第13話 ジャングル寺院
ザッザッザッザッ…。
鬱蒼としたジャングルを歩いて行く二人。
縦横無尽に生えた植物群の隙間を縫って歩くのはそれなりの体力を消耗する。
熱帯雨林独特の熱気と湿気…その不快感は真夏の日本のそれを遥かに超えていた。
うひぃぃ…こんな話は聞いてないよ…。これは…今までで一番厳しい旅かも…。
「うう…これはキツイ…」
ジャングルのこの厳しい環境の中を歩きながら僕は思わず本音を漏らしてしまった。
こんな中でも見えないちゃんは黙々と先へと進んでいく。た、タフだなぁ…。
どうしてこうなってしまったのか…(汗)。
そんな訳で話を今日の朝に戻そう。
「準備は出来た?」
「…場所が分からないと準備出来ないって」
「場所はまた南の島だよ」
南の島か…。じゃあ、前と同じ準備でいいかな。
僕は準備しながら目的の場所をもう少し詳しく聞いてみた。
「また別荘みたいなところに行くの?」
「今度の目的地はその島にある寺院ね」
寺院…そうしたらそこに参拝する参拝客とか沢山いるのかな?
今日こそはまともな場所であって欲しい…。
でもそんなまともな場所に要の石版があるなんて有り得るのかな?
「そこに辿り着くまでが大変だけど…」
「ん?」
何気なくポツリと呟いた見えないちゃんの一言を僕は聞き逃さなかった。
むむ!何だか雲行きが怪しくなって来たぞ…。
多分これはまたまともな場所ではないな。ちょっと探りを入れてみるか…。
「また廃墟みたいな寺院って事?」
「それもあるけど、周りを深い森が囲んでいるから…」
この時、この深い森って表現を僕は軽く見てしまっていたんだ。
彼女はジャングルなんて一言も言わなかったから…。
ああ…話を聞いた時にこの言葉をもっと真剣に捉えていれば良かった。
「危ない動物とか出て来たりして?」
「ステルスになれば動物にも気付かれないからそこは大丈夫」
見えないちゃんのステルスは野生の動物でも感知出来ないらしい。
野生の危険地帯に行く時にも役に立つなんて彼女の能力って流石だなぁ。
「じゃあ森を抜ける時はステルスで行くっきゃないね!」
「おっ!結構自信ある感じ?」
この時、調子に乗った僕は彼女に軽口を叩いていた…森を誤解していたから…。
森って言うから普通はありがちな森をイメージするよね、きっと誰だって。
今から思えばそれは見えないちゃんの巧妙な作戦だったんだ。
「じゃあ準備出来次第出発だよ!」
「イエッサー!」
何がイエッサーだよ…。この時の自分を殴りたいよ…。
何もかも後の祭りになってからじゃ後悔は遅すぎるよ…。
そんな訳で割りと脳天気に準備を済ませて僕らが空間跳躍で飛んだ先は…
自然が縦横無尽に猛威をふるうでっかい無人島でした。
「な、何ここ…」
目の前の巨大なジャングルに僕は言葉を失った…。
えっ?本当にここに寺院なんてあるの?
って言うか、かつてこの島に人がいた事すらちょっと疑わしいんですけど…。
「確かにここに昔大きな文明が栄えていたみたい…500年くらい前に滅んだらしいけど…」
「その頃に何があったの?」
「病気と戦争…島だから生き残った人はみんな海へ逃げちゃってそれから誰も戻らなかったんだって…」
い、曰く有りげ過ぎる…。そんな場所の寺院って呪われたりしていそうで怖いよ…。
って言うかその前に目の前には鬱蒼としたジャングルしか見当たらないんですけど?
僕は不安になって確認の為に彼女に一応聞いてみる。
「まさかこのジャングルを抜けてその場所へ?」
「うん」
僕のこの質問にさも当然のように答える見えないちゃん。まぁ、そうですよね。
見通し甘かったーッ!何だよこのジャングル!マジでジャングルじゃん!
森じゃないよこれ密林って言うんだよチクショーッ!これじゃ何とか探検隊だよっ!
それ相応の入念な重準備とかが必要なやつだよっ!
「じゃ、行こっか♪」
「う…」
全く乗り気じゃない僕を知り目に見えないちゃんはいつものテンションで進み始める。
一応野生動物の攻撃はステルスで防げるのでしっかりと見えないちゃんの手を握った。
最早彼女の柔らかい手の感触とか全然感じる余裕すらなかった。
そうして今に至る訳。
ジャングルは進むのに困難を極めたものの、お約束の道に迷うとかはないので道さえちゃんと進めるなら割とスムーズに進む事が出来た。
目の前に突然崖が現れたり途中で道が途切れていたりとジャングルらしいハプニングも標準装備だったけど…。
悪戦苦闘しながら進んで行くと、ところどころに文明の残骸のようなものが確認出来るようになって来た。
それは目的地の寺院に近付いて来ている証だった。
「寺院は島のちょうど中央に建っているんだって」
「かなり近付いて来ているよね…ここに見えているのって昔の石畳の道みたいだし…」
そんな事を話しながらジャングルの木々や草をかき分けていると視界が急に開けて来た。
その視界の先にあったのはお目当ての巨大な寺院の外堀を埋める巨大な石壁だった。
やった!寺院は本当にあったんだよ!父さんの話は本当だったんだ!(?)
寺院は道中の疲れを癒やすような美しさの異国情緒溢れる建造物だった。
周りがジャングルになってしまったのに寺院だけがその当時の姿のまま…それは不思議な光景でもあった。
ただし、寺院が目の前に見えていながらそこから先に進む事は出来なかった。
目の前を大きな川が流れていてそこを渡る橋が見当たらなかったのだ。
「ごめん、近道しようとして今は通れない道の方に来ちゃった」
小さくゴメンと言う仕草をする見えないちゃん。
その可愛い仕草を見て思わず僕も苦笑い。
どうも何故かここから空間跳躍する事は出来ないっぽい。
仕方ないのでまた大回りして今度はしっかりと通れる場所から寺院の敷地の中へと…。
ここで1時間ほどの時間はロスしたかな。
「この寺院の結界はまだ生きているみたい」
「へぇ~」
見えないちゃんの話によると寺院の結界のお陰で寺院内部に植物は繁殖しなかったらしい。
道理でこの寺院に入ってから何か不思議な感じがすると思った。
多分相当すごい能力の人がここにいたんだろうなぁ。
この寺院はイメージで言うならアンコールワットみたいなそんな感じでその敷地はかなり広かった。
ドーム球場幾つか分って表現するのが相応しいくらいに。
こんな寺院を作る文明すら何かのきっかけで滅びちゃうんだから人間って脆いよね…。
「それじゃ、入るとしますか!」
個人的には寺院の外観をもっと色々見てみたかったけれど見えないちゃんが進むからにはそれに従わないと。
僕は後ろ髪を引かれる思いで見えないちゃんの後について行った。
先日の古城と違いしっかり作られている寺院。
内部の様子もここが数百年前に作られたとは信じられない程だった。
あの古城も戦乱に巻き込まれなければこんな状態だったのかも知れないな…。
寺院がすごく広くても空間の記憶を読める見えないちゃんに迷うと言う文字はない。
まっすぐ躊躇なく目的の場所へと進んで行く。
その道中の中で巨大な神像が立ち並ぶ中を黙々と二人は歩いていた。
その像の素晴らしさに僕は彼女に話しかけていた。
「すごいね…」
「うん」
キョロキョロ周りを見渡す僕に対してほぼ進行方向しか見ない見えないちゃん。
本当に彼女は封印開放以外の事に興味はあんまり抱かないんだなぁ。
「ねぇ…?」
「ん?」
「見えないちゃんは趣味とかないの?」
僕はこの芸術品に見向きもしない見えないちゃんにちょっと質問をしてみる事にした。
だってここまでのすごい人類の遺産を前に全く興味を示さないなんて逆にすごいでしょ。
「趣味ねぇ…うーん…ない事はないけど…」
僕は固唾を呑んで見えないちゃんの次の言葉を待つ。
ここで見えないちゃんの謎に包まれたプライベートの一端が分かる!…かも?
すると見えないちゃんは振り向いて僕の顔を見ながらドヤ顔でつぶやいた。
「それは秘密です」
あらら…見事にはぐらかされてしまった…。手強いのう。
って言うかどうしてそこまではぐらかす必要があるんだろう?
僕は彼女のこの答えに逆に見えないちゃんへの興味が深まってしまった。
今度は見えないちゃんが興味のありそうな話題で攻めてみよう。
ちょうど聞きたかった事もあるし…。
「要の石版ってさ、みんな同じ物なの?」
「ん?どうして?」
「だって各地で時代も場所もバラバラで同じものが作動しているってちょっと変だよ」
見えないちゃんがこの事に関して情報を持っているかどうかは分からない。
ただ前から不思議だったしこれで会話が弾めばそれでいいと思っただけ。
この僕の質問に対して見えないちゃんは少し間を置いて話し始めた。
「要の石版はみんな性能は一緒…私達の一族が当時から設置を指導していたらしいよ」
「指導?」
「特異点の場所の持ち主に対してこれは特別な石版だから大事に祀るようにって薦めていたらしい…」
マジか…(汗)。見えないちゃんの一族ってどれだけアグレッシブなんだよ。
この質問でますます見えないちゃんの事に興味を持つと同時に知りすぎるとヤバい気もして来ていた。
(好奇心は猫を殺す…か)
僕は知り過ぎないようにあんまり核心的な話題は避けよう…そう心に誓うのだった。
「特異点に持ち主がいなければ自分たちで祭壇を作って石版を祀っていったらしいよ…そう言う場所にすれば守られるから」
石版について得意気に話す見えないちゃん。自分たちの事に関しては饒舌になるね。メモメモ…っと。
そう言う話をしている内に僕らはかなり目的の場所に近付いて来ていた。
寺院に入ってからここまで特に何のアクシデントが起こらずそれは少し拍子抜けする程だった。
やはりこれは寺院に張り巡らされた結界によるところが大きいのだろうか…。
辿り着いた場所は何て言うかとても神聖っぽい感じの部屋。
一見その部屋は何もないような部屋にしか見えなかった。
しかしその部屋にある神像に見えないちゃんが触れるとゴゴゴゴゴと言う音と共に神像が動いて隠し階段が現れた。
流石見えないちゃん!空間の記憶を読んで誰もが悩むギミックをいつも簡単に見抜くっ!
そこに痺れる憧れるぅ!
客観的に見ていたその光景は何て言うかRPGの謎解きみたいだった。
この光景を見ていたら何だかオラすごいワクワクして来たゾ!
そんな訳で現れた隠し階段を通って地下へと降りて行く。
500年以上昔に廃墟になった寺院に人の気配があるはずもなく…でもお化けとかいたらどうしよう?
そんな期待と不安が入り混じった感情のまま僕らはその先の部屋へと向かう。
階段の先に待ち構えていたのは何もない部屋とその中央に配置された要の石版。
勿論その石版は封印されている…。
「昔はここで祈りとか捧げていたのかな…」
「多分…そうなんだろうね」
めぼしいものは要の石版しかないこの部屋はけれどすごく特殊な雰囲気に満たされていた。
今まで僕は霊感なんてないと思っていたけど最近はよく不思議な感覚を覚えるようになっていた。
もしかしたらこれって見えないちゃんと一緒に行動しているからなのかな?
僕は見えないちゃんと共に石版に近付いて行く。
そうしてお約束のように石版に施されている封印に彼女が手を伸ばす…。
バチン!
一瞬の内に弾け飛ぶ封印。
ここまではいつもと同じだった。
そう、ここまでは…。
ゴゴゴゴゴゴ…!ガラガラガラガラガラッ!
封印を解除したと同時に部屋の床が崩れ始めたッ!罠だッ!
僕はとっさに見えないちゃんの手を握った。
封印を施した勢力がこんな罠を仕込んでいただなんて…今までがぬるすぎたんだ、やっぱり…。
敵は僕達を殺しに来ている…間違いない!
こんな状況になっても僕はまだ心に余裕があった。
だって見えないちゃんには必殺の空間跳躍があるじゃないか。
お仕事も終わったしここは得意の空間跳躍で無事帰還っとね♪
…あれ?
見えないさん?
お得意の空間跳躍、もういつでもしていいんですよ?
そう思った僕は思った彼女の顔を見た。
見えないちゃんは今まで見た事もない苦しそうな顔をしてつぶやいていた。
「ダメ…飛べない…」
ここ、こんな時に何ですってーッ!
絶体絶命じゃん!床の崩壊はもう足元まで来ているんですよーッ!
彼女が能力を使えなきゃもう為す術ないじゃないですか!嘘でしょ…。
あ、これ死んだ…僕らここで死んだわ…。
さようならみなさん…。
ここまで読んでくださって有り難うございます…。
ボクらの冒険は始まったばかりだぜ!
…って冗談じゃないよ!ここで終わりたくないよ!
でも何の手も思い浮かばないよ!
僕一人がテンパっている間に床の崩壊がもう足元にまで迫って来ていた。
ああ…何も出来ない内にここで人生が終わってしまうのね…(遠い目)。
結局、僕と見えないちゃんは何も出来ないまま深い奈落の底へと落ちて行った。
うわあああああ~!
……
…
。
?
「お、気がついたかい」
気が付くと知らない天井が目に入って来た。
…生きてる。
僕!生きてる!
「今回は災難だったね」
僕に話しかけるこの聞き覚えのある声は…見えない村の村長さんだった。
「ライアン君が二人を助けてくれたんだよ…間一髪でね」
「そ、そうなんですか」
やっぱりあの人、今回の旅にもついて来ていたのか…。
一体あの状況でどうやって僕らを助けたって言うんだろう?
全く想像出来ないような超絶テクニックに助けてくれたのかな?
村長さんのベッドで目覚めた僕は全くの無傷だった…きっと見えないちゃんもそうなんだろう…。
何にせよ助かって良かった…本当に良かった。
「あの…ライアンさんは…」
「彼は元の任務に戻ったよ…心配しなくてもまたすぐに会える」
「そうですよね…あの…有難うございました」
僕はそう言って村長さんの家を後にした。
ライアンにはまた会えた時にお礼を言えばいいか。
後、見えないちゃんにも会いたかったけど今日はそっとしておこう…。
僕はそのまま村を出て自分の家に戻って来た。
今回は普通に村を出るだけで自分の家の近くへ通じていた。
僕は見えないちゃんが一緒じゃなくてもそうなっていたのに少し驚いた。
(一体これってどう言う事なんだろうな…)
僕は目の前の見慣れた光景にしばらく動けないでいた。
そうしている内に誰かが近付いている気配を感じた。
「コラ!」
僕がその声に振り向くと見えないちゃんがそこにいた。
「挨拶もなしに帰るなんてヒドイじゃない!はいこれ!」
見えないちゃんは僕に今日の分の報酬を押し付けるとすぐにぷいっと振り返って帰っていった。
ま、真面目と言うか何と言うか…。
でもそれがいつもの見えないちゃんだし僕はその姿を安心して見送っていた。
どうせまた明日も会えるしね。
西の空では夕陽がゆっくりと沈んでいく。
僕は久しぶりにその光景をじっくりと眺めていた。
ああ…生きているんだなあと生を実感しながら。
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