第9話 その名はライアン

チーン!


僕が考えを巡らせていると指定の階になってエレベーターが開いた。

さて、ここからはまた頭を切り替えないと。

ドアが開いた瞬間に駆け出す見えないちゃんに歩調を合わせるように僕も一緒に駆け出した。


「あ、ここだ」


緊張感しかない場所で何とも緊張感のない彼女のつぶやき。

見えないちゃんにとってはこの最新の殺戮機械の展示場も普段と同じテンションなのだ。

僕にはまだ到底そのレベルになりそうにない。


(これが経験の差…か…)


ま、あんまり慣れたくもないけど(汗)。


見えないちゃんはどこでその情報を仕入れたのかスラスラっとパスワードを入力して

閉じられた扉をあっさりと開けてしまった。


「よっ!」


その部屋の主は陽気に手を上げながら笑顔で僕らに向けて挨拶した。

その姿は青い瞳に金色の髪…典型的な白人のアメリカ人って感じ。


爽やかだ…!この人爽やかなナイスガイだよ!


でもこの人何かヘマでもして閉じ込められたんじゃないんすか?

何でそんなに普通の状態でいられるんだよ…(汗)。


「相変わらずだね…ライアン…」


「2年位じゃ何も変わらないさ…君もね…初めて会った頃から何一つ変わってない…」


ライアンと名乗るその青年と見えないちゃんは昔からの知り合いみたいに親しく会話をしていた。

それは新参者の自分にはまだ入り込めない領域のように感じられた。

二人の雰囲気に動揺している僕に気付いたライアンは僕に話しかけてきた。


「ああ…君が今の彼女の相棒なんだね」


「あ、はぁ…」


知らない人間にもさらっと話しかけられる…僕が一番欲しい能力をライアンは持っていた。

突然話を振られて僕は咄嗟にうまく答えを返せないでいた。

これがコミュ症とリア充の違いか…(汗)。


「オレの名はライアン!よろしくな」


「ど、どうも…あ、僕は徳之心です…」


お分かり頂けたであろうか…ナイスガイの彼のナイスな自己紹介。それに対する僕の自信なさげな自己紹介。

この違いが人を非モテとリア充に分けるのである!(力説)

この爽やかな挨拶の後、ライアンが手を差し伸べてきたので僕は開いている手を彼に差し出した。

こうやって自然に握手出来るなんて僕には絶対出来ないだろうな…(遠い目)。


「ミミリとは二年前までパートナーだったんだ」


「ミミリ?」


見えないちゃんの本名ってミミリって言うの?

僕は思わず見えないちゃんの方を見つめる…すると彼女は何故か不機嫌そうな顔をしていた。

その様子を見てどう言う反応をしていいのか分からない僕だった。

その様子を見てフォローするようにライアンが話を続ける。


「もちろん本名じゃないさ…彼女の本当の名前はオレも知らないんだ…でも名前がないと呼ぶ時不便だろう?」


「そ、そっすね…」


僕は苦笑いしながら彼の話に相槌を打っていた。

どうやらミミリって言うのはライアンが彼女に勝手につけたニックネームらしい…。


見えないちゃんは前のパートナーにも自分の事をほとんど秘密にしていたのか…。

何か彼を見ていると将来の自分を見ているように感じてちょっとだけ途方に暮れてしまうのだった。

ライアンは続けて見えないちゃんの秘密を暴露してくれた。

こっちが聞かなくても進んで話してくれるなんて彼は何て親切なんだ。


「10年も一緒に行動していたのに未だに彼女は謎だらけなんだ…ミステリアスでいいだろ?」


「え…?」


見えないちゃん、10年間彼と行動していてそこから2年経っていて…仮に当時からこの姿だとすると若くても22歳以上…?だとしたら僕より年上じゃん…。

見えないちゃんって一体…。

そしてこのやりとりで自分の年齢の秘密の一部をバラされた見えないちゃんはちょっとおかんむり。


「ちょっと!いい加減に…っ!」


「おおっと!女王陛下がお怒りだ!じゃあオレはこのまま退散するよ!助けてくれて有難う!じゃっ!」


見えないちゃんに怒られそうになったライアンはそう言うとそそくさと部屋から出て行ってしまった。

何か二人共余裕あり過ぎでしょ…ここ…米軍基地内ですよ…。

しかしライアンも只者じゃないのか部屋を出た後、米兵の誰にも見つからずに一瞬で視界から消えてしまった。

それはまるでアニメとかで見るNINJAのように…。

ライアン…あんた一体何者なんだ…(汗)。


「まったく…何も変わってないわ…」


その様子を見て愚痴をこぼす見えないちゃん。

でもそれは懐かしい相棒に会えて安堵したような顔にも見えていた。

まぁ…分からなくもないけどね。


「さ、用事も済んだし帰ろ!」


見えないちゃんはそう言うとクルッと振り返って今来た道を戻り始める。

あれ?いつもならここで一瞬で空間跳躍するんじゃ…。


「今日はすぐに帰らないの?」


気になった僕はつい口に出して聞いてしまっていた。

僕の質問に見えないちゃんは振り向かずに答える。


「施設内に何かの装置があるみたいでここであの力は使えないんだ…」


「え?大丈夫なの?」


この彼女の答えに僕はつい不安になってしまった。

もしかしたら今までの行動も監視されているんじゃないかとすら考えてしまった。

みんな騙されたふりをしているとか…可能性としてはありそうだし…。


「問題ないよ…施設から出たら普通に力は使えるから」


「そ、そうなんだ…」


そう答えた僕の声は震えていた。

どうしても動揺は少なからず態度に出てしまうよね。

見えないちゃんの言葉を信じる為にも一刻も早くこの恐怖の場所から脱出したかった。

握っている彼女の手にも思わずつい力が入ってしまう。


「近道するね」


僕の緊張が分かったのか見えないちゃんは彼女の言う近道ルートへと進む。

もちろんそれが正しいルートかどうかなんて僕には全然分からない。

けれどそこは彼女を信じて進むしかなかった。


彼女の言葉を証明するように基地内の米兵は僕らの存在には一切気が付かない。

そのまま何のトラブルにも遭わずに僕らは施設の外に出るエレベーターに入った。

エレベーターに入った僕はほっと胸を撫で下ろすのだった。

さて、脱出まで後もうちょっとだ。


エレベーターを出た僕らを待ち構えていたのは巨大な格納庫だった。

けれど、そこに存在したものに僕は驚いてしまった。

何とそこにあったのは巨大なUFOだったのだ。


(マジか…!)


そのUFOはネットで騒がれている地球製UFOそのものだった。

おおぅ…あの噂はガセじゃなかったのか…。

その異様な光景に僕は思わず足を止めようとしてしまい…躓いてしまった。


ああ…っ!


躓いた勢いで僕は思わず今までずっと握っていた見えないちゃんの手を離してしまう。

途端に格納庫内に警報が鳴り響いた!やばいっ!


「バカッ!」


動揺する僕の手をすぐに繋ぎ直す見えないちゃん。

しまったーっ!やらかしたーっ!

周りの米兵たちが一気にこちらに銃口を向ける。

けれどその場所はさっきまで僕らがいた場所…。


そう、僕らはもうそこにはいなかった。

手を繋ぎ直した僕らは一目散にその場から逃げ出したのだ。

米兵達は一瞬で姿を消した僕を認識出来ずに混乱していた。

奇しくもそのおかげで僕は見えないちゃんのステルス能力がちゃんと発動している事を確認出来たのだ。


混乱している施設から脱出出来た僕らはすぐに空間跳躍する。

そうして何とかこの危険なミッションを終わらせる事が出来た。

ふぅ…これじゃ生命がいくらあっても足りないや…。


「何に気を取られたのか分からないけど今度から気をつけてね!」


どうやら見えないちゃんにはあのUFOは目に入っていなかったらしい…何と言う集中力!

それとももしかしたら彼女の業界(?)ではあのUFOの事なんて既に常識の範囲内なのかも?

どちらにせよ僕のせいでピンチになったのは間違い訳で…。

僕はその事もあって無言になっていた…。


「はい、今日の分!また明日ね!」


あんな事があってもちゃんと律儀にお金を渡してくれる見えないちゃん。

こう言うところはちゃんとしていて素晴らしいね。

そうしていつものように見えないちゃんはこの後素早く帰って行った。

うーん…彼女は本当に肝が座っているわ…。

一体今までどれだけの修羅場をくぐり抜けて来たって言うんだろう?


渡された封筒が少し分厚く感じたのでやらしいけどその場ですぐに確認してみると…

ひい、ふう、みぃ…封筒には10万円入っていた。

つまりはこれ、危険行為手当って事だよね…。

生命の危険があってこれっぽっちかよっ!って思わなくもなかったけど実際足を引っ張ったのは僕の方だし何の文句も言えないよなぁ…。


今日も色々あって頭がパンクしそうだったけど最後のヘマで帳消しになっちゃったな…。

今頃になって自分の命がまだある事に自分でも驚いていた。

あんな危険な場所なんてもう懲り懲りだよ…。


夜になっていくら寝ようと思っても興奮して全然眠れなかった。

きっと眠ったら眠ったですごい悪夢を見てしまいそうでそれも怖かった。

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