見えないちゃん

にゃべ♪

第1話 突然現れた少女

あーかったるいなー


退屈な日々…

僕は連日の退屈な毎日に飽き飽きしていた。

今日も一日をそれなりに何となく過ごしていた。

将来の事なんて何も考えられないまま人生の寄り道を楽しんでいた。

昨日の事は覚えてないし明日の事は分からない。

そんな自堕落なある昼下がりに事件は起こった。


あの…すみません


そんな声が背後から聞こえて振り返った。

けれどそこには誰もいない…

気のせいだったのかな?

そう思って歩き出そうとしたら


『あの…すみません!!』


と、さっきより大きな声がした。

僕はびっくりして思いっきり振り返った。

けれどもやっぱりそこには誰もいない…。

必死に上下左右あらゆる角度で見回して念入りにしっかりと丹念に見回したけれど声の主も人の気配すらもそこにはなかった。


(疲れてるな…)


頭に手を当ててため息をつく。

そう言えば軽い頭痛も覚えていた。


(みんな青い空が悪いんや…)


とりあえず僕はコンビニでコーヒーを買って公園のベンチで一息をついた。

都会の公園じゃ飲食禁止のところもあるらしいけれど幸い田舎の公園にそんなタブーはまだなかった。


いつかここらもそうなるのかな…。

そうなったら嫌だな…。


と、さっきの不思議体験を記憶の中から消去しているとひらひらと目の前を蝶が泳いでいく。

それは今まで見た事もない美しい蝶。

ここで昆虫に詳しかったら○○チョウだか○○アゲハだとかすぐに名前も浮かぶんだろうけど僕は虫知識に疎くてただ美しい蝶としか言えない。

って言うかそもそも蝶に対してそこまでの思い入れもなかった。


そんな美しい蝶をただ何となく目で追っていると急に目の前に少女が現れた。


っっ!!!


言葉が出ない…。

確かにさっきまでそこに誰もいなかったのに。

光学迷彩だったとしても影位は出来る…んじゃないかと思う。

実際はどうなのか分かんないけど。

とりあえず何だこれ…。


「やっと気付いてくれたvさっきからずっと呼んでたんですよっ!」


少女はそう言って怒っていた。

怒った顔もかわいい…、ってそこは問題じゃないか。

でも突然の事で言葉はうまく出てこない。


「え?」


パニックになった僕が何とか絞り出したのがこの一言だった。

ああ…本当に情けない…。

僕が唖然としている少女が僕に向かって黙って手をさし出してきた。

それはまるで何かの儀式を促しているかのようだった。

いつの間にか僕は無意識の内に彼女に合わせるように手を出していた。


パアアア…!


僕と彼女の手が合わさった時、彼女の手の柔らかさと暖かさが伝わって来た。

その瞬間彼女の姿がハッキリ認識出来るようになった。

それは本当に形容しがたい不思議な感覚だった。


「え?」


相変わらず僕はこれ以上の反応が出来なかった。

一体この子は何者なんだろう?とか聞きたい事はどんどん浮かぶのに突然の出来事に驚いた衝動の方が大きくてそれらを口に出す事は出来なかった。


「これでゆっくり話が出来るね」


こっちが混乱して何も出来ないでいると彼女の方から先に話しかけてきた。

こんな異常な出来事にパニックになってすぐにでもその場から逃げ出してもいいのに

足がすくんで結局それすらも出来ないヘタレな自分…。


「さ、さっきのは?」


僕はおそるおそる彼女に質問してみた。

僕は昔から人見知りで普段滅多に他人に声はかけられないんだけどこの状況でよく話しかけられたなと自分でも不思議に思った。

この僕の質門に少女はあっけらかんとした表情をしながら


「私です」


と、答え、ニコニコしながら次に質問を待つように僕の顔を覗きこんでいた。

辺りに生じる奇妙な緊張感。

やばいよ…やばいよやばいよ!

何だかよく分からない問題に巻き込まれちゃったよ!

パニックだよ!なんだよもう!


とりあえず状況を整理しよう…えーと、僕は公園でコーヒーを飲んでいた…

そうしたら不思議な声がしてしかもその声の主は見えない少女だった!

何だよこれ自分でも意味が分からないよ!

この子は一体誰なんだよ!僕が何をしたって言うんだよ!

って言うか

って言うか…


「えっと…名前…」


僕は誰もが一番最初に思いつく質問を彼女に投げかけた。

どんなインタビューだってまず最初に名前を聞くよね。

誰だってそーする。僕だってそーする。


「秘密v」


彼女はあっけらかんとしてそう答えた。

どうやらこっらの質問に真面目に答える気はないらしい。

ならばこっらもそのおふざけに付き合ってやろうじゃないの。


「じゃあ秘密ちゃん?」


さあ、どう答えるよ?


「えー」


彼女は不満そうな顔をして考え込んでいるようだった。

女の子と話すのには慣れていないからこの対応が正しいかどうかは分からない。

まぁ泣かすような事がなければ問題はないんじゃないかな?かな?


そうして少しの時間が流れた後に少女が口を開いた。

どうやら答えが見つかったらしい。


「じゃあ、見えないちゃんで!」


なんじゃそりゃ。

とは思ったもののここはやっぱりツッコミを入れた方がいいのかと思い


「今見えてるじゃん」


と、ツッコミを入れてみた。

すると彼女はちょっと不機嫌な顔をして


「そーれーはー!見えるようにしたの!」


と、さっきの儀式?の説明をしてくれた。

だとしたらやっぱり次はこの質問だよなあ…。


「どうして?」


この質問に彼女はまたニコニコ顔に戻ってちょいドヤ顔で


「気に入ったから」


と答えるのだった。

ああ…この笑顔に嘘はないんだろうなって言う事は確信が持てそうだった。

しっかし子供の笑顔は無敵だなおい。


「で、その見えないちゃんは僕に何の用?」


「ちょっとね…みんなとはぐれちゃって…」


ここまで会話を続けて僕はある事に気付く。

何故この事にすぐに気付かなかったんだろう…。

今すぐ確認を取らなければ…やばい…っ!


「もしかしてだけど…」


「?」


「見えないちゃんって僕にしか見えてない?」


「そ!」


そんなの当たり前と言う顔で彼女は即答でそう答えた。

その返事はまるで自慢しているかのように自信たっぷりだった。


(ええー…っ…)


僕はすぐに周りを見回した。

幸いな事に公園には僕ら二人以外誰もいなかった。

ただこのまま彼女と話していたら確実に不審者にされてしまう。

誰からも不審者に思われないように早くこの場を立ち去らねば…。


「ここは場所がアレだから移動しようか…」


「いいよ!何処行くの?」


僕のこの提案に彼女の目がキラキラと輝き始めた。

別に遊びに連れて行く訳でもないんだけどな…。

不審者に思われない唯一の場所に移るだけなんだけど…。


「僕の家だよ」


「行っていいの?やった!」


僕の答えに彼女の瞳の輝きは変わらなかった。

いや、むしろさっきより輝いている?

きっとすっごい興味津々なんだろうなぁ。

別に大豪邸に招待するとかじゃないんだけどな…。

家に着いた途端落胆されなきゃいいんだけど。

そうなったらそうなったでそれは普通の感覚か…(汗)。


あ、言っとくけど僕別にロリコンじゃないからね!

これが目に見える普通の少女だったらちゃんと交番に預けるからねうん。

相手が見えないから連れて行ってもほら頭の変な人扱いされて終わりだし仕方ないよね!


…僕は一体誰に力説しているんだ…(汗)。


僕は彼女がついてくる事を確認しながら歩き始めた。

彼女の姿が見えていたら完璧不審者だけど逆に姿が見えないから無問題。

帰る途中誰にも疑われる事なく無事に自分の家まで辿り着いた。

そこはごくありふれた家賃の安いアパートの一室。

右も左も同じ間取りの騒ぐと壁からドンと苦情を飛ばされる例のあんな感じ。


振り返ると彼女は少しも幻滅する様子もなく早く部屋に入れてくれって顔でこちらを見ていた。

これくらいじゃ少しも動じないのか…さすがだな…。

僕はポケットから鍵を取り出してドアを開ける。

ガチャリと鍵を回してドアノブをひねるとその先は見慣れた落ち着く風景。

さあ、これでゆっくり話が出来るぞ。


「ほえー、ここがそうなんだ。おじゃましまーす」


彼女は興味深そうに色々見渡している。

こう言う場所に来るの初めてなのかな?

一応は一言言っておくか。


「特に何て事ないごくありふれた所だけどね…」


僕はとりあえず彼女を部屋に案内して飲み物を用意する事にした。

彼女は素直に部屋に入って僕を待ってくれている。


変な詮索をしない所はこう言う事に慣れているのかなぁ?

考え過ぎると想像が変な方向に向かいそうになった。

詳しい事はこれから色々聞けばいいじゃないか。

その為に部屋まで連れて来たんだし…。

事情が事情だったら僕では何も出来ないだろうな…然るべき所にお任せしないと…。


それはそうと普段人を呼ばないからおもてなし用のものは特に何も置いていない。

一応リクエストは聞いておくかな。


「あ、そうだ何か飲む?ジュースとかは特にないんだけど…」


そう言って部屋に向けて話しかけたものの今度は何の反応もなかった…。

さっきまでの様子だと元気な声で返事が返って来そうなものだけど…。

嫌な予感がして部屋に戻ってみると案の定彼女は寝ていた…僕のベッドで気持ちよさそうに…。

その寝顔を見ていると何故だか僕まで幸せな気持ちになっていた。


「これは…起きるまでそっとしておくか…」


こうして何が何だか分からない一日が終わった。

さて、これから一体どうしたらいいんだ…。

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