第2話 見えない村へ
さて、自称見えないちゃんを部屋に呼んだら一晩ベッドを占領された件について…。
それは過ぎた事なのでまあ不問に付すとして…。
今テーブルに並べられた料理を美味しそうに食べる目の前の少女が
どうしても普通の女の子にしか見えない件。
「ん?食べないの?」
「なぁ…?」
僕は美味しそうに食事をする目の前の少女に素直な疑問をぶつける。
「本当に幽霊とかそんな類じゃないんだよな?」
「ムグムグ…違うよ、昨日も言ったじゃん」
見えないちゃんは本当に美味しそうに食べる。
遠慮なく食べる。どんどん食べる。
さすが成長期の少女は違う。
食べ終わったと思うと彼女はトトトってトイレに入っていった。
うーん、その行動に全く何の遠慮もない。
(確かに食べてトイレに行くお化けはいないな…)
僕は妙に納得していた。
そして彼女の元気さに止まっていた箸を動かして朝食の残りを片付けた。
朝食を食べ終わると後片付けして出かける準備。
今日は彼女を送り届けないと…。
「こんな朝早くから知らない所に行くのって久しぶりだなぁ」
僕はベランダに出て背伸びする。
まっすぐ射してくる太陽の光が眩しい。
ああ…元気が心の奥までチャージされていくようだ。
目を閉じて光を浴びていると僕を呼ぶ声がする。
「何してんの?」
その声に急に恥ずかしくなった僕は近くまで来ていた見えないちゃんを部屋の外まで押し出すと
「い、今から着替えるからちょっと待ってて!」
そう言って恥ずかしさを隠していた。
今まで一人だったから何とも思わなかったのにな。
適当に着替え終わると早速出かける準備をする。
とは言っても持っていくのは財布とスマホくらいだけど。
「本当にそこは外からは見えない村なの?」
「うん、はぐれちゃって困ってたんだ」
今から向かうのは見えないちゃんの住んでいる村。
そんなにここから離れてはいないんだけど彼女が言うにはそこは見えない村らしい。
勿論地図にも載っていない。
しかし本当にそんな場所があるんだろうか?
「そこに君をつれて戻れば僕の役目は終わりだね」
「うん、多分」
見えないちゃんはちょっと寂しそうな顔をしていた。
もっと街の生活を楽しみたかったのだろう。
「もっと僕と一緒に居たかった?」
「!」
話を振るとすぐ嬉しそうな顔になる見えないちゃん。
うーん、本当に分かりやすいなぁ。
その笑顔を見るとその望みを叶えたくなってしまう。
でもそうも行かないんだなぁ。
「ご両親が淋しがってるでしょ…それはまた今度ね」
その言葉を聞いて彼女はシュンとなって下を向いてしまった。
当たり前の事を言ったまでだけどちょっと言い過ぎた気もして
「ほら、いつでも遊びに来ていいからさ」
と、つい軽はずみな事を言ってしまった。
その言葉を聞いてすぐに笑顔の花が咲く見えないちゃん。
その時、何だか今後もこの子に振り回されそうな予感を感じてしまった。
見えないちゃん、恐ろしい子っ!
その後、電車を降りてバスに乗り換えてどんどん人気のない場所へ…。
おいおい、何処に向かうんだってばよ?
僕はこの後に待ち構えているであろう何かに不安ばかりが大きくなっていた。
全く知らない場所のバス停で降りる二人。
そこはよくここにバス停があるなって思わせるほど道の真中。
ああ…こんな時に使う言葉なんだろうな…途方に暮れるって。
「何ぼうっとしてるの?行くよ!」
僕は見えないちゃんに急かされて歩き始める。
どんどん道じゃない方向に歩いて行く。
「この方角で間違ってないんだよね?」
「あ、怖いんだ?」
ドキィ!
図星を突かれてしまった。120のダメージ!
HPゲージが真っ赤になった!
しかしここまで来たんだ、今さら後には引けない。
「し、信じてない訳じゃ…ないけど…」
思わす本音が漏れてしまう…仕方ないよね。
知らない場所に来て知らない場所に向かうって不安の方が大きいもの。
ましてや、今から向かうのは全くの未知の領域なのだから。
目の前を歩く彼女、見えないちゃんは一族で街へ遊びに来た帰り、みんなからはぐれて迷ってしまった。
今からその彼女を両親のもとに送り届ける。
たったそれだけの簡単なミッションさ。
もう一度自分の役目を思い出して心に強く願う。
そして彼女の後を離れないように同じペースで歩き続ける。
昨日までの退屈な毎日に比べたらそれは本当にエキサイティングで刺激に満ちた時間だった。
僕が求めていたのはこんな冒険だったのかも知れない。
やがて知らない道を歩くのにも慣れて来て心に余裕も生まれていた。
それはこのままファンタジーな世界に辿り着いたって驚かないって言うほどだった。
ハシッ!
その時、急に見えないちゃんが僕の手を握ってきた。
それが余りに突然だったので僕はドキッとしてしまった。
えっと…一体急にどうしたんだろう?
「何っ?」
「もうすぐ着くから…初めて来る人はこうして繋がってないと入れないの」
どうやら目的の場所はすぐそこらしい。
興奮していて分からなかったけれど実はそこまでバス停からは歩いていなかった。
こんなに人里近い場所に誰にも知られていない村が?
次の瞬間、僕は一瞬めまいのようなものを感じてまぶたを閉じた。
ただ、その後に目を開けてはいけないような気もしていた。
見てしまったら戻れないと自分の中の直感のようなものが告げていたのだ。
けれど好奇心の誘惑はその警告をあっさりと破ってしまう。
「ようこそ!見えない村へ!」
見えないちゃんの声にまぶたを上げるとそこにはさっきまでなかった風景が広がっていた。
「うそ…だぁ…」
そこには村があった。
いやいや、結構近代化されてますよ?
電気も通ってるみたいだしスマホを確認したら電波も通じてるし…。
一体どうなってるんだこりゃ。
「みんなに紹介するからついてきて♪」
見えないちゃんに引っ張られて僕は心が混乱したままその村へと入っていく。
あれれ?僕これからどうなっちゃうの?
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