第18話 目覚めし力と過大な嫉妬

「あらァ…お久しぶりィ…」


「ど、ども…」


僕はいきなりのピンチにちびっちゃいそうだった。


…少しちびっちゃったような気がしないでもない(汗)。


「あんたがァ…私をォ…阻止出来るとでもォ?」


ディーナは怪しげで不敵な笑みを浮かべながら僕に近付いて来る。

くっ!ころ…される訳にはいかないし…。

何かこう、攻撃出来そうな能力、目覚めてくれっ!

僕はダメ元で手を前に伸ばして気を放ってみた…。


「はぁーっ!」


「何それェ…新しい体操?」


予想通り気は放たれていなかった。

何だよ!ちょっと期待してやった結果がこれだよ!

僕は無意味な事をしてしまって恥ずかしさで顔が真っ赤になっていた。


「さてェ…、役立たずはァ…ここでオネンネでもしていて頂戴ねェ…」


ディーナは片手を僕に向けて光のネットを放つ!

それはこのくらい朝飯前かという風な軽い仕草だった。


バシュッ!


僕は腕を顔面でクロスさせて防御の姿勢を取りながらテレポートしようとする。

前に何度か成功していた事もあってこのテレポートは無事成功した。


ス…ッ!


「へェ…」


僕のテレポートを見てディーナは少し感心したように笑った。

しかしの笑みはどこか冷たく暗いものだった。


「逃げるだけじゃァ…足止めは出来ないわよォ…」


確かにこのままじゃディーナをみすみす逃してしまう…。

しかしどうやって彼女を足止めしたらいいんだ…。


「それにィ…簡単にコレでェ…始末をつけてもいいんだけどォ…」


ディーナはおもむろに懐から銃を取り出す…。

アレはあの時ライアンがはたき落とした銃だ…。


「あらァ…逃げないのねェ…」


「…」


僕はただ一歩も動けないでいた。

勝手に勇気ある男だと勘違いされたらそれはそれで嬉しいけど…。

銃をこちらに向けている彼女の目はマジだった…。


「邪魔しないならァ…見逃してあげてもォ…いいけどォ?」


ディーナのこの申し出に僕は沈黙で答えていた。

これが正しい選択かどうかは分からない…けれどそうするしか出来なかったのだ。


(何で…何でこんな時にライアンは来てくれないんだ…)


神殿の時みたいに最後の最後はライアンが助けに来てくれると僕はそう考えていた。そう願っていた。

でもいつまでたってもその気配がない。

…まさか!…最悪の答えすら想像してしまった…。


「まさかァ…ライアンが助けに来てくれるとォ…思ってるゥ…?」


「!?」


ディーナの口からライアンという言葉が出て僕は動揺してしまった。

しかもその口調にはどこか僕を馬鹿にしている風なニュアンスが感じられた。

この雰囲気から察するその先の展開は2パターンあった。

ひとつは既にライアンが彼女に倒されているパターン…そうしてもうひとつは…。


「ライアンがァ…誰の指令であの村に近付いたかァ…知っているかしらァ…?」


「…まさか…」


「そう言う事よォ…うふふゥ…」


彼女の言葉がその意味の通りだとして僕の想像が導き出した結論は…考えたくはなかった。

しかし世界は欺瞞と裏切りで出来ている…最悪の想定も視野に入れていなければならなかった。

とにかく、彼女の言葉から今言えるのはライアンの助けは期待出来ないと言う事だった。


「ちょっとォ…ネタばらしィ…しすぎたかしらァ…?」


バン!


彼女の銃口から放たれた弾丸が僕の足元の地面にめり込む。

本物の銃の発砲音を僕はこの時初めて聞いた。

意外と軽い音が僕の鼓膜に残っていた。


「次はァ…そうねェ…足を狙っちゃおかしらァ…」


そう言ったディーナの目は何人もの人間をその手で殺めたプロの殺し屋の目をしていた。


(こっ…殺される!)


な、何か‥何か何か特別な力っ!僕の中に眠る不思議な力っ!どうか目覚めてっ!

僕はまだ未知数の自分の中に眠る何らかの能力に全てを賭けるしかなかった。

ご都合主義の漫画とかならここで「力が欲しいか?」って内なる声が聞こえて聞そうなものだけど…。

いくら踏ん張ってもそんな都合の良い言葉はどこからも聞こえて来そうな雰囲気にはならなかった…。

今のところテレポートしか使えない自分がどうにも歯痒かった。


「しかし不思議よねェ…その力ァ…修行も承認もなしに使えるなんてェ…」


「はぁ…?」


どうやらディーナは僕の能力に疑問を持っているみたいだった。

そんなの、使えている自分自身まだ半信半疑のシロモノだもの…。

しかし彼女の口調から言ってこの力は本来なら修行とか承認とかめんどくさい手続きみたいなものが必要なものらしかった。


「なるほどォ…守り人娘がァ…大事にする訳だわァ…」


ディーナは僕の何かに気付いて納得したみたいだった。

ちょっと!そんな思わせぶりな事言って…すごく気になっちゃうんですけど!

彼女は急にさっきまでの殺し屋の顔から変わってすごく妖艶な表情になった。


「どう?あなたァ…こっち側にィ…つく気はない?」


アレ?僕今悪の親玉にスカウトされてるっぽい?

何だか急にすごい事になって来ちゃったぞ…(汗)。

こんな時は一体どうすれば…(困惑)。


「つ、つく訳ないだろ!」


「だよねェ…ここで殺すのォ…勿体ないけどォ…」


ヤバい…ディーナは何を考えているんだ?

ここであいつの言葉に騙されたふりをして窮地を切り抜ける作戦に出ても良かったけど僕はそんな腹芸が出来るほどの知識も経験も度胸もなかった。


でも自分の仲間にしたがるくらいの何かを僕は持っているんだな…。

そう思うと僕は少しだけ自分に自信が持てた気がしていた。


「あなたも洗脳も効かないしィ…ここで死んでもらわないとォ…後が面倒だわァ…」


妖艶な表情から一瞬で殺し屋の目に戻った彼女は改めて銃をこちらに向ける。

最初は足を狙うと宣言したはずのその銃口は明らかに僕の心臓に狙いを定めていた。

ええっと…ディーナ姉さん?話が違いますよ?(滝汗)


「あんまりィ…射撃は得意じゃないからァ…手元が狂ったらァ…ごめんねェ…」


あ、死んだ…はい僕ここで死にましたー!

それではみなさんさーよーぉーならー♪


バン!


ディーナの放った弾丸は僕の心臓を目掛けて飛んで…僕をすり抜けていった。

僕はこの時死を覚悟して…だから何もしていなかったのに…。


銃弾が僕をすり抜けていったのを見て彼女の表情がみるみる変わっていく。

それは驚きと困惑と…とにかくありえないものを見たような表情だった。


「え、演技が上手いのねェ…あなた役者ァ?」


「…や、あの…?」


自分でも意味が分からない。

まさかの物質通過!この極限状態で見えないちゃんと同じ能力に目覚めただなんて!

僕は意味もなく両手を眺めながら自分の力に興奮していた。


(これもオレの力かぁ~っ!?)


それは興奮しすぎて一瞬一人称がオレに変わるくらいだった。


「私はねェ…自分の力にはァ…絶対の自信があったんだよォ…」


ディーナがいきなり自分語りを始めた。


「辛い修行もしたしィ…頑張って承認も受けた…努力をしたのよッ!」


どうやら今は無敵の彼女にも不遇の時代があったらしい…。

しかしそんな事急に言われても…ねぇ?


「自分の血だけじゃァ…辿り着けない到達点を目指してェ…やばい事にも手を染めた…」


うわぁ…彼女の話…段々悪党らしい展開に入って来ましたぞ…。

僕はこの流れにどう対応していいか分からずその語りを黙って聞くしかなかった。


「それがァ…そんな簡単にィ…」


ディーナはそこまで語った後、沈黙してしまった。

その沈黙は何か嫌な沈黙だった。まるで嵐の前の静けさのような…。


バン!

バンバンバン!


「そんなの許せる訳がないでしょおォォォ!」


話が途切れたと思ったらいきなりキレて銃を連射するディーナ。

その弾丸は、けれどみんな僕の身体を通過していく。

ただその気迫だけは僕の心に衝撃を与えていた。


「死んでよォ…!今すぐにィ…!」


バンバンバンバン!


銃の弾を全て撃ち尽くすまでそれは続いた。

その様子を見て僕は彼女が哀れにすら思えて来てしまった。


ポイッ!


全弾撃ち尽くしたディーナは銃を放り投げる…。

そして改めて僕の前に手をかざす…。


「やっぱりィ…その能力にィ…物理的攻撃はダメみたいねェ…こっちじゃないとォ…」


僕の緊張感は極限まで高まっていた…多分今までで一番。


バシュッ!


バシュッ!バシュッ!


光のネット攻撃をテレポートで避ける。僕らはその繰り返しをずっと続けていた。

どちらの体力と集中力が先に尽きるのか…最早根比べになっていた。

多分この勝負、戦いに慣れていない僕の方が圧倒的に不利。

ただ力に目覚め始めた興奮がその差を今は埋めてくれていた。


その攻防がどれほど続いただろう…視界の片隅に煙のようなものが上がっているのが目に入って来た。

いつからその煙が上がっていたのか分からないけど気がついた時には既にモクモクと濃い煙が上がっていた。

そしてその燃えている場所は…見えないちゃん達が何か作業をしていたあの場所に違いないと直感した。


(なっ…一体どう言う事?)


ディーナもすぐにその煙に気付いたようだった。

そして事態を飲み込むと薄ら笑いを浮かべて


「いいィ…暇潰しになったよォ…」


そう言って消えてしまった。


やばい!見えないちゃんがピンチだ!

今のところ、僕に空間跳躍の能力は目覚めていない。

僕の出来るこのへっぽこテレポートは今のところ近距離感しか飛べない。

だから自力で走ってその煙の方角に向かうしかなかった。

見えないちゃん達がどうかみんな無事でありますように…今はただそう願うしかなかった。


(先行隊が別にいたって事か…)


僕は走りながらテレポートを試すけれど一番遠くに飛んで20m程…。

目的の場所まで行くのにほんのちょっとしか役に立たなかった。

目測であの煙の出ている建物まで大体10km以上は離れている…。


次に僕は最初に入った時みたいに地面に埋め込まれている人工物を探した。

しかしゲームみたいに都合よくそんなワープポイントは設置されていなかった。

だからもうひたすら力の限り走るしか選択肢は残されていなかった。

目の前にゴールはもう見えている…しかしどれだけ走っても近付く気配は感じられなかった。


「これで走って辿り着いて結局見当違いの建物だったら…笑うしかないな…」

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