第11話 ありがちなバカンス
次の日、いつもの様に見えないちゃんを部屋に迎え入れる。そうして、今度はこっちから話を持ちかけてみた。
「たまには休まない?」
そう、それは休日の提案。どう考えても連日のように激務を続けていたら体が持たない。
実際、寝不足と筋肉痛もまだ完全には回復出来ていない。お金も欲しいけどそこまで欲している訳でもないし、今までもらった分で一ヶ月は普通に暮らせるし。
そんな訳で、却下される事前提で自分の意志を彼女に伝えてみた。
「いいよ」
「!」
僕の提案はあっけなく了承された。ちょっと、簡単に決まりすぎでしょ。もしかしてワナですか? あまりにも簡単に話が進み過ぎて、それが逆に信じられなかった。
僕が動揺していると、今度は見えないちゃんの方から質問が。
「じゃ、今日はどうする?」
「えっ……」
うーん、これは困ったぞ。出来れば一日中寝ていたいし、撮り溜めた番組も消化したいけど……。だからって、折角来てくれた見えないちゃんにすぐに帰ってもらうって言うのもなぁ。
それに、見えないちゃんがいるならこれはチャンスでもあるかも。彼女は知っている場所ならどこにでも行けるのだから。そう、世界中のどこへでも!
僕はゴクリと息を飲み込み、ダメ元で見えないちゃんに聞いてみる。
「あのさ、どこかゆっくり休めたり楽しく遊べたりする所知らない?」
「あ、そう言う事ね。じゃあ行こっか♪」
見えないちゃんはすぐに僕の意図を汲んでくれた。さっすが彼女は頭の回転が速いわ。
どこがいいかと聞かれたので、昨日のミッションの影響もあって南の島って答えると、見えないちゃんもその答えに満足したのかニコッと笑って了承してくれた。
彼女は着替えの準備とかをするので一旦自分の家に戻っていく。僕もそれなりの準備をしようと色々と必要な物を選び出す事にした。
「しかし、言ってみるものだねぇ」
僕は急に手に入れた休日に興奮が止まらなかった。元々インドア派だったのにすっかり外に出るのが苦痛にならなくなっていたって言うのは、きっと見えないちゃんのおかげなんだろうな。
いつも行動の早い彼女は、僕の準備が整う前に戻って来た。おおぅ……。遊ぶ時も全力とか流石やん。
その後、僕も何とか準備を整えて見えないちゃんと共に素敵な場所へと――。
空間跳躍でやって来たのは、絵に描いたような楽園の南の島。無人島だから、誰かに見つかってトラブルになるなんて事もないぞ!
あっさりこんな場所に来られるなんて……。見えないちゃん、恐ろしい子っ!
青い海
青い空
白い砂浜
う~ん。パーフェクツ!
感動した僕は、思わず見えちゃんに向けてニッコリ笑いながらサムズアップをしてしていた。それを見た彼女の顔はちょっと引きつっていた……のかな? 少なくとも若干引いていたのは、浮かれていた僕の思考回路でも理解出来ていた。
……キャラにない事はするものじゃないね。
湿度の低い南の島は日向は暑くても日陰は涼しい。情報としては知っていたけど、これって本当の事だったんだな。僕はたったそれだけの事ですら感動していた。
昨日も南の島に飛んだけど、その時は仕事の事で緊張していて気付かなかったって言うね。
適当な木陰に荷物を降ろして僕は水着に着替える。最初から着ていたから服を脱ぐだけだけどね。うん、海はやっぱり泳がないと!
一方の見えないちゃんはと言うと、やっぱり水着に着替えていた。一瞬姿が見えなかったから、その間に着替えたんだろう。ステルス能力って便利だねっ!
見えないちゃんの水着姿は歳相応の可愛いらしいもの。ああ見えて、ちゃんと可愛い水着とか持ってたんだな。淡いピンクのワンピースでフリルとかついていたりさ。あんまりジロジロ見るのもアレだな、うん。
いや、意識しているとかじゃないからね。ただの感想! ただの!
遠浅の南の海は透明度も高くて美しい。ただ浮かんでいるだけでも幸せな気分になれる。こんな場所が地球にあるって、何て素晴らしいんだ。
「気持ちいいねー」
「本当だねー」
適度に暖かい南の海の感触は、連日の疲れをゆっくりと溶かし出していくようだった。見えないちゃんと2人でこの幸せを味わう。こんな贅沢、彼女と出会うまでは想像すらしなかったな。
あ~心が癒やされていくんじゃ~♪
「うん、やっぱり休息は必要だよね!」
彼女と離れて1人でまったりとした気持ちになっていたところに、突然現れたのは何とライアンだった。な、なんで? ニンジャナンデ?
「ビックリした?」
「!?」
そりゃびっくりするよ! 何でここにいるんだよ! 僕はこの突然の珍客の出現に声を出せない。その僕の様子を見たライアンはニコニコ笑顔。
少しの気配も悟らせず、しっかり水着を着て僕の前に出現しているし……。やっぱりこいつ只者じゃねぇっ!
「いつからここにいたんですかライアンさん」
「ついさっきだよトッシー」
いつの間にか僕はニックネームを付けられていた。そう言うところはやっぱり陽気なアメリカンだなあ。
話は変わるけど、僕は自分の名前がそんなに好きじゃない。苗字も名前も。そして、こうして名前をいじられるのもやっぱりあんまり気分の良いものじゃなかった。
「あの……。トッシーって僕の事ですよね」
「おや? 気を悪くしたかい?」
多分、僕はその不機嫌な気持ちが顔に現れてしまったのだろう。その気配を察して、ライアンの態度が少し落ち着いていた。
「いや、いいですけど…」
馴れ馴れしいのは苦手だけど、そこであからさまに態度を変えるほど僕は子供じゃない。ライアンに僕の気持ちが伝われだそれだけで十分だった。
「僕らを監視でもしてたんですか」
「監視だなんて。ただ見守っていただけだよ」
確かに、監視ならわざわざ姿を表す事なんてないだろう。わざわざ姿を見せたって事にも何か意味があるんだろうか? 急に予定をキャンセルして遊びに来たから忠告をしに来たとか?
「僕ももっと君と仲良くなろうと思ってね」
「えっ?」
ニコニコ笑いながら、ライアンは交流のために近付いたと打ち明けた。もしそれが本当なら、こっちの質問にも答えてくれるかな?
それならばと、僕はいくつかの疑問を彼にぶつけてみる事にした。
「ライアンは、なんで見えないちゃんとのコンビを解消したの?」
「お声がかかってね、それで別の任務についたのさ」
おお……。本当にちゃんと質問に答えてくれる。僕は調子に乗って、もっと突っ込んだ事も聞いてみた。
「それはどんな?」
「そこから先は答えられないな。他に何か聞きたい事は?」
やっぱり答えられる質問には制限があるみたいだ。けれど、ライアンが他の質問を求めて来たので質問自体は大丈夫らしい。
それならばと、僕も質問を続ける。
「じゃあ、やっぱり見えないちゃんと一緒にいた時は今と同じような事を?」
「いや、色々だったよ。時には新しい特異点を設定したり……」
「そ、そうなんだ」
特異点の設定――そう言う事もしていたのか。段々僕の知らない見えないちゃんの姿が浮き彫りになってくるなぁ。
「今ここにいるって事は、今は僕らの監視が任務なの?」
「だから監視じゃないって。でもまぁそう言う事だね。だから安心していいよ、危ない時はしっかりサポートするから」
なるほど、つまりこれからは僕らに危険が迫った時はライアンが助けてくれる――。つまり旅の危険性が少しは緩和するって事か。でも逆に言うと、今後はもっと危険な任務もあったりするって事なんだろうか? それはそれであんまり嬉しくないような……。
後、何だかんだ言ってやっぱりお目付け役って部分もあるんだろうな。
「基地に捕まってたのはどうして?」
「ああ、あれ?」
この質問には意外な答えが返って来た。僕はてっきり何かミスをして捕まったのだと思っていたのだけれど――。
「うん、あれも君達のサポートだよ」
「えっ?」
返って来た答えが予想外過ぎて僕は一瞬固まってしまった。サポートのために捕まっていた? 一体どう言う事なんだってばよ?
「元々あそこはオレの昔の職場でね。それで色々調べ物もあったんだけど、普段なら捕まるようなヘマはしないよ」
ライアンは元米軍兵士だったのか。しかもそんな下っ端じゃない。この話しぶりからすると、かなりのエリートだった事は間違いなかった。僕は息を飲んで話の続きに耳を傾ける。
「自分の仕事をしていたら、君達がこっちに来るって言うからさ。捕まったふりをしてサポートしてたんだ」
「サポートって、どう言う……」
「機密施設のドアがパスワードだけで開くのも変だろ? それ以外でもこっちが裏で色々やってたのさ」
基地での事、何もかもスムーズに行くと思ったらそう言う事だったのか。……ってうん? 何だか話がおかしいぞ?
「そもそも捕まったりしていなかったら、僕らもあんな危険な場所に行く事はなかったと思うんだけど……」
「おお、よく話を聞いているね。そう、君達が基地に来る事は僕が捕まっていてもそうでなくても決まっていたのさ。でもどうせそうなるならドラマチックな方がいいだろ?」
「つまりは、あなたの個人的な演出と言う事ですか……」
僕は彼の答えに呆れてしまった。でも米軍と言う巨大組織に対して、そんな個人の思いつきで簡単に干渉出来るなんて――。
そうなると、今度はライアン自身の事ももっと詳しく知りたくなっちゃうな。
「じゃあ、見えないちゃんとはどうやって知り合ったんですか?」
「それもある指令を受けてね、そこで出会ったんだ」
その時の指令って言うのは、やっぱり米軍関係の指令だったんだろうな。米軍も注目する見えないちゃん、いや隠れ里か。やっぱりすごいところなんだろうな。
でも、僕がそんなところと関わっちゃって大丈夫なんだろうか? 僕なんてただの一般素人ピーポーなのに。
「彼女は初めて会ったその当時からあの姿で、その頃から既に無敵だったよ」
質問をしていないのに、ライアンは勝手に話を進めてくれている。ちょうど良かったので、そのまま彼の話を聞く事にした。そのまま僕の知りたい事も話してくれるかも知れない。
「面白い話をしようか。彼女は……」
「ちょっと!」
話が見えないちゃんの事に触れ始めた時、このやりとりを止めに見えないちゃん本人が来てしまった。ああ。折角ここからが話の本番だったのに。
ライアンは見えないちゃんの逆鱗に触れないよう、パタッとこの話をやめてしまった。
「おおっと、女王陛下がお怒りだ! じゃあ邪魔者はここで失礼するよ! バーイ!」
「あ……」
基地で別れた時と同じ台詞を残して、ライアンはまた僕らの前から姿を消してしまった。その去り際のテクニックは見事としか言いようがなく、気が付くと彼の姿はもうどこにもなかった。
まるで彼の存在が一瞬の幻だったかのように。
「何……話してたの?」
「いやあ、別に何も……」
彼女からの質問を、僕はそれとなく誤魔化す。多分この行為自体あんまり意味のないものだろうけど。
「ま、いいけど……」
見えないちゃんはそう言って、それ以上深く追求する事はしなかった。僕はそれにほっと胸を撫で下ろす。別に悪い事をしていた訳でもないんだけど……。
その後、僕らは南の海を堪能して木陰で昼寝を決め込んだ。ハンモックとかあれば良かったなぁ。憧れるよね、南の島でのハンモック。
時間はゆっくりと流れていく。さざ波の音が心地よいBGMだった。僕は自然と深い眠りに落ちていった。
それから何時間が経っただろう……。気がつけば夕日の落ちる時間になっていた。ふと顔を傾けると、見えないちゃんがすやすやと眠っている。あれ? いつから彼女はそこにいたんだろう?
幸せそうな寝顔を見ていると、その姿はやっぱり子供そのもので――。見た目通りの年齢にしか見えなかった。
「この子が僕より年上って言うのが、まだ信じられないな」
彼女をずっと観察していると、目が覚めたみたいだったので「ほ、ほら、夕日が綺麗だよ」と言って咄嗟に誤魔化す。
「あ、本当だ」
見えないちゃんも、海に沈む夕陽を見て感動していたみたいだった。うん、ちゃんと誤魔化せたみたいで何より。
こうして南の島でのバカンスは終わりを迎えた。何だかんだ言って、これで結構リフレッシュ出来た気がする。
「それじゃあ明日はまたしっかり仕事するからね!」
南の島から戻って来た見えないちゃんは、そう言って帰って行った。ライアンもこの光景をどこかで見ているんだろうか?
僕は周りを見回したけれど、さっぱりその気配を感じる事は出来なかった。
明日はどこに連れ回されるんだろう? それを考えると少し気分も沈んだけど、考えても仕方のない事もまた分かっていた。
それに、不安と同じくらい期待もしていた。ここ数日の体験で心も鍛えられている、そんな気がしていた。
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