第7話 目覚めし獅子③
とまあ、そんな妄想を繰り広げてました。妄想……、あくまでも。
いやまあ、ドラゴンを両断して倒したところまでは真実だったんだけど。
もともとほとんど残っていなかった――魔界へ来た影響で若干は回復したようだったけど――魔力が尽きて、逃げ出す寸前だったミエラが戦っていた相手の格闘家――ドラゴンなんかとは比べ物にならない雑魚キャラ――っぽい魔物をを救ったのも事実だけど……。
実際のドラゴンとの死闘はあんなに恰好いいものではなかった。
ビジュアル的には、音声を殺して映像だけを見ればそれなりに見れたものだったはずだ。だが、その音声に大きな問題が潜んでいた。
俺はというと、戦いの始終、情けなく叫び続けていた。
「ちょー! 体がっ! 体がっ!
勝手に、走りだした~~~っ!!」
これは、剣を振りかざしながらドラゴンへの間合いを詰めた時に。
つまりは、さあ、ここから俺の快進撃が始まるぞっていうはずだったとき。
「なんか武器構え始めたんだけどっ!」
これはドラゴンがトンファーを持ち出した時に。
まあ、これくらいはギリギリセーフだと認めてください。
「痛いっ! 痛いっ!
体がっ! 勝手に体が動くんだけどっ!
俺の意思と関係なくっ。
しかも……、あり得ない速度でっ!
ついてかない、いや体はついてってんだけどっ!
ってか、体だけが、暴走してるっていうか。
痛みに、痛みに堪える俺の心がついていかないっ!」
これは、ドラゴンと切り結びながら。
「しょうがないでしょ。
鎧と剣は、目覚めた石神君の力だけど。
それを有効に使えるだけの動きって多分石神君じゃできないんだもの。
ドラゴンの動きに素の石神君が立ち向かえるはずない。
瞬殺されちゃうわ」
つまりはあれってことですか?
鎖を介してのリモートコントロール?
コントローラーを握るのは……武藤さん。
俺の体を動かしているのは、俺自身ではなく武藤さんだという衝撃の事実。
とどのつまりは……、俺ってただの操り人形?
確かに、なんかドラゴンと互角以上に戦える気にはなってましたけどっ。
実際に、ドラゴンの動きとかに目が追いついていないってことも自覚してますけどっ!
ドラゴンの攻撃をいなすだけの反射神経なんて持ち合わせてないってしみじみ感じますけどっ!!
ドラゴンの動きを圧倒しつつある見た目の上の動作とは裏腹に……。
俺のテンションはだだ下がりだ。
で、体が俺のポテンシャルを無視して動くもんだから、そのたびに深刻な痛みが生じる。
魔法ステッキの時は、意味も無く体中の痛みに苦しめられて。
剣となった時には、剣に発生した衝撃が激痛となって俺の体に伝わり。
そして、今現在に至っては、武藤さんのコントロール下に入った俺自身の体の無茶な動きが俺の痛覚に非情な試練を与える。
いや、わかってますけど。
他に方法が無いんだろうってことは。
だけど、毎回痛いって、毎度毎度激痛にさいなまれるってどうなの?
結局、ドラゴンとの戦いは、痛さをこらえきれずに激痛に悲鳴を挙げながらというなんとも無様な結果。
勝つには勝ったが、情けないにもほどがありすぎた。
「恰好いいんか、なんやらわからんな」
とは、市ノ瀬の言である。
「光の獅子とは、非情に過酷な状況に耐えうる力を持つものだけに与えられる称号。
それがこんな意味だったなんて……」
というのは、エルーシュが漏らした言葉。
「なんかもう、もうちょっとスマートに助けに来れなかったのか?」
とは、俺に窮地を救われたミエラが発した台詞。
真実だけど、思いやりにかけるそれぞれのお言葉。
武藤さんからは、お疲れ様というねぎらいはいただきましたけど。
とにかく、四階と三階の刺客は倒した。
残りは刺客が二体と大ボス。
「長期戦になると石神君の体が持たないわ。
このまま、先を急ぎましょう」
と、武藤さんは俺を気遣っているんだか、労働基準法を投げ捨ててるんだか。
「いけるわよね?」
と、まことにもって断わりにくい表情で俺を見つめる。
「あ、はい……」
その表情を正視できずに、視線を泳がせながらも俺は頷いた。
泣き
俺が痛いの我慢すれば、いいだけっていうか。
それですべてが丸く収まるのなら。
そんなこんなで、校舎の二階に俺の絶叫が響き渡る。
度重なって襲う激痛と引き換えに、刺客の一角を打倒して扉の鍵がまた一つ開く。
続けて、その絶叫は校舎の一階に発信源を移す。
なにはともあれ、用意された刺客を全て倒した。
その代償は、激痛に年齢も男であるというプライドも、威厳とかなんとかをいろいろ忘れて涙を流しまくって
あとは、翌日以降の深刻な筋肉痛を案じる俺の不安にさいなまれるチキンハート。
世界のためとはいいつつも、武藤さんが居るからなんとかなってるんだと思いつつも。
鎖に繋がれた俺はやっぱり飼い犬? 武藤さんの従者であって、主役にはなれないんだなって。
最終決戦を前に、わずかに残った涙を消費しながら思うのだった。
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