第6話 目覚めし獅子②

 いくら、覚醒したからと言っても。

 抜群の運動能力と身のこなしを誇る武藤さんを苦しめた技と力の持ち主である強敵ドラゴン。


 そのま一刀両断にっ! というわけにはいかなかった。


 ヌンチャクで応戦していた武藤さんに対してドラゴンは素手だったが、切り裂く力、すなわち剣を構える俺に対して、どこからかトンファーを持ち出して対応する。

 取り回しはしやすいとはいえ短く、剣に対しては力不足を否めない武器だったが、ドラゴンの手に掛かればそれは、リーチや重量の差をモノともしない、高い対応力を持った武具となる。


 剣を振り払う俺。


 向けられた剣をトンファーで華麗に受け流すドラゴン。

 その動きは、大胆にして繊細。ダイナミックでありながらアーティスティック。

 

 俺の剣技も捨てた物ではないが――それはひとえに武藤さんが蓄積してくれたドラゴンとの対戦データによる――、武器をトンファーに持ち変えたドラゴンに対しては若干反応が鈍る。

 それはひとえにデータ不足。

 ドラゴンの動き自体に変化は無くとも、手にした武器の性能によりドラゴンの身のこなしはバリエーションを増す。


 それでも……、常に不利に立たされていた武藤さんとは違い、俺VSドラゴンの戦いにおいては俺が優勢、対してドラゴンが劣勢。


 ドラゴンの、スピードに乗ったトンファーの重い一撃は俺の纏った鎧に阻まれてダメージを与えることはできない。

 加えて、ドラゴンに対して振るう俺の剣は、弾かれながらも、受け流されながらも、次第にドラゴンを追い詰めていく。

 黄色に黒のラインの入ったボディスーツに徐々にほころびを生じさしめる。


 まるで自分の体ではないように、流れるように放たれる剣技。

 ドラゴンの攻撃も、俺の胴を捕えることは無くなっていく。

 前腕を覆う固い籠手で、それを弾く。弾きながらも、剣での連撃を繰り出す。


「ほうぅぅぅ、わちゃー!!」


 ドラゴンが距離を取り、飛び蹴りを放つ。

 俺は、剣を持ったまま両の腕を交叉させてそれを弾き返す。


 ドラゴンは、アクションスターさながらに、そのまま宙返りというアクロバティックな動きを見せると、屈みこみながら着地。

 接地したかと思うと即座に飛び上がり、左右に構えたトンファーで俺の頭部を狙う。


 確かに、頭部は鎧に覆われていない。兜も被っていないのだから。

 食らえば致命打になりかねない。


 が、確信する。その圧倒的なまでに速度の乗った攻撃を躱す力が自身の内にあると。

 剣を振りあげ、トンファーを受け止めるのではなく、弾き返す。


 ドラゴンに隙が生じた。


 跳ね上げた剣の機動を修正する。

 頭上まで掲げられた剣を、肩の高さまでおろし、そのまま横薙ぎに振り払う。


 ここで『ライディーン・インパクト!!』とかなんとかのそれっぽい技名が叫べればよいのだが……。

 さすがにそこまでの余裕もない。

 魔力による属性付与や遠隔必殺攻撃を繰り出す必要性も感じなかった。

 それが俺に出来るんだかどうだか知らないけれど。


 ただ、俺の剣の持つ力を信じる。すべてを切り裂く力を。


 刀身はドラゴンの脇腹に吸い込まれ……、黄色い胴体を寸断する。






 断末魔を上げることさえせずに、ドラゴンの体が崩壊していった。


 さすがに……、体が自在に動くとはいえ生身である。運動不足気味である。

 関節や筋肉の痛みを感じる。

 だけど……、俺は……、初めて自分の力で……。敵を悪を打ち倒した。


「さすがね。あたしの見込んだだけの坊やだわ」


「すごいやん! 石神はん!

 魔法とか全然使ってへんけど、めっちゃ強いやんけ!!」


 エルーシュと市ノ瀬が驚嘆の表情を浮かべる。


 俺の勝利を見届け、そしてゆっくり立ち上がった武藤さんに、安堵と信頼の混じった笑みをくれる彼女に向けて、俺は微笑みを返した。


「武藤さん。

 これからは、俺が、君を護る力になるから。

 魔力の供給源としてだけじゃなくって。

 武藤さんを護る力に、剣として……。

 君の従者として。

 ただ付き従うんじゃなくって、君を護る騎士として」




 新たなる力に目覚めた俺の勢いに、魔導機関が放った刺客は敵ではなかった。


 四階にとって返して、未だ激闘の最中であったミエラの代わりに刺客を倒した。


 二階に居た、四本腕を持つ怪力の化け物も。

 一階で待ち受けていた最強の刺客――それは、俺の新たな姿と相似した漆黒の剣士だった――も。


 俺の力の前にはなすすべもなかった。


 そして、ゆっくりと体育館へと向かう。

 エルーシュの話では、そこで待ち構える魔導機関。

 分身とはいえ、それは今まで倒した刺客たちとは比べ物にならない戦闘力を持つという。


 俺は疲労はしていた。だが、無尽蔵の魔力は俺の疲れを補い、動き続けるスピードを、剣を振るう腕力を与えてくれる。


 俺は最期の戦いに向けて、主人公としての責務を果たすべく、


「武藤さん、それにみんな。

 ミエラ、市ノ瀬、エルーシュ。

 この先にどんな危険が待ち受けているかわからない。

 だけど、今の俺の力があれば、なんだって出来る気がするんだ。

 魔導機関の分身ごとき、ひとりで充分。

 魔導機関の本体だって、魔王だって倒せる気がするんだ。

 だから、俺に任せて、ここで待っていてくれ。

 必ず帰ってくるから……」


 とかなんとかそれっぽい台詞を言って、最後の戦いに向う。


「ゴッド石神くん……」


 武藤さんはそんな俺を信じて送り出してくれる。

 ミエラも市ノ瀬もエルーシュも同じ。

 言葉な無くても、その表情で、眼差しで、俺への信頼、俺が全てを終わらせることを確認していることを伝えてくれる。


 みんなの期待を背中に受けながら、俺は歩んだ。栄光への道を。その第一歩を踏み出した。


 体育館に入った俺を待ち受けていたのは、まさにクライマックスに相応しい巨大で邪悪な存在。


 だが……、俺は……、俺の力は……。

 武藤さんが与えてくれたこの剣は……。


 闇を引き裂く光になる。


 さあっ!


 行くぜ!!


 俺の戦いはこれからだっ!!

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