ウラギラレタ

 アルとメラは手を繋ぎながら次の惑星へと降り立った。ここは裏切りの惑星。誰も信じることのできない猜疑心溢れる世界だった。


「ねぇアル、ここはどんな惑星?」

「この惑星のニンゲンは、よく自分の身体に裏切られるんだ」

「? それってどういうこと?」


 メラが不思議そうにアルを覗きこむ。アルが視線をそらすと、その先にはニンゲンが、打ち捨てられたかのように転がっていた。


「このニンゲンは心臓に裏切られたんだ」

「・・・・・・どういうこと?」

「胸の所にポッカリ穴があいているのがわかるかい? 」

「うん」

「心臓が見当たらないだろ」

「うん」


 確かにアルの言う通り、そのニンゲンの胸には空洞ができていて、胸の周りには大量に出血した痕跡があった。そして本来あるべきの心臓がどこにも見当たらなかった。


「身体のパーツが主人とは別の意思を持ってるんだ。だから当然ケンカだってするし、反りが合わなければ裏切ることだってある。そして、心臓に裏切られたらニンゲンは生きていけない」

「ふーん」


 裏切られたニンゲンは、怒りと悲しみと苦しみと絶望が混じった形相を浮かべて死に絶えていた。こんな死に方は嫌だなぁと思いながらメラは、地面に点々と続いてる血の跡を発見した。


「ねぇアル。これは?」

「裏切った心臓が処かに跳ねていったんだ」

「じゃあ追いかけてみよう!」


 メラはそう言うなり、目を爛々と輝かせながらアルの手を引き心臓を追いかけ始めた。


「あの人は?」

「右腕」

「じゃあ、あそこの人」

「脊椎だね。グニャグニャしているもの」

「あ、あの人はわかるよ。髪の毛でしょ」

「正解」


 途中、裏切られて絶望しているニンゲン達を何人も見かけた。ある者は呻き声をあげて泣き、ある者は動くことすらままならず、またある者は立ち上がろうと必死に歯を食いしばっていた。


「眼球」

「耳小骨かな」

「腎臓」

「親不知」

「神経」

「盲腸。あ、ラッキーかも」


 そして裏切ったパーツはみな、同じ方角に向かっているようだった。幾らか歩き、アルとメラはようやくそのパーツ達に巡り合うことができた。


「あっ」


 二人が見た光景。パーツ達は合体し、新しいニンゲンを作っていた。臓器と臓器が組み合わさり、骨格が形成され、筋組織が絡み、その上を皮膚が覆う。そうして今、新たなニンゲンが誕生しようとしていた。


「ねぇアル。これはニンゲンなの?」

「ううん、違うよ。だって・・・」



「だって、脳がないもの」


 そうアルが言った同時に、ニンゲンモドキはガタガタと崩れ落ち動かなくなってしまった。

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