第6話 現状

 具現化させた槍を消すと、零は両手を地面についた。


「零、だいじょうぶ?」


 駈け寄った湊人に、零は顔をあげて口端を吊り上げた。額から汗が吹き出し、頬を伝っていた。


「ああ、ちょっと本気だしたから、身体に荷重がかかってな」

「なにが、ちょっとよ。後半から本気そのものに見えたけど?」


 侑里は、ほっとした顔を見せ、そっと手を差し出した。

 零は、侑里の手につかまると、ゆっくりと立ち上がるが、よろめいていた。

 湊人は零の腕を自分の肩に回した。


「わりぃな」

「構わないよ。どこか休める場所を探さないとね」


 四人が歩き出そうと前を向くと、十字路に五人の男が一列に並び、手には銃器を持っていた。だが、それはビトリアルの兵士ではなく、フーリエの人たちのようだった。

 真ん中に立っていた細身の体形をした若い男が、こちらへやってきた。長い髪を後ろで縛り、疲労が溜まっているのだろう、頬がこけていた。


「きみたちを私たちの隠れ家に招待したい」

「あなたは?」

「私は、ガブリ。このフーリエの長です」


 青文字であることを確認すると、侑里とレミに確かであることを視線で伝えた。

侑里がうなずいたことを見てから、湊人は、招待してもらえることの感謝を述べた。


「こちらです」


 他の男たちは、四人と入れ替わるように、戦場を徘徊し始めた。


「あの人たちは?」

「彼らには、生存者の確認をしてもらっています。一番つらい役目ですが、一人でも救いたいといって志願してくれたんです。それにしても驚いた。きみたちのような若者が、シーゼを倒すとは」


 ガブリはあるビルの前に来ると、閉ざされたシャッターに手を伸ばした。そこには鍵がかかっておらず、簡単に開いた。

 そこには、棚だけが縦に並んでいた。しかし、そこに収められているものはなかった。


「ここになにが?」

「すぐにわかります」


 ガブリは、四人が建物の中に入ると、シャッターを閉めて、中央の棚に向かった。しゃがみ込み、床に手を伸ばした。何をしているのかと、近くに寄って見てみる。そこには爪がひっかかるぐらいの切れ込みがあった。

 そこをめくると、文字盤が出てきた。

 ガブリは手慣れた手つきで入力すると、一番奥の左端の棚が、音も立てずにスライドした。

 下へ降りる階段が現れた。


「足下に注意して降りてください」


 ガブリのあとに続くようにして、一歩ずつ進んでいく。

 階段を下り終わると、長い廊下が二手に分かれていた。


「こちらです」

「向こうには何があるんですか?」

「ここが最後の砦なので、向こうには罠しかありません。もちろん、こちら側にもありますが、それは我々の方で管理しているので、誤動作が無い限り、問題はないのでご心配なく」


 ガブリは軽快な足取りで、廊下を進んでいく。その途中にいくつもの鉄の扉があった。これらもすべて罠だという。


「かなり作り込まれてるんですね、ガブリさんが設計したんですか?」

「いいえ、これはペナートさんの設計です。元々、このビルの一階は、ペナートさんのものでして。なんでも、当時は地下に魅力を感じていたとかで。ペナートさんが家を引き払った際に、この地下を埋めてしまうのももったいないと思い、有事のときに使えるよう改造したんです」

「そうだったんですか」

「こちらです」


 そういって、ガブリは壁に歩き出した。まさかとは思ったが、そのまさかだった。

 壁をすり抜けた。

 唖然としていると、壁からガブリが首だけを出した。


「どうしたんですか? どうぞ、こちらです」

「この壁ってどうなってるのかなって」

「触ってみてください」


 言われるがまま壁を触ってみると、そこに硬さはなく、ジェルのような柔らかさだった。


「これも、ペナートの作品なんですよ。さあ、どうぞ」


 湊人は肩を貸している零と共に、壁に向かって歩いた。肌にひんやりとした触感が伝わってきたものの、濡れたり、べとついたりすることは一切なかった。

 振り返ってみると、こちらに来ようとする侑里とレミの姿が見えた。マジックミラーの役目も果たしていた。

 突き当りにくると、大きな鉄の扉が見えた。


「ここが、我々の隠れ家です」


 その先は、いくつもの洞窟があり、舗装された道が伸びていた。

 ガブリに案内されて一室に入ると、円卓があった。


「どうぞ、おかけください」


 四人が適当に座ると、ガブリが改めて挨拶をした。


「ようこそ、フーリエへ。そして、ありがとう。おかげでシーゼの脅威から逃れることができた。きみたちのおかげだ。今夜はこの地下でゆっくりしていって欲しい。これは、この地下の見取り図です」


 全体図は、まるで蟻の巣のようだった。


「持ち出しは厳禁です。部屋の前に一人、使いを置いておくので食事をしたいときは、彼にいってくれ。対応するようにいってある。できれば、きみたちから、色々と話を聞きたいのだが、私はこれから地上に残してきた四人と共に生存確認をしなければならない。きみたちの食事には顔を出すつもりだから、そのときによろしく頼む。慌ただしくて、すまないね。それじゃあ」


 そそくさと、ガブリは部屋を出て行った。


「ペナートさんのことは、食事のときに聞くしかないわね。それまでは、お言葉に甘えてゆっくりしようかな。湊人、何がある?」


 そういいながら、侑里が地図に視線を向ける。

 湊人は地図を眺めていると、目を見張るものがあった。それは、これまでの疲れを癒すには最適なものだった。


「この地下には、大浴場があるんだね」

「え、ほんと」


 侑里が食いついてきた。


「ほら、ここに」


 大浴場と書かれた場所を指し示すと、侑里は笑みをこぼした。


「レミちゃん、一緒にお風呂いこう」

「はい」

「湊人たちは、どうするの?」

「僕たちも一緒に行こうかな。隣は男子のようだから。零も行く? それともここで寝てる?」

「俺も、行く。女風呂の方に」

「湊人、零は置いていっていいんじゃない」


 侑里は、疲労困憊で身動きの取れない零の額をにじるように指を押し当てた。


「ちょ、やめろ。痛い、痛い」


 侑里が指を離すと、押されていた箇所が赤くなっていた。


「罰はこれくらいにして、それじゃあ、みんなで行きましょ」



                 ★ ★ ★



 レミは、制服を綺麗に畳み、棚に置いた。隣には脱いだ下着を置き、貸し出していたタオルで胸元を隠すようにして、すりガラスの戸を開けた。

 誰もいなかった。

 貸し切りだと、心躍らせつつ、簀子が敷かれている上を歩き、身体を洗うためにシャワーのもとへ移動した。

 蛇口をひねり、髪を濡らしていると、遅れて侑里がやってきた。


「貸し切りだね。まさか、異世界にきてお風呂に入れるなんて思ってもみなかったわ」


 タオルで隠すことなく、さらけだしたそのスタイルは、レミの目を釘付けにした。制服の上からでも、スタイルがいいのはわかっていたが、脱いだ姿は、もっとすごかった。出すところ出し、引き締めるところは、きゅっと引き締まっている。艶めかしい曲線を描いていた。

 思わず、レミは自分の体形に視線を落した。なぜ、自分はあんな風に、成れないのだろうか。


「レミちゃん、どうかした?」

「あ、いえ。私も、まさかお風呂に入れるなんて」

「だよねー」


 それからしばらく、会話はなかった。レミにとって、それは気まずいことではなかった。自分も頭を洗うときは黙っていることが多かった。シャワーの音で、相手が何をいったのか、聞き取れないことがあるからだ。

 レミは頭を洗い終えて、泡立てたタオルで身体を洗おうとすると、侑里が話しかけてきた。


「私が背中を洗ってあげる」

「えっ、大丈夫ですよ」

「親睦を深めるってことで」

「そういうことなら、お願いします」


 レミがタオルを手渡すと、侑里は椅子から立ち上がり、レミの背に回った。

 優しい手つきで背を洗いながら、侑里がいった。


「レミちゃんって水色が好きなの?」

「何でですか」

「下着の色が水色だったから。この色だけと決めて買う友達がいるからさ。レミちゃんはどうなんだろうと思って」

「いえ、別に。水色だったのは偶然です」

「そうなんだ」

「侑里さんは、何色なんですか?」

「黒だね」

「く、黒ですか」

「履いたことがないのなら、履いてみたら。レミちゃんなら似合うと思うよ」

「そうですか」


 少しの間を置いて、レミが訊ねた。


「侑里さんって、どうして、そのそんなにスタイルがいいんですか?」

「んー、なんでだろう。ちゃんと早く寝てたからかなあ。もしかしたら、食生活がよかったのかもしれない。レミちゃん、気にしてるの?」

「ええ、まあ」

「小ぶりもいいと思うんだけどなあ。そっちの方が好きって人もたくさんいるよ?」


 そういってすぐ、侑里は何かに気づいたような顔をした。


「もしかして、レミちゃん、好きな人がいるんでしょ。それで、おっきい方が好みだとか、そういう話を聞いて」

「あ、いえ、違うんです。単純に気になっただけです」

「ほんとに? レミちゃんは違う世界に住んでいるんだしさ。ほんとのことを教えてよ、ね?」

「ほんとに、気になっただけです」

「ええー、レミちゃんの恋愛事情を聞きたかったなあ」

「侑里さん、今度は私が背中を流しますよ」


 レミは自分の身体についた泡を洗い流してから、侑里の背に回った。


「今度は、私が聞いてもいいですか」

「いいよ」

「侑里さんは、彼氏もしくは、誰か好きな人がいますか?」

「ええ、それってズルくない」

「私はほんとにいないので、仕方がないんです。今後の参考のために教えてください」

「もう、仕方がないなあ。レミちゃんとは世界が違うから、特別に教えてあげる。私ね、いま気になってる人が二人いるんだ」

「二人……もしかして、湊人さんと零さんですか?」


 侑里は耳を赤くしつつも、首を縦に振った。


「心境は、今はどっちの方に偏ってるんですか?」

「んー、湊人の方かなあ。優しいし、私は反対だったけど、ランクを上げようと努力している姿が格好いい。それに、零と違って余計なことをいわないから。だけど」


 なにか思うところがあるのか、侑里は言葉を詰まらせた。


「湊人さんに不満な点があるんですか?」

「ほら、湊人の個性って、相手の言葉から真偽や感情を受け止めるでしょ。だから、相手の感情に当てられていないか、心が壊れないか心配になるんだよね」


 レミは侑里の背を流し終え、タオルを手渡した。


「あ、先に入ってていいよ」


 侑里の言葉に甘え、レミは、湯船に足を入れて肩まで一気に浸かった。

 気持ちいい。疲れが身体から湯に流れ出ているような気がした。一息ついていると、隣に侑里がきた。


「あの、零さんについては、どう思ってるんですか?」

「そうだねえ。零はAランクだし、シーゼのときに見せた強さは、格好よかった。ただ、やっぱりどこか抜けてるんだよね。それに冗談ばっかりいうし。レミちゃんは、どっちがタイプなの?」

「私は、零さんの方です」

「うそ、レミちゃんのような静かなタイプは、私と一緒で湊人だと思ったんだけどなあ。ひょっとして、一緒だから遠慮した?」

「いえ、そんなことないです」

「それじゃあ、レミちゃんは零のどこがいいの?」

「たしかに、侑里さんが指摘した部分は感じることがあります。でも、会って日も浅いので、何とも表現できないんですけど、頼りになるなあと思うんです」

「なるほどねえ。いいたいことは、なんとなくだけどわかるなあ。それじゃあ、湊人を選ばなかったのは?」

「いい人ではあるんですけど、近寄りがたい存在なんですよね。抽象的でごめんなさい」

「ううん、別にいいよ。レミちゃんとこうして、ゆっくり話せてよかった」

「私も、侑里さんのことを聞けてよかったです」



                 ★ ★ ★


 

 湊人は湯船に浸かりながら、浴槽の縁に頭を添えて、天井を眺めていた。心に何の感情も沸かず、ただただ放心状態だった。湯という魔力の前には、何もかもが洗い流されてしまう。


「気持ちいいなあ」


 死に体だった零も、湯に浸かったことで少しずつ、いつものように口数が戻ってきた。


「いまごろ、侑里たちは何の話をしてるんだろうな」

「んー、侑里は真面目だから、今後のことを、シーゼがいっていたことを考えてるんじゃないかなあ」


 大浴場に来るまでの道のりで、湊人は三人に、シーゼがいっていたことの真偽について話をしていた。


「ペナートを見つけないと俺は殺される、か。それが青文字だったってことは、ビトリアルのやつらも宝石を狙ってるってことか」

「どうだろう。これまで何度かペナートさんの発明に遭遇してきたけど、どれも魅力的だったから、そっちの方を求めているかもしれないよ。新しい武器を作らせようとしているとか」

「なるほど」

「それに気がかりなのが」

「俺は殺される、とシーゼがいったことか?」

「うん。シーゼは、僕たちが考えていたような決して弱いヤツじゃなかった。Aランクの上の上ほどの実力を持っていたと、僕は思うのだけど、実際に戦ってみてどうだった?」


 湊人は天井から零に顔を向けた。


「認めたくはねえが、あいつは強かった。まあ、本気を出したら実力に差ができたけどな」

「あのときの零ってもしかして」

「ああ、Sランクだ」


 それは規定には存在しないランクだった。Sランクになれる者など滅多にいないのだ。


「そんな切り札があるのなら、事前に教えてくれてもよかったと思うんだけど」

「つい最近、能力値が上がってさ、まだ自分のものになってなかったから、いいたくなかったんだよ。見ての通り、身体への反動がでかくて、短時間しか使えねーし。それにしても、湊人の思っているように、今後はちとヤバいかもしれねーな」

「シーゼがAランクで殺されるといったんだから、必然的に次はSランクが現れてもおかしくはない。そうなったら」


 おもむろに上体を起こし、不安げな顔をする湊人に対して、零は笑い飛ばした。


「おいおい、心配するなって。俺の強さを見ただろ。Sランクでいる状態が短時間でも、その時間内で敵を倒せれば何の問題ねーよ」

「それは、そうだけど」


 零は起き上がり、湊人に向き直った。


「まだ何か不安があるのか? 俺が負けるとでも」

「違う。僕は、零が心配なんだ。Sランク以上の敵がどれだけいるかわからない。それなのにこれから先、身体に負担のかかるSランクへの引き上げを何度もしていくとなると、とてもじゃないけど身体が保てないんじゃないかって」

「そんなのお前が心配することじゃねーよ」

「心配することだよ!」

「急にどうした。そんなに声を荒げて。らしくねーぞ」

「零、きみのプライドの高さは知っている。だけどこれだけは、いわせてもらいたい。無理をしないで欲しい。今は元気にしてるけど、一回目であれだけの疲弊だったんだ。この先は連戦が続かもしれない。そのときは、僕に頼って欲しい」


 湊人は零の顔を見据えていった。自分と敵の実力差はわかっていた。それでも頼って欲しかった。いつも自分を守ってくれる友人の負担を減らせるのなら、たとえ、苦痛が待っていたとしても。


「湊人、ありがとう。気持ちは受け取っておく。けど、連戦が続いたとしても、俺は迷わずSランクに引き上げる」

「どうして?」

「俺たちの世界で起きた戦と同じだ。立ちはだかる敵は、なぎ倒して進んでいく。それが俺のやり方だ」


 心に確固たる意志が、力強い波動となって伝わってきた。これ以上、何か口にするのは野暮だった。

 湊人は静かにうなずくしかなかった。



                 ★ ★ ★


 

 四人は、最初に案内された部屋で夕食を摂っていた。

 文字通りの食べ物が出てこないことは承知していたので、さほど違和感を覚えることがなくなった。この国の体質に適応しつつあるのだろう。

 そのなかでも、湊人が驚いた食べ物は、見た目は梅干しなのに、味が蜂蜜だったことだった。

 そんな猟奇的な食事を終えたころに、ガブリが部屋にやってきた。上座に着くと、四人の表情を確かめるように訊ねた。


「今日の料理は、どうでしたか?」

「美味しかったです」


 侑里は満面の笑みで応えたが、赤文字だった。


「それはよかった。フーリエにとって、きみたちは命の恩人であり、大切なお客様だ。すでにフーリエには、きみたちのことが広まっている。ここに来る途中に何度も、英雄たちを泊めている部屋を教えて欲しいと迫られました。混乱を招く恐れがあったので、黙っておきましたが。ところで、私の方から二点だけ、質問があります」

「答えられることなら、答えますよ」


 湊人がいった。


「そうですか、それはありがたいです。では、まず一つ目。きみたちの力について訊きたい。もしかして、あの飴が影響しているのかどうか、それとも、自力で強くなったのかを。今後のために」

「僕たちは、そもそも前提が違うんです」


 湊人がいった。マロウのときのように嘘をつくもりはなかった。

ありのままを話す、と全員で決めていた。

 自分たちをわかってもらうことが、重要だと考えたからだった。


「というと?」

「僕たちは、異界から来たんです」


 ガブリは驚きもせず、平然とうなずいていた。


「そうですか。なら、この質問は聞かなかったことにしてください」

「気にならないんですか?」

「あなた方の素性などに、私は興味がない。シーゼを倒し、フーリエを救った。この事実だけで充分です。二つ目の質問は、どうしてこのフーリエに?」


 この質問には、侑里が答えた。


「それは、ペナートさんが、この都市にいると聞いていたので」

「そうでしたか。ここからは、私がみなさんの問いに答えます。ペナートさんは、三日前にフーリエを出て行きました」

「何でですか? ここなら安全なんじゃ」

「理由まではわかりません。ダンダルシアの方角へ歩いていったので、そっちに何かしら用があるのかもしれません。他に質問はありませんか」

「ダンダルシアは、ここからどれくらいの距離があるんですか?」


 レミが、わざわざ挙手してから訊ねた。

 だが、挙手してしまうのも、わからないでもなかった。この部屋のテーブルは円卓、ガブリの話し方もあるが、この雰囲気が、プレゼンの質疑応答に似ているのだ。


「ダンダルシアまでには、歩いて七時間ぐらいですね。スエーを使えば三時間ぐらいで着きますよ」

「私たち、スエーを持っていないんです」

「そういうと思ったので、こちらで準備しています」

「ほんとですか」

「ええ、ビトリアルが使っていたスエーを回収し、現在は修復させています」

「ありがとうございます」

「いえいえ、私たちも、微力ながら手伝いをしたいので」


 ダブリは力強くいい、笑みを浮かべた。

 その表情は、湊人には不気味に見えた。彼は嘘はいっていない。ただ、心に伝わってくる感情に濁りを感じた。


「あの、ガブリさんは、ビトリアルについて何か知りませんか?」


 再び、侑里が訊ねた。


「まだ、都市の人たちには伝えてはいませんが、この国の終焉は近いです。ほんの二日前の夕刻に、ダンダルシアに本拠地を構える両軍が、反乱軍とビトリアルが衝突したんです。結果、反乱軍が敗走したとか。ですので、私の一回目の質問で力について訊ねたわけです」

「二日前といえば、私たちがちょうどこの世界に来たときですね」


 レミの言葉で、湊人はあることを思い出した。


「ひょっとしたら、あのときシーゼが戦いを中断したのは、招集をかけられたからかも」

「ありえる話だな」


 そういって零がうなずいた。


「ガブリさんは、今後、フーリエをどうしていくつもりですか?」


 三度、侑里が訊ねた。


「今回の戦いで、多くの人を亡くしました。これ以上、討って出ても犬死にすることは必至なので、現状維持しかないですね。ただ、一つだけ希望があります。それは、キミたちです。シーゼを倒したキミたちなら、この危機を回避できるのではないかと思っています。 どうか、この国を救ってください」


 ガブリは席から立ち上がり、深々と頭を下げた。

 その姿に、湊人は三人に目を向けた。このガブリの姿は、三人にどう映っているのだろうか。深々と頭を下げているものの、内心では、自分たちをビトリアルにぶつけようと考えているが読みとれた。

 それもそのはず、湊人の心に伝わってきたのは、自己保険だけだった。

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