お祭りの二十七日目

 今日もうんざりするほど、空が青く、うんざりするほど、太陽が強く輝いて、暑い。

 そんなうんざりする暑さの中で、町が、ざわめいている。もうすぐお祭りが始まるのだ。


 学は、白い組み立て式パイプテントの下で、手話の本を読んでいた。今さら読んでも本番にはすっかり忘れているだろうと思ったが、それでも、少しでも、覚えておきたいと思うからだ。


「うわっ、勉強熱心だね」


 隣から、安川が学に話しかける。


「でも、ここまで来たら、細かいことは気にしないで、元気良く踊ればいいよ」


「だいたい正直に言えば、あそこに集まっている手話サークルのおばさんたちは、みんな耳が聞こえない人の通訳になれるくらい上手だからね。俺らが間違ってもあの人たちがちゃんとやっているから、適当に動けば大丈夫だから」


 安川は勢い良く学の肩を叩く。


 学は「痛いですよ」と笑って言いながら、思う。この人が三戸里市を覆う邪悪な意志に加担しているとは、到底思えない。まだあまり話をしていない他の三人も、同じだ。本宮陽菜乃が心配していたのは、本当に未来を変える会だったのだろうか。


 事件のことを考える学の意識を、幼稚園児たちの賑やかな声が、お祭りへと引き戻す。


 お祭りのオープニング、幼稚園児たちの歌とダンスが始まったのだ。学は顔を上げ、ステージの方を見た。





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