第3話 〜矢大酒店にて〜
~矢大酒店にて~
「チーズが練り込んであれば、チーズケーキですかね。」
「3分の2は無けりゃね。」
「4分の1では、何と言う。土台スポンジだったら、チーズを乗せて、と。」「添えて置くのは、大根のつまでしょ。」「山気さんがチーズケーキをね、焼き上げまして。まずは召し上がってみて下さい。」
矢大酒店の
馴染みの年中行事に加え、
春の防犯運動ビキニデー。夏の土用の入り、三日目の夏の土用三郎で、その年の景気が良いだ、悪いだとウナギを煮付け、十一月には、寄生虫予防運動に参加するなど、忙しく世故にたけたお人である。
「これは、チーズ?ケーキ?」
「ええ、チーズもチーズ。ケーキですよ。」
「小さいね。」
「今、切り分けますから。」
小皿に、一口サイズのチーズケーキ。一センチ幅、三センチ四方。
「この濃厚さと、しっとり感、甘じょっぱいね。」
「旨いですよ。」
「有難うございます。」
「数種類のチーズを練り上げたの?」
「お酒に合いますよ。」
「チーズ以上に、チーズですね、なんとも。」
「それだよね、そう言いたい。」「山の珍味だねぇ。」
「そこでなんですが、名前を付けたくて、何と呼ぼうかと…。」
「チーズ、ケーキ?うーん、ケーキと言うか、見た目で付けるのも、あだ名じゃ無いし。」
「アーモンドの粉に豆腐。あとは企業秘密です。」
「豆腐?」「ええ。」「クリーミィだよね。」「はい。」
「豆腐って言うのが、何か気になるなぁ。」
「トウフヨウかな?」
「・・・・呼び名を願います。」
「・・・・山気さん、チーズ帳が、だいぶ厚くなりましたね。」
「チーズ抱き合わせのチーズタッグとかね。」
「からすみヌガーとも。大根に挟んで。」「月餅。卵の入ってる部分の。」「チーズ党。チーズと豆腐のトウで。」「チーズトウ。」
「モン・ネコル」
「え?モン?ネコル。」
「おちーずマッシュとか。」
「モン・ネコルって言うのは、何と言う意味で?」
「私の学校。フランス料理とも言えますよ。山気さん、チーズ好きで、学習してるじゃない。」
「形からもお味からも、山気さん、モン・ネコルって良いんじゃないかしら。」
赤キャベツのピクルスを、パリッと刻み、虹子さん、ご感心で山気氏にチーズラベルを貼付けた。
矢大酒店の常連で、山気氏をチーズの虜にした
仕事で海外に行く事もしばしばで、
「スイスの人は鼻が良い。
環境とゆとりと、ストレスのなさで、チーズが最高に美味しいんだよね。」
中でも、スイス産が殆どだと言う人。
チーズの見分け方として、慶案さんご考案の一つは十二時法。
「午前十時から十二時の空腹時に一切れ。次は夕食後に食す。
チーズの善し悪しよりも自分の味覚の確認か、前歯で噛み、上アゴに付けて香りを口の中に、広げると。
あと一つ。次にぺちゃんこにするのも、わりと美味しい。」
「それ、わかります。山気さんのモン・ネコル、ぎゅっと詰まっていますからね。」
「少量でも、ふわっと。ゆりカゴに揺られ、あー私は葡萄酒をもう一杯頂こうかな。」
山気氏のモン・ネコルも好評アダジオ。
飲み手斉木氏と、狙い定めたるか、
慶案氏は「スコッチをストレートで。チェイサー一つ。」
「月餅には紹興酒って、老酒なんか、合いそうですけどね。お彼岸には、お通しおはぎですから、日本酒もその日には、良く飲まれるんですよ。」
「春が来たかと、クシャミが出たら、お燗をつけてね。」
「夜風が吹いて、寒くても、皆さんがまん強いですからね。花粉症かと、鼻から水まで出る様でしたら、薬を飲んで、身体を温めるのが一番ですが。」
「我慢強いもなにも、山気さんは、風邪をひいたら、虹子さん手製の甘酒で、インフルエンザまで治したからね。40度はあったんじゃないの?
虹が美しく、私もスイスへ旅立つと、管を巻いてねぇ。」
「ブロッケン現象でしょう。それは。」
「鶏肉の照焼きに、牛のレバニラ炒め、体力つけてと、豚の角煮も。
病むとご馳走も頂けまして。
但し、鼻が詰まると、味も匂いもわからずで、チーズも飯も記憶に残っておりませんで。」
山気氏は、残念そうに樽から葡萄酒を瓶に注ぐと、両手で丁寧に持ち上げて、斉木氏の前に差し出した。
「サングリアのご予約承りますが。これから仕込みを致しますんで、いかがですか?」
「それ頂きますよ。娘が喜びそうだ。モン・ネコルも付けてね。
味覚というか、娘とは、味の好みが違ってね。本物嗜好でありながらさっぱりした味を好みますね。クドいと嫌がるね。この間は、おでんの味付け。私が大根をコトコトね、煮込めば塩辛い。本場味噌ラーメンも味が濃いって、コーンスープのコーンは薄いだの、肉が多くてカロリーが高いだの、ジュースは甘過ぎるって。贅沢だと言えば、私の方が贅沢だと言い、ヨーグルトやパンも種を入れて天然酵母の手作りで、作ってくれるのは有り難いが、きりっとどうにも、行かなくってねぇ。娘にはやはり甘くなってしまってね。」
「斉木さんの健康を娘様も気遣っていると。温もりが感じられますね。毎日の生活にも。
花粉アレルギー人口が増加しているのも、偏りがあるからでしょうかね、食生活に。愛情のこもった娘様の手料理で楽しく食事が出来れば、食事も旨い。嗅覚が優れていれば、脳も冴えるハズ。」
「偏る?ならばウチの床屋に、おいで下さい。私の開発した『ポップトップスケールチェア』発明とまでは言いませんが、好評頂いております。
髪は自然と伸びますけれども、散髪しながら、頭も身体も整えて頂きたいと研究しましてね、持っているモノなんて言ったら、大層な事だと思われますが、伸ばしていかないと縮むでしょ。お決まりの散髪じゃ石頭だと娘に言われて。
えー、葡萄酒、もう一杯。」
「はい、どうも。お世話になっております。バーバー斉木さんの腕にかかれば、タンポポの綿毛も大ダリアに変わりますんで、私も根強くなりました。」
「山気さんも、艶やかになってきましたよねぇ。菊が咲いたとなれば、菊づくしで祝いたいわぁ。九月の菊酒、菊の被綿、長生きして下さいませ。」
「虹子さんの、まじないじゃないの、山気さん。」
斉木氏のスケールハーモニーとは、いかなる物か。自らの発明で調律とは、民族主義の現れか。我々の創作したる物とは。何処へ向うのか。
学説ありきで音を奏でと、耳に入るは、その節、そのホールポーチの手の平か。
断片を転がし、世の人々は口づさむ。
ロイド眼鏡のフレームは、聞く為だけとある訳でもなく、創音も軽工業と消費され、100dbをくらわされているようなものだ。
探そうものならば、クガチを必要とせず、境の無い海を泳ぐイルカが、歌うのを求めるであろう。
波動とラインに
作家その者の奥の創意とシロバナクズの花ビラがなんの色彩であるのかを、必要ともせずにいるくだらないジャンキーが、クズをかき集め、バラ撒き、利欲、利益を増やすのだ。
深海に沈んだ宝を、発見を目的に争い合わせ、一つの個を消し奪い取り行く。
その宝が好餌となり欲望を持ったまま、クズを食わされ、知らずに生きる。
王に捧げと生まれた訳では無い。
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