騒がしい夜の十五日目
三戸里市北西部の町、
一人暮らしの
「なんじゃ、こら!」
茶色の健康サンダルを足に履き、青いパジャマ姿で外に出た山崎は目を疑った。季節はもう夏なのに、道路を雪が覆っているのだ。しかも雪は自然に降った物でなく、辺りをうろうろするサングラスをかけ大きめの白いマスクで顔の下半分が隠れている、青い作業着姿の若者たちが変な機械で作っているものだ。
「おい、お前ら。人の家の道路の前で何を」
山崎が若者たちにかけようとした声は、途中で途切れた。山崎の様子を隠れてうかがっていた男たちの一人に、鉄パイプで強く頭を殴られたのだ。間髪入れず、他の手に握られた鉄パイプが山崎の頭に降ってくる。その間に他の鉄パイプが山崎の腹部や足を狙い打つ。この高速の連携プレーによってすぐに山崎は動かなくなる。ほぼ同時に、黒いミニバンがやって来た。若者たちは驚きもせず黒いミニバンの後部のドアを開けると、山崎の体を運び入れ、最後にドアを強く閉める。すると、それが合図であったかのように、黒いミニバンは静かに走り出す。その後、若者たちは大急ぎですべての荷物をまとめ、三トントラックと白いワゴン車で走り去る。
その少し前、山崎郁男の隣に住む亀田家の長男興太郎は、二階の自分の部屋のベッドでスマートフォンをいじっていた。興太郎は少し前まで一階で寝ている両親や、隣の部屋の次男、興次郎と同じく眠っていたのだが、何かうるさい音が聞こえてきて起きてしまったのだ。興太郎はうるさいと思ったが、どうせ近所の誰かが掃除機をかけているか、洗濯をしているかだと思い深く気にしていなかった。しかし、隣に住む口うるさい老人の山崎氏の声が声が聞こえたと思うと、争っているような音が聞こえたので、さすがに気になった。そこで、青と白のチェック柄のパジャマのまま一階に降り、玄関で青地に黄色の線の模様が入ったスニーカーを履くと、ドアを用心深く薄めに開けて外を覗き見る。
すると、家の前に青い作業着姿の若者たちが大勢いる光景が飛び込んで来た。さらによく見ると、彼ら全員が見つめている場所で若者たちによってたかって鉄パイプで叩かれているのが山崎氏だとわかって戦慄する。
「これは、いったい」
目の前に現れ出た映画のような出来事に呆然としていると、若者たちが山崎氏を殴るのをやめた。取り敢えず山崎氏が殴られなくなって、興太郎がほっとしたのもつかの間、若者たちは道路にうずくまる山崎氏をいつのまにか来ていた黒いミニバンのバックドアに素早く押し込む。すると黒いミニバンはすぐに発車し、たちまちその姿は見えなくなる。
「なんだよ。これ」
興太郎はドアを急いで閉めると、鍵をかけ、ドアに背中をつけて座り込む。それから少し経って落ち着くと、急いで警察に電話をかける。
午前三時半頃、三戸里市南部、
毎読新聞の販売店で働く新聞配達員の
午前四時、三戸里市全域に防災行政無線による緊急放送が流れる。「三戸里市市内で、人工造雪機を使って雪を作っている集団がいます。彼らに近づくと大変危険なので、絶対に近づかないでください。もし、見つけた場合は絶対に近づかず、速やかに警察に連絡してください」
午前五時、三戸里市、西部、
いつも早朝に出勤する五十四歳の会社員松田勘治は、普段と同じように最寄り駅の西三戸里駅へと向かっていた。彼は今のところ、夜遅くに現れた人工的に雪を作っている集団にも、溶けかけの雪にも会わず順調に歩いている。
「なんだ」
いつもの道に見慣れぬ物があるのに気がついた松田は、気になって足を止めた。何かと思ってよく見ると、人が倒れていた。
「酔っぱらいか。こんなところで倒れているとは情けない」
松田がそう言い捨て行こうとしたとき、倒れている人の頭部が目に入った。
「うっ」
松田はその場に凍りつく。その頭部は傷ついて血で赤くなっていたからだ。
これは、いったい」
松田はその場でどう行動すべきか少し考える。やがてため息を一つ盛大につくと、警察に連絡するためにスマートフォンを取り出す。
午前六時半、三戸里市西部、
高校二年生の
「えっ!」
花野美は思わず声をあげる。家の前にうっすらと雪が積もっていたから。
「なんで、雪が降ってるの?」
花野美は少しの間雪を見ていたが「そうだ!!」と呟くと、自分の部屋に戻った。しばらくして再び戻って来た花野美の手には、まだ新しいスマートフォンが握られていた。
「これで写真を撮って、インスタグラムに載せちゃおう」
花野美はスマートフォンの画面をにらみ、一番きれいに見えるポイントを探す。
午前七時十一分。東京都多摩市の路上で人工造雪機を積んだ三トントラックがを運転していた、
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