第4話 いいお話
その日はいつもの様に訪れた。
変わらない朝がまた始まる…退屈な朝が…。
小鳥たちのさえずりが耳の奥をくすぐって置き時計が馴染みの時間を表示している。
昨夜の天気予報通りの空模様はありたきりな朝を当然のように演出していた。
…。
あくびをするでもなく背伸びをするでもなく目が覚める。
しばらく布団に潜っていたいけどそれもまた退屈で仕方なく起き上がる。
ああ…いつもの日常だ。何もかも変わらない強固な繰り返しだ。
ピンポーン!
!?
こんな時間に来客…だと?
セールスにはまだ早いし御近所迷惑をした覚えもない…。
何だ?全く身に覚えがないぞ?
ピンポンピンポンポーン!
!?!?
混乱して呼び鈴を放置していたら更に勢いが激しくなって来た!
やばい!何だか分からないけどやばいぞこれ!
何やらかした?一体何やらかした自分ー!
…もしかして、御近所で何か大きな事件があったのかも?
この御時世、いつどこで何が起こるか分かったもんじゃない。
大体自分自身、ちょっと前に不可解な事件に巻き込まれたばかりじゃないか。
ここで居留守を使うとアレだ、逆に怪しまれてしまうかも知れない…。
(それはちとヤバイな…)
仕方ないので僕はパジャマからそれなりの服に着替える事にした。
ここで印象が悪いと何か変な誤解されかねないしね。
それにもしテレビカメラとか来てたらなおさら身だしなみには気をつけないと…。
「えーっと、あの服はっと…」
と、そんな思惑もあってそれなりの服を選んで着替えていく。
僕が見栄をはって服を選んでいる間にも呼び鈴はけたたましく鳴り続けていた。
ピピピピピピンポーン!!!
うざい…これはうざい…。
間違いなくこの呼び鈴を押している人物はまともな人物じゃない。
もしかしたらその筋の方かも知れない…。
そんな筋の方を怒らせた記憶なんて全然身に覚えが御座いませんが?
さっきまで出る気満々だったのにこの呼び鈴連打でそのやる気もすっかり無くなってしまった。
でもあんまりアレだと近所迷惑になってやっぱり問題だから取り敢えず応対だけはしなくちゃならないなぁ…。
着替え終わった僕はそう思いながら重い足取りで玄関まで歩いていた。
(ふあぁ~あ…)
あくびってこんなタイミングで出るものなんだな…。
玄関に向かいながら僕はどうか玄関先にいるのがヤバい人じゃありませんようにと何かに祈っていた。
念の為に覗き穴からその呼び鈴の主を確認すると見覚えのある人物がそこにいた。
「おそーい!いつまで待たせるのよ!」
そう、うざい呼び鈴の相手は見えないちゃんだった。
はぁ~、何だよびっくりさせて。ビビって損したわ。
でも良かった、ヤバい方じゃなくて。
ガチャ
僕がドアを開けると見えないちゃんは怒り新党…じゃないかなりお怒りの御様子。
そんな突然来られてもこっちにも都合があるってものなんですが…。
しかし怒っている内はどんな言葉も通じそうにないな…。
「や…やあ…いらっしゃい…」
僕は精一杯の作り笑顔で彼女を出迎えた。
見えないちゃんは多分周りには見えないだろうからこのまま立ち話を続けると御近所から変な噂が立ってしまう。
ここは素早く彼女を家に招き入れるしかなかった。
「どうぞどうぞ~」
僕はお嬢様を出迎える執事のような仕草をして見えないちゃんを家の中に案内した。
この時きっと僕の笑顔はかなりひきつっていたと思う。うう…何か情けないな…。
見えないちゃんは無言で僕の部屋に入るとそそくさとリビングへ…
一体何が始まるんです?(困惑)
僕はとりあえず飲み物の準備をして彼女の前にジュースを差し出す。
見えないちゃんは当然のようにジュースを飲み干すとニッコリ笑って
「今日はいい話を持ってきたの」
と、切り出した。
何だかあんまりいい予感がしないんですが…(汗)。
その時の見えないちゃんの自信に満ちたドヤ顔が僕の背筋に悪寒を走らせていた。
「い、いい話って?」
僕は多少どもりながら見えないちゃんの返事を待つ。
しかしこの子は一体何を企んでいるんだろう…?
何か恐ろしい話でもするつもりだろうか?
おいおい…厄介事はゴメンだぜベイビー…。
「今暇なんでしょ?」
う…いきなりドストレートな話題来た。
そりゃあ確かに今はニート状態で…ちゃ、ちゃんと仕事探してるから!
働いたら負けとか全然思ってないから!
「そんなの関係ないだろ…まだ大丈夫なんだよ…」
う…自分で言っていて心が痛い…でもマジで早くバイトなり何なり決めないとヤバいんだよなぁ。
暮らすのは仕送りで何とかなってるけどそれ以外の予算が…。
でも実際そんなの見えないちゃんには何の関係もない話じゃないか…。
何だよそれを笑いにでも来たのかよチクショー!
「と、そんな訳で君に仕事の依頼♪」
「仕事?」
どうやら見えないちゃんは僕に仕事を依頼しに来たらしい。
仕事ってあんた…ビジネスですよビジネス。
お給金が発生するんですよ?遊びじゃないんですよ?
うーん、全然話が見えないなぁ…。
「仕事って何?」
「私のこれからの旅に一緒について来て欲しいの」
見えないちゃん、真面目の仕事の話を僕にしに来たらしい…?
あの村の出身者だから普通の人とは違う生活をしていても不思議じゃないけど
こんな子供に旅をさせるのかよ…そいつは心配だな…。
あ、だからあの両親が僕に同行させようとしているのかも…?
つまりは僕は彼女の保護者役か…それならそんなに悪い話じゃないかな?
「大丈夫、ちゃんと給料は出すから…1日3万円でいい?」
「え?そんな大金、そもそも子供からお金は取れないよ!」
そこまで言って、あ、お金は親が出してくれてるのか!と気付いてさっき言った事をちょっと後悔した。
1日3万円はそこそこ割のいい話だし…。
「そこは仕事だからちゃんとしないと!信用ないなら先払いするよ!」
見えないちゃんは自分は信用されてない&子供扱いが嫌だったのかちょっと機嫌を悪くしてしまった。
あらら~ここはこっち側から折れないとマズイね。
「ご、ごめん…分かったよ、その仕事受けるよ!」
「そ、よかった!」
見えないちゃんは僕の仕事を受ける返事を聞いてすっかり機嫌が良くなっていた。
御機嫌で僕が飲み物と一緒に出したお菓子をボリボリと気持ち良く食べていた。
その様子を見て僕はほっと胸を撫で下ろすのだった。
って、あれれ…?これで良かったのかな?
まだ詳しい仕事の内容も聞かずにOKしてしまって良かったのかな?
僕はまたちょっと後悔してしまったけれどそれは後の祭りだった。
決めてしまった以上はしっかりお勤めを果たさないと…。
どこまでもついていきますぜ~お嬢様~!…って、流石にそれは卑屈過ぎるか(汗)。
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