第16話 反撃開始

「ハァハァ…後…どれくらい…?ハァハァ…」


僕の体力はもう限界に来ていた。

いくら何でも遠過ぎる…もう牢獄を出てから3kmは走っている…気がしていた。


「情けない…まだちょっとしか走ってないじゃない…」


「ハァハァ…無茶…言わないで…ハァハァ…」


「…もうすぐだよ」


見えないちゃんの「もうすぐ」はこれで7回目。

僕が残りの距離を聞く度にオウム返しのようにそう返されていた。

今回もまたそんな繰り返しだろうともう僕は諦めていた。


僕らの前に壁が迫る。

そして当たり前にようにその壁をすり抜けていく。

ドアから入らないからこそ距離感も空間認識も混乱していた。

そしてついにその場所に辿り着いた事も一瞬理解出来なかった。


「到着!」


見えないちゃんはそう言って一旦走るのを止めて足踏みに変わった。

そんな彼女の視線の先には封印された要の石版があった。

動きを急に止めた見えないちゃんに対して僕はタイミングを外してしまい思いっきり躓いてしまった。


バタッ!


「ぐえっ!」


ああ…何て情けないんだ…。

その事でステルスが切れてしまい神殿内に警報が響き渡る。


グォォォーン!グォォォーン!


神殿内に響き渡る警報を聞きながら僕は不安にかられていた。

思わず見えないちゃんにこう聞いてしまう程に。


「これってやばくない?」


「ここまで来たらもう何も焦る事もないよ」


流石見えないちゃん、肝が座っております。

僕はただ動揺して周りをあたふたと見回すばかり…ああ、情けなや…。


ところで何故か警報が鳴り響いても誰も部屋に入り込んで来る様子がない…。

そんな状態に僕は何か罠の予感を感じていた。


「よぉ~く来たわねェ…」


僕ら以外誰も居ないはずのこの部屋にいきなりディーナが現れた。

どうやら僕らの侵入を知って空間跳躍して現れたっぽい…。


「思ったよりィ…早かったじゃないのォ…」


「私はあんたと違って時間がないのよ」


対峙する二人…そこには他人が入り込めない独特の緊張感があった。

蛇とマングースのにらみ合いと言うか…あれ?これ僕どうしたらいいの?


「さぁてェ…もう一度捕まってもらおうかしらァ…?言っとくけどォ…この部屋で空間跳躍は無駄よォ…」


そう言ってディーナが手をかざし始めた…。

うわ…いきなりのピンチ…。

大体見えないちゃんはこの攻撃を何とかする作戦をちゃんと練っているのかな…。

ここに来る途中でも具体的な事は何も教えてくれなかったし…それでいて自信満々の顔してたからなぁ。

僕はただこの状況に一人あたふたしているだけだった。


「それじゃあ私を抱きしめて…」


「へ…?」


見えないちゃんが急に訳の分からないことを言い始めたー!

どうしたの?この緊張感の中で混乱しちゃった?

混乱したいのはこっちの方なんですけどー?


「古城でやったやつ、もう忘れたの?」


「えっ、でもアレ…夢中だったし何も覚えてない…」


「早く!攻撃が来る前に!チャンスは一回しかないんだから!」


いきなり僕にそんな無茶な事を要求する見えないちゃん。

あんな奇蹟みたいな偶然の産物を確実性を求めるこんな場面で要求して来ますか!

せめて感覚さえ覚えていればなんとかなるかもだけど…あの時の事なんて無我夢中で何も覚えてないよ…(汗)。


僕らがそんなグダグダなやりとりをしている間にディーナは僕らに向けて光のネットを放って来た!

もう逃げられない!


バァァァッ!


僕らの目の前にまたあの光のネットが迫ってくる!


「早く!」


「うわああああ!」


ハシッ!


僕はもうどうにでもなれと見えないちゃんを抱きしめて必死に力を込めた。

ここから逃げ出したい!ただそれだけを思って。


パシュッ!


光のネットが宙を舞う。

ディーナの狙った場所から僕らは消えていた。


「なっ!」


混乱したディーナが周りをきょろきょろ見渡している。

どうやら僕らの姿を見失ったみたいだ。

やった!作戦成功!


そして今僕らがどこにいるかというと…封印された要の石版の真上の照明器具の上…(汗)。

テレポートした瞬間は焦ってしまったけれどそりゃもう必死でしがみついたさ。

上空3mって結構高さを感じて怖いやね。

あ、3mって実感だから正確にはもっとあるかも知れないしもっとないのかも…。

まぁその…大体そのくらいの高さって事で…。


そしてそれは彼女に僕らが勝てる唯一のチャンスだった。

このチャンスを見えないちゃんが逃す訳もなくディーナが気付く前に一気に封印解除へと飛び出した。

約3mのこの高さから彼女は真下の要の石版へと躊躇なく飛び降りた!


ディーナはすぐそれに気付いて振り返った。


「いつの間にぃッ!」


けれど次の瞬間見えないちゃんは封印に手を触れていた。


バチン!


お馴染みのあの音と共に砕け散る封印。

ついに目的は達成された!


ゴゴゴゴゴゴゴゴ…!


その時、神殿全体が共鳴するように震え出した。

僕はバランスを崩してしがみついていた照明器具から落っこちてしまった。


「うあああああ…!」


この高さから落ちたら…ちょっとした怪我とかしてしまう!

もし頭から落ちたとしたら…ッ!


ぽすっ!


「よっと!」


落ちた僕を抱きかかえてくれたのは見えないちゃんだった。何だこれ…(汗)。

(見た目)10歳の女の子にお姫様抱っこされる19歳って…。


「ありがとうね!君のおかげで作戦大成功だよ!」


こんな体勢ではあったけど見えないちゃんにそう言ってもらえて僕は素直に嬉しかった。

こんな僕にも役に立てる事があるんだ…こんなに嬉しい事はない…。

でもこのお姫様抱っこ状態はちょっと…。


「…恥ずかしいんで下ろして…」


「あ、うん」


そんな二人の様子を見て怒り新党…じゃなかった怒り心頭なのがその様子をじっと見ていたディーナさん。


「ふ、ふざけるんじゃァ…ないよッ…!」


彼女はそう言って僕らに向けて銃を向けて来た。

おいおい!いきなり物理的攻撃かよっ!


「あんたらはァ…私を馬鹿にしたッ…!ここで死ねッ…!」


…あ、これ死ぬわ…。

僕が素直に死を覚悟すると…


「はーい、おイタはそこまでね~♪」


バシッ!


突然現れたライアンがディーナの銃をはたき落とした。

彼女の手から落とされた銃が部屋の床を転がって行く。


「ミミリ!全封印解除を確認した!装置は壊したからもう飛べるよ!急いで!」


「分かった!行くよっ!」


ライアンと見えないちゃんは二人だけに分かるやりとりをしている…。

僕があっけにとられていると見えないちゃんは急に僕の手を握ってどこかに空間跳躍する。


…ええっ!何これ展開が全然読めないんですけど!これから僕どうなっちゃうの?



「ライアン…もういいでしょォ…手を離してよォ…」


「ごめんごめん…」


ライアンはディーナの銃をはたき落とした後その手を後ろに回して彼女を拘束していたが二人の姿が消えるのを確認してそれを解除した。

彼女は恨めしそうな顔をしながらライアンを見つめている…。


「今回は私の負けよォ…何か納得行かないけどォ…」


「うん、そう言ってもらえると助かる…じゃっ!」


ライアンはそう言うとすぐにディーナの前から姿を消した。

それはまさにNINJAのワザだった。


「全くゥ…私の洗脳が効かないなんてェ…癪に障るわァ…」


姿を消したライアンを見て一人つぶやくディーナ。

この二人、過去に何か因縁があったっぽいね。


「とりあえずゥ…こちらもまたこれで計画が進んだわァ…ふふゥ…見てなさいよォ…守り人娘ェ!」


不敵な笑みを浮かべるディーナ。

どうやらこの状況もまた裏組織にとって想定内の出来事だったっぽい。

事態はまだまだ予断を許さないまま次の舞台へとコマは進められて行く…。

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