を窄めた。
「ふうん」
鼻についた含んだ笑いをすると、ミャウは長くしなやかな脚を組んだ。
『卵』である。
『卵』はルオンノタル。ルオンである。
「今、考えると。シュラ坊は解ってたんだ。すごいね~ぇ」
ミャウは妙な感心をしながら、シュランからルオンへと視線を移す。
「シリウス人の
「そうじゃ、こんな可愛い子を! それで、二人はどうするんだ?」
興味津々でマーシャが言うと、ゲオルグも俄然として口をはさんできた。皆の視線を浴びて、ルオンは頬を紅潮させながらうつ向き、躰をもじもじとさせた。
「――別に」
シュランがそっぽを向いたまま、ぼそりと言った。
「別にって、なんだい!」
ミャウが不快な表情をした。
「あの……その、私……告白されました……だから……」
ルオンは途切れ途切れに言い、湯気を噴出したかのように真っ赤になった。
「と言うことは……!」
一同が色めき立った。ミャウ、ゲオルグ、クールを決めているマーシャも、この手の下世話なことが好きなのだ。ユミルはほほほ…と笑っている。
「後は、私が返事を……返事は……」
目線を上げシュランを伺っていたルオンは目があってしまい、慌てて顔を伏せた。
「――ルオ」
シュランに声をかけられ、ルオンが身を踊らせた。
「はい?」
「それ、なかったことに」
シュランがそう軽く言いきり、誰もが己の耳を疑い、一瞬、心に間を作った。
「え? 私がゼロ歳だから? えっ? シュラちゃん、歳幾つ?」
「九歳……おっと。地球公転だと十八ぐらいか」
青ざめながらも、ルオンは胸を撫で降ろす。
「よかった。十兆ぐらい離れているかと! 全然、大丈夫ですよ。どうして……」
「俺が好きなのは卵。今は違うだろ。それに小娘は俺の趣味じゃない……」
シュランの言い草に、ミャウが驚いた。
「シュラ坊! 馬鹿なのかい!」
それを遮るように、弱々しくかったが、意外に映える声で、ルオンがぽつりと言った。
「いいです……判りました。卵でしたもの……」
ルオンは笑った。しかし小さな胸中で衝撃、悲嘆らの感情が渦巻いて、涙腺の堰は脆くも崩壊する。ルオンの満面の笑顔は数秒もなく、泣き笑いとなっていった。
ルオンは涙を見せてしまったことを、恥じるような仕草をすると、弾かれたように飛びたった。
「ルオンちゃん!!」
ミャウが声を張り上げ、シュランは追い掛けようとして思い止まる挙動をみせた。
「ほほほ……泣いてしまったの~、ほげ!」
「ほほほ、いってじゃねいっ! チビじじい!」
怒りをぶつけるように、ミャウはユミルを踏み付けた。
「おお! まかりなりにも、わしらの創造主様だぞ! ミャウ!」
「認めたくないけど、それ造物主の一種なのよ」
ゲオルグが右往左往し、マーシャが冷淡に言った。
「――――シュラ坊!!」
ミャウはシュランを鋭く居抜き見た。ミャウの頭髪は逆立ち、その周囲では不思議なことに電撃が爆ぜ始めた。
しかし、ミャウの怒気と逆立った髪がふわりと和らいだ。気付いたのだ。シュランが今にもルオンを追い掛けていきたい衝動を抑えているのに。
「本当は……」
シュランは何か言おうとしたが、堪えきれなくなり――ルオンを追跡すべく、衝撃波と共に一条の光となって飛びたった。
「まあ、理由はなんなく解るけどさ。もっといい言い方をすれば、泣かすことないだろうに……」
ミャウは肩竦めて、嘆息した。造物主の一種ユミルを踏み付けながら……
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