第15話 天敵現る

「待っていたわよォ…!守り人娘ェ…!」


僕らが本殿に入った途端、その人物は現れた。

きっとここでずっと待ち構えていたんだろうな…。


僕らの目の前に現れたのは見た目20代くらいのまぁまぁイケてるおねーさんだった。

こんな場所にいるくらいだから普通の人間であるはずがないのは一目瞭然だ。

見えないちゃんの事を守り人と呼ぶ…きっと彼女こそ僕らの敵なんだろう…。


僕は目の前に立ち塞がったのがいかついおにーさんじゃなくてちょっとほっとしていた。

しかし見えないはずの僕らに気付いているって事は彼女に見えないちゃんステルスは効かないっぽい。

うひぃ…唐突にピンチなんじゃないっすかこれ…。


「あらあら、久しぶり、ディーナ…今日はパーティーのお誘いかしら?」


「相変わらずゥ…軽口叩く余裕はァ…あるみたいねェ…」


どうやら二人は因縁浅からぬ御様子…何か怖いw

今までに幾度と無くやりあっていたのかそのやりとりは様式美さえ感じさせていた。


「めんどくさいから逃げるよ…」


見えないちゃんが小声で僕につぶやく…。

僕は見えないちゃんと手を繋いだまま合図と共に走り出した。


「ふふ…あなたにィ…何がァ…出来るかしらァ?」


見えないちゃんがディーナと呼ぶ彼女は不敵な顔で僕らの様子を見守っていた。

あの余裕のある表情は何か裏があるようにしか思えない。

僕は胸に湧き上がった不安を拭いきれないまま走っていた。


「あ、あれが石版を封印をして来た敵なの?」


走りながら僕は見えないちゃんに問いかけていた。

見えないちゃんはしばらく黙っていたものの少しずつ口を開き始める。


「ずーっと昔から犬猿の仲…」


「見えないちゃんは彼女と会った事が?」


「前に1回だけ…」


一回会っただけにしては向こうはかなり根に持っているっぽい雰囲気だったけど…。

多分その一回がすごい濃い出会いだったんだろうな…。


「道はこのルートで合ってるの?」


「黙ってついて来る!」


ひぇぇ…見えないちゃん超不機嫌になってるゥー!

聞きたいことは山盛りてんこ盛りだけど今は黙っとこ…(汗)。


「どーこにィ…向かっているのォ…?」


そんな逃げる僕らの前にいきなり現れるディーナ。

もしかして彼女の能力って…。


「飛ぶよっ!」


「わわっ…」


目の前に立ちふさがったディーナに対していきなり空間跳躍する見えないちゃん。

今まで建物内部でははっきり場所が分かっている時以外使わなかったのに…。

ちなみに何故そうだったかと言うと座標がうまく調整出来ないから。

つまりこの状態での跳躍は…危険!すごく危険!


パッ!


どこかの上空に跳躍した僕と見えないちゃん。


スチャッ!ドテ…。


うまく着地する彼女と見事着地失敗した僕…。

突然飛ぶんだもん、うまく対応出来る訳がないって言うね。

そして跳躍した先は…神殿の入口でした…って戻ってるゥー!


「入り口じゃん!」


僕は思わず突っ込んでしまった。


「仕方ないでしょ!行った事ない場所にはうまく飛べないんだから!」


あ、見えないちゃんの言う事に一理あった。

彼女も闇雲に能力を使う事はないのね。

僕は彼女が無謀な事をすると思っていたさっきまでの考えを反省した。


「ここから壁抜けで真っ直ぐ進むよ!」


「りょ…っ!」


僕が返事をし終わる前に見えないちゃんは全速力で走り出した。

あたたっ!舌噛んだ舌ッ!

この事で彼女が相当焦ってる事がひしひしと感じられた…。

でももうちょっと落ち着こうよ…(涙)。


見えないちゃんと一緒に壁を無視してまっすぐ走り抜けて行く。

前の某研究所ではゆっくりと壁を抜けていたけど本気になったら壁なんてないみたい…これが見えないちゃんの本気ッ!

しかし走りながらこれもあまり意味のない行為のように僕は感じていた。

僕の推測が正しければあの敵、ディーナの能力は…。


「追いかけっこォ…、楽しいねェ…」


「!?」


僕の推測通り、ディーナはまた僕らの前に突然目の前に現れた。

そう、少なくとも彼女は見えないちゃんと同じ能力を持っている…そして少なくともこの神殿内において彼女は見えないちゃんよりこの神殿について詳しい!


「あらァ…?もう逃げるのはァ…終わりィ?」


行く手を阻まれて僕ら二人は動けないでいた。

こんな時、僕はどうすればいいんだろう…?

戦う?って武器もないのに!


(た、助けてライアーン!)


僕の思いが届かないのか…どれだけ待ってもライアンは現れそうになかった。

こ、こんな時に役に立たないなんて…頼って損した。

こうなる事が分かってたら持っていく準備に催涙スプレーとか防犯グッズを入れといたのに!

今となっては後の祭りって言うね…役立たずは自分だって言うね…(汗)。


考えろ…考えろ…。

今のところ目の前のディーナも武器らしいものは構えていない…。

もしかしたら彼女も武器なんて持ってないのかも知れない…。

だとしたら…もしかして腕力で何とか出来る…?


僕が臨戦態勢を取ろうと姿勢を変えようとした時、ディーナはおもむろにこちらに向かって手をかざした。

すると彼女の手から光のネットのようなものが放たれて僕らは神殿の壁にたたきつけられてしまった!


ドガッ!


「うぐっ!」


こ、これが要の石版に施されていた封印の正体!

なるほど、こうやって各地の石版を封印していたのか…。

神殿の壁に叩きつけられたショックで僕らは少し動けないでいた…。


「無駄よォ…!」


勝ち誇ったようにそう宣言するディーナ。

その時見えないちゃんはこの光のネットを解こうとしていた。

封印解除の手順を行う見えないちゃん…元々同じものならこれでこのネットも弾け飛ぶはず…。

しかし彼女の手がネットに触れた瞬間、強力な電撃のようなものが僕ら二人を襲った。


「うわあああああっ!」


「ほらァ…♪言わんこちゃない♪」


僕らが電撃で苦しむ様子をニヤニヤ笑いながら眺めるディーナ。

うんうん、物語の悪役はこうでなくっちゃね!

ってそんな感想を洩らせる程の心の余裕なんて今の僕にはなかった…。


「さあてェ…、どう料理してやろうかしらァ…」


倒れた僕らを見下ろしながら不敵な笑みを浮かべるディーナ。

屈辱的な状態で見えないちゃんはただ彼女を睨むように見つめるだけだった。



ガチャ…


僕らはどこかの牢獄のような場所に入れられてしまった。

僕は気絶していたから意識が戻ったらもう捕まった状態だったけれど

見えないちゃんはずっと意識を保ったままディーナに連れられてここまで来たらしい…。


「う…」


「ようやくお目覚め?」


ずっと意識を失っていた僕に見えないちゃんの視線は冷たかった。

だってしょうがないじゃんか…あんなの普通に人間に耐えられる訳がないよ…。


そんな見えないちゃんの腕には腕輪のようなものが付けられていた。

見た目はただの腕輪だったけれどそんな訳はないよね。

僕が彼女のその腕輪に気付くと自嘲するようにつぶやいた。


「拘束具だってさ…能力封じられちゃった…」


「ディーナって何者…?」


僕がそう尋ねると見えないちゃんはしばらく黙って呼吸を整えていた。

そうして落ち着いた後、おもむろに口を開いた。


「裏組織の幹部で封印&洗脳担当…簡単に言うと敵ね」


見えないちゃんは彼女について語り始めた。

僕はただその話を静かに聞くしかなかった。


彼女は組織では魔女と呼ばれていて実際の年齢は誰も知らない。

彼女の能力は謎が多いが隠れ里の人間の能力は勿論強力な洗脳能力も持ち合わせている事は確認されている。

常に隠れ里の行動を監視していて事ある度に隠れ里の人間の邪魔をしている。

彼女の目的は自分たちのみによる世界支配。


その為には地球エネルギーの安定を担い遥か太古から存在する隠れ里の存在が邪魔。

彼女自体の出自は謎が多いが古代に滅ぼされた文明の末裔と関係が深いらしい。

世界中の闇組織をうまく繋ぎ合わせ彼らをコマのように使っている。

現在では各国軍部の一部や軍事企業体との太いパイプもあると噂されている。

人心を掌握し適度に戦乱を起こす事で彼らはその地位を安泰なものに出来るから。


おいおい…ホンマモンかよ…。


「ちなみにその洗脳は私達には効かないから安心してね」


ちょっと得意気に話す見えないちゃん。

いやいや、洗脳云々の前に僕ら既にピンチなんですが…。

能力封じられた見えないちゃんはただのか弱い(見た目)子供ですから…。


「でもこう言うので力を封じるって事は彼女はこっちの能力を自力で無効化は出来ないって事だよね…」


僕はそう言いながら見えないちゃんの力を封じているその腕輪を触った。

それはただ何となくほんの気まぐれのような行為だったんだ。

見えないちゃんも何も嫌がる様子もなく僕に普通にその腕輪を触らせてくれた。


ぱっかーん!


キィィーン!


部屋の中に響く金属音。

そしてその後に続く静寂…。


一瞬何が起こったのか分からなかった…。

僕がその腕輪に触れた途端、腕輪が割れてそれがそのまま地面に落ちたのだ…。

僕自身が特に何か意思を持って触った訳じゃない…ただ物珍しさで触りたかった…それだけなのに。


「え…?」


どう言う事これ?僕は思わず自分の手を眺める。

うん、どう見ても何の変哲もない貧乏臭い手だわ…。

僕は事態を飲み込めないまま自然につぶやいていた。


「これって…」


「おめでとう!目覚めたね、能力!」


見えないちゃんはそんな僕を見てニコニコ笑ってそう言った。

もしかして彼女にはこうなる事が分かっていた?

気が付けば僕は彼女にその疑問を素直にぶつけていた。


「意味が分かりませんが…」


「私と一緒にいると能力が目覚めるようになってるの」


「マジで?」


見えないちゃんの話によると、


最初に会った時のあの儀式で力の種を目覚めさせていた。

見えないちゃんと一緒にいる事で能力が徐々に目覚めて行く。

そもそも能力の片鱗がなければ最初から見えないちゃんの存在を感じる事すら出来ない。


「…って事な訳」


(何だ何だ…いきなり自分がすごい人間のような気がしてきたぞ…?)


今まで何のとりえもなくてヘタレだと思っていた自分にこんな能力があっただなんて…。

僕は今まで生きて来た中で今が一番自分に自信を持っているなって実感していた。

それでもまだ不安要素は残っていた…だって…。


「でも自分に何が出来るかまだ具体的にはさっぱり分からないんだけど…」


「そこは色々試してみよう!ぶっつけ本番!」


流石見えないちゃん、能力が目覚め始めた僕にいきなり本番を要求しますか…!

でも、そう言うところが彼女らしいけどね。

まだまだ勝負の行方は分からない…ただその鍵が僕だとして僕自身その力を把握していない…リスキーだなぁ…。


そんな訳で僕らの反撃が始まった。

よおし!いっちょやりますか!



「それで?ハァハァ…どうするの?」


僕は走りながら見えないちゃんに問いかけた。

能力が開放された見えないちゃんは壁抜けを繰り返しながらまっすぐにこの牢獄の出口へと向かう。

出口へと向かいながらその作戦を僕に話し始めた。


「とにかく要の石版に一直線!」


壁を無視すれば最短距離でその場所へと辿り着く。

シンプルだけどそれが一番かも知れない。


「でも、もしそこにディーナが待ち構えていたら?ハァハァ…」


「その時は頼りにしてるから!」


僕の質問にそう言いながら見えないちゃんが僕の肩を叩いて来た。

さっきからハァハァ息が切れている僕に対して全く息の乱れない見えないちゃん。

一体どう言う鍛え方をしているんだよっ!(汗)


…って言うかなんか頼りにされているっぽい?

今の僕ってスポーツ漫画やバトル漫画とかでよく言う”秘密兵器”みたいなポジション?

だとしたらそれはそれでちょっと気分が良かった。

頼りにされるって、嬉しいねっ!


ただ…頼られても御期待に添えられるかどうかは全く未知数なんだよなあ…。

どうかヘマして見えないちゃんから冷たい目で見られませんように…(祈り)。


僕らは順調に捉えられていた牢獄のような場所を抜け大広間に出た。

そこで分かったんだけどさっきの牢獄のような場所も大神殿の一部だった。

神殿の中に牢獄まで作られているだなんて…。

それよりもまず目的達成が第一、驚くのは後にして見えないちゃんとの歩調を乱さないようにしないと。


行き先の分かっている見えないちゃんは自由に進めてもそれが分からない僕は必死で合わせるしかない。

これが乱れて見えないちゃんと離れてしまうとステルスが切れてしまってすぐに周りに存在がバレてしまう。

神殿内には裏組織の研究スタッフが沢山いてそれぞれの方法でこの神殿の研究に勤しんでいた。

僕は上手くタイミングを合わせていたので今のところは全く周りにバレる気配はなかった。


(ここまでは順調、かな?)



その頃ディーナはお部屋でのんびりくつろいでいた。


「さってェ…、お気に入りの番組も見たしィ…もう一度見ようかなァ…?」


そう言ってまた再生のボタンをクリックしていた。

神殿内に持ち込んたノートパソコンの画面には動画サイトとある部屋の中継カメラの画像が同時に表示されている。

さすがディーナさん、くつろいでいるようで決して油断はしていないね!

そう、ある部屋とは封印を施した要の石版のある部屋。


「でもォ…どうやっての腕輪をォ…外したのかしらァ…?まァ…いいけどォ…」


部屋内部にはしっかり能力干渉装置を取り付けていて能力封印の準備も済ませている。

牢獄での見えないちゃんたちが消えた報告を受けてしっかり次の手を打っていたのだ。

これで見えないちゃんが部屋に入っての時空跳躍は封じられた。

ディーナと対峙していきなり時空跳躍で封印解除するって作戦はこれで使えなくなった訳だ。

勿論今必死に現地に向かっている僕達はその事をまだ知る由もないんだけど。


神殿内の各部署から彼女宛に定時連絡は入ってくるが研究スタッフの誰一人見えないちゃんのステルスに気付けない事はディーナ自身が最初から分かっている。

だからこの報告自体は何一つ信用していない。


ディーナもまた自分がもし同じ立場だったならまっすぐに封印解除に向かうはずと考えていた。

カメラ越しでもその能力で自分だけは見えないちゃんのステルスを見破れるからこうやって常に監視する事で見えないちゃんの先手を打てると彼女は信じていた。


「問題はァ…あの子の連れだけどォ…まぁ大した事は出来ないでしョ…素人だもんあいつゥ…」


この発言から分かる通りディーナは僕を思いっきり舐めている。

僕らに勝機があるとしたらそこしか…ないんだろうな…。

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