混乱の二十六日目

「山本さんのご夫妻、予定より早めに老人ホームに入ることに決めたらしいわよ」


朝生ゴミを近所のごみ捨て場に出しに行くと、三軒離れた黄土色の屋根とクリーム色の壁の三階建ての家に住む美濃部安子みのべ やすこが、また一つ嫌な情報を運んできた。嫌なことは聞きたくないものの、情報は知りたい菅田秀子すがだ ひでこは、矛盾する自分の心をもて余しつつ話を聞く。


「ほら、昨日もまた玉川町で事件が起こったじゃない。それでこんな物騒な場所に住んでいると、自分たちもいつ被害者になるかわからない。一刻も早くこの三戸里市を出ないとって」


「二人で話しているうちに、早くこの三戸里市を出て、予定より少しはやくなるけど、市外の老人ホームに入居しようということになったみたいよ。いいわね、簡単に市外に引っ越せる人は」


安子がとうとうと語る。秀子は自分と同じように、三戸里市から簡単には逃げられない安子の言葉を黙って聞いていた。





「うるさい」


安子と別れたあと、秀子は近所にある保育園を見つめる。


ここに保育園ができてからというもの、うるさくてうるさくて、仕方ない。


人は子どもの声は騒音ではないというが、それは、保育園の隣に住んでいない人の言葉だと、安子は思う。


自分に関係ない子どもの声が、うるさくない訳がない。


安子はため息を一つつくと、家に戻る。



「お父さん、お昼よ」


二人分の簡単な昼食を作った秀子は、二階の自分の部屋にいる夫を、十二時十分に呼び、テレビを見ながら昼食を夫と食べる。


「ピンポーン」


玄関に設置しているインターホンの子機が鳴ったのは、ちょうど昼食を食べ終わり、皿を洗おうかと思っていたときだった。


「はい」


白いインターホンの親機の、通話と書いてあるボタンを押して返事をした。


「警察です。開けてください」


思いがけない声に、秀子はひたすら混乱する。










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