第8話 俺達の闘い①

「今の俺の力があれば、なんだって出来る気がするんだ。

 魔導機関の分身ごときなら、俺ひとりで充分。

 魔導機関の本体だって、魔王だって倒せる気さえする。

 だから、俺に任せて、ここで待っていてくれ。

 必ず帰ってくるから……」


 とは、妄想の中でしっとりと、そして熱量を込めて語った言葉。

 だが、現実は世知辛いもので。


 そんなことを気はさらさらないが、仮に口にしたとしても物理的(魔法摂理的?)に不可能なのである。


「これ以上長くすると、コントロールに支障がでちゃうから」


 と補足をくれる武藤さん。

 俺と武藤さんを繋ぐ鎖の長さは10メートルには及ばず。7~8メートルぐらいだろうか?

 せいぜい、長めのリード――犬の散歩紐さんぽひも――が関の山である。


「まあ、魔導機関の分身大ボスが体育館の入り口近くに居たとしても、石神はんだけが中に入って武藤さんは外からコントロールってのは絵にならんわな」


 市ノ瀬の描く最終決戦模様はそれなりに滑稽でシュールだ。


「操作には視認が必要なんだろう? マリア=ファシリア?」


 とミエラが聞く。『視認』と言ったのか……。<み><みと>めると書く方の。俺の脳内で『死人』という文字が浮かんでぞっとする。センチメンタルだ。


「ともかく。

 坊やのおかげで道は拓けたわ。

 時間もたっぷり残ってる。

 一気に決着をつけることができたらそれはそれで十全だけど、おそらくはそう簡単にいかない。

 無尽蔵の魔力を盾にして、削りとりなさい!

 地道に! つつましやかに!」


 エルーシュが俺ではなく武藤さんを鼓舞するが。

 長期戦はヤダナア……と思っていると、ミエラが、


「あたしも及ばずながら力を貸す」


 と何やら物々と呪文を唱え出す。

 例のシークエンスとやらが終わって俺の首から二本目の鎖がミエラに伸びる。


「マリア=ファシリアはこいつの体を動かすだけで精いっぱいだろう?

 だが、物理攻撃だけで倒せるほど簡単な相手ではなさそうだ。

 隙を見て……、こいつの体を触媒にあたしも魔法を放つ。牽制や陽動にぐらいなら使えるだろう。何せ魔力は余っているほどなんだからな」


「それなら……」


 と、ごにょごにょと唱える武藤さん。


「ゴッド石神君のバージョンⅡ!!」


 ネーミングはともかく、俺は両肩に大砲を背負わされていた。

 背負うというよりも生えたというほうが適切か。


「これは……、『石神はんキャノン』やでぇ!!

 彗星じゃない方の、赤い奴や!!」


 市ノ瀬の的確な比喩。

 俺自身は全然赤くないし丸いヘルメットみたいな頭部でもないが、連邦軍の支援用の名機、一年戦争を影から支えた――そして小説版では最後に主役機を超える活躍を見せた――RX‐77ライクな恰好なんだろう。


 要は、両肩のキャノンでミエラが魔法を放つと。

 剣を持った騎士的な姿の俺に追加された新装備。一言で言うと……アンバランスだなあ。


 なにとも(『なにはともあれ』の略)で、最終決戦の準備は万端だ。

 向かうべき地が体育館――とはいえ、現実世界ではなく平行世界(パラレルワールド)的なんだが――というのが、地味さを醸し出しているが。

 壮大で装飾ごてごての門を開けるとかいう描写って絶対に必要だよね?

 こういうシーンって。

 それが、サビだらけの老朽化した体育館の入り口の鉄扉ですから。


「じゃあ、行ってくるよ」


 精一杯の主人公っぽい雰囲気を放出しながら、残る市ノ瀬とエルーシュに声を掛ける。

 が、この段になって市ノ瀬がゴネだした。


「うちも、うちも連れって!

 石神はんの、晴れ舞台やろ!

 見たいんや。この目に焼き付けたいんや!!」


「危険だわ」

「それは危ないだろ。

 こいつの身を護れるかどうかすらわからないというのに」


 と武藤さんとミエラから制止の声。


「せやかて……」


 エルーシュも魔導機関を前にしては、自分の身を護ることすら危ういという意見だった。


 折衷案として、体育館の扉を開け放しておいて市ノ瀬はそこから遠巻きに眺めるということに。


「頑張ってえな!!」


「ああ。

 武藤さん、ミエラ!

 行くぞ!!」


「ええ!」「おう!」


 俺の、俺達の最後の戦いはこれからだ!!

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