第4話 婚約者は忍者でした
「清三様は神鬼流の次期当主様です」
しんきりゅう?
のぞみにはさっそく説明が良く分からなかった。もちろん首をかしげてしまう。
「むっ」
向かいで清三がなぜか照れているような気がする。なぜだろうか……?
「神鬼流とは、忍者の流派です」
ぽかーん……
のぞみにはまさにその言葉がぴったりだった。気づいたら口が大きく開いていたのだ。
忍者?忍者って今の時代にいるのですか?
のぞみは確かにゆっくりしている、と言われるけれども、決して馬鹿ではないのだ。
「忍者は……いるのですか?」
「はい、ここに」
桜は真剣に頷いた。
「甲賀忍者とか、の忍者ですよね?」
「甲賀は傍流だ」
清三が答えた。傍流とは 主流からはずれた系統のことだと思い出す。
「えっと、神鬼流はもっと偉いのですか?」
「あぁ、神鬼流は最古の忍者の流派だ」
最古、つまり一番古いということ。
そんな由緒正しそうな忍者が現代にいるなんて……
正直のぞみには信じられなかった。
「神鬼流の次期当主様の婚約者になられるということは、命を狙われる危険性が高まります」
桜は淡々と恐ろしいことを言った。
「俺が守るから、安心してくれ」
清三は鋭い視線でのぞみを見つめると、頷いてきた。
命を狙われたくないので、婚約はしない方向でお願いしたい……。
のぞみは正直にそんなことを考えてしまう。つい、すがるように桜を見つめてしまった。
「のぞみちゃん、それはできません」
桜の声ははっきりとしていた。
「うっ」
どうして桜にはのぞみの気持ちが分かったのだろうか?もしやエスパーなのだろうか?
のぞみはそんなことを考えていた。
「あの……どうして私なのですか?」
のぞみは一番気になっていることを聞いた。我が家は平凡な家だし、そんな偉い人と婚約する理由もない気がするのだ。
「むっ……ずっと、のんちゃんを見ていた」
清三が答える。
「でも……お会いしたの初めてですよね」
のぞみは清三の言葉が信じられなかった。
「……忍術で……」
???
忍術でずっと見ていた?それってもしかして、盗撮ってことですか?
のぞみは目を見開いて清三を見てしまった。
「むっ」
どうやら清三は照れているようだ。
「あの……そんなことを言われても……」
怖いです、とは言えなかった。
「むっ。のんちゃんの写真も大切にしているぞ」
そう告げると、清三はスーツの胸元から何枚も写真を取り出した。
ママがその写真を横から見て、きゃっと頬を染めて喜んでいる。
のぞみは慌てて清三の手から写真を奪って、中身を見た。
…………盗撮……でした。
盗撮としか思えない写真の数々。のぞみがお腹を出してベッドで寝ている姿、学校でお昼ごはんをおいしそうに食べている姿、などなど。どの写真もまったくピントがずれていない。
いつ撮られたんだろう……
のぞみは震えてしまった。
「清三さんってとても情熱的なのね」
ママがそう言って清三を褒めたたえている。
情熱的ではなくて、犯罪なんじゃないかな、とのぞみは思ったが、口に出すことはできなかった。
「写真は、私が預かっておきます」
なけなしの意地で、そう告げると写真を自分の座っている後ろへ隠した。
「むっ」
清三が悲しそうな目でのぞみを見つめてきたが、ここは心を鬼にして気づかないふりをした。
「そ、それで、特技科への転科のことですが、私は特技がないので、入れないと思います」
のぞみは転科が嫌だということをオブラートに包んで伝えるつもりで話を続けた。親友の麗華ちゃんや、仲の良いクラスメートと離れるのは嫌だったし、特技科に行けるほどの特技を持っていないことも事実だった。
「大丈夫だ」
清三がそう告げた。
何が大丈夫なのか、のぞみにはさっぱり不明だった。
「のぞみちゃん、特技科に来てもらわないと、護衛がしづらいです」
桜がそう告げる。
「護衛って……」
のぞみは桜の言葉にきょとんとしてしまった。
「はい。私です」
「え!?」
ここでもまさかの事実が発覚した。
「桜ちゃんが護衛なの?」
桜は表情を変えずに頷く。
「はい、あともう一人います。特技科では同じクラスになります」
桜の話しぶりからすると、すでにのぞみが入るクラスまで決定しているようだった。
「あの……でも、学校は簡単に転科なんてさせてくれないと思うけど……」
のぞみは何とか逆らってみる。
「大丈夫だ」
「大丈夫です」
清三と桜の言葉が重なった。
「清三さんの家が学園を経営しているから、大丈夫よ、のんちゃん」
ママの呑気な声がのぞみをダメ押しした。
偉い人って……すごい……。
のぞみはもう諦めることにした。なんだか、どうでもよく……なるようになれ!という気持ちになってしまったのだ。
「わかりました。よろしくお願いします」
そう力のない声で告げると、頭を下げた。
「むっ!こちらこそよろしく頼む、のんちゃん」
清三さんの声は心なしか嬉しそうだ。この短い時間の中でのぞみは徐々に清三の喜怒哀楽が声のトーンで少し分かるようになってきていた。
きっと、私の事を知れば、平凡すぎて婚約解消になるんじゃないかな。
のぞみはそんなことを呑気に考えていた。
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