第12話 壊れかけのCastle

「今日の行き先はお城だよっ!」


見えないちゃんはご機嫌そうにそう言った。

いつもこっちが聞かない限り行き先なんて言わなかったのに。

それだけ今回の目的地が特別なのかな。


お城…っていうと罠のオンパレードが定番だよね。

そう考えると僕は身震いするしかなかった。


(こう言う時の悪い予感って結構当たるんだよなぁ…)


「何やってるの?さっさと準備準備!」


見えないちゃんに急かされてとりあえずの準備をする僕。

考えたらまだこの準備で何かを使った経験がないや…。

いつも何だかんだで助かってるからなぁ…。

でも備えあれば憂いなし!思いつく限りの事はしておかないとね。

後悔は絶対にしたくないし…。


今回の空間跳躍で飛んだ場所は…ヨーロッパの古いお城。

正確にはどこか分からないけど…まるでシンデレラ城みたいなお城だった。

日本のお城じゃなかったのが残念ッ!


「城は立派だけど人っけが全然ないね…」


「そこがいいんじゃないの♪」


この見えないちゃん、ノリノリである。あかん、お城を見て平常心失ってはる…。

しかし見えないちゃんがこう言うのに興味を持っていたなんて意外だなぁ。

いつも冷静に淡々と実務をこなしているイメージだったわ…。


(そう言えば見えないちゃんの事って殆ど何も知らないんだった…)


昨日のライアンが言いかけた見えないちゃんの秘密、知りたかったな…。

とにかく、僕はこの見えないちゃんの興奮状態のせいで今後何か悪い影響が出ない事をただ願うばかりだった。

もしかして今日は初めて持ってきたこの準備の品が役に立ったりして…(汗)。


ハイテンションの見えないちゃんと不安を感じる僕が仲良く古城へと入って行く。

この古城、外側は立派に見えたけれど中は廃墟同然だった。

触るだけでポロポロと崩れる壁…肖像画は見事に焼け焦げている…。

この城って過去の戦争か何かで戦場にでもなったのだろうか…。

その佇まいに僕は血なまぐさい歴史を感じずにはいられなかった。

そりゃあこのままじゃ観光客も呼べないわな…。


城の中は結構広そうだったけれど通路が崩れ落ちていたりして行動範囲は限定されてしまっていた。

それでも見えないちゃんはいつものようにホイホイと目的地へと進んでいく。

空間の記憶を読んでいるって言ってたけどこの城の惨劇も目にしているんだろうか?

だとしたらかなり残酷だよね…きっとひどい光景を目にしているんだろうな…。


「見えないちゃん、大丈夫?」


「何が?」


あれ?見えないちゃん結構平気っぽい?

それじゃあ僕の考え過ぎなのかな?


「いや、この城の過去の惨劇とか見えてるんじゃないかと思って…」


「あ、そう言うの慣れてるんで」


見えないちゃんはやっぱり見えないちゃんだった。

戦争の阿鼻叫喚の地獄絵図の記憶を見慣れているって…(汗)。


その時、城の天井の壁が崩れて大きな塊が落ちて来た。


ガラガラガラッ!


「あっ!」


ドドドーン!


僕はとっさに見えないちゃんを抱きかかえてその場から離れる!

その瞬間、何故か20m位離れた場所に飛んでいた。


(あ、あれ…?)


「大丈夫だから離して…」


僕に抱かれた見えないちゃんが恥ずかしそうに小声でそう言った。

僕は興奮のあまりぎゅっと見えないちゃんを力強く抱きしめてしまっていた。


「あ…っ!」


僕は急に恥ずかしくなって見えないちゃんから離れた。


「ごめん…」


「いいよ…助けてくれたし」


この後、しばらく沈黙の時間が流れる…。

な、何か変な雰囲気になっちゃったぞ…。

この沈黙を最初に破ったのはやっぱり見えないちゃんだった。


「って言うか私の時空跳躍があればあんなの平気だったし!」


「あ…」


確かに考えて見ればそうだった。

でもあの瞬間はそんな事を考えている余裕はなくて…。


「身体が勝手に動いちゃったんだよ」


僕は一応見えないちゃんに弁明した。

これが受け入れられるかどうかは別にして。


「…でも、君が無事で良かった」


僕の言葉に見えないちゃんは消え入るような声でそう言った。


「えっ?」


「とにかく!先に進むよ!」


その時、見えないちゃんの顔が赤くなっているのを僕は見逃さなかった。

何だかんだ言って彼女って可愛い所あるよねv


お城が廃墟だったからかそれからは特に目立つ罠とかはなく、目立ったアクシデントと言えば足場が不安定なのと道が制限されるくらいで済んでいた。

不定期に上空から物が落ちてきたり突然行き止まりになったりそれはまるでアクションゲームを地で行っているみたいだった。


「まるで敵キャラのいないアクションゲームだね」


「でしょ!」


いつの間にか僕らはこの状況が楽しくなって二人ではしゃいでいた。

そうか、こうなる事を予想して見えないちゃんはハイテンションになっていたのか。

連日の冒険で鍛えたメンタルがここで大いに役に立っていた。

いつの間にか突然のアクシデントでもパニックにならずに冷静に対処出来るようになっていたんだ。


でもここまで廃墟になって肝心の要の石版は大丈夫なんだろうか?

城の奥へと着実に進みながら僕はその事を考えていた。

そんな事を考えている内に僕らは意味ありげな大広間に辿り着いていた。


そこは周りに大きく掘が築かれていてその先の広間の中央部分にお目当ての石版はあった。

その中央部分に行くには今にも崩れそうなボロボロの石橋を渡るしかない仕組みだ。

過去にたっぷりが水が貯められていたであろう堀はすっかり水が抜かれただの深い落とし穴と化している。


橋を渡った先の石版にはやはりご丁寧にしっかりと封印が施されていた。

この封印をした組織の人間はどうやってここを脱出したんだろう?

見た限りここには最近誰かの入った気配が全然感じられなかった。


「飛ぶよっ!」


見えないちゃんはそう言って僕の手を握り橋を渡らずに一気に空間跳躍で石版の前にワープする。

こんなトラップ、時空跳躍の出来る見えないちゃんには全くの無意味だよね。


バチン!


いつものように簡単に弾け飛ぶ封印。

僕は封印が解けた時に何かトラップが発動するんじゃないかと身構えたけど…。

そんな事もなかったんだぜ…。


「何やってるの?」


身構えていた僕を呆れた顔で見ている見えないちゃん。

は、恥ずかしぃー。


「じゃ、帰ろうか」


「あ、はい…」


こうして古城のミッションは無事に終了した。

持って来た準備の品は今回もやっぱり使われずじまいだった。

人生って…そう言うものだよね(汗)。


「じゃあまた明日!」


旅が終わった後、いつもの様に僕に報酬を渡して見えないちゃんは帰って行く。

それは毎度毎度の変わらない風景。

たまに早く終わった日くらい家に寄ってお茶でも飲んで帰ってもいいのにな。

いつの間にか僕はこんな日々も悪くないなって感じる程になっていた。

いやぁ、習慣って恐ろしいね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る