第1話

 バイトから帰り、おそるおそる部屋をのぞくと、幽霊の姿はなかった。

 ほっとして、キッチンと呼ぶのは気が引けるほどの小さな炊事スペースで、お茶を入れる。

 ふと、何かの気配がしたような気がして振りかえると、いつの間にか文机の前に幽霊が座っていた。

「うわっ! 急に現れないでくださいよ。コップ持ってたら、お茶をこぼすとこだったじゃないですか」

「なによ、早く慣れなさいよ」

 文机に肘をおき、リラックスした態度で幽霊が言う。

「姿を現すコツが、ようやく掴めてきたわ。昼間より、やっぱり夜のほうが、使うエネルギーが少なくて済むみたい。こう見えても、幽霊もなかなか大変なのよ。人間は、生きているときだけでなく、死んでからも辛い生き物なのかしら。って、けっこう哲学的じゃない、この考え方?」

「幽霊さんが死んでから辛いと言うのなら、そうかもしれませんが、そもそも大多数の人は、死んだら死んだままなので、何も感じないと思います」

 つい、真面目に答えてしまった。馬鹿らしくなりながら、立ったまま、手にしたお茶を飲む。

「なるほど。それもそうね。ところで、あんた、お付き合いしたこととか、まったくないの?」

「ゴホッ、ゴハッ、グハッ!」

 盛大にむせてしまった。

「なによ、汚いわね」

「誰のせいですか! いきなりそんな質問するから、びっくりして、お茶が気管に入っちゃったんですよ。話題の振り方、強引すぎるでしょ」

「そりゃ、悪かったわね。でも、聞きたかったんだもん。ねえ、どうなの?」

 まったく悪びれず、再び尋ねられて、私は脱力した。

 この自由さには勝てる気がしない。

「ないです。好きになったのも、高木先輩が初めてです」

「やっぱり。そうだと思ったわ」

 じゃあ、なぜ聞くんだ、と思ったが、口には出さないでおく。

「そりゃ、あんたに合ったアドバイスをするのに、必要だもん」

 ……そうだった。幽霊は心が読めるんだった。 

 こほんと咳払いして、私は静かに言った。

「敢えて口に出さなかったことに答えなくていいです。それから、勝手に人の心を読まないでほしいんですけど」

「意識しなくても見えちゃうときもあるんだよね。それに表層的なっていうか、そのとき考えてることが、ちらっと見えるだけで、深層心理の部分まではわからないのよ。だから、あんたの秘密にしたい本音とかは見えないし……」

「でも極力、努力してくださいね」

「うん。じゃあ、ちょっとだけ、頑張る」

 私のじっとりした視線をもろともせず、幽霊は明るく答えた。

 頑張る気なんて、まったくなさそうだ。

「さて、超恋愛初心者のあんたに、さっそくレッスンを開始しましょうか」

 私は再びむせそうになった。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。本当に、やる気なんですか?」

 確かに幽霊はそんなことを言っていたが、まさか本気だとは思っていなかったのだ。

 驚く私に、幽霊はあきれた口調で言った。

「あたしが軽々しく、そんな約束をするとでも? 武士に二言はないわ」

「いや、幽霊さんは武士じゃないし。それよりほかに、何かやりたいことがあるんじゃないですか? 恨みをはらすとか、生前にやり残したことがあるとか」

「ああ、それね。いろいろ考えたんだけど、あたしが幽霊になった理由が、どうも思い出せないの。かといって、やりたいことも特にないしさ。目的もなく漂うのもつまらないでしょ。で、初めてあんたと会ったときは、勢いでああ言ったわけだけど、よくよく考えたら、人助けが現世での最後の役割になるってのも、悪くないなって思うようになったんだ」

 さばさばした口調でそんなことを言う。

「そ、それは、暇つぶしってことでは?」

「失礼ね! 人助けよ。まあ、あたしを信じてついてきなさい」

 どんと胸をたたく仕草をして、幽霊が笑った。

 ついていくも何も、取り憑かれているのは私なので、嫌でも何でもやるしかない。

 でも、よくよく考えると、私に損はないような気がした。

 幽霊が教える恋愛についてのあれこれが、どの程度、役に立つのかはわからないが、少なくとも、今の私よりひどくなることはないだろう。

「……わかりました。お願いします」

 意を決してそう言うと、幽霊が大きく頷いた。

「任せなさい。早速だけど、まずはその外見をなんとかしなくちゃね」

 幽霊は人差し指を私に向けた。

「外見って重要なのよ。人間は見た目で九割を判断しちゃうっていってる人もいるくらいだしね。仕草や表情ももちろん大事だけど、服装や髪型も重要よ。しかも、変えれば今すぐに効果がでるんだから」

「恋愛って、そんなに外見が重要なんですか?」

「外見以外に何があるのよ」

「性格……かな?」

「それは外見がクリアできて始めてみてもらえる項目よ。女はね、気になる相手を嗅覚で嗅ぎ分けるっていうけど、男は嗅覚鈍いの。その分、視覚に頼るってわけ。目で見て、駄目だったら、土俵にも上がらせてもらえないわ」

「でも、媚びてまで恋愛の対象にならなきゃいけないんですか?」

「そうじゃないわ。男に媚びるんじゃない。女の子として、自分が輝ける服装とか化粧をするのよ。女同士でも、素敵な子の周りには、いっぱい友達が寄ってくるでしょ。せっかく女性に生まれたんだから、やらなきゃ損だわ。男は服装や化粧で頑張りすぎると、痛い感じになったりするけど、女は目一杯自分に似合うおしゃれをすればいいのよ。で、あんたの場合は……」

 頭の先からつま先まで、幽霊にじっと見られて、居心地が悪い。

「まず、髪型。そんな伸ばしっぱなしの長い髪の毛じゃ、雨に降られたら、お化けみたいになっちゃうわよ。でも、髪質はとっても綺麗ね。ちょっと切るだけで、ずいぶんかわいくなると思うわ」

「伸ばしてるだけだと、とっても経済的なんだけど……」

「わかるけど、そこはちょっと我慢なさい。パーマやカラーをかけなければ、そんなに高いものでもないんだから」

 キッとにらまれて、私は仕方なく頷いた。

「それから、服装。高いのやブランドじゃなくてもいいから、もっと体に合ったサイズを着たほうがいいわ。それに、女の子らしさを演出するなら、やっぱりスカートね。どんなの持ってるか、ちょっと見せてよ」

「スカート、持ってません」

 おずおずと言うと、幽霊は額に手を当ててうめいた。

「なっ! 本当に?」

「制服以外で、スカートをはいてた記憶がないくらい、いっつもズボンだったし。走ってもひらひらしないし、冷えないし、ズボン、楽ですよ。絶対おすすめです」

「……楽なのは知ってる。結婚して、子持ちの主婦ならそれでもいいと思う。でも、あんたはまだ番茶も出花! 今、素敵な殿方を捕まえる努力をせず、いつするの! スカートぐらい、買いなさい!」

 幽霊が吠えた。

 そう言われても、困ってしまう。

「買いたいのは山々ですが、コーディネートとかわからなくて……」

 今まで、おしゃれと自分の間には、誰も越えることのできない深い断絶があると思ってきた。

 だから、どんな服装がかわいいのか、自分にはどんなものが似合うのか、考えることもしなかった。

 当然、どういう着回しが素敵かなんて、わかるはずもない。

「うーん、アドバイスしてあげたいとこだけど、私が死んだのは、だいぶ前のことみたいだし、今の流行は正直、全然わかんないわ。友達で、センスのいい子はいないの?」

 ……センスのいい子?

 私はパチンと手を打った。

 そういえば、お金がなくても、おしゃれを楽しんでいる知り合いがいる。

 その子に頼んでみれば、安くていいものを教えてくれるかも知れない。

 ダメ元で聞いてみよう。

「それと、眼鏡とか、時計みたいな小物も案外重要なのよ。あんたのその眼鏡、デザインが古すぎない? なんか、お笑い芸人の小道具みたいに見えるし、変えたほうがいいと思う。いっそのこと、コンタクトにしてもいいんだけど」

 幽霊のダメ出しが続く。

 あまりの言われ具合にしょんぼりしてしまう。

 確かに眼鏡は古いものだ。

 中学生のときに買ってもらったものを、視力が変わらないのをいいことに、今まで大事に使ってきた。

 まだ使えるのに、もったいない。

 だけど、お笑い芸人の小道具とまで言われた眼鏡を、高木先輩の前で今後もかけていく勇気はなかった。

「と、いうわけで、まずは外見改革。さっそく明日から取り組みましょう」

「ちょ、ちょっと待ってください」

 幽霊の言葉に、私は今月の生活費のことを考えた。

 美容院代と洋服代、それに眼鏡をコンタクトにするだなんて、そんなにたくさん買える余裕はない。

 せいぜい、今月は美容院に行くことができるくらいだ。しかも、なるべく安いところを選んで。

「ふむふむ。お金、ね。やっぱ、そこなのよね」

「……また、頭の中をのぞきましたね?」

「まあ、まあ、怒らないでよ。いい知らせがあるんだから。んふふ」

 妙な笑い方をしながら、幽霊が手招きする。

「なんですか?」

「いいから、ちょっと来てよ」

 警戒しつつ、幽霊のそばによると、幽霊は文机の小さな引き出しをつんつんとつついた。

 実際には、指先が通り抜けている。

「この引き出し、取っちゃって」

 言われるがまま、文房具と便箋をいれるためらしい、小さな引き出しをぐいっと引っ張り出す。

 ぷんと木の香りが漂った。

「これが、何か?」

「用があるのは引き出しのほうじゃないの。この中に手を入れて、上を探してみて」

 おっかなびっくり、引き出しを抜いたあとの空洞に手を入れる。内部はざらざらした板で覆われていて、気を付けないと棘が刺さりそうだ。

 慎重に探っていると、指先に何かがひっかかった。

「ん?」

 何かが張り付けてあるようだ。

「あった? そしたら丁寧にはがしてよ」

 ゆっくりとはがしていくと、薄い茶封筒が出てきた。

 四隅を止めていたテープは、変色してねばねばしている。

 かなりの年月、そのままになっていたらしい。

「これは?」

「開けてみてよ」

 うれしそうに幽霊が白い歯を見せる。

「うわっ、これ……」

 封筒から出てきたものを見て、驚いた。

「見ての通り、一万円札よ! しかも二枚も!」

 幽霊が自慢するように、胸を張って言った。

「どうして、こんなものが?」

「あたしね、ここにへそくりを隠してたの! 何かあったときのためにと思って。そうしたら、使わないうちに死んじゃったのよね。いやあ、思い出してよかったわ。それでね、中をのぞいてみたら、まだ封筒があるじゃない。びっくりよ。今まで誰にも気付かれなかったなんて、幸運だったわ」

 宝物を見つけたこどもみたいに、無邪気に喜ぶ幽霊を見ていると、関係ない私までが嬉しくなってきた。

「よかったですね! 誰かに取られなくて」

「うん! こうして幽霊としてよみがえって、へそくりがなくなってたら、あたし、盗んだ奴を探し出して、祟りまくってたかも知れないし。ほんと、あってよかったわ!」

 ……た、祟るって、物騒な。

 誰も盗ってなくてよかった。

「で、本題よ。このお金、あんたにあげる。さっき、そのあたりのお店をさまよってきたけど、物価って、あたしが生きてた頃とあんまり変わらないみたいじゃない。だから、二万円あれば、わりといろいろ買えるでしょ?」

 一瞬、ぽかんとした。

「え? でも、それ、大事なお金なんですよね? 盗んだ人を祟るくらいに」

「うん。大事。だけど、もう、あたしには必要ないしね。あんたに使ってもらったほうがいい。っていうか、使ってくれないと、恨む」

「う、恨むって……」

 私は手の中の二万円を見た。

 私にとって、ものすごい大金だ。そして、幽霊にとって大切なものだ。

 そんなものを受け取るわけにはいかない。

「ご遺族を探して……」

「そんなこと言わないで、受け取ってよ。あたしはあんたにもらってほしいの。自分がどこの誰かもわかんないのに、遺族を探し出すなんて、無理でしょ? あたしが使うなんて、物理的に無理だしさ」

 幽霊が口を尖らせた。

「……わかりました。じゃあ、大切に使わせてもらいます」

 幽霊は安堵したように、肩を下ろした。

「それじゃあ、なるべく早く、買いに行きましょう。もちろん、あたしもついていくからね」

 そう言うと、幽霊はすうっと姿を消した。

 後に残った二万円に手を合わせ、財布の中にしまう。

「外見かー」

 百円均一で買った鏡を出し、のぞいてみた。

 ファンデーションと口紅を塗っただけの顔に、時代遅れの黒縁メガネをかけた私の顔は、確かに魅力的ではなさそうだ。

 清潔で、人に不快感を与えなければそれでいいと思っていたが、どうやら違うらしい。

 何事も勉強だ。

 勇気を出して、私は清美にお願いのメールを送った。


  

 幽霊は、ふよふよと漂いながら、あくびをした。

 夏の日差しなんか関係なく、涼し気な顔の幽霊をうらやましく思いつつ、手にしたうちわであおぐ。

 梅雨明け宣言の出た今日は、やたらめったら暑い。

「ねえねえ、その子、本当にセンスいいの?」

「もちろんです。清美きよみは、女子力高いんですよ」

 噂をすればなんとやらで、こちらに手を振る折口清美おりぐちきよみの姿が見えた。

 水色のトップスに白のスカートがよく映える。手にしたバッグは、この前、持っていたものとは別のものだ。

 語学のクラスが同じという、薄い縁でつながった清美とは、唯一、貧乏という類似点があったことから仲良くなった。

 ひょんなことから、その事実を知ったときは、嘘だと思った。

 それくらい、清美はほかの女子と同じような、おしゃれな女の子なのだ。

 清美は私と同じく、バイト代は生活費にほぼ消えるという苦学生なのに、おしゃれをあきらめない貪欲さを持っている。

 着ている服もバッグも、ハイセンスなものを、ファストファッションや古着屋で上手に手に入れ、コスメは何でも百円均一のお店で買うという徹底振りなのだ。

「お待たせ」

「ごめんね、呼び出しちゃって」

「濃すぎない程度のアイシャドウにマスカラね。ぽってり系の唇に、グロスを塗ってるのはちょっとクドイかもね。眉毛、困ってるみたいに見えるけど、あれはわざとかしら?」

 私の発言にかぶせるようにして、頭上から、幽霊の声が聞こえてきた。

 ぶつぶつ呟く声がうるさい。

 唇に人差し指を差して合図すると、幽霊は不満そうにしながらも口を閉じた。

「どうかしたの?」

「ううん。何でもない」

「急にファッションについて教えて欲しい、なんていうから、びっくりしたわ。恋でもしたの?」

「いや、まあ、そうでもないんだけど」

 むしろ、失恋しましたが。

 そう思いながらも、あいまいに笑ってごまかす。

「でも、良かったわ」

 にこにこしながら清美が言う。

「良かったって?」

「のりちゃん、無頓着すぎて、もったいないなって思ってたの。素材はいいのに、活かせてないなって」

 それは、けなされてるのか、褒められているのか、微妙な感じだ。

「素材がいいってとこは、喜んでいいのかな?」

「うん。でも、努力が必要」

 ぷくく、と頭上で幽霊が笑う。

「のりちゃんに、穴場の古着屋、教えてあげるね」

 清美がスカートの裾を翻して歩き出した。

「大学から近いとこ?」

「うん。歩ける場所」

 清美がこくんと頷いた。

「そんな近い場所に古着屋があるなんて、ちっとも知らなかったな」

「のりちゃんはどこで服を買ってるの?」

「うーん。着られる服がなくなってきたら、スーパーの安い服とかバーゲン品を買うとかかな」

「それで気に入った服を買ってるの?」

「値段とまあまあの見た目なら、決めちゃうから。気に入ったって言われると、それほどでもないのかな」

「のりちゃん!」

 急に清美が大きな声を出したので、私はびくりと足を止めた。

「駄目だよ。服は気に入ったものを着なくっちゃ。自分に似合うものを、しっかり選ぶの。少し高くても、いいものだと大事に着るし、心だって華やぐんだよ。貧乏でも、そこは譲っちゃ駄目なの」

 清美は頬を紅潮させて、早口で続けた。

「あたし、貧乏だから、どうにかして、そこから抜け出したかったの。塾に行かなくても、自力で大学に来たし、学費だってどうにかしてる。でも、それだけじゃ駄目だと思う。人は見た目も大事だよ。適当な格好をしていたら、適当に扱われる。安くても、高くても、いいの。自分に似合った服をちゃんと選んで、きちんとお化粧をして、それなりに見せなきゃ、大事にされないよ」

「清美……」

 清美の剣幕に驚いて、なんと言えばいいか、わからなかった。

「あ、ごめん。ちょっと、興奮しちゃった」

 ぺろりと舌を出して、清美は何事もなかったかのように歩き出す。

「地雷踏んだね」

 幽霊がふふんと鼻を鳴らす。

 その表現、古いよ、と思ったとたん、抗議の声が返ってきた。

「しょうがないでしょ、しばらく俗世に縁がなかったんだから」

 でも、清美はなんで、あんなにムキになったのかな?

「あー。わかってないわー」

 幽霊はこれみよがしにため息をつく。

「清美ちゃんはたぶん、貧乏だからって言う理由で、恋に破れたことがあったんでじゃないかしら。恋愛はシビアだからね。外見も大きなファクターよ。清美ちゃんは自分の外見を磨くことで、価値を高めようとした。そのためには努力をたくさんしているはずよ。それなのに、あんたは、こんなに近いところにある古着屋に気づく努力すらしていない。清美ちゃんがいらつくのも当然ね」

 そう言われれば、そうだと思う。

 私はお金がないということを理由にして、おしゃれができないと言い訳していた。

 努力や工夫を何もせずに。

 しゅんとしていると、清美が手をあげて前の建物を示した。

「ここよ。階段が狭いから、気をつけて」

 人一人通るのがやっとの薄暗い階段を上ると、古ぼけたドアがあった。

 清美に続いて、店内に入る。

 古着屋というから、ヒップホップでも流しているのかと思ったのに、BGMは以外にもクラシックだ。

 落ち着いた店内の雰囲気同様に、古着もみな、上品で、上質なものに見えた。

 手始めに、近くにあったワンピースの値段を見てみる。

「三千円! 高っ!」

「それ、新品で買ったら、二万円くらいするやつだよ」

 清美が横から教えてくれる。

 でも、一着に三千円はかけられない。

「いろいろ試着してみたら? あたしでよければコーデするよ?」

「ぜひお願いします」

 申し出に甘えて、私は試着室にこもった。

 清美が持ってきてくれるのは、私なら、絶対に選ばない女の子らしいものだ。

 最初はびくびくしながら着ていたけれど、いくつか着替えて、鏡に映る自分を見ているうちに、なんだか楽しくなってきた。

 スカートも、案外似合う。

「わくわくしてきたでしょ?」

 頭上の幽霊の言葉に、悔しいけど、私は素直にうなずいた。

「予算内に収まれば、買って帰ろうかな」

「ちょっと無理してでも買っていきなさい! でも、清美ちゃんっていい子ね。あんたに似合うもので、リーズナブルなものばっかり持ってきてくれる。ああいう子が、いい男に選ばれて欲しいものね」

「大丈夫だよ。清美は人気、高いから」

 気に入った服の金額を合計する。

 夏物だから、比較的安く品数がそろうが、それでも一万円ほど払うことになる。

 幽霊からもらった一万円をありがたく使わせてもらい、大きな紙袋を持って、店を出た。

「清美。本当にありがとう。お礼がてら、どこかでお茶でもしない?」

 幽霊に言われたとおり、お礼を申しでる。

「お礼なんていいよ。私もいろいろ見られて楽しかったし。私、これからバイトなんだ。また今度、遊ぼうね」

 バスに乗るという清美をバス停まで送って岐路につく。

「幽霊さん、ありがとうございました。服を選ぶのが、こんなに楽しいって、初めて知りました」

「お礼はまだ早いわよ。美容院と眼鏡もまだあるんだから。一万円じゃ、足が出るかも知れないけど。それに清美ちゃんへのお礼もね」

「やりくりは得意なので、大丈夫です」

 眼鏡と美容院代がまだ必要なことを考えたら、今月はかつかつかも知れない。

 だけど、清美には、学食で一番高い、お勧め定食をおごることにしよう。

 たぶんそれで、清美には私の感謝の気持ちの大きさををわかってもらえるだろう。

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