第17話 そしてシャンバラへ…

うああああああ…!


心の中で僕は叫ぶ。

何か今回の旅は今までとは様子が違っていた。

何て言ったって仕事が終わったのに家に帰れない…つまりまだ仕事は終わっていない!

やっと仕事が終わったと思って安心したのに今からサービス残業開始ですかァーッ!

日本の悪しき風習!悪しき風習ゥ!

契約外労働はしっかり追加料金を頂きますからねッ!


…何か虚しい…。


見えないちゃんの空間跳躍は普段なら一瞬で終わる…はずなのに今回はそうでなかった。

かなり長い間僕らは異空間を飛んでいた。

その光景は喩えるならドラえもんのタイムマシンのあの空間のよう…。


(この空間って今までじっくり見た事なかったけど…こいつはすげぇ…)


僕はどこに連れ去られるのか分からない恐怖よりもまずはこの状況を楽しんでしまっていた…。

どうせ何も出来ないなら楽しまなきゃ損だもんね!

うーん、いつの間にか僕もすっかり見えないちゃん精神に染まっていたようだ…。

そんな僕に対して見えないちゃんの表情は真剣そのもの…だから僕は見えないちゃんに話しかけられないままでいた。


やがて目前に小さな光が見えて来て…それがだんだん大きくなって…きっとそれが出口なんだろう、僕は迫り来る期待と不安の中でただその光に身を任せていた…。


パシュッ!


お約束のようにどこかの何もない空間に出て来た僕と見えないちゃん。

何で最近地面にうまい事辿りつけないんだろう…。

だがっ!今度こそうまく着地するぜ!


スチャ。ドテ!


ああ、また失敗した。

タイミングって合わすの難しいね。


僕はすべって打った膝を手で払って息を吹きかける。

上空1mくらいから落ちた程度なので怪我と言う程の怪我はしていない。

隣の見えないちゃんも僕を全然心配していなくって…ちょっと淋しい…(涙)。


「着いたよ」


見えないちゃんは僕の様子を確認もせずにそうつぶやいた。

僕は地面を見ていた視線をゆっくりと前方に向ける。


そこに広がっていた景色は雄大な自然と異形の建物たち…その建物は隠れ里で見た謎の建物にも重なった。

自然は雄大だったものの、ここで育っている草木は普段見ている草木とはどこか違うような…。

太陽は太陽で空の中央でさんさんと輝いている…よく考えるとそれだけで異様だった…何となくあれは本物の太陽じゃない気がしていた。

目に見える景色がみんな違和感がないようで違和感だらけだった。


「…どこ?」


僕のこの質門に見えないちゃんは…衝撃的な一言を告げる。


「ここがシャンバラ…かつて聖者の住む都と言われた場所…」


「!?」


シャンバラ!聞いた事がある!

確か都市伝説では地下にある世界だとか…地底人が住んでいるとか…絶滅した生き物達が生息しているとか…。

超古代文明が発達していて地上の様子を監視しているとか…。


うわあ、よく見ると何かそんな感じにも見えて来たぞ…。

そうかぁ、ここがあの噂のシャンバラ…。

チベットの山奥の寺院からでなくてもこうしてここに来る事が出来るんだ…。


…って、何気に僕も結構詳しいって言うね(汗)。

こう言う情報結構好きなんだよなあ…。読み物として読むと結構面白いしv


「シャンバラって実在したんだ…」


「でも時間がない…急ごう!」


折角こんなスゴイ場所に来たっていうのに相変わらず僕らに余裕なんてないらしい。

見えないちゃんは僕の手を引っ張ってすぐに走り始める。

え、ちょっ!さっきまで走りっぱなしでまた走るのーッ!

体力が!足がっ!悲鳴を上げるゥー!


「…ねぇ、空間跳躍とか…せめて何か乗り物とか…」


「ないよっ!無駄口禁止っ!」


鬼や…やっぱり見えないちゃん鬼やで…。

僕は見えないちゃんの気迫に押されてゴールの分からないこの道をただひたすら走り続けるしかなかった。

何かに追われている訳でもないみたいなのに何でそこまで焦っているんだろう?


ある程度走っていると地面に埋め込まれた何か人工物のようなものが見えて来た。

あ…もしかしてあれがゴールかな?

僕が予想した通りそこに二人が踏み込むとその人工物が不思議な光を放った。

そうして僕らはその人工物によってどこか別の場所に飛ばされてしまった。

えっと、成功ルートなんだよね、これ…。


飛ばされたその場所は…どこかの祭壇のようだった。


よく見ると視線の先に既に先客がいた。

僕は一瞬また敵に先回りされたのかと身構えたがどうやらそうではないらしい。


「遅い!」


「ようやく揃った!」


「早く!始めるよ!」


「…」


その先客たちは僕らに向けて次々に話しかける。

見た目はみんな見えないちゃんと同じくらいの容姿で…もしかしてこれって…。


「みんな同じ隠れ里の子供達よ…」


「やっぱり!」


前に行った隠れ里では見られなかった見えないちゃんと同じ子供達。

彼らもやはり見えないちゃんと同じような仕事を経てここに来ていたのか…。

隠れ里の数が5つで集まった子供も全員で5人…これは何か深い意味があるみたいだった。


「お前、そいつ連れて来たのかよ!」


「ここは神聖な場所なんだぞ!」


「お荷物連れて来てどうすんの!」


「…」


あらら?僕はお呼びでないっぽい?

でも連れて来たのは見えないちゃん自身だからね?僕はある意味被害者だからね?

神殿でのあの切迫した状態で二人一緒に飛ぶしかなかったんだからね?

僕の方もまだ事態が全然飲み込めていない状態で彼らの言葉に同意も反論も出来なかった。


「いいから!始めるよ!」


既にそこにいる4人の中にずかずかと無理やり割り込んで何か作業を始める見えないちゃん。

僕は本当に何も出来ずにただ呆然とその様子を眺めているしかなかった。

ああ…さっきの子供達の指摘通りだよ…何も出来ない僕はお荷物状態だよ…。


でもアレだね、見えないちゃんがそうだったようにきっとこの子供達も実際はみんな見た目通りの年齢じゃないんだろうね。

みんな訓練されたようにテキパキと作業しているもの…何しているのかは全然分からないけど。

見えないちゃんの今までの仕事ってもしかしたらここに来るための伏線だったのかもなぁ。

伏線って言うとちょっと変か…準備って言うか大本の目的が今しているこの作業の為だったんだろうな。


うん、する事もないし折角だからこの状況をじっくり観察していよっと。


ここに集まった見えないちゃん以外の4人…男の子が二人に女の子が一人と性別のよく分からない一人…。

男子は結構生意気な感じかな…。女子も結構キツイwwwうひぃwww


作業は部外者の自分からは何しているのかさっぱりだったけどその様子から見て特にトラブルもなく進んでいるっぽい。

ここが司令塔部分だとしたらアレだな…ここからの作業の結果が各地の隠れ里のあの建物に反応して…いや、よく分からんから変な想像はやめとこ(汗)。


「…制御系の出力安定!」


「…傍流の経路から無駄な情報カットして!」


「…ダメだ!ここから先は向こうから返ってこないと返事出来ない!」


「…良し良し良しぃ!このままこのままぁ!」


「…」


うーん、何だこのやりとり…それっぽいけど。


部屋の中央には要の石版の親玉みたいなのが鎮座していて5人の目の前には宝玉のような水晶球のようなものがセットされている。

5人の席の前にはそれぞれに用意されたタッチパッドっぽい操作盤があってみんなそれを操作しながら作業をしている。

部屋の作りは実にシンプルで無駄な飾りもなくある意味凄くシンプルで殺風景。

壁や床の色はシンプルに白で統一されていた。

5人の座席の位置は部屋の中央に設置されている要の石版の親玉みたいなのを中心に放射状に組まれている。

誰が何担当で進み具合はどうなのかとかは…分かる訳がない(汗)。


(でもきっとこれ、この星を守るために必要な事なんだろうな…)


5人が忙しそうにしていたのでお茶でも…とも思ったけどそもそもこの建物の事、何も知らないって言うね…。

ここにいても暇だからちょっと探検でもしてみようかな?

そう僕が考え始めた時だった…。


「ゲートが開いた!誰だよこんな時に!」


5人の中の生意気そうな男子がいきなり声を荒らげた。

えっと、それは良い知らせ?それとも…?

次の瞬間、作業に集中していたはずの見えないちゃんがくるっと振り返って


「行って!」


僕に向かってそう言った。


「は?」


「ディーナが来た!」


ななな、何言ってるんですか!あんな化け物の相手を僕にしろと?僕一人で?

あの時ライアンがどうとかしたんじゃなかったの?無理無理無理!


「時間がない!早く!」


僕は見えないちゃんに対して手を前に出して首を振って無理ってゼスチャーをした。

その様子に気を悪くしたのか彼女は自分の席を離れ僕の方に向かって歩き出す。

ちょっ!暴力反対っ!

見えないちゃんは至近距離まで僕に近付いたかと思うと僕に向かっておもむろに手を伸ばし


ちょん


と僕のおでこを小突いて…


「行ってらっしゃい」


と、ささやくように僕に語りかけた。

意外にも優しい口調で母親が子供に諭すような感じだったので、それで僕も思わず


「…行ってきます」


そう答えてしまった。


次の瞬間僕の視界が歪んでいく…。

どうやらさっきの見えないちゃんの仕草が空間跳躍の合図だったみたいだ。


うああああああ…!

せめて心の準備をおおおおお!


ドサッ!


また微妙な位置に飛ばされてしまい、今度は尻餅をついてしまった。


「あいててて…」


周りを確認すると最初に飛んで来たあの場所の近くっぽかった。

とは言えシャンバラの外の風景はみんな同じようなものなんだけど…。

どうやらまだここに危機は迫っていないっぽかった。

十分周りを見渡して安全を確認した後に視線を前方に戻すと…。


ディーナおねーさんが目の前にいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る