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「へぇ、あおりんって言うんだぁ。奇遇だねぇ。おれが間違えた人は青りんごって言うんだよぉ。名前も似てるねぇ」
「あ、あははは……、それは奇遇ですね……」
笑っているが完全に幸助の笑みは強ばっている。
桜季はそれを気にした風もなく、いや、むしろ楽しんでいるようでもあった。
(……こいつ、絶対嘘って分かっていて遊んでるな)
恐らくここで会ったのも偶然ではないだろう。
聖夜は桜季の性根の歪みっぷりに大きくため息をついた。
桜季が幸助しか見ていないのは別にいいが、幸助が緊張で桜季にしか意識が向いていないのが面白くなく、聖夜は口を開いた。
「……あー、えっと、桜季さん? 俺がいること忘れてません?」
「あ~、本当だぁ、忘れてたぁ。おれ、あおりんにメロメロだったからぁ」
恥ずかしげもなく言い、幸助の頭に頬ずりする桜季にこめかみ辺りがピクピクと引きつく。
「それにしても驚きですねー。まさか桜季さんがメイド喫茶の趣味があったなんて」
「え~、ぜんっぜん、興味ないよぉ。でもこの間、お店で二人が今日このお店に来ることをたまたま耳にしたから遊びにきただけぇ」
(完全に計画的犯行じゃねぇか!)
嫌味で言ったのに、のらりくらりとかわされ、しかも二人の約束を盗み聞きしていたことまでさらりと白状され苛立ちがさらに募る。
「それより早く食べようよぉ。おれ、こんなに大きなパフェ初めてぇ」
そう言うと桜季は勝手にスプーンを取り、パフェの生クリームをごっそりと掬った。
「あおりん、甘いもの好きぃ?」
「あ、はい、好きです」
「よかったぁ。じゃあ、あ~ん」
「へ? え?」
否応なくスプーンが口元まで迫ってきたので、幸助は反射的といった感じで口を開けた。
「うふふ~、おいしい~?」
「あ、は、はい、とても……」
口の端に生クリームをつけた幸助は戸惑いつつも頷いた。
「よかったぁ、じゃあ、次はおれにあ~んしてぇ」
「え……?」
「はぁ?」
目をつむって口を開け待機する桜季に、幸助は困惑し、聖夜はこめかみに青筋を立てた。
「……おい、メイドへの迷惑行為は出禁になるぞ」
「マジでぇ? やったぁ~、じゃあ、あおりんとここ以外で会えるねぇ。メイドコスのあるラブホだったら、ここと大して変わんないしねぇ」
「メイド喫茶とラブホを一緒にすんな!」
聖夜はテーブルをバンッと叩いた。
「あはは~、ごめんごめん~。それよりあおりん、早く、あ~ん」
ぎゅっと幸助の腰を引き寄せて、再び口を開けて待ち構える。
幸助は困ったように目を泳がせながらも、こうするより他ないといった感じで怖ず怖ずとパフェをスプーンで掬い、桜季の口元へ持って行った。
それに、聖夜の青筋がプチンと切れた。
桜季の口の中にスプーンが入る寸前で、聖夜は幸助の手首を掴んで自分の方へ引き寄せた。
これには幸助も桜季も目を丸くした。
その反応にも苛立ち、さらに手首を掴む手に力が入った。
「……ふざけんな。お前がパフェを一緒に食べに来たのはこの俺だろ」
そう言うと、幸助の手首を掴んだままスプーンのパフェをぱくりと口に入れた。
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