エピローグ<マルチエンディング>

~ epilogos ~  (普通)

「あやうく惚れてまうところやったわ……。

 最後のあれさえなかったらな……」


 あれというのは……。


 思い出すだけでぞっとする。


 遙か上空から聞こえてきた


 涙声で「やっぱ死にたくねえ!!」とか叫んでたなあ……。


「なにはともあれ……ね」


 エルーシュの言葉にはねぎらいがわずかなりとも含まれていたのは俺にとっても幸いだった。


「まあ、結果よければ……ということだろう」


 ミエラも半ば呆れ顔で呟く。深い安堵を込めて。


 魔核の爆発から仲間を護るために。失われた尊い犠牲。


 それは俺でありながら俺ではない。

 武藤さんの言葉を借りるならば、『量産型ゴッド石神くんプロトタイプヴァージョン』という奴らしい。


 まあ、こんなことをしても無粋なこと、この上無いことを承知で説明するならば。




 魔核の元へと走る俺へと武藤さんがいつもの鎖を繋いだのは一か八かで『量産型』……つまりは俺の分身――二体目――を作るためだった。

 一体二体と数えられるのもどうかと思うが。


 そして武藤さんは賭けに勝った。

 量産型の創造が成功して俺の体は二つに別れた。一方は武藤さんと鎖で繋がれた俺の本体。いわく『ゴッド石神くんフラッグシップモデル』

 もう一方は、その『量産型――プロダクションモデル――』。


 で、量産型が華々しく魔核を抱いて翔び上がったわけだ。舞い上がって行ったわけだ。

 俺の本体――フラッグシップモデル――のほうといえば、走ろうとして鎖がつっかえてその場で転倒した。


 床に倒れながら、前方を見やると。

 気が付けば目の前には俺が居た。魔核へ走る俺を見た。

 そしてそいつが魔核を抱えて飛び上がり上空で爆発に飲まれるのをみんなと眺めた。

 不思議な気分だった。

 最後の叫びが無ければ感動に涙したかも知れない。


 俺が失ったのは『量産型』が持って行った半分ほどの魔力と。

 あと、プライドとか威厳とかそんなもんだね。




 以上、ネタバラシ。






 ところと場所変わって、オカルト研究会改め『SOSの集い』の部室。

『Sekai wO Sukuou』という壮大な目的をもって作られたその発足者は、市ノ瀬かほり。


 正式名称は『魔力でもって世界を救おうの会』であり、会長は俺が務めることになっているのだが、学校からは単なるオカルト研究会として認識されている。

 あくまでオカ研の殻の中で勝手に作った組織であり、その存在を知る者は俺とミエラと市ノ瀬とエルーシュと武藤さんのみである。

 オカ研を隠れ蓑に結成された地下組織。

 部活存続のために必要な、オカルト研究会の幽霊会員には知らされていない。


「次に、危険なのはここか……、

 ここあたりね……」


 と机の上に広げられた地図を指さしながらエルーシュ――今は名目上は佐倉木先生(教育実習生)――が言う。


「とはいえ、まだまだ余裕はあるけど。

 それよりも。

 お嬢ちゃん達の活躍が魔界に知れ渡った以上、近いうちにあっち側からなんらかのリアクションがあるはず。

 それの相手をすることが当面の課題だわね」


 なんともはや。

 懐柔なのか、排除の意思をもってなのか。

 魔界の住人たちが押し寄せてくる可能性が高いらしい。

 武藤さんの元へ。もしくは俺の元へ。


 二人が一緒に居る時であれば、なんとでもなるのだが……。


「一緒に住めばいいだろう?」


 簡単にミエラは言ってくれるがな。


「それが嫌なら、あたしがそいつを従者にして傍に置いておくぞ」


 と、俺の所有権を武藤さんに迫る。


「あ~、魔法使うのにこんなちまちました修行やなんて!

 うち、地道な努力は向いてへんかもしれん!!

 石神はんみたいに、ちゃっちゃと能力覚醒みたいなことにはいかんのかいな!!」


 市ノ瀬が、ミエラから与えらえた魔法修行の課題に飽きてストレスを爆発させ叫ぶ。




 魔界の奥底に潜む魔導機関の本体。それはあの時俺が切り裂いた魔導機関の分裂体の数百倍とか数千倍とかそんなデカさか魔力か戦闘力を持つという。


 最終的な目標はそこだが、それにはまだまだ力が足りない。

 俺にも武藤さんも。もちろんミエラも市ノ瀬も。ついでに言うとエルーシュも。


 魔界から差し伸べられる刺客を相手にしつつ。

 ちょくちょくと魔界に赴きつつ、臨界しそうだったり、人間界への干渉を始めそうな魔導機関の分裂体をちょこちょこと叩いていく。


 それが俺達のこれからのお仕事、かっこ良く言えば使命だ。


 オカ研改め『SOSの集い』を本部として。

 みんなで力を合わせて。そのために市ノ瀬も魔法を学んでいる。文句を言いながら。


 来年には佐倉木先生は正式な職員として赴任して、顧問になってくれるという。

 いわば、数年かけて為すべき壮大なプロジェクト。


 課題は山積み。懸念事項も多種多様。


 それでも、心を一つに。


 一戦一戦地道に。その後遺症で三日三晩寝込むことになっても……実際このあいだは丸三日、つまりは72時間以上寝込んだ。


 武藤さんとともに歩む。これから。


「ついて来てくれるんでしょう?」


 武藤さんが俺に、俺だけに微笑んでくれた。


「仮とはいえ、従者だからね。

 つきあいますよ。そりゃあ」


 心の中で――でも毎回毎回痛いのはどうかと思うんだ――という不満を唱えながらもそれを飲みこんで。


 普段はしがない魔力タンクでしかなかった俺だけど。いざという時にはやれるってことを武藤さんが教えてくれた。


 その恩を返しきったとは到底思えない。

 だから……。


 これからもずっとついていく。学園の天使である武藤さんに。世界の天使になってもらうために。


「ほな、決戦前の掛け声を決めとこうやないか。

 こないだはグダグダやったやろ?」


「お前は、さっさと魔法の修行を再開しろ!」


 ミエラに突っ込まれながらも市ノ瀬は引き下がらない。


「修行はちゃんとやるから!

 でも、楽しいことも無かったいかんやろ?

『SOSの集い』は、イベントサークルでもあるんやから!」


 学園天使で無敵街道まっしぐらな魔法使い。

 平凡で自己中な魔法使い。

 魔法修行中の関西人。

 落ちこぼれの魔族。

 ここぞというときに力を発揮する魔力タンク。


 ここ数日で出会ったにもかかわらず。奇妙な一体感。

 それは世界を救うと言う大層な目的がそうさせるのか。

 各人の生まれ持った波長がそうさせるのか。

 前世のしがらみからなのか。


 そんなことはどうでもいい。今日は今日。過去は過去。明日は明日。


 みんなで力を合わせて一歩一歩乗り越えていく。


 なんたるポジティブ思考。


 戦え! 武藤さん!!


 なんて考えは、過去に追いやって。

 今ならこう思えた。


 一緒に戦おう! 武藤さん!! ってな感じで。


 もちろん、その他の仲間たちも共に

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