第8話 歴史
四人は自己紹介を済ますと、自分たちの身に起きていることを話した。
「なるほど、七色ある七つの宝石を集めなければ、きみたちの世界が滅びてしまう。それを阻止する宝石がブラッドクライってわけか」
ペナートは深々とうなずた。
「そういうことなら、ブラッドクライをきみたちにあげるよ。それに、この話は俺たちにとっても有難い話だからね」
「有難い?」
侑里が首をかしげた。
「ビトリアルもブラッドクライを狙っているんだ。この国を消滅させるために」
「え?」
四人の声が揃う。
「あの、ビトリアルの目的って、この国を支配することじゃなかったんですか?」
「それは、名もなき街の人がいっていたことでしょ。彼らからすれば、街をめちゃくちゃにされて、なおかつ、物資を奪われたりするから支配というのもおかしくない」
「そういわれてみれば、シャルルさんから、ビトリアルが国を支配するといっていたのを聞いたんだった」
湊人の記憶では、最初に支配することをいってたのは、シーゼだった。自分の部下になれという内容の中でいっていた。もしかすると、シーゼは道化だったのかもしれない。
「侑里、もしかすると、シャルルさんも、その他の名もなき街の人も、シーゼのせいで、勘違いしていたのかもしれない」
「どういうこと? どうしてシーゼが関わってくるの?」
「侑里とレミは、シャルルさんから聞いたかもしれないけど、僕と零はその前にシーゼから、この国を支配するって聞いていたんだ。おそらくシーゼが、国を支配する、といいふらしていたのだと思う。それを踏まえてペナートさんがいっていたこと考えると、支配だと街の人たちが思うのも仕方がないことだと思う」
「それじゃあ、シーゼは目的も知らずに動いていたってこと?」
「もしくは、核となる部分は聞かされていなくて、勘違いしていたのかもしれないね」
「可哀想な人」
侑里が憐れんだ顔をすると、ペナートがふと笑った。
「きみたち、かなり強気なことをいうね。街の人に聞いた情報で、シーゼの力を測ったらダメだよ。ヤツは強いんだから」
「シーゼなら倒したぜ」
ペナートは耳を疑ったのか、零に訊き返した。
「え? いま、なんて」
「シーゼなら、フーリエで倒した」
「本当かい? 僕をからかってるんじゃないだろうな」
ペナートは四人の顔を見て、最初はうっすらと笑い、次第に笑い声をあげた。
「そうか、きみたちが、あのシーゼを倒したか。そりゃあ、すごい。頼もしい限りだよ。これで実力者は残り二人だ」
「どんな人なんですか?」
湊人が訊ねた。
「一人はロネという女性。緑の目をしていて、顔に斜めの切り傷がある。もう一人が、ビトリアルのボスであるオリガ。銀色の短髪、筋肉隆々、そして赤い目をしてる」
「能力とかは、わかっていないんですか?」
「僕は追われる身だったから、さすがにそこまでは、把握してない」
ペナートは首を横に振ったあと、思い出したかのようにいった。
「ところで、シーゼをどうやって倒したんだい?」
「僕の世界にも、能力というものがあるんです」
四人がそれぞれの能力を見せると、ペナートは子どものように目を輝かせてみていた。
「なるほど、相手の言葉から感情と真偽を知ることができる、と。だから、湊人くんは、僕が嘘をついているとわかったのか。それにしても、いいものを見せてもらった」
「あの、飴はまだ作っているんですか?」
侑里が心配した顔をして訊ねた。
「そのことなら心配しないでくれ。飴を生産する工場は、ビトリアルがダンダルシアを占拠する前に壊したよ」
「ああ、よかった。シャルルさんが飴の話をしてくれたときから、気になっていたんです。それともう一つ気になってることがあって、どうしてダンダルシアに両軍が本拠地を構えているんですか? たとえ、土地が広かったとしても、普通は同じ場所に構えたりしないと思うんですけど」
「侑里の言う通り、ダンダルシアは広い。そして、両軍が本拠地を構えるのには理由がある。ダンダルシアは、オブリヴィオンの心臓なんだ。政治、医療、食品、武器など、なんでもかんでも揃っている。だから、あそこを押さえておかなきゃいけないんだ」
ペナートは、ごったがえしている床から、紙と筆を拾い、簡略化した地図を書いた。
「今の陣取りはどうなっているのかわからないけど、初期では、ダンダルシアより半分から海側がビトリアルの陣地となっている。海からスエーで行けば、そう離れていない場所に、ダンダルシアの中で最も高いビルがある。そこがビトリアルの本拠地であり、ボスであるオリガがいる」
ペナートは、強調するように何度も筆で〇印を描いた。
「で、反乱軍は、自陣の中心部のビルに本拠地がある」
今度は×印を描いた。みんなが地図を眺めていると、零が訊いた。
「なあ、ちょっと話を戻してもいいか。ブラッドクライだけで、この国を消滅させることなんてできるのか?」
「もちろん、それだけでは不可能だよ。ブラッドクライは、最終兵器を稼働させるための動力源なんだ」
「最終兵器?」
「それは、サクリファイスと呼ばれてる。どちらも隣の国、ディフィートに安置されてる」
「それなら、隣国と協力して、ビトリアルを壊滅に追いやればいいじゃねーか」
「残念ながら、零くんがいった案は、実行することができない」
「なんでだよ。今いった方法が一番手っ取り早いだろ」
ペナートは困った顔をしてから、何度かうなずいた。
「僕に時間をくれないか。きみたちに、この国の歴史を話しておきたい。そうすれば、認識統一ができて、話しがしやすい。いいかい?」
四人がうなずくと、ペナートはこの国、オブリヴィオンの歴史を語り始めた。
昔、オブリヴィオン大陸とよばれた土地があった。だが、百年前に大地震が起こり、大陸の一部が裂けてしまった。孤立した土地は、大陸オブリヴィオンから船を出さなければならないほど、遠のいてしまった。
当初、孤立した土地にいた人は、大陸オブリヴィオンの一員として、意向に従っていた。だが、海に隔たれたことで、孤立した土地に個が生まれてしまったことで、独立を宣言すると同時に、その土地をディフィートと名をづけた。
このことを受けてオブリヴィオンは激怒した。すぐに宣言の撤回を要求するも、ディフィート側は受け入れなかった。
すぐにオブリヴィオンは攻撃を仕掛け、ディフィートを壊滅状態に追いやり、隷属させた。これでオブリヴィオン大陸に平和が戻ったかと思われた。
しかし、今から十年前、監視のために島に訪れていたオブリヴィオンの兵士たちを、ディフィートの人々は殺して隷属脱却と独立宣言した。さらに、オブリヴィオンを消滅させられるだけの最終兵器を建造したことを告げた。
それを受けて、オブリヴィオン大陸は、あっさりとディフィートの独立を認めた。それにより、オブリヴィオン大陸という名も破棄し、現在のオブリヴィオンという名になった。
しかし、これで終わるわけはなかった。
オブリヴィオンは、ディフィートにいるすべての人間を抹殺することを決めた。
殺られる前に殺る。
オブリヴィオン側は、ディフィートに軍を差し向け、船を出した。
両軍は、ディフィートの地で激突した、戦いは熾烈を極め、兵士として激突したのは、両軍合わせて数千人だった。
そして、戦いは終結した。オブリヴィオンに帰還したのは、嘘か真か、一名だったらしい。
その人について資料は残っていなかったが、味方を置き去りにして帰還したという記録だけは残っていた。
当時のディフィートは、死体の山が祭壇のように積み重なっていたらしい。
味方を置き去りにした者を非難するために、その戦いは、『裏切りの祭壇』と呼ばれている。
「ざっというとこんな歴史なんだ。だから、零くんがいった案は実行することができない」
「それなら、サクリファイスだけを破壊しに行けばいいじゃねーか」
「それは無理な話だよ。さっき説明した通り、海側はビトリアルが占拠している。船もすべて向こうの手の中なんだよ」
「反乱軍は、一隻も取り返せないのかよ」
「彼らは、名前こそ知っていても、どこにあるのかは知らない」
「は? なんで教えてねーんだよ」
「そんな暇なんてなかったんだ。あのときは、逃げるのに必死で」
「でも、どうしてペナートさんは、反乱軍の本拠地に留まっていなかったんですか? その方が安全だと思うんですが」
レミが訊ねた。
「反乱軍が壊滅して、僕まで捕まったら、どうしようもないからね。僕個人なら場を離れることもできるから」
「それじゃあ、ペナートさん。ブラッドクライのある場所を教えてくれませんか?」
唇に人差し指を当てて、話を聞いていた侑里がいった。
「僕も一緒にいくよ」
「それは、やめておいた方がいいんじゃないですか? ペナートさんが捕まれば一巻の終わりです」
「いや、僕が行かなければ、サクリファイスやブラッドクライを安置している場所には入れないんだ」
「どういうことですか?」
「誰にもいってなかったのだけど、ちょうどいい機会だから、きみたちだけには教えておこう。安置されている施設に入るには、僕の能力が必要だ。そして、誰にも奪われないように保険がかけてある」
どういう意味なのか、と四人がペナートに視線を送る。
「まず能力のことだけど。そうだな、きみたちのように、見せたほうが早いね」
ペナートは回収していたナイフを湊人に渡した。
「みんなに見えるように、手のひらにナイフを乗せて欲しい。僕が、はい、と合図するまで注目していて」
湊人は言われた通りにした。
「じゃあ、いくよ。はい」
その瞬間、湊人の手のひらに乗せてあったナイフが消えた。手品を見ているようだった。
「これが、僕の能力なんだ。ある程度離れた場所にある物を瞬間移動させることができる。部屋の構造が分かっていれば、ピンポイントで物を手元に呼び寄せることもできるんだ」
ペナートは見せびらかすように、手の中でナイフを回して見せた。
「この能力を活かして、安置されている施設の鍵は、施設内部に置いてある。だから誰も入ることはできない」
「そんなの扉を壊せばいいだけの話だろ?」
零が呆れたようにいった。
「その通り。だから、保険がかけてある。扉、壁、天井、地面からの侵入に対しては施設ごと爆弾によって吹き飛ぶようにしてあるんだ」
よほど鉄壁の守りなのだろう、ペナートの顔には自信に満ち溢れていた。
「だから僕を連れて行って欲しい。それに僕がきみたちを反乱軍の人に紹介した方が、話が早いだろ?」
四人はペナートの意見を受け入れ、さっそくダンダルシアへ向かうことにした。
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