第二部 魔界突入編

第1話 魔界突入! ①

 で、だよ?

 俺たちが今立っている場所。驚くなかれ。

 ここが魔界だという。

 近代すぎてびっくりだ。


 なんせここにはビルがある。

 エスカレータもエレベータもないが、鉄筋コンクリートで打ちっぱなされたいや、おそらくはその上に単価の安いペンキを塗りたくった近代建築だ。


 そう、もったいぶった言い回しをしなくても、ここはストレートに言うならば俺の、俺たちの学校の屋上だ。


 魔法騎士を倒し、エルーシュと邂逅した。そんでもって衝撃の事実に打ちのめされた。

 世界はじきに滅ぶ。魔界の影響で。

 それを阻止するために、何をなせばよいのか?


 話は簡単だ。魔界に行って魔導機関とやらの暴走を止めればいい。

 イージーだ。イージーカムイージーゴーだ。後者は意味が違ってるけれど。


 最終目標はそういうこと。

 ただ、その後の展望は、さしてうれしくない情報が与えられている。


 エルーシュ曰く、


「まあ、うまく魔導機関が止められたとして……。

 それがなったら、今まで影を潜めていた魔界の有力者たちが一斉に動き出すでしょうね。

 混乱が魔界だけで収まればいけれど、おそらく人間界にもその余波が押し寄せるわ」


 とのこと。


 一難を排しても、それでハッピーにはならないという。

 それでも、ハピネスはチャージせねばならないのだ。


 スーパーでその日の食材を買うために、NYAONカードに残額をチャージするのと同じこと。にゃおん。






 話は少しだけさかのぼる。


「実は時間が無いの。この学校周辺に限って言えばの話だけどね」


 エルーシュが俺たちを見回した。


「最悪で、この街が消える。運がよかったらこの学校とその周辺が少しだけ消滅するだけで済むかもしれない」


「どういうことだ!?」


 ミエラが怒鳴る。転校生ではあるものの、彼女は彼女なりにこの学校やこの街を愛しているのだと思ったらそうではなかった。


「時間が無いのだったらなぜ、こんな悠長な遠回りを!?」


 ああ、そっちね。

 そういうこともあるだろう。

 が、エルーシュはごく当たり前のことのように、


「逃げ出す準備はしてたわよ。

 少しでも長生きしたいから。

 いい男とだってしばらくは出会ってないのよ」


 俺なんて、完全にストライクゾーンには入ってませんよという冷ややかな視線を向けられた。

 そんならそれでいいんだけどね。俺には武藤さんがいるし。


「で、? 時間がないってどういうことなんだ?」


 俺が聞く。武藤さんは呆けていてそれどころではないらしい。

 呆けてるのとはまた違うな。おそらくは英雄酔いか、救世主酔いって感じの症状だろう。

 自分にとってつけたように湧いてきた力を発揮するチャンスに心酔してしまったのだ。

 とにかく、エルーシュが答える。


「魔導機関は徐々に分裂を繰り返して、その数を増やしているわ。

 本体やその多くは魔界の中心近くに居るけど、中には辺境に彷徨い出たものもある。

 その内の一体が、根城にしているのがまさにこの学校の裏側ともいえる場所」


「裏側?」


「そう裏側。だだっ広い魔界にとってはごく一部なんだけどね。

 この地球のあらゆる地点と魔力的につながっている。

 この学校近辺とそうやって繋がっている場所が、今魔界で危険な状態になっているのよ。

 魔力の暴走。下級魔族の乱生。

 今はその影響として、魔門が開きやすかったり魔力が集中してたりぐらいの影響しかないけれど、近いうちに、魔門は自然発生するわ。

 それを開くのは、魔導機関の分身。

 人間界からではなく魔界から。

 それはこちらからでは防ぎようがない」


「で、どうなるんや?」


 市ノ瀬の問い。


「だから、魔物がわんさか出現して、最悪魔導機関本体も人間界にやってくるわね。

 奴らの知能では人間が美味しい栄養源だなんて気づいてもないでしょうけど、本能的に察知する可能性も十分にあるから」


「俺たちは食い物なのか!?」


「そう考えている魔族も実際に多い。

 そして、それは自然摂理だわ」


「どれくらい時間が残ってるの?」


 ここでようやく武藤さんが会話に参戦する。

 呆けていても聞いてはいたようだ。


「そうね……。もって……三日。

 あるいは、一日~二日。

 これでも、できるだけ引き延ばそうとガス抜きに魔門を開いたりもしてたのよ」


 おおっ! 武藤さんの興味をひいて力試しだけでなくそんな意図もあったのか!


「二日! いえ、一日あれば十分よ!

 案内して!」


 と、従者である俺の意見なんて聞くこともなく決断した武藤さん。


 それで、エリューシュが魔門を開いたのだ。

 俺たちを魔界へと導くために。






「なんもかわらんやないか!」


 市ノ瀬の指摘ももっともである。

 はい、魔門をくぐって魔界に来ましたよ。と言われたものの。

 風景は、学校の屋上と変わらない。見下ろす町並みも同様。

 違うのは空がどす黒いぐらいのものだ。


「だから、言ったでしょう。

 魔界の辺境地域は人間界と表裏一体。お互いに影響しあってるのよ。

 もっとも、これほどまでに人間界の町並みを再現している場所って他にないかもしれないけどね」


 なんせ、魔界にやってきた。

 タイムリミットは近い。平和を。さしあたっての平和のために。

 戦え! 武藤さん。


 なんで市ノ瀬まで連れてきたんだ? ミエラはともかく。


 という問いを発する間もなく、事態は急雲風を告げるのだった。

 上の文は漢字の並びがおかしいはずだから、暇だったら確認してくれ。


 とにかく。

 派手なシーンは全くなく。

 あっさりと魔界――日本の地方都市風味――に来てしまったもんだ。

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