第6話 ソーダファウンテン・サボブレス


 五  ソーダファウンテン・サボブレス


pavmant art=街頭画家、heliotrope=きだちるり草、保存瓶の麦茶、最後の一杯を、plop=ぽちゃんとグラスに一滴。


もうすぐ始まる期末試験の英語学習に、リンガホンと蛍光ペン、そしてピーナッツに腹巻き、かならず背伸びしてからイスに座るとラッキーな事が起るというジンクスが私にはある。

進路先大学は、なんだかんだ悩んだあげく、四年制の文芸学部を受ける事に決めた。


美柑は、以前から考えていた商業学部へ。


受験が終わったらと、計画していた春の音楽野外フェスティバルも大盛り上がりで、 同級生達はそれぞれの進路先へ進んで行ったのだった。


六月の梅雨時、美柑から連絡があり、福寿草駅で待ち合わせをする事に。向かう先はビッキーさんから紹介されたサボブレスだったのだが、まさかこの時から正体不明の画家探しをする事になるとは思ってもみなかった。


副寿草駅は、急行の停まる古い田舎駅だが、最近では、大型のスーパーや、ショッピングモールにも新たにお店が増え、若者に人気の駅になっている。


ビッキーさんがいた南口とは反対の北口方面へ進み、細長い福寿草駅に沿って小さなお店をいくつか通り過ぎた。

北口駅の壁はレンガ造りで、アーチ型になったお店の入り口が並ぶが、どのお店も入り口が小さく、歩道も狭いので、車道に落ち無い様、一列になり歩いて行くしかなかった。


私達がいつも立ち寄っていた南口とは違い、文具店、薬局、おもちゃ屋、鳥と虫屋、楽器店、パン屋など、一通り?では無く、一風変わった裏通りで、歩道の途中には、記念ガス燈が飾られ、生みたて卵の自動販売機に、BOX ガラスショーケースが重なる魚屋さんと、きっちり不思議とまとまって建ち並んでいた。


「丸パン焼き上がり十四時、あ、十八時とぉ、初めは朝十時だって。帰りに買っていこうか。美味しそうじゃない?なんか人も結構並んでるよ。」


「美柑が好きそうなお店だね。いいよ、帰りね。ほら文鳥がいる。鳥屋さん、小鳥屋さん、ウサギの花梨ちゃんだって。ジャケット着てる?Tシャツかぁ、オシャレしてる。可愛いー。私小鳥飼いたいのよね。」


「ふふふ。琴美、好きだもんね。コトリ。その先に食器が並べてあるけど、レストラン?

『地道家具店』だって。家具屋さんだね。蹄鉄が看板に打ち付けてあるけど、ほら、通路にも埋ってるー。」

「あーほんとだ。この通路、馬の足型が、所々にあるね。サボブレスまで、あるのかしら?」


大通りと交わった交差点に出ると、馬の蹄鉄は消え、広々と視界は、扇状になり、一歩進むと、小さなかざぐるまが一つ。くるくると転がったかと思うと、二つ三つとかざぐるまは増え、高速回転で円になると、空へ昇り、パチパチと音を立て消えて行った。


信号待ちをしている間に、大通りと入り組んだ旧街道を、車や人々が行き交うが、その間をすーっと馬車が走って来たかと思うと、ヒラヒラといちょうの葉が飛び散って、向いの通りに立っていたつばの大きな帽子をかぶるドレスを着た女性の前で止まった。


馬は、静かに足を揃え、おとなしく待っている。馬車の扉が開いて、その女性を乗せると交差点から横道に入り、走って行った。


「馬車じゃない?今の。」


「馬車?そんなの見て無いわよ。」


「えっうそ?走って来て、女性を乗せて…。」


「牛がいるっ!ほら、牛小屋があるけどー、牛車と間違えたとか?でも、牛も走っていなか ったわよ。」


美柑の言う通り、大通りはいつと変わらず、私達は、横断歩道を渡り、サボブレスへ向かったのだった。


サボブレスは、ブロック壁と、生け垣に囲まれた大きな建物で、じゃりと芝生が、斑になる敷地に長イスやテーブルが無造作に置かれてあり、蔦の絡まった二階建ては、樹木と混じり合って人の気配があまり感じられなかった。


「サボブレスって描いてあるよ、琴美、ほら。お店なんじゃない?ここが。ランチに、 ティータイム、ディナーメニューって。」


「何処が入り口?ドアが正面に三ケ所あるけど。

ドアに卵の絵が描いてあるわ。

でも、あれ?カギが掛かってる。

もう一ケ所の方はー、エンピツと木が飾ってあるけど…。

ここもカギが掛かってる。

あ、また一つ、こっちかしら?

芝生が踏み固められてるし、横にもガラス戸があるわよ。

『soda fountain サボブレス』昔のプリント、ソーダ水だね。

ドア開けるよ。」



私と美柑は、観音開きで飾られているガラス戸の右側をそっと覗き込むように、中に入った。


サボブレスの店内は、天井が高く、三角屋根の骨組みからはコードの長い照明が沢山吊るされ、広々とした一階を囲むように、二階席が木の枠で囲われており、中央の柱を挟んで大きな丸テーブルが一台置いてあった。


ジュークボックス、銀色の大きなポットが沢山並び、ボトルに円筒のマシンが設置されて、とても賑やかな異空間。


円筒のマシンからは、ポコポコプクプクと泡立つ音が鳴っていた。


「いらっしゃいませ。何名様ですか?」


「二人です。あのー、ビッキーさんに紹介して頂いたんですけど。」


私は、サインの書かれたビッキーさんの名刺とサボブレスまでの案内図を見せた。


お店の人は、それを見て裏表と確認し


「はい、お待ちしていましたよ。ビッキーさんですね。オモシロソーダ屋、ソーダファウンテンで、楽しんで下さい。どうぞ。こちらへ。」


通路を歩き店内へ入ると、座席はバラバラ。


「お好きな席へどうぞ。」


中央の丸テーブルの周りに、広々とした空間があり、その空間を置き、大型本と文庫本が並んだ勉強机のテーブル席、文具が置かれた作業台、カラフルキッチュな木製チェアや、薬品棚、レコード棚。ゴブラン織りのソファ席には他のお客さまも。


私達は丸い背もたれの付いた、クッションシートと木製ガラステーブル席に座った。


テーブルのガラスの中を見ると、蟻が一匹、二匹。


「やだー、蟻じゃない?蟻の巣だよ。テーブルの中に蟻の巣が創ってある。卵もあるー 。」


「ふふっ。蟻の巣観察してみよう。」


「蟻の巣だけど…ピンクと黄色のトンネル?蟻の部屋、水色だよ、エサが置いてある場所、黄緑。土の中に作ったのよ。」


「動いてるー。近くで見たの子供の時以来かな。」


向いの席のテーブルには、大きな四角いミキサーが置かれ、他の席はまだ解らないけれど蟻の巣があるのはこの席だけのようだ。

小さな蟻は黄緑色の部屋から、いくつかの巣穴へ運んでいる。

ピンクのトンネルを通る蟻より、黄色のトンネルを通る蟻の道順が遠回り。


「いらっしゃいませ。アントテーブルにお決まりですね。お冷やお持ちしました。グリ-ンのタートルシャツのポケットから、店員さんは折り畳んだメニューを出すと、


「二名様ご注文お伺い致しますが、本日のメニューは


一、スミレパイ


二、コーラスパンドソーダフロート


でございまして、スミレパイはゆで卵のクリームソースパイ包み、二番目のコーラスパンドソーダフロートは、いわばフルーツドロップのソーダ割りですが、こちらでよろしいですか?」


「はい。…二つ、セットでいいよね。」


「うん。」


「それで、こちらの席に座られたお客様に協力してもらっているんですが、サボブレスでは観察日記帳を製作しておりまして、こちらの紙に今の状態を御記入お願いします。

今日の日付け、蟻の数、蟻の動向、卵の様子、蟻を見て思った事柄、今日の天気はナンジャロカ。

あとは、お客サマのお気持ちです。コーラスパンドソーダフロートが出来ます迄、どうぞヨロシクお願いします。」


サボブレスの店員さんは、黒いロングエプロンを翻し、中央テーブルからガラスボトルを一本持って行くと、店の奥へ入って行った。


蟻は、ピンク色のトンネルに列を作り、十匹程並んでいる。遠回りの黄色いトンネルに一匹。

三匹ウロウロと、トンネルから外れ、固まっているが、エサを加えた一匹が近づ

くと、その蟻の後に付き、トンネルへ戻って行った。


「これ、なんだろう。」


テ-ブルの隅に水の入ったフラスコ。金貨が底に沈み、白いボタンが付いている。


「押してみる?」「えーっ?…押してみようか。」


美柑は、少し怖そうに、そっと白いボタンに触れると、底から、キラキラと金銀吹き上がり、中から水母が浮かんで来た。


「スノードーム?きれーい。」


「雪の中の水母なんて、ちょっとおかしいよ。」「違うでしょ。水中なのよ。これは 。」

「金と銀が水母のご飯って事?」「別に食べる訳では無いでしょ。海賊の落とし物。秘宝って事。」「宝物に囲まれて、スイスイ、プカプカかぁ。」「門番かも。だって、ほら、底に本物の金貨があるよ。」「ふふ。押し過ぎよ、美柑、水母がひっくり返ってるじゃない。」


水面に波紋が広がり、水母が揺られ、金貨が水中に沈んでいる光景は、神秘的でもあり、科学的でもあった。


「珍しいもの、見つけた。ほら、見て。」


ソファ席に座るお客さまの所へ、銀色の大きな容器を運んでいる。


「トロフィー?みたい。あーでも蛇口が付いてるね。湯気も立ってるし…。」


「トングで炭を持ち上げてる、ポットも運ばれて来たわよ。あの缶の中味はー、一杯、二杯、三杯…と…。」


たっぷりの茶葉をスプーンでポットに入れると、蛇口からお湯を注ぎ、銀色の容器の上に乗せた。


「面白ーい。お茶よ。楽しそう。どこの国の飲み物だろうね。」


「私達が注文した、コーラスパンドソーダフロートも謎と言ったら謎。スミレパイなんて花菓子なのかな、甘ーいお菓子って事。」


「あちらの容器はサモワールです。宜しければ、次回、お持ちしますよ。紅茶はお好きですか?ビッキーさんのお客さまですから、まずは当店お勧めソーダフロートにさせて頂きました。」


店員さんは、水中メガネをつけると、ワゴンに置かれたガスボンベを、横にあるロケット形タンクに設置し、ガラスボトルに栓を付け、そのロケットタンクにねじ込むと、ボンベに付いたレバーをひねった。


ウォーターボトルは、水煙を立て、あっという間にソーダ水に。

グラスの中には、苺 、クランベリー、キウイ、ブルーベリー、メロン、レイシとフルーツドロップが詰められ、レモンをぎゅっと絞ると、テーブルへ。


「わー。水母も浮かんでくる?」


「水母は気ままに現れてきますのでね。」


栓を開けるとキコロン、カコロンと音が流れ、ソーダ水を注ぐと、フルーツの香りが広がった。


「スミレパイも、すぐにお持ちします。」


広い店内を見渡すと、文具の置かれた作業台の上に、馬の蹄鉄が飾られてあった。


花菓子と思ったスミレパイは、丸皿にゆで卵が8コ、グツグツと煮えたホワイトソースがたっぷり。ソースの上には黄金色のチーズが忙しく、その周りをパイが包み込むという一皿で、大スプーンで掬い、卵にナイフ入れると、半熟の黄味が溶け出し、美柑と私は、ほっぺたを膨らませ、久々の再開に花を咲かせた。


「らくだのこぶは、いわば貯蔵タンクを体に持ちつつ、生きている姿で、私達はさぁ、海に囲まれた島国育ち。

大陸の暮らしと比べると、便利さと他の国の情報量がわりと違うんじゃないかと思うんだよね。」


「安全なのに、床下収納が満杯で。満たされているから。らくだって日本育ちじゃないもんね。」


大学での生活は、エポックメーキングと、私達に日本の明るい未来を託し、とっても恵まれた環境で過ごしている訳で。

美柑の学ぶ階級闘争の講議では、必要であらばと、パリから建築家を呼び、生徒と共に古城のある南フランス版モノポリーを製作したらしい。


「ほら、これ見て。」

「ヘアゴム?あ、オカメインコ!」

「プラバンで作ったの。 琴美にあげる。」


私は、肩迄伸びた髪を、手前に束ねるとヘアゴムで結んだ。


「スミレパイのお味はいかがでしたか?コ-ラスパンドソーダフロートにはアイスクリームを乗せまして、ソーダフロートでお楽しみを。お好みで、こちらのシロップもお使い下さい。

ミルクピッチャーの中には、三層になったハチミツ・カラメル・苺ジャムが、ゼラチンで固められております。ソーダ水とはベストマッチでPOP&スウィ-ティー。

ごほん、あのそちらのオカメインコは、ご自分で描かれたのですか?サボブレスにも、実は、インコがおりまして、あ、連れてきますね。」


店員さんは、ニ階席にあがると、階段横のトリカゴを開け、インコを指に乗せ、こちらに 連れて来た。


「リリィです。ラムネをドウゾ。」


手の平のラムネをくわえると、私達のテーブルの上に飛んで、首をかしげた。

そして、ラムネを中央に置くと、店員さんの肩に戻って行った。「もう一つ、リリィ、こちらも。」小さな包み紙を見せると、今度はパタパタと一周飛び回り、リリィはラムネの横に並べた。美柑と私は筒に結ばれた糸をそっと解き 、広げてみた。


「サボブレス映画会?!映画上映があるんですか?」


「はい。バッカス会という、映画クラブの方々で、次の日曜日ですね。小鳥のジレー会では、リリィも活躍しますし、サボブレスでは、ミニチュア気球の会も開催しておりますのでぜひ起こし下さい。」


「沢山イベントがあるんですね。琴美も小鳥飼いたいんでしょ。」


「うん。」


「その時には、サボブレスに連れて来て下さい。二階に小鳥の会の様子が少しご紹介してありますので、どうぞ。」


店員さんに言われ、二階席に上がると、テーブルの窓際にトリカゴと、フックに小さなチョッキや胸飾り、それらを身に付けた、小鳥の写真が展示してあった。


「どうやって着せてるのかなぁ。凄ーい、この小鳥、ベレー帽被って笑いながら筆を持ってポーズしてるよ。」


「わー、気球に乗ってる!」


「駝鳥の絵とこっちには、アジルの夕べ

~サボブレスにて~

一九〇八年・ルックサックのメンバーだって。」


「画家の集まり?

サボブレスってビッキーさんの話した通り、面白いお店だね。」


「映画会にも来てみよう。店内も広々としてるし、私も、インコを飼う事に決めた。ラムネ、 運ぶかしら。」


「リボンも結んでね。席に戻ろっか。

一階へは、こちらって、

パンパスの森へ、だって。」


「宝箱を開けるの?」


「そうよ。矢印があるし、金具も付いてる。琴美は、そっちを持って。」


「えーっ、開くかしら。」

「いいのっ、ここよ。せぇーのっ。」


美柑の勢いに押され、宝箱を開けると、下へ降りる階段が現れた。


「小鳥の写真、ここにも飾ってあるわよ。絵も沢山ー。」


「美柑、お店の一階じゃないわよ、

ねー、戻ろうよ。」


「いいの、いいの。あれっ、

・・・・こんにちは。」


「えっ?こ、こんにちは…。」


「サボブレスの一階ですか?」


「こんにちは。パンパスの森は、サボブレスへ行かれる方へ、ちょっとお願いをさせて頂いている所でございまして、

頼まれて下さい。」


「どういう事ですか?」


「まず、一つ目のお願いですが、エンピツを一本削って頂きます。こんな風に、平らに削って下さい。」


「エンピツを削るんですか?」


「ええ。頼まれて下さい。」


ギャザーの寄った、淡白いたっぷりとしたワンピースを着た女性が、階段を降りて来た私達に話し掛けてきた。


ガラスで仕切られた部屋の奥にも、淡白いワンピースに身を包み、クロッシュ帽を頭に被った女性達がいて、上皿天秤で何か量っていた。


流し台の付いたテーブルには、木板にビーカー、オイルランプと、缶筆箱、カッターナイフにスポイト等が並び、サボブレスの店内にも置かれていた、勉強机もあった。


女性は、二センチ程の幅のあるエンピツを持つと、手際よくカッターナイフで削り、缶箱に並べた。


パンパスの森とは、森ではない。

テーブルの上のスノーボールに吸い込まれたのではないだろうか。


美柑は何も気にならない様子で、渡されたエンピツを削っている。


「出来ました!琴美は?」


「う、うん。出来たよ。」


エンピツの木は案外柔らかく、

さくりと平らに削る事が出来た。


「ありがとうございます。ルックサックの方々が使われるエンピツなのですよ。次ぎに、二つ目のお願いですが、紙石鹸に絵を描いて下さい。

絵もとてもお上手だとお聞きしましたよ。

サルビアと紫キャベツに、こちらはうこんです。グアユールゴムの木を溶かした液体と、こういったもので色を付けます。筒紙に流し込み、お好きな絵を描いて下さい。」


「うわっ。紙石鹸?」


「透きとおってる。」


薄紙のパラフィン紙に乗せられ、美柑と私はお互いの正面に運び、暫く描くモノを考えていた。


「よしっ決めた。」

美柑は、筒紙にゴム液をスプンで入れるとニコニコしながら描き始めた。


「コ・ト・リ・やっぱりオカメインコ。」


「じゃぁ、私は、ネコ。

ネコにするね。」


「こちらは、サボブレスで作った物ですが、使い終わると、輪ゴムとしても使用出来るのですよ。なので、なるべく繋げて描くか、塗り込めば、エンピツを置いたりして。」


女性が見せてくれた紙石鹸には、鶏とサッカーボールなど、とても上手に描かれていた。


「完成されましたら、こちらで乾燥させます。香り箱に仕舞います。」


パンパスの森に置かれた勉強机には、古風な壁掛け式のボタン電話に、コードで繋がったマイクが何台もフックに吊るされ、小さな穴が沢山開いているボードに、電話から配線されたジャックが何本も刺さっていた。

穴の上のランプが点灯すると、女性がその穴にジャックを差し受話器を耳にあてる。


「電話してるのかしら?」


「さあ?」


「紙石鹸も、何処で使用されるの?」


「ルックサックの方達だって、エンピツ。」


「もう一つ、頼まれて下さい。」


「あ、はい。」


「三つ目のお願いです。

こちらの絵なのですが、以前、ジレー会で連れてこられた、赤カナリアでして、行方が不明になっていましてね。

その後、赤カナリアは見つかったのですが、この絵が手懸りになったのです。

サボブレスに来られたお客様が描いてくれたものですけれど、どの方なのか探していましてね。」


「赤いカナリア?」


「珍しいよね。」


「ジレー会では、もっと不思議な小鳥もおりますよ。

絵を描いて下さった方は、良く町や

駅などでも描かれていると話を聞いたものですから、飼い主の方がお礼をしたいと願っていまして。」


「そうなんですか。はい。わかりました。福寿草駅なら、私達も最近良く行くしね。」


「ビッキーさんに聞いてみる?フフフ。」


「ビッキーさんは、来月、福寿草駅にある古民芸家具歴史博物館の催し物で、サボブレスを創設した奏恵八十吉ソウケイヤソキチと福寿草駅の移り変わり展でお話されるようですよ。」


「ビッキーさん、占い師じゃなかったね。」


博物館にサボブレスへのご案内と青空デスクで忙しくしていたビッキーさんは、まだ私達の知らない事が沢山ある人だ。というより、私達の事を知っていた?なんて、そんな事があるわけでも無く。


二藍フタアイさん、お客様、地道さん達いらっしゃいましたって。」


「それでは、ご一緒に。あ、私、二藍フタアイです。」


「美柑です。」「琴美です。」


この時のパンパスの森での三つの頼まれ事は、私と美柑に旋律を与えてくれたようだった。


二藍さんは、とても姿勢が良く、丸めがねをかけて、スタスタと歩いて行く。

ガラス張りの奥の部屋はとても広くて、白いレースカーテン越しに人影は多く、静かに作業をしている。

その脇の通路を進み、別の部屋に着いた。


「どうも、地道チドウさん。」


「おじゃまします。今日は、少し雨が降っていたもので、遅くなってしまってすいません。食器棚は、店内に運びましたので。」


「ありがとうございます。日曜日もいらっしゃいますよね。」


「はぁーバッカス会、蓄音機持って行きますから、その日。

赤カナリアの額縁は、今探していますから。

あ、画家さんもですけど。」


「画家さんですけど、地道さん、こちらのお二人にも、探すのを手伝って頂ける事になりまして。」


「そうですか、それは助かりますね。宜しくお願いします。うちの店は、わか

ります?」


「北口の蹄鉄のお店ですよね。来る途中、ウサギの花梨ちゃんがいて。」


「そうです。その先。兎馬ロバ屋さんでは、無いですからね。」


「ロバ?」


「先代は、馬市にも、顔を出していたらしですけど。」


「ウマイチ?」


「いや、あはは。今は、古い家具を扱っています。古道具屋さんです。」


「サボブレスにある家具も、もしかして。」


「ああ、はい。テーブル、ソファ等、いくつか気に入って頂いていますけど。」


「私達、アントテーブル!?」


「蟻のテーブルもですか?」


「あはは、そちらは、サボブレスの大切タイセツさんが、研究の為にって。サボブレスさん古い家具、昔から使っているの、殆どそのままですからね。」


「私、家具、見てみたい。」


「お店?」


「これから寄ってもいいですか?」


「どうぞ。

画家さん探しも手伝ってくれるという事ですしね。」


美柑と私は、二藍さんから赤カナリアの絵を預かり、パンパスの森を出た。


出口は、初めに迷った、エンピツと木が飾ってあった入り口のドアだった。


地道家具店さんは、明治時代から大正時代に使われていたイギリスやヨーロッパ各地からの輸入された家具や、日本の焼き物、ガラス食器など。

とても温もりのある品々が並ぶお店で、美柑はアンティークのレジスターを見つけると、


「ビッキーコンサルティングも、 こちら?なんて…。」


とおどけて見せたが


「はい、ビッキーさん、地道家具店、うちの社長です。」


「えーっ?!」


地道さんは、気さくな人で、探し物、希望の家具等あれば、相談に乗ってくれる

と話し、私達も赤カナリアの画家探しを、今度のバッカス会までに、まずは、福寿草駅で一日、始めてみる事に決めた。


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