~ epilogos ~  (バッド)

 再三の激しい衝撃に全身が痛む。


 魔核の爆発。それを至近で――ゼロ距離――で受けた。


 そして、高高度からの落下。


 それでも、命が尽きなかったのは武藤さんが俺に与えてくれた鎧のお蔭だろう。


 でも……。


 体は動かない。激痛が俺の手足が残っていることを伝えてくれるだけだ。

 あるいは幻痛だろうか。


 あれほどの爆発に巻き込まれたのだ。四肢を失っている可能性だって十分に考えられる……。


「お嬢ちゃん! 回復魔法は!?

 彼をここで死なせるわけには」


 エルーシュの声だ。クールな彼女に似合わず悲痛が滲んでいる。


「でも、もう魔力が……」


 武藤さんの涙声。


「ええい! あたしがやる。

 魔力が無いのなら、そいつから拝借すればいいだろう」


 ミエラの叫びに、


「だめ! それは。

 今の状態でそんなことしたら、石神君への負担が大きすぎる!

 死んじゃうよ!!」


 武藤さんの言葉に含まれていた『死』という概念が、真実味をもって俺の中に侵入する。


「い、いし、いしがみはん……」


 市ノ瀬の声はもはや聞き取るのがやっとなほどに震えている。


「み……、

 みんなが無事なんだったら……」


 俺は残る最後の気力を振り絞って言葉を紡ぐ。


 決して無駄死にじゃなかった。それが俺の短い人生の中での最期の誇りとなって。

 俺の命は、武藤さんやみんなの心の中で生き続けるだろう。


「ありがとう、武藤さん。

 最後に、力になれて……

 よかった……」


 みんなを護れて。街も学校も護れて。

 それだけでも、俺の人生において大きなことを為し得たと自負する。


 目の前が暗くなる。意識が失われつつある。


「石神くん!!」


 もう……、耳も聞こえない……。


 だけど……最後に聞けたのが武藤さんの声でよかった。


 できることなら、もう一度、その笑顔が見たかったけど……。


 今回の件の埋め合わせで特製のお弁当で労って欲しかったけど。


 それも……多分無理なんだろうな……。


 記憶が走馬灯のように甦る。


 だけど……それは……。


 生まれてから今までの経験じゃなかった。


 薄く生きてきた15年の歳月じゃなく。


 ほんのここ数日。


 武藤さんと出会ってからの密度の濃い、いわば俺の人生の黄金時代。


 泣いたり笑ったり怒ったり。


 沢山の武藤さん。


 でも……、やっぱり最後に思い出したいのは、あの時の。


 一番最初に俺の名を呼び、見せてくれたとびっきりの笑顔……。


 俺の潜在意識がそうさせたのか。神様か死神が気を利かせてくれたのか。


 薄れゆく意識の中で、優しく微笑む武藤さんの笑顔が浮かんで……


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