第10話 オリガ

 ビトリアルのボス、オリガは、ダンダルシアで最も高いビルの最上階にいた。

 そこは一部屋しかなく、出入り口以外が、ガラス張り作られている部屋だった。

 ここから見る景色は、最高だ。

 高層ビルが立ち並ぶ、この大都市を見下ろすことができる。そして、遠くには、都市フーリエのビルの姿がうっすらと見え、顔を上げれば星々が見える。

 まさにすべてを支配する人間にふさわしい場所……。

 だが、そんなことはどうでもよかった。あの偉そうな顔をした政治家たちが、ここで愉悦に浸っていたと思うと反吐が出る。

 オリガは拳を強く握った。しだいに、その握り拳を緩めて、ある方角へ視線を向けた。

 あの場所が私に人間というものを教えてくれた。今でも鮮明に思い出す。いや、忘れることはないだろう。

 オリガは、ガラスに触れて目を閉じる。記憶が鮮明に蘇り、大勢の声が聞こえてきた。



                 ★ ★ ★



 明け方、二十隻の船が、穏やかな海の中を進んでいた。

 一隻におよそ百人が船上している。海とは対照的に、この先に待っているのは、荒れることが予想される戦場。

 この船の行き先は、隣国ディフィートだった。


「大佐! まもなく上陸です」


 オリガは、大佐にそう伝えた。

 軍の最高地位は三つあり、上から大佐、中佐、少佐がとなっている。

 オリガの地位は少佐だった。


「ご苦労」


 そういって大佐は、椅子から立ち上がって本を棚へと戻した。


「全兵に連絡しろ。部隊を三分割し、最前列にオリガ少佐、真ん中に中佐、後方に私の部隊を配置。上陸次第、正面から総攻撃をかけろ、と……どうした? 早く行け」


 動かないオリガに、不満の表情を浮かべた。


「大佐。正面からの総攻撃は危ないのではないでしょうか。上陸して攻めるのではなく、船の上からの遠方射撃が一番かと思います。ここ最近、我々はあちらの情報をつかんでいません」


 考えを述べたオリガに対して、大佐は黙って睨み付けた。

 オリガは、自分の言葉は、真剣そのものだということを目で訴えかける。

 すると、大佐は肩を震わせ笑い出したのち、激怒した。


「オリガ少佐! 誰にモノを言っている? 私は軍の最高権威を持っているのだぞ! 私の作戦に異を唱える権限を持っているのは、オブリヴィオンを統括している五人の政治家だけだ」


 オリガは返す言葉もなかった。いや、返せなかった。それが法であり、秩序として定まっていたことだったからだった。だが、大佐の作戦では甘いような気がしたのだ。

 大佐は、オリガの元へ歩いて行き、語りかけるようにいった。


「オリガ少佐。君は誰よりも働き、誰よりも熱心な男だ。だからこそ、下の位である兵士に報告させるのではなく、仕事の早い君に報告をさせているのだ。この意味がわかるか? 私は君を買っているのだよ。私に失望させないでくれ」


 大佐は覗き込むようにして、鋭い目でオリガの顔を見た。


「君は、私の指示を、着実にこなしてくれればいいんだ。私が引退するときには、中佐である彼ではなく、少佐の君を大佐へ指名すると決めている。だから、私の言ったことに逆らわず、仕事をこなしてくれ」


 オリガは下を向いたまま、答えずにいた。


「間違っても、私に反抗して少佐という位を剥奪させ、君を軍から追放させるようなことをさせないでくれ。いいな?」


 大佐はオリガの肩に手を乗せていった。それは、オリガにとって、決定的な言葉だった。

 オリガはダンダルシア出身で、子供の頃から生まれた街が大好きだった。街の清掃、慈善活動にも積極的に参加した。活動を通していくうちに、この国を守りたいと思うようになった。

 それからの行動は早かった。

 身体を鍛えに鍛え、学をつけ、行動してから一年後には、軍のテストに合格した。軍始まって以来、最速で今の地位まで辿り着いた。

 だが、オリガにとって、地位などはどうでもよかった。大佐の言葉に屈したのは、軍を追放されては、国を守ることができなくなることだった。


「わかりました」


 オリガが小声で返事をすると、大佐は満足げになり、肩を二回叩いていった。


「オリガ少佐。まさか、やつらの最終兵器とやらに臆しているのか? それは杞憂だぞ」

 大佐は鼻で笑い、話を続けた。


「やつらは科学の技術があるだけで、戦闘に関しては素人に過ぎない。上陸する場には、一本道がある。そこからディフィートの中心街までは一直線。それならば、敵に恐怖を与えるために、一点突破で攻撃を仕掛けてやるのが、一番だとは思わないか?」


 オリガは何も返事することなく、ただ黙っていた。


「いいか? この戦いは、我々の圧勝であると民は信じている。民もわかっているのだ。ディフィートのやつらよりも、我々の方が強者であると。加えて、ディフィートのやつらを粛清しなければならない。我々の強さを侮ったことを後悔させる。そのためには、オリガ少佐の戦法は、弱気、逃げ腰としかいいようがない」


 大佐は胸元で、拳を握り締めた。


「やつらを簡単に殺したりはしない。数を見せつけ、強さを見せつけるのだ。オブリヴィオンに逆らったことを後悔させてやる。まあ、みていろ。戦いが終わったときに、私の戦法が正しかったと証明してやろう」


 大佐はそう笑い飛ばして船外へ出ていった。

 オリガは無線室に行き、椅子に腰をかけると、大佐の命令をすべての船に連絡した。

 これでよかったのだろうか。

 そんな思いが、しこりとなって胸に残っていた。ふいに大佐の言葉を思い出した。


『やつらは科学の技術があるだけで、戦闘に関しては素人に過ぎない』


 ほんとに、そうだろうか。ディフィートの人々は、オブリヴィオンを消滅させることができる、とわざわざ宣言したのだ。我々が阻止するために向かってくることぐらい、予想の範囲内だろう。にもかかわらず、戦闘に関して素人だとは、到底思えない。

 科学力だけがある、そうとしか大佐は思っていないのだ。

 やはり、大佐ともう一度話し合う必要がある。軍に入られなくなるのは、断腸の思いではあるが、仕方がない。自分の身一つで済むのであれば、これもまた国を救うことになるだろう。

 オリガは、椅子から立ち上がり、無線室のドアノブに手をかけたとき、けたたましいサイレンが響いた。

 何が起こったのだろうか。

 オリガは無線機に駈け寄り、操縦室に連絡を取った。


「私だ。何が起きた」

「ディフィートからの遠距離射撃です」

「着弾は?」

「ありません。また一発だけの模様」

「わかった。引き続き、警戒を怠るな」

「わかりました」


 オリガは無線を切ると、背後に気配を感じた。振り返った先には、大佐が立っていた。

 願ったり叶ったりだった。一刻も話をつけ、作戦の変更を願わなければならない。

 しかし、気がかりなことがあった。大佐の眉間に青筋が立っていた。部下がミスを犯したのだろうか。話を聞いてもらえるような雰囲気ではなかったが、ここで躊躇し、手遅れになることは避けなければならない。

 オリガは叱責を覚悟で、大佐に話しかけた。


「大佐、お話が」


 大佐は返事をすることなく、歩み出した。


「あの、大佐?」

「黙っていろ。今はそれどころじゃない」

「いえ、どうしても今、聞いてもらいたいことが」


 大佐は足を止めて、刺すような目を向けた。


「だいたい察している。作戦の変更だろう?」

「そうです。やはりここは」


 オリガの言葉を遮るように大佐がいった。


「オリガ少佐、臆しているのか? それなら朗報を訊かせてやろう」


 そういって大佐は無線を手に取った。


「こちら本船、全船に告ぐ。いまの遠距離射撃は、我々に対する威嚇射撃であり、挑発だ。どうやら、自分たちの優位を示したいようだが、今の射撃で墓穴を掘った。やつらは戦う準備ができていない。そうでなければ、威嚇などせず、我々の船に確実に当てていたはずだ。いいか諸君、上陸次第、やつらを粛清するのだ」


 無線を切ると、オリガに顔を向けた。


「わかったか? やつらは我々に怯えているのだ」

「ですが、大佐」


 オリガは引かずに、自分の意見をいおうとすると、大佐は胸ポケットに手を伸ばし、銃をオリガの額に突きつけた。


「この戦いは、大佐である私が決めること。少佐であるお前に、意見する権限はない。もしも、お前が私のいうことを聞けないというのであれば、反逆者として、ここで始末する他ない。どうなんだ? 私に従うのか、従わないのか」


 脅しはなく、大佐は本気でいっていた。目を見れば一目瞭然。答え方次第では、自分の命はなかった。

 軍から除名されるだけであれば、戦うことはできないが、個人的に活動することはできる。そう思っていた。いつからか、抱いていた国を守りたいという気持ちを押し通すことができる。

 だが、死は別だ。

 戦場で死ぬことは構わない。ただ、こんな不条理なことで死ぬことは、自分の意に反している。


「大佐、申し訳ありませんでした」


 オリガは頭を下げた。


「そう、それでいい。さすが、私が見込んだ男だ。オリガ少佐には、最前線に立ってもらおう。私は後方から指示を出す。よろしく頼んだぞ」


 そういって懐に銃を戻し、大佐は高笑いしながら、無線室を出て行った。


 オリガは船首にいた。

 視線の先には、隣国ディフィートの形状が、鮮明に見えていた。島の大半が森によって覆われている。あそこで、これから戦いが始まる。


「オリガ少佐」


 後ろから一等兵が声をかけてきた。

 オリガが身体を向けると、一等兵は、背筋を伸ばし、足を揃えながらいった。


「そろそろ、準備のほどを」

「わかった」


 そういって、再びディフィートに目を向けた。必ず勝つ。こうなってしまった以

上、大佐の下す指示の中で力を発揮して、勝利をもぎ取るしかない。

 オリガは拳を握りしめて、船内に向かった。与えられた自室で、防具や剣、銃を装備する。

 そして、その時がやってきた。

 早朝、オブリヴィオンの全軍は、ディフィートに降り立った。砂浜から先は、一本道が続き、その両脇には、深い森が広がっていた。

 武装したディフィートの兵士たちは、こちらが上陸したのを確認すると、武器を持ち、船へ波のように押し寄せてきた。

 オブリヴィオン側は、返り討ちにしようと、突進していく。

 両軍が衝突し、戦いが始まった。

 オリガは敵と剣を合わせた際に伝わってくる力、気迫、威圧から、大佐のいう通り、敵兵のほとんどが素人同然のように思えた。中にはそうでない者も混じっていたが、少人数だった。

 不思議なことに、実力がある者に限って、なぜか戦いを避けるような動き方をしていた。むやみに剣を振るうことはせず、ただただ合間を縫って突き進んでいく。

 その理由はわからなかったが、オリガは無視した。この部隊の役目は押してくる敵の波を断つことだ。

 後方には、中佐と大佐が率いる部隊がある。何も心配することはない。


「引くな! 突き進め!」


 オリガの部隊は、敵を出来る限り、押し返すように進撃を続けた。順調に敵をなぎ倒していく。大佐のいうように自分が思っていたことは杞憂だったのかもしれない。

 オリガは勝利を手に出来る、と思っていた。

 突然、後ろからとてつもない大きな爆音が鳴り響いた。振り返ると、一隻の船が火を噴いていた。その爆発が風に乗り、船が次々に炎に飲み込まれていく。

 実力のある者たちが、戦いを避けていたのは、こちらの退路である船を潰すためだったのか。燃え盛る船を目にして、ようやく気づいた。

 同時にオリガは苛立ちを感じていた。中佐と大佐の部隊は何をしているのだろうか。後方にいる者の役目は、前方であぶれた者を殺るのではなかったのか。

 これで撤退という文字は消えた。

 それでも、味方の兵士は動じてはいなかった。こちらが優勢に立っていたからだった。勝利さえ収めてしまえば、船の焼失は問題にはならない。兵士たちは、圧勝できると自信を思っている。その強気が功を奏した。この流れのまま、勝利を手にすることができるのではないかと思った。 

 その思いを阻むかのように、ディフィート軍の後方から、銃を手にした重装兵が現れた。腕、足、胴に着けている防具は厚みあり、いかにも防御力が高そうだった。

 敵は銃撃しながら、歩み出した。

 対抗するために、こちらも銃撃で応えるが、弾丸は敵に貫通することはなかった。

 重装兵の前に、オブリヴィオンの兵士が次々と倒れていく。

 圧倒的な防御力の前に、太刀打ちができないことを、オブリヴィオンの兵士たちは悟り始める。つかんでいた流れが、向こうへと反転し始めているのを感じた。強引に流を引き戻そうとして、命令を無視して突っ込んでいく兵士が出てきた。

 普段なら、むやみに突っ込むのではなく、立て直しを図るところだと、誰もが判断できる場面だった。

 しかし、冷静な判断が下せないのは、撤退することができないからだった。負けて捕らわれの身になれば、何が待っているのかわからない。

 それなら、戦って死んだ方がマシだ。そんな弱気な雰囲気が、オブリヴィオン側に漂っていた。

 これでは負ける。

 オリガの感覚は、間違っていなかった。このとき、オブリヴィオンの兵士たちは、自信を失いかけていた。

 気持ちがこれ以上、弱い方へ流れないためにも、オリガは、突撃することを決めた。重装兵を倒すことができれば、勝機があると考えたからだった。

 最初に突撃してきた者たちは、重装兵ではなかった。それはきっと、重装できる兵に限りがあるからだった。となれば、重装兵の数を減らすことで、再び流れをつかみ取れる可能性があった。

 オリガは剣を手にして、走り出した。向かってくる敵を斬り殺していく。敵が落とした銃を地面から拾い上げ、問題となっている重装兵に攻撃した。

 弾丸は貫くことなく、防具に弾かれてしまった。斬撃を試みたかったが、敵の銃撃に近づくことができず、銃をむやみやたらに撃つことしかできなかった。

 どうにかしなければ、どうにか。兵士たちの気持ちが屈する前に。

 オリガの懸命な攻撃も虚しく、ついに、危惧していたことが起きてしまった。

 戦って死ぬという考えから、逃げ場所がないとわかっていても、戦場から少しでも離れて、命を繋ぎたいという考えの者が現れた。

 オブリヴィオンの兵士の一部の兵士たちが、森へ逃げ込んでいく。

 すると、その行動を待っていたかのように、森から槍を持ったディフィートの兵士たちが、飛び出してきた。逃げ出そうとした何名かの味方の兵士たちは、槍に貫かれて、命を落とし、残りは森の中に逃げていった。

 身動きが取れない状況に、オリガの心も折れようかとしていた。

 もうこれで終わりか、そう思ったとき、希望の光が見えた。

 一人の重装兵が、オリガの銃撃で膝を屈したのだ。

 その光景を目にして、オリガは重装兵の弱点を瞬時に見抜いた。


「防具と防具の隙間を狙え!」


 オリガは声を張って、兵士たちに指示をした。

 これで、勝負はわからない。まだこちらの方が数は上のはずだ。

 そんなオリガの希望に影が差す。

 流れを取り戻すことができる思った矢先、視界に靄がかかり始めたのだ。オリガは指示を出そうと息を吸ったとき、ふいに咳き込んでしまった。

 そのとき、オリガの背筋に寒気が走った。まさか、と思い港の方へ振り向くと、一層の靄がかかっていた。すでに、海が見えなくなっていた。爆破された船の炎が、森へと移り、勢いよく燃え広がっていたのだ。

 それは、ディフィート側にとっても誤算のようだった。動きに精彩を欠いていた。両脇にあった森が焼け、ますます視界は悪くなっていく。手を伸ばした先が見えないほどだった。

 さらに、炎の熱が、両兵士たちを焼き殺していく。

 まるで、両者を成敗しようとする、何者かの意志が働いているように思えた。

 ディフィート側も、炎に捕らわれて撤退することができないようだった。

 煙に包まれた戦場に、悲鳴と銃声、両兵士の雄叫びが止むことはなかった。

 両軍ともパニック状態にあった。この状況では、戦いに慣れている、いない、など関係なかった。それはオリガも同様だった。

 煙によって視野を奪われた中で、向かって来る者に対して剣を振り下ろし、地面に落ちている銃に、足が触れればそれを拾い上げて、引き金を引いた。この繰り返しを何十回、何百回と繰り返すことしかできなかった。

 ふいに、オリガの頬を銃弾がかすった。飛んできた方向へ銃を乱射し返す。相手は死んだのか、銃弾が飛んでくることはなかった。それでも気を緩めなかった。神経を尖らせて、見えない視界の先に鋭い眼光を配っていた。誰が来ようと殺せるように。

 耳から悲鳴、銃声、雄叫びが離れない。どこから来る、どこから仕掛けてくる。

興奮状態にあったオリガの鼻先に、水気が落ちてきた。

 それが、オリガを我に返らせた。

 ぴたりと騒音が止んだ。もう、悲鳴も銃声も雄叫びも聞こえてこなかった。

 あまりの静けさに、耳を撃ち抜かれたのかと思い、恐る恐る耳に手を当てた。

 だが、しっかりと両耳はあった。

 オリガは銃を構えながらも、心を落ち着かせていく。

 雨が勢いよく振ってきた。森を覆っていた炎を消し去り、煙が晴れて視界が開けてくる。

 手にしていた剣と銃が、オリガの手から零れ落ちた。

 そこは地獄のような光景だった。

 死体が地面に敷き詰められるように転がっていた。

 オリガは足元を見ると死体の上に乗っていた。慌てて地面を探した。

地面を踏むためには、自分たちが上陸した所まで戻ってこなければならなかった。オリガは足元から数メートル先を見た。

 手足のない兵士、頭のない兵士、もう人だったのかさえ分からないモノ、それらがたくさん転がっていた。

 ゆっくりと自分の両手を見る。手から血が流れていた。だが、それは自分のではなく、相手の血だった。服は返り血を浴びて赤一色に染まっていた。

オリガの傷といえば、頬に受けた傷以外なかった。急に力が抜けて足から崩れ落ち、膝を着いた。オリガは地面に手をついて俯いた。

オリガの俯いた地面にも雨が降り、地面を濡らした。



                 ★ ★ ★



 扉のノック音で、オリガは過去から現在に引き戻された。

 扉の方へ身体を向けて「入れ」というと、ロネが部屋に入ってきた。


「どうした?」

「ペナートを確保した。今は下の階にある会議室にいるよ」

「さすがだな」

「各地に忍び込んでいる情報班が、仕事をこなしてくれたからだよ」

「そうか。シーゼのやつも、黙っていてくればよかったものを」

「考え直す猶予があった。それにもかからわず、裏切る計画を立てていたんだ。仕方がない」

「それもそうだな」

「それで、ペナートと一緒に、シーゼを倒したあの四人が一緒にいたよ」

「ほう」


 四人についてオリガは、情報班とロネから話を聞いていた。なんでも異質な服を身に着け、不思議な力を使うという。シーゼの裏切りが発覚したことで、四人にぶつけることにした。四人の実力を測るにはちょうどよかった。もしも四人がシーゼに殺されれば、邪魔を消したと思えば、それでよかった。

とはいえオリガは、四人がシーゼを倒すことは無理だと踏んでいた。そのため、シーゼは自分が始末する気でいた。

 だが、情報班からシーゼが死んだことを聞かされたときは驚いた。その日から、オリガは四人に興味を持っていた。


「で、実力の方はどうだった? ロネがペナートを捕獲したことを考えれば、大したことはないとは思うが」

「そうでもないよ」

「なに?」

「ほら」


 ロネはロングコートを脱いで、腕を見せた。巻いている包帯には血が滲んでいた。


「大丈夫か?」


 オリガは、ロネに歩み寄った。


「大丈夫だよ」

「まさか、お前に一撃を当てるとは。相当な実力者だな」

「なんだか、嬉しそうだね」

「お前に攻撃を当てたのは、ダータラ以来だからな。明日、決着をつけに来るのだろう? 四人が加われば、余興にはなったのだが」

「あの四人は、反乱軍として来るよ」

「ほんとか?」


 ロネが首を縦に振った。


「面白い。反乱軍が決戦というように、俺たちにとっても特別な日だ。明日、オブリヴィオンが消える」


 そういって、オリガは、握りしめた拳を見つめた。

 すべてを終わらせる。そして、何もかもを忘れることができる。

 待っていろ。愚かな者たちよ。

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