第5話 はじめてのお仕事

「じゃあ早速ついてきてくれる?」


「え?今から?」


一旦物事を決めてからの見えないちゃんは行動が早い。

こう言うところは見習わないといけないなぁ。

僕はいつも優柔不断だから…。


「早く!早く!」


「ちょ、ま、どこに行くかで準備も変わってくるんだから…」


「それもそうね」


見えないちゃんは僕のこの言葉に素直に納得して落ち着いてくれた。

こう言う納得出来れば素直に話を聞いてくれるところも見習わないとなぁ。

子供特有の素直なところ、ずっと忘れずに育って欲しいね。

…って、何で親目線なんだ自分…(汗)ま、そう言う目線の方が健全かw


同行する見えないちゃんが軽装だからそんなにハードな旅でもないのだろう。

僕もそれなりの服装にスマホと財布くらいの簡単な装備で準備を済ます事にした。


「で、どこに行くの?」


「名前は知らないけど何か遺跡」


なんちゅーアバウトな…。

ここは大人の自分がしっかり彼女をサポートせねば!

僕はそう決意しながら取り敢えず思いつくものをデイバックに詰め込んだ。


「準備出来たよ!さあ行こう!」


ガチャ


しっかり戸締まりをしていざ出発!

彼女が行き先をさっぱり教えてくれないので僕はしっかり見えないちゃんの後を付いて行く。

それは何だか昨日の続きをまたしているみたいだった。

なんて言うんだっけこう言うの…あ、デジャブか…。


そう考えながら歩いていると急に周りの景色が光に包まれる。

これも昨日しっかり体験済みなのでもう全然驚かない。

きっと見えないちゃんがまた空間を跳躍したんだな。

考えると本当に便利だなあの能力。

通勤通学の時間を気にしなくていいし満員電車にも渋滞にも交通事故にも影響されないとか…。

見えないちゃん、恐ろしい子っ!(三回目)


光が消えるとそこは雪国…じゃなかった全く見た事のない景色が広がっていた…。

辺り一面野原で人の気配もない…対象物がないから比較出来ないけどそこはまるで外国のような雰囲気…。

ど、どこですかここ?


「ここから先はイメージ出来ないから歩いて行くよ!」


混乱している僕をよそに見えないちゃんは当然のように歩き出していた。

きっと彼女にとってこう言う事はもう慣れっこなんだろうな…。

家を出る時はしっかり守ってやろうと思っていたのにこれじゃあ全く役に立ててないよ…。


(よし!ここからはしっかりするぞ!)


そう思い直している内にも見えないちゃんはすたすたと結構なスピードで前を歩いて行く。

気合を入れて追いつかないと逆に僕の方がはぐれてしまいそうだった。

僕は慌てて見えないちゃんを追いかけて行った。

ここではぐれたらもう二度と家には帰れない…そんな予感がギュンギュンとしていた。

流石にお仕事と言うだけあって甘くなかったわ…。


先を行く見えないちゃんは黙々と前を歩いて行く。

流石旅慣れしているだけあって彼女は無駄にエネルギーを消費しない術を身につけていた。

それに対して僕は歩き旅の素人…ペース配分も分からずに序盤でかなり消耗していた。

こんな事なら家を出る前に食べ物とか準備しておけば良かった…。

僕は早速軽装で出て来た事を後悔していた。


人気のない広い野原を二人は黙々と歩いて行く。

何の目印もないその道なき道をただまっすぐに歩いて行く。

その緊張感はちょっと耐えられないくらいのものだったけど何分ついていくのが精一杯で僕は先を行く見えないちゃんに何も話しかけられないでいた。


(この旅に本当に僕が必要なんだろうか?)


僕がそう思ってしまうのも必然だった。

でもお給金発生するからね、簡単に弱音は吐けないね。


自分が年上との自負もあって見えないちゃんに何とか気合で付いて行く。

せめてタオルくらい持っていれば流れる汗も拭けたのにな…。

汗を手で拭いながら見えないちゃんとその先を目指すのだった。


「ちょ、たんま…」


歩き疲れた僕は限界を感じてその場で座り込んでしまった。

さっきまで頑張るぞって気合入れてたのに情けない…。

インドア派の僕にいきなりの長期の歩きはどだい無理があったんだよ…。


「ほら、そこだよ」


へたり込んだ僕に見えないちゃんが行き先を指さしている。

何だ…もう目的地の近くまで来ていたのか…。

僕が息を整えながら見えないちゃんの指す方向に視線を向けると…。


「お…おおぅ…」


そこにあったのは紛う事なき遺跡…巨大なストーンヘンジだった。

あまりの立派さに僕はしばらく言葉を失っていた。

ああ…ここ絶対日本じゃないわ…。別の意味でも僕は言葉を失っていた。


(でもここでこの旅も終わりかな?)


と、僕が思ってひと安心していると見えないちゃんはそのままずかずかと遺跡に向かって進み出していた。

彼女はあれよあれよという間にストーンヘンジの円環状になっている石柱のその中央部分へ。

まぁ、柵もないし多少はね?とは思ったけど僕がぼうっとその様子を見ていると


「ほら、早く!」


見えないちゃんに急かされてしまった。

え?もしかして僕もその中に入らないといかんですか?

全く我儘だなあと感じながらも僕はその指示に従う事に。

ええ、スポンサーには逆らえませんよ…私はしがない雇われですよ…。


僕がその巨大なストーンヘンジの輪の中に入った時、ぐわんと外の景色が歪んだ気がした。

いや、きっとこれ気のせいなんかじゃないな。

連日の体験の中でこう言う現象はもう慣れっこになっていた。


「もしかして今からが本番?」


僕は何となくそう感じて見えないちゃんに質問していた。

これから先の未知の体験にドキドキしながら。

ああ…どうか何もヤバイ事に巻き込まれませんように…。


「これを見て」


見えないちゃんがそこで指さしていたものはストーンヘンジの中央に位置していた謎の石版。

その石版には何か不思議な文様が刻まれていてその上に何か光のベールみたいなものがかけられている。

このベールみたいなものが電源もないのに何でずっと光っているのかは見当もつかなかった。

そんな不思議な光景だったけれど今までの体験もあって妙に納得する雰囲気だった。


「何なの、これ」


「誰かがこの要(かなめ)の石版を封印したのよ」


「これ、封印?」


見えないちゃんはその質問にコクリと頷いた。

僕はこれからどうするのかじっと様子を眺めていた。

すると見えないちゃんがその封印に触れた…。


バチン!


見えないちゃんが光ベールの触れた途端、そんな音がしてさっきまで光っていた光のベールは飛び散ってしまった。

雰囲気としては冬に金属に触ると静電気が来るアレをもうちょっと派手にしたようなそんな感じだった。

思わず僕は心配になってしまって見えないちゃんに声を掛けた。


「ちょ、大丈夫?」


「平気」


僕の質門に平然と答える見えないちゃん。

どうやら彼女に特に何のダメージもないようで安心した。


もしかしてこう言うのがこの世界に何箇所もあるのだろうか…。

そうして見えないちゃんと一緒にその封印を解く旅をこれから続ける…とか?

それが見えないちゃんの言う”お仕事”なのかなぁ…。

そんな事を僕がぼうっと想像していると


「はい!これで今日のお仕事は終わり」


見えないちゃんはそう言って僕の手を握って遺跡の外へと歩き出した。

僕はそのまま見えないちゃんに引っ張られながらこの出来事の余韻に浸る間もなく遺跡の外へと…。

遺跡を出る瞬間の空間の歪みに一瞬目を閉じてまぶたを開いた時…そこはまたしても僕の家の前だった。

もう何だかこれ、お約束のようになっているよね。


「お疲れ様、はい、今日の報酬」


見えないちゃんの行動は早い。

僕にお金の入った封筒をサッと渡して


「じゃあ、また明日ね」


そう言うとそそくさと帰ってしまった。

あの…気持ちの整理がまだついていないんですが…。

彼女が何の説明もなしにすぐに帰ってしまったので僕も仕方なく自分の家に戻る事にした。

明日は多分全身筋肉痛だなぁ…。

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