第2話 魔界突入! ②
そういうわけで、どういうわけで?
作戦会議が始まった。
魔界突入編というからには、壮大な展開を予想していたのだけれど。
どうやらこじんまりと終わる気配が漂い始めている。
「さすがに、簡単には本丸に向わせてくれないようね」
エルーシュが呟く。
少し状況を確認するからと、俺達を放置して目を閉じて何やら周辺の気配を感知していたのだった。
武藤さんも、ミエラも魔法使いではあるが、魔界経験は無し。
魔界であたりの状況を探るなんていう便利な魔法も持ち合わせていないようだ。
つまりは、今後の展開はエルーシュ任せ。
罠だろうが、なんだろうが信じることしかできない。レッツビリーブ。
部活にするならビリー部だ。うまくもなんともない。
本人は否定したものの、サキュバス的な種族の血が混じっているのだろう。
エルーシュにはそこはかとない魅力的なオーラが感じられる。
同性である武藤さん達がどう感じているのはともかくとして。
いや、俺は決して色香に惑わされたわけではない。
武藤さんが、特に疑う必要性も感じずにエルーシュの話を信じたのだ。そしてわざわざ魔門を開かせて、魔界に来たのだ。一片の迷いもなく。
俺達もそれに一蓮托生で乗っかるしかない。
「おそらく……、本体はあそこ」
と、エルーシュが指さす先には緑色のドーム状の屋根が見える。
俗に言う、しゃれっ気をだそうとしても叶わない、体育館と言う奴だ。
無理に、オサレ度を高めようなら、スポーティングホール?
いや、やっぱり無理だった。
「体育館に行けばよいのだな?
そこに、敵が、魔導機関の本体があると?」
ミエラが聞く。ミエラの日本語は流暢すぎて、「たいいくかん」を「たいくかん」と発音するぐらいはお手の物らしい。
「たいくかん」では、正しい日本語と認められずに漢字変換できない――最新の変換ソフトではどうだかしらないが――ので、メールとかを打つ時と発音で使い分けていると思われる。
「ふいんき」と並んで過ちやすい日本語だ。
閑話休題。
エルーシュがその問いに、
「本体じゃないけどね。あくまでも、魔導機関の本体から分裂して生じた分身というべきもの。その力は魔導機関の本体には遠く及ばないけれど……。
くやしいけど、あたしの力じゃ太刀打ちできない」
「ほな、それを倒せるのは……」
と、市ノ瀬が周りを見回す。
「そう、そこの坊やしかいない」
来ました! 予想外!!
エルーシュの視線と指さす一差し指の延長には俺の顔。
「お……、俺?」
「もちろん、あなたの力では何もできないでしょう。
武藤フアの力を得ることがが必要よ。
でも、その前に……」
と、エルーシュが飛び立つ。翼を広げて空高く……。
が、その飛翔は見えない壁に阻まれる。
エルーシュが、空中で上昇と止めた地点から、半透明のドームのようなものが一瞬輝きを放って消えた。
「見てのとおり。
屋上から飛び降りようとしても、今みたいに結界に阻まれるわ」
それを、論より証拠で体で示してくれたわけか。
「じゃあ、どうすれば?」
と尋ねる武藤さんに対して……。
単純明快だった。エルーシュの答え。
「そこの階段で下りて行けばいいのよ」
超の上にどが付く正論。
「…………」
これには、さすがの市ノ瀬もどう突っ込みをかましていいのか逡巡しているようだ。
「でもね、各階にはご丁寧にも門番が配置されているわ」
「門番?」
「そう。あなた達、魔界にとっての異物が来たことを感知したみたいね。
だから、結界も張り、行く手を阻む刺客を差し向けた」
なるほど。逆死亡遊戯ってわけか。刺客と戦いながら、校舎を降りて体育館へと向かう。
邪魔する者が来たのがわかっているのなら、もっと強力な結界をきちんと張るとか、待ち構えるのではなく、一気に攻めて来るとかしてもよいようなものだが……。
「魔界の生き物には魔界の生き物の価値観や道徳があるのよ。
いかに魔導機関がその理性を失い、文字通り暴走機関と化してしまった今でもその辺りの倫理は引き継いでいるのでしょう」
つまりはそういうことか?
魔界の住人や生き物の考え方ってのは……。
戦隊ヒーローものの、悪の組織に通じるものがあると。
街を襲う際に繰り出す怪人や怪獣は常に一体で、数十体まとめてかかることはクライマックス近くにならない限りは行わない。
加えて言うなら、最終決戦の場に主人公たちが――様々な障害はあれど――たどり着ける程度の妨害しかしない。
ひょんなことから、長年抱いていた悪の組織に対する疑問が解決してしまった。
というのはさておき。
「行きましょう」
武藤さんが声高らかに叫ぶ。「生きましょう」と脳内変換しても誤りではないほどの強い口調で。
決して「逝きましょう」ではない。
武藤さん、俺、ミエラ、市ノ瀬で円陣を組む。
いや、実際に戦うのは武藤さんとミエラ……&今後の展開次第では隠された力が目覚める俺なんだけど。
仕切ったのは市ノ瀬だ。観客の足手まとい候補だが、士気を高めるのに一役買ってくれた。
「うちらの、街を護るんや!
そのためには、みんなの力をあわせなあかん!
ほないくでえ!!
いーち、にーい、さ~ん……」
「「ダー!!」」と叫んだのは俺と市ノ瀬だけ。武藤さんとミエラはぽかんとしている。
円陣に加わることもせずに俺達を遠目に見ていたエルーシュはやれやれと言ったふうに肩をすくめた。
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