第2話 第1章 真実と心理
あなたの目に写っている私の人間像は、たぶん、すぐ逆上する気の短い男・物にあたったりイジワルをする陰湿な男・あなたやこどものことなど何も興味のない自分がやりたいことだけやっている男・隠されたギャンブル好きの男・多少変わった性癖を持つ男。みたいな感じだと思います。
序章では、当てはまるという前提で、話をしました。しかし、今から、ひとりの人間が置かれた環境について述べておかなければなりません。そして、ひとつひとつの話の中で様々なできごとがなぜ起こったのか、その時の心理は? 心境は? に触れざるを得ません。なぜなら、それが人間だからです。他人のこころは読めないからです。
私は、しがない いちサラリーマンの家に生まれました。財産もなく家は貧乏でした。ただ、高校・大学と行かせてもらって十分勉学に励める環境を与えてくれた両親には、たいへん感謝しています。そして、この環境がゆえに、地元のH高校・S大学の路線を選んだのだと思います。(育った環境によっては、違う路線に進んで行ったのでしょう。例えば、小さいころから芸術に触れる機会を与えられていたり、異文化に触れる機会を与えられていたら事情は変わっていたかもしれません。)しかし、暮らしは、とても、まともとは言えない状況でした。父は酒・タバコがたいへん好きで、酔っぱらって帰ってきては、何度も家のガラスを割ったりしました。飲み過ぎてほとんど歩ける状態ではなかったのです。私は、そこまでの状態になったことが1度もないので、どのようにすればそうなるのかが未だにわかりません。タバコも健康のためにやめた方がいいよと、何度も忠告しました。タバコに関しては、実際、やめましたが、今考えると時すでに遅しだったのだと思います。酒とタバコの両方が原因としか思えない病気で亡くなったのですから。母はかわいそうでした。楽しみという楽しみがあったのかなと。小さなころから、戦時中の話ですが、学校から帰って畑仕事しかしてなかった。と、そのこともあり、父が亡くなってから、畑仕事に精を出す姿が印象的でした。もっとこころを打たれたのは、私が小さいころ、1万人に1人しかかからないような皮膚の病気にかかり、その病気を治すために、自転車で何度も何度も隣の市(片道30km)まで通ってくれたということでした。私は、こうしたことも再び胸によみがえらせ、これから先、あなたと家族のために生きようと改めて誓いました。
基本的に、私は、お金をたくさん持った経験がなく、当然ながら、その範囲内での生活と言われれば、それで生活することで満足していたわけで、お金に執着心はまったくありませんでした。だから、だと思いますが、市役所に勤めていた時代には、こつこつと800万円自然に貯まりました。それで、それ以外に使ったお金はといえば、そのほとんどの使途はクルマぐらいでした。黄色のミラージュ、の次は、赤のゴルフ、クルマのことは、お金がない人が精いっぱい考えた結果だったのかなと思います。黄色のミラージュには、ハッチバックのドアの下部に、サルバドール・ダリの「内乱の予感」の題名【prémonition de la guerre civile】をロゴにして、ブラックのカッティングシートで1文字ずつ切り抜いて貼りました。シュールレアリスムとダリには傾倒していました。しかしながら、多感な青年期が平和な時代で良かったとつくづく思います。今、そんなロゴをクルマに貼っていたらヤバいでしょう。内乱の実際の意味は市民戦争を表しているからです。私の本棚にダリを始めとするシュールの画集とともに、ジョルジュバタイユの「眼球譚」が置いてあったのはどう思いましたか? 多感な時期にありがちな話。美しいものを根源に置くシュールの思想とは反対に、汚いものを肯定するバタイユの思想にも興味がありました。誰もが、そうであるとは言えない。ともあれ、ロゴを見て、S大学の美術部の後輩が、「グエレシビレ」と言っていたのを、鮮明に記憶しています…。余談ですが、最近、クルマのロゴで面白かったのは、左右のドアに、大きく「KENJI」と書いてあった事件。何だと思いますか? 自分の名前? すごい自己主張? だとしたら、よほどのナルシスト。恥ずかしいかも。私は、絶対やらない。夕方、犬を散歩していたときのことで、小さな文字は認識できませんでしたが、クルマはごく普通のセダン。何やらゆっくりと走っていた。散歩の間、ずっと考えていた。ゆっくり走る、やっと、わかった。「KENJI」は人の名前ではない。「県自」だ。そう、静岡県に存在する静岡県自動車学校を略して県自といっているのを思い出した。県自なら、他の県でも、存在するかもしれないなと思い、インターネットで検索したら、複数、○○県自動車学校という学校法人はありました。しかし、自らを「KENJI」と呼んでいるのは、唯一静岡県だけでした。でも、やはり、「KENJI」は紛らわしい。これもシュールか?
赤のゴルフ(クルマのゴルフ)にはテニスでしょう。そのころ、テニスにも狂っていました。テニスは、たいてい2人はいないとできないスポーツ。もう1人の狂った友人とそれこそ毎日のようにテニスをしていました。テニス部でもないのに、S大学のテニスコートを堂々と使い、S大学のテニスコートが空いてないときは、浜松医大のテニスコートで、さも、医大生のように振る舞い、夏は、テニスで汗びっしょりになって、そのまま、プールに飛び込み、疲れたら、「ママりんご」という名前の喫茶店に行って、昼飯を食い、ついでにソファーで寝てしまって、ママさんに、「ここで、寝ないでください。」と言われ、妙に、達成感を得て、満足していた。達成感? 店名がママりんごということと、ママさんが可愛いらしい感じの人なのに、学生っぽい2人なのかと思われ、強気で「ここで、寝ないでください。」と叱られたのが、妙に快感になった。怒られていても怒られている感じがしない。Mか? ふつう、テニスの話って、健康のために毎日、ほどよい運動をして、というのが一般的。しかし、我々のテニスの目的は明らか違いました。何が快感だったかというと、そのころを代表するテニスプレーヤーに、ジミーコナーズ・ビヨンボルグ・ジョンマッケンロー・クリスエバート・マルチナナブラチロワ・シュテフィーグラフなどがいました。この中のビヨンボルグのトップスピンに2人ともハマっていました。2人とも、ヘビースピン・パワーテニスということばが大好きで、クレーコートでもハードコートでも、やたらに、ライジングのトップの位置で、その時の最大のパワーで、ひっぱたくことに最高の快感を得ていたわけです。1・2才のこどもの犬が老犬を尻目に、猛スピードで庭を駆け回る(力が有り余っている様)のと同じで、力が有り余っていたのです。ラケットでボールの表面をこすりつける行為がトップスピン。そのことのみに意義を感じる。本来、テニスは2人とか4人でゲームをするもの。もはや、我々のやっていることはテニスではない。錦織の「エアーK」、日本人には、あまり馴染みがないあのパフォーマンス。ビヨンボルグもその当時、ジャンプして打っていたら、それこそ、「エアーB」だったんでしょうね。テニスの話題でその他はというと、ご承知のとおり、テニスはファッション。ラケットはドネーのオールウッド、ウィルソンのワールドクラス。こちらは、目黒のスポーツ店に。ウェアはFILAやellesse。こちらは、新宿の三峰。その時代、インターネットみたいに便利なものはなく、もっぱら、雑誌などを情報源に行動しました。まだ、続きがあります。初心者対象のテニススクールには、何度も行きました。目的は? 初心者対象のテニススクールにきている人たちといえば、若い女の子が半分以上、その若い女の子の目的は、カッコいいテニスコーチに会える? その他のお客さんはと言えば、その若い女の子をターゲットにしようとする若者たち、または、テニスウェア姿の若い女の子を見たいという願望のオジさんたちというのが相場。なんだかなあ! 我々2人は、そのどちらでもなかった。2人ずつペアになって、試合形式でみんなの前でラリーをするのがとにかく快感であった。テニススクールで教えてもらったことは、一切、無視し、例のトップスピンの応酬を納得がゆくまで続けていたのである。もはや、アホ以外の何ものでもない。
お金に執着心が無いことで、すべての財産は、結婚式に全部使いました。この時の感覚から、ずっと、すべて変わっていません。客観的に見て、あなたに喜んでもらいたかったのです。ウソはひとつもありません。心底それしか考えていませんでした。あなたに喜んでもらえるのなら、10年かけて貯めたお金をいっぺんに使っても何とも思わないと。そういうふうに、考えない人だって世の中にはいることをわかってください。私は本当にそう思って、そういう行動をしました。
その時までも、そして、のちの事件が起こるまでも、ギャンブルというギャンブルはしたことがありませんでした。ウソはありません。ギャンブル好きの人を何人も知っていますが、その人種は、こつこつと800万円を貯めることができない人種です。私は、根本的にギャンブル好きではありません。マージャンのやり方を見てもそれは分かります。懸けマージャンをしたのは、この年になるまで本当に数回しかありません。それも市役所の時代に誘われて、しかたなくです。この部分に関して、言い訳をしている気持ちはまったくありません。すべて真実です。ラスベガスに行ったときもそうです。使っていいお金は1万円だけでした。そのすべてをスロットマシンで使い果たしました。ずらりと並んだスロットマシンの中央には、景品のベンツが置いてありました。煽られますよ、それは。しかも、過去にゲットした日本人が運賃を自費で支払い、ベンツを日本に運んだとまで丁寧に書いてあるのです。それはそうとして、お小遣いはそれで終わり。ところが、帰りに空港で、もう使わないであろうドル札の処分をと、さすがカジノの街ラスベガス、ちゃんとスロットマシンが設置してありました。迷うことなくトライしたら、なんと1万円以上儲かりました。つまり、単純にゲームをして楽しんだだけという結末でした。
人間に与えられた一生を、どのような目的で、どのように使おうがその人の勝手です。つい最近、人間のチャレンジの歴史を垣間見れるチャンスがありました。今、多分最大の関心事は宇宙なのでしょうが、大型客船も絶句ものです。ここまでやろうと思った人たちは一体どんな人種なんだろうと…。タイタニックが排水量46,000トンぐらいで、セレブリティミレニアムが90,000トンぐらい、アリュールオブザシーが実に220,000トンぐらいである。あなたは、220,000トンに乗ったことがありますね。それもすごいことですが、今回は、90,000トンに乗せていただきました。感想は? 第一声、「信じられない」です。こんな大きなものをよく作ろうと思ったよね!唖然! セレブリティミレニアムは少し揺れました。が、アリュールオブザシーはほとんど揺れないそうですね。セレブリティに一緒に乗り合わせた50代の女の人の証言では、前回、乗った「飛鳥Ⅱ 50,000トン」は、明らかに揺れたそうです。総排水量というのは、いわゆる浮力、船が押しのけている水の重さ。大きければ大きいほど揺れない。実感しました。日本は、大型客船を造る技術を持っている国、今、三菱重工がイタリア向けのアイーダプリマ124,500トンを造っているみたい。ときどき、ボヤ騒ぎの報道があるので、知っていました。
それとは、まったく比較にならない個人のレベルの話ですが、どうせ短い一生だから、世間に認められるような大きなことを成し遂げようという考えは、私も、小さいころから持っていました。(私たちのこどもにも自然にそんな考えが芽生えていたと分かったときは驚きました。)そんな中で、神様はあなたをパートナーにと、誘導してくれたのだと思います。「他人が考えもつかないことを次から次へと創造すること」 を一生涯のライフワークとしたい、というのが客観的に見た私の姿です。それは人生の夢・願望でもあるのです。あなたと一緒になることでその夢はかなえられるという予感がしました。不思議な予感でした。が、他の人はたぶん感じなかったであろう確実な予感でした。実際、そのころを振り返ってみると不思議さがわかります。あなたと初めて出会ったとき、あなたはお母さんと同席されていました。その出会いの中で、あなたは何と言ったか覚えていますか?
「トキオさんのいうことなら何でも従います。」でした。普通の感覚でここから話をすすめると、「最初に会ったときのあのことばに完全にだまされた。」という結末になると思います。よく冗談で言うような会話ですが。
しかし、私とあなたにとっては、それは表面上そうかもしれませんが、根底ではまったく当てはまっていなかったと思います。
不思議な予感というのは、やはり説明できない予感です。が、心理面ではこうです。つまり、結婚は、子孫を残すためにお互いに反対の遺伝子を求め合うことです。実際に、それは事実だと思います。それは、見かけ上の背の高い男を求めた。というような話ではありません。 夢:“世間に認められるような大きなことを成し遂げようという思い” あなたのことば:「トミーの言うことなら何でも従います。」 私の置かれた現状:「その時の私は個人事業主。つぶれても不思議ではないような学習塾の経営者」 このひとつの夢に対して、どうしても結び付かない2つのことがらが現実にあったのです。外から見たら絶対に成り立たないし、期待もできません。
不思議な予感は、のちに次のように変化していくのです。この結婚は、ある意味、正解でした。真逆の遺伝子を確実に嗅ぎあてていたのです。方や、しがないサラリーマン家系の甘い考え、方や、事業家に生まれ育った厳しい考え、方や、女性の遺伝子を持ち合わせている? 方や、男性の遺伝子を持ち合わせている? どれもこれも、カルチャーショックであることには間違いありません。すぐに、変化がありました。「トミーの言うことを信じていたらすべて失敗する」 「まずは、最初に会社を作らなければ」 「まずは、家を建てなければ」 求めていた真逆の遺伝子は、怒涛のごとく、いきなり猛威を振るい始めました。「夢を夢で終わる」ごく普通の甘っちょろい考えは、一瞬にして破壊され、10年という歳月をかけて築き上げた電算システムの開発経験は一瞬にして崩れ去り、理想としていたコンピュータを使った1対1の学習システムは一瞬にして消え去りました。
唯一、私に残されたものは「他人が考えもつかないことを次から次へと創造すること(クリエイティブとイノベーション)」だけでした。ただし、この能力があるからといっても、それは絵に描いた餅。現実は、アイデアの創出と実物の創造とそれの売り込みという三位一体である。これが、あなたから確実に叩き込まれた最初の現実の経営哲学でした。まさにリスペクトに値する経営哲学です。このあと、何度もリスペクトということばを使わないといけませんが、あなたに対するリスペクトということばは、何度使っても価値があるリスペクトであります。
三位一体を現実のものにすることの第1歩は、マウスを使ったシミュレーションでした。キーボード操作しかなかったアプリケーションを、より身近なものへと変身させたことは、本当の意味で意義のあることでした。H市への営業も成功し、この時点では、少し、あなたから信頼を受け、お互いにもっと会社を発展させようと考え始め、同じベクトルを向き始めたと思います。この成功は、本当にあなたの存在がなかったら、実現しませんでした。経営哲学:その2、タイムイズマネー、経営にスピードは命、チャンスを逃したら夢はつかめない。これは第2の絶大なリスペクトです。この時点で、ある意味、この結婚は成功だったと感じたことは否めません。でも、それすら私自身の身勝手な考え方であるということに、その時もすでに、気付いていました。私の夢を現実にするために、あなたは、真剣に思い巡らせ、真剣にアドバイスしてくれ、真剣に議論してくれ、真剣に悩み、真剣に怒ってくれたのです。あなただって本当は、自分のやりたいこと、ファッション関係やレストラン関係などがあり、思い描いていたものを犠牲にして、私を信じて、特に興味もないコンピュータ関連のことに、頭を突っ込むことを拒まなかったからです。妊娠・出産・子育て・家の新築という人生の中で、何にも代えがたいイベントをいくつもこなしながら。そのストレスにも耐え、本当に頑張ってくれました。からだがボロボロになっても不思議ではないくらいのことだと思います。リスペクト以外のことばは見当たりません。この一連のできごと自体が第3の絶大なリスペクトです。
でも、そんな中でも、私にも、本当にあなたを守らなければならないと思ったことが、2度ほどあります。1度目は、マオを妊娠していたころ、つわりがひどくてたいへんでしたが、そんな中でも、気分転換にと、家から5kmぐらいのところにある浜辺まで行って、松林を散歩して、ちょっとした展望台に上ったりして過ごした時間の中で、二人のこどもが誕生するんだなと実感し、感無量の思いに駆られました。なーんだと思うかもしれませんが、広大な太平洋とさわやかな潮風は、小さな3人の生命を大きく包み込み、何か偉大な力に守られているという、素直に受け入れられる感覚がありました。2度目は、長女を産んでから、あなたが実家でしばらく生活しているときに、仕事の途中に、日中にスーパーでスイカを買って、実家に届けに行きました。2階の窓から私に手を振ってくれたその瞬間でした。本当にあなたと家族を大事にしなくてはと思いました。これも、なーんだと思うかもしれませんが、風もなく、爽やかな日差しの中で、このうえない平和を感じたからです。あなたには、こうした感覚について語ったことは一度もありませんでしたが、私のこころの中には、確実に愛の感情は存在します。それは、イコール、守っていかなくてはという感情に他なりません。
結婚しても、こどもをつくることを拒む夫婦もいる中で、自然の流れの中で、こどもをつくってくれたことは、私にとって、第4の何にも代えがたいリスペクトです。
私の遺伝子の中で、変わっていると思うのは、大局を見る力と細部を見る力は人よりも備わっているのに、ごく普通の中間の部分を見る能力が劣っている感があります。不思議なことに、「他人が考えもつかないことを次から次へと創造すること」は自信があります。(その結果が、世の中にすべて受け入れられるかは別としてですが)ただ、この力は、ある日突然湧いてきます。湧いてくると、だいたい2・3日で、すべてが明確に形成されます。よく作曲家がこの曲は1時間で作ってしまいましたとかという感覚と同じだと思います。普段から自由な発想でいろいろなことに興味を持った生活をしていないとできないことだと思います。その面でも、理解してもらえない部分を包含している人間だと自分で思っています。実際に、あなたからは、遊んでいるとか言われますし、営業マンからは、「社長は何の仕事をしているんですか?」 とか言われたことがあったそうですね。1年に1度ぐらいしか表面上現れない仕事をだれが担当してきたかというと、他の開発の社員の誰1人も担当することはできませんでした。こらから先もそうでしょう。
今でも、Xボードとは別に、iPad関連で数種類のシステムが実際に形成され、スタンバイしている状態です。Appleが5年掛けて開発してきたiPadと同じようなものをサムスンは3カ月で出してきたというのは有名な話です。この世界で重要なのは、本当にアイディアだけであることをみんな忘れてはなりません。
アスリートが、毎日からだを鍛え、訓練して、2年ぐらいでやってくるビッグイベントのオリンピックや世界選手権に全力を集中するのと同じぐらいのサイクルで新製品を世に送り出してきました。2・3日で明確に形成されたシステムを、具体的にプロトタイプを作ることで、社員に理解させ、そこから先、現実的な製品にするように指示を与えるのが私の最大の役割だと思っています。あなたは、その部分については詳しく知らないと思いますが、毎回、かなりのバトルが繰り広げられています。一応、少しは認めてください。
とはいえ、誰も手掛けなかったWindowsのバックアップシステムを作ったときも、あの伝説の、N市に対して、Townsのバックアップシステムを3日で作って、持って行って認められたときも、実際、あなたの的確な社員に対する指示、いや、社長への指示がなければ、現実のものとはなっていなかったと思います。
三位一体を現実のものにすることが、経営哲学上の最初のリスペクトでしたが、社員を扱うことができなければ意味がない、社員を上手に動かすことの大切さを身を持って感じさせてくれたことは、第5のリスペクトでした。
私の中での伝説は、まだまだ続きました。ポシェット(生徒専用フォルダの提供)の考え方も1日で完成しました。そのころ誰も考えていなかった仕組みでした。その重要性に世の中が気付き、S社がまねをしたのは、3年という年月が過ぎてからでした。また、Webシステムパックの概念も編み出し、現在の情報モラルアプリの原型となるような仕組みも10年以上前に完成させました。その時、実際にプログラミングに携わったのは、例の石川であり、また、画面転送に新技術を吹き込んだのが田沢であったわけで、はっきり言って、結果としてあなたにストレスをかけてしまったのは、私の責任で、十分反省しなければならない部分と心得ています。第1にあなたのことを気遣うべきであり、そのために、彼らに対して、けじめを付けた判断を素早くしなければならなかったという部分においてです。
こうして、会社経営のいろいろな要素が増え、逆に、より不安な要素も増えていく中で、以前より多くのお金を扱うことになりました。しかし、新製品をいつもいつも、いいサイクルで世の中に送り出していくことが恒常的に可能だろうかという疑問と不安には、いつも付きまとわれていました。開発の人間がごっそりやめていきはしないだろうかとか。あなたが、恒常的に想定しているラインの売上をキープできていけるだろうか? 営業マンがごっそりやめないだろうか? と、こころを悩ますのと同じで、絶えず不安を感じていました。実際、本当に資金切れになったときは、銀行以外のところにお金を借りに行かなくてはならなかったわけですから。
そんな心境の中で生活していたからこそあの事件を起こしてしまいました。意識はこうです。これが真実です。お金があるときにお金を増やせばいいと。
これは本当に信じてください。ギャンブル好きではありません。お金に執着心はありません。もともとお金は持っていませんでしたし、死んでいくときに子孫にお金を残すことは必要でも、死んだ自分が使えるわけがないからです。
折しも、インターネットで株取引ができる時代に突入してしまったことと、その手法で、何億も儲けた人のメディアでの紹介があり、実際にできるんだという錯覚に陥りました。実際にやってみて、3,000万円の元金が数回の取引で300万円の儲けを産んだため、こうすればいけそうだと思いました。いけそうというのは何がいけそうかというと、あなたやあなたの実家の人たちがしきりに言っていることとは明らかに違う意識です。信じてもらえないのはわかりますが、それでは、本当に他人のこころの中が読めるのですか? というのも事実だと思います。私がギャンブルをこよなく愛して夜な夜なふけっている人物だとどうしても決めつけるのであれば、それ以上は言いません。どうも、本当に申し訳ありませんでしたと。インターネットで株取引ができる悲劇。これは、人類が生んだ最大の悲劇ではないでしょうか。インターネットで株取引ができなかった時代は、実に平和でした。証券会社の営業所さえ存在しない田舎には、わざわざその証券会社の担当の人が自宅まで来てくれ、実際に売買した株券を届けてくれました。実にノスタルジックな光景ではありませんか。売買の注文はといえば、「今日中に、○○を1,000株成行で買ってちょうだい。」みたいな感じで、時間の動きなど一切感じさせませんでした。それが、インターネットでは、売買はボタンを押すだけ。しかも、秒単位で。しかも、信用取引までも簡単にできてしまう。これは、日本でも、もちろん、問題になり、今の中国でもたいへん問題になっています。シロウトを食い物にするシステムです。預けてある現金の2倍まで、買うことができる。また、売ることもできる。さらに、2階建て取引など、想像以上にダメージを負うことは、実に経験しないとわからないことです。大量にカラ売りすることにより、相場を操縦することなどいとも簡単にできてしまいます。有名な会社の株でさえ、上場廃止とかが囁かれ、実際にそれが決定したら、そして、その株を大量に所有していたら、一瞬にして大損をしてしまうのです。
でも、この事件のことに関しては、真実を伝えない限り死んでも死にきれません。そして、この事件の幕引きのときに、借りは必ず返しますと結んだと思います。私は、今まで以上に世の中が簡単に儲けられない厳しい環境になっても自分で印した汚点の穴埋めは必ずすると誓い、今までも、今も必死に頑張っています。これは、私の中ではぜんぜん終わっていない戦いなのです。ただ、この部分への感情移入を、大きさはではなく、ベクトルを逆方向である前向きにしていただきたいのが一生のお願いでした。これは、理解していただいているものだと思っていました。
つまり、事件は、会社経営の怖さを知ってしまい(銀行以外のところでお金を借りなければならないことが起こりうる。あなたの実家からお金を借りる。または、私の親戚からお金を借りる。)、お金が自由になるうちにお金を増やそうという経営学的に稚拙な考え、やってはいけない考え方からきています。未熟さに関して非難されるのは本筋です。本当に未熟者で申し訳ありませんでした。何度でも謝ります。申し訳ありませんでした。申し訳ありませんでした。申し訳ありませんでした。ここからは、心理的にも簡単に想像できると思いますが、ありがちなビギナーズラックと、安易な考えに後押しされ、泥沼にズブズブと入り込んでいったのです。傷が浅いうちに正直に言ってあやまって抜け出したいという気持ちはいつもありました。怒り狂って怒られるのだろうな。でも、どうしようか。毎日が葛藤でした。資金が2割減っても、元金の2倍ぐらいには戻せるだろうとか、半分になっても、元の状態には戻せるだろうとかで、毎日、地獄の苦しみを味わって生きていく生活が続きました。楽しくゲームで株をやっていたなんて、本当にあり得ないことです。生きた心地はしませんでした。寿命は10年縮まりました。株にうつつを抜かすなどということばは、別の世界のことばです。一旦、負のスパイラルに入ってしまうと、強制的にしか抜けられなくなるのが世の常です。ローン地獄も、ネズミ講も、反社会的組織も、リーマンショックがトリガーとなって世界が大混乱したことも、年金資金の運用もみんな同じです。これらの負のスパイラルだって、好き好んでゲームでやっている人なんかひとりもいません。ギャンブルをしようと思ってやっている人なんてひとりもいないのです。みんな余裕があるうちに、資金を増やそうとしているだけです。何のために? 余裕が無くなったら、仕組みが、システムが、崩壊するからです。事業が継続できないからです。
まず、この時点で、心身ともに疲れ果てました。あなたにかかった気苦労と比べたらぜんぜん大したものではないと思います。が、ダメージは、今まで経験した中では、最大級でした。
そんな中、売上は?といったら、半減し、その影響で営業の質自体も疑問視され、経営の本当の難しさに直面していったと思います。あなたには、株の失敗と経営の悪化という最大のダメージの中で、本当によく頑張ってくれたと思います。ここが、あなたに対する最大級のリスペクトです。あなたがやってくれたことに感謝して、さらに感謝して、もっと感謝してもぜんぜん足りません。
私もダメージを引きずりながら、生きなければならず、そんな中、勝男とマキの最悪コンビにまんまとやられた感があります。人はこころが弱っているとき、マイナス側に引きつけられるのだなと。今思えば、全部納得できます。母の状態もままならず、介護を必要とするのに、十分な面倒もみることはできず、勝男からは、学校業務支援システムのことばかり、ささやかれ、それに手を出したら、泥沼にはまり、負のスパイラルにはまることを、じゅうじゅう認識しながら、やらざるを得ないということで、プロトタイプを作ったわけです。S社も参入すると、脅され、やらないわけにいかないという状況に追い込まれ、やったわけですが、思ったとおり、唯一手離れの悪い製品となってしまいました。(幸い、優秀な社員に恵まれて、何とか回転しています。)さらに、2番目に手離れの悪い製品である学校業務セキュリティも、なんと勝男のささやきから始まったのです。そして、ダメージを負って生きている私にとっては、この負担は、さらに大きいものとなっていったのです。あなたにこの製品を投入することの弊害を明確に言うこともできず、まったく迷惑をかけてしまったと後悔しています。このころからiPad側に目を向けていれば、状況も変わっていたかも知れません。でも、現実はこんなものだと思います。いろんなことがあって、あなたとの間にすれ違いが生じたのは事実です。でも、人生に順風満帆がずっと続くことなんて考えられないし、あの頃のことは、人生こんなことも起こっても不思議ではないなと実感する暗黒の時代だったと思います。
決め手となる新製品が出ない。あなたは更年期で辛い状態になっている。母親はかなりたいへんな状況。一歩間違えばすべて崩壊といってもいいような状況だったと思います。そんな中で、もう1つの事件が起きてしまいました。はっきり言って、触発は、忘年会でした。ごく単純にキャバクラを連想する景色がそこにはあったのです。家を追い出され、母親の介護をしている中で、私は、気分が滅入っていたのは事実です。キャバクラ感覚でした。仕事では、勝男と出張に行くとキャバクラは付き物でした。3回ほどあります。単純にストレス解消の場所でした。キャバクラというのは、ビールを飲んで、ろくでもない話をしてバカになるところです。触るとかはまず無いです。でも酒を飲んで、バカなことをいうだけで本当にストレスは解消されるわけです。マキは、その相手ができるのだと勝手に思い込み、ある時、飲みに行くことを誘ったら、酒が大好きなので、何の拒否もなくOKが出ました。いつも飲むという飲み仲間の女もひとり来ました。お金は無いから、割勘でというと、別にそのことで責められもせず、本当に酒が好きな人たちなんだなと実感しました。ちょうど家を追い出されていたときなので、3人ともそれぞれ、ビール6本を飲み、帰る時間を気にもしませんでした。こんなに飲む女は見たことがありませんでした。ぜんぜん酔ってないし、底抜けなので、バカな話をして、ストレスを解消しました。キャバクラに行くようなお金は持たせてもらっていませんでしたので、まさに、キャバクラがわりでした。そんなことが3回ほどありました。実際、ただそれだけです。酔って帰って、勢いで変なメールを送ったのは、事実ですが、酔った時のことです。実際、何もありません。本当に何もありません。とある有名監督だって、キャバクラの女から揺すられて、1億円払ったとか、とある有名市長だって、ちょっと、やんちゃなことをしちゃってすみませんでしたと公の場で謝罪したりと。男なんて、そんなもんだと思います。とはいえ、素直にこのことも謝ります。ごめんなさい。本当に申し訳ありませんでした。相手が悪かったのは、十分承知しています。ただ単に飲める女が他にいなかっただけです。
いろんなことを書きましたが、たぶん、あなたが考えていることと乖離していることの内容だとあなたは捉えると思います。でも、これが事実です。これが、その時々の心境です。たしかに、暗黒な時代がありました。どうしていいかわからない状況に何度も遭遇しました。あなたもそうだと思います。ましてや、直面した事実に対して、なぜなのかわからず、思い悩み、人を信じられなくなったのは当然だと思います。本当に迷惑をかけて申し訳ありませんでした。何度でも、何度でも気の済むまで謝ります。
「許すことで過去を変えることはできない。しかし、間違いなく、未来を変えることはできる。」
という名言があります。せっかくこの世に生を受けて、しかも、神様が出会いを与えてくれたのだから、許してくれるのなら、もう1度、本当にやり直したい。学習は十分されています。2度と同じような間違いは起こしません。
2回目のFAXの中で書いたように、一生守っていかなくてはという気持ちは、こころの中に確実に存在しています。ランカウイの星空、星のひとつひとつが輝きを主張し、透明な真っ黒な宇宙に散りばめられる様は、だれもが詩人になれる。ケニアの大平原、ずっとずっと向こうの100kmも向こうに、雨の柱が天に向かっている様は、だれもが絵描きになれる。もっともっと、ステキな思い出をいくつもいくつも重ねていきたい。というのが、1点の曇りもないこころです。
こどもたちにも、愛情をかけられずに、漫然と過ごしてしまったことに、たいへん反省しています。でも、これから、挽回します。私には、一般人と違う能力があります。iPad関連の新システムも、こどもたちが十分参加できるものを真剣に考えています。普通のごく一般的な気遣いができない父親としては、どう見ても合格点はもらえませんが、たとえば、タイトルだけ言えば、たぶん、内容の察しがつくと思いますが、「バーチャルキッザニア」など、私たちのこどもたちだからこそ、私たちの子孫だからこそ、その感性が、その能力が、発揮できるような企画が、次々と浮かんできています。突然、古ぼけたアパートに自分の荷物がすべて運ばれ、「今日から、あんたが済むアパートだよ。」と、その数日後、別れ話にアパートを訪ねてきたときに、4人で抱き合って約束しました。これから、協力して会社を一緒にやってくれるよねと。私は、本当にまじめに考えています。
他の見せかけのような愛情表現をしている人には、その部分で絶対に負けることはありません。お願いです。もう1度チャンスをください。
最後に、いろいろと起こした事柄のすべてに理由と事情があるわけですが、
あなたにかけた迷惑と苦労に対して、最大級の感謝と労りの気持ちを持って、
これからの人生を生きていきたいと思っています。かけた苦労の分の2倍、いや、10倍以上のいたわりで、埋めさせてください。お願します。
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