71話 射程圏内だぜ
スーからの連絡が途絶えた。というか……たぶんスマホの電源を切ったな。
「リーナ、急げ。間違いなく宣戦布告してくるぞ。スーが勝とうが負けようがな」
「分かりました」
「ライア、数では明らかに負けてるが……どうにかなるか? あれ」
「勝てないと言っている場合ではないですし、勝てないならそもそも喧嘩を売ったりしていません」
自信満々の顔をするライア。まあ……こいつがそう言うなら大丈夫だろう。
「……勝てるでしょうか、スーさんは」
「分からん、が……まあ大丈夫だろう」
スーの実力は、I2E
情報はさっきのを録画しておいた。これを解析すればいいだろう。
「ライア、部隊の編制とかその辺の相談はギルとやってくれ。俺はさっきの映像を解析して機兵の総数を類推する。それと技術局に行ってくる。さっきのフルールの設計図を見て少し思ったことがあるんだ」
「かしこまりました。どうするおつもりで?」
「――ワンオフ機だよ」
第二世代機兵は、簡単なチューンを繰り返してはいるが基本的なことはずっと変わっていない。というか変えられない。
だったらいっそ――後付けでもなんでもいいが、使う本人に一番使いやすいチューンを施すべきだろう。
無論、今までの機体もそうしてあるんだが……今回は一味違う。この前から考えていたことなんだがな。
「ワンオフ機? どのようなもので?」
「特別な改造を施すって感じだ。お前がよく防壁を張っているだろう? あれをギルの機体にも付けられないかと思ってな。……I2E
「……なるほど、確かに機兵は質が戦場の動きを左右します。それはいいアイデアでしょう」
「ああ。リグルがいないなら諦めていたところだが……第二世代機兵には出来ないがI2E
リグルが来てくれたから出来る芸当だ。本当に仲間にしていてよかったと言える。
I2E鉱石がどれほど余っているか分からないが、ギルのぶんくらいはあるだろう。
俺はもう一度スーの無事を祈りながら作業に戻った。
~~~~~~~~~~~~~~~
あれから何時間経っただろうか。いや、実際には何分かしか経っていなかったのかもしれない。スーの無事を願いながら俺は戦争に向けて諸々の準備をしていたところで、スマホに連絡があった。
「スー!?」
俺はすぐにスマホを開くと、電話に出る。
「スー! 無事か!」
『あー……やっと繋がったわ。ったく、ワシが潜入してなかったらこの兄ちゃん死んでたぞ』
――この、声。
「おま……エド!?」
しかしスマホの向こうから聞こえてきたのはスーの声ではなくエドの声だった。
「スーとコレットは無事か!?」
『ああ。ったく、最近の若いやつは元気だな。1人倒してたぞこいつら。ま、ワシが若い頃はもっとすごかったがな』
豪快な笑い声。取りあえず二人は無事だと聞いて俺はホッとする。というか、やっぱり一人は倒したのか……ってことは、
「もう一人いたのか。
『ん? ああ、あいつらでみすっつーのか。ワシが来た時にはほぼ相打ちみてーになってて……桁違いにつええ奴が二人を殺そうとしてたからな。ワシが割って入ったんだよ』
「すまん、助かった」
取りあえずエドに礼を言う。あの二人が無事ならデータだって正確な物をもらえるだろう。
「スーに代わってくれないか?」
『そりゃキツイだろうな。こいつらまだ目、覚ましてねぇから』
「そ、そうか」
『そろそろミラのところに辿り着く。そしたらこいつらをミラに渡してワシの仕事はお終いだ。……それにしても、あんなにヤベェのがいるとはな』
エドが少し感心したような声を出す。
「どうしたんだ?」
『いや……倒せなかったんだよ。逃げられた』
「なっ!?」
あのライアと同格に強いというエドが……逃がした、逃げられただって!?
だってこいつ、第二世代機兵を単独で撃破できるって言ってたじゃねえか。そんな人外とやり合って逃げ切っただと?
「嘘だろ……?」
『いや、嘘じゃねぇ。ワシはかなり全力で戦ったんだがな』
「マジかよ……エド、どうする? もうみんなにバラシて戻ってくるか?」
『バカ言うな。ワシはそんなヤワな気持ちで表舞台から姿を消したわけじゃねえぜ』
「そうか」
そう言うなら仕方がない。
『う……』
その時、後ろからスーのうめき声が聞こえた。どうやら、スーが目覚めたらしい。
そのことにホッとしつつ俺はエドに、スーに代わってもらうように言う。
『うぅ……ゆ、ユーヤ殿。申し訳ないでござる……相打ちにでござった』
「生きてるだけで十分だ。すぐに帰還しろ」
『ですがまだ第一世代機兵が……』
「いや、もう仕方ない。潜入がばれた以上オルレアン王国が攻め込んでくるのはすぐだろうからな。早く戻って体勢を立て直さないと」
ライネル王国は山に囲まれているからすぐに侵攻してくることは無いだろうが……それでも、やっぱりスーの情報はすぐさま欲しい。
「スー、コレットは無事か?」
『まだ目は覚ましていないでござるが、目立った外傷は殆ど無いでござる。ちなみに、なんとかI2E
「でかした。それだけでも十分すぎる」
それをギルの機兵の武装に回せるからな。
『ではこれを持って帰還したいと思うでござる……ところで、拙者たちを担いでいるこちらの方は何者でござるか?』
「ん? あー……まあ味方だ」
テキトーなことを言ってごまかす。というか前国王の顔くらい知らんのかな。
『いや、フードかぶってて凄く怪しいんでござるが……』
こそこそと無音声で言うスー。ああ、そうかフードで顔と髪を隠してるのか。髪が銀だってのが分かったらスーは分かるからな。こいつが王族の関係者だって。
「それ本人に言ってやれよ」
まあキャラ的に悲しまないだろうけどさ。
エドがメンタルを傷つけられて悲しんでる姿は想像つかない。というかエドが傷ついてる姿が想像できない。
「味方であることは間違いないよ。……それも、とびっきりのな」
『そうでござるか。ユーヤ殿がそう言うのなら安心でござるな。……もっとも、拙者もコレット殿もそれなりに体重があるはずなのに米のように担がれて拙者の全力疾走よりも速く走られると人間なのか怪しいところでござるが』
何やってんだよエド。
「まあ人外だからな。ライアとかリグルとかと同じ系統だ」
『ああ、化け物でござるか』
『聞こえてるぞユーヤ』
なんだ、聞こえてたのか。
『おい、ユーヤ。そろそろ着くからワシはまた姿をくらます。今回は……あと一手だけ手を出せると思うが、いつになるか分からん。あまりワシを頼りにするなよ?』
「大丈夫だ。こっちはこっちでパワーアップしてる。I2E
『……なかなかやるじゃねぇか。分かった、じゃあなユーヤ』
ドサッと何かを降ろす音がして――たぶんスーとコレットが放り投げられた――エドの声が遠ざかっていった。
やれやれ、神出鬼没なのはいいことだが……もう少し手助けを分かるタイミングでしてくれるとありがたいんだが。
『あー……ユーヤ殿』
「おう、スー。取り合えず無事で何より。ミラと合流してからすぐに戻ってきてくれ。さっき迎えを手配したから、合流場所は計画3のところだ」
『了解でござる。……やっぱり時間は無いでござるか』
「ああ、急ぎだ。たぶん明日には向こうは使者を出してくるだろうからな」
『……かしこまりましたでござる』
「じゃあ頼むぞ」
俺はそう言って電話を切る。ああ、良かった。
ホッとしたら腹が減ってしまったので、何か無いものかとキッチンへ行ってみる。
「ん……?」
こんな遅い時間なのに、誰かがいるらしい。
「よう、こんな遅くまで仕事をしていたのか――ってギルか」
「おお、ユーヤ殿であるか。奇遇であるな」
相変わらずむさくるしいおっさんだが、その笑顔は爽やかだ。しかしその眼の下にはクマが出来ている。……やっぱこいつも根をつめてるな。
「あまり根をつめすぎるなよ?」
「ははは。ぶっ倒れかけたユーヤ殿に言われるのはなんとも変な感じであるな。私はまだ一徹目であるから余裕はあるのである」
軍人だけあって体力には自信があるらしい。一徹くらいじゃ平気と言うか。
ギルが持っているのは今夜の軍で出たご飯の残り。そんなもんよく残ってたなあの年中腹ペコ軍団に出されたものだったのに。
「いや、私は夕飯を食べる暇が無かったのであるよ。だからこれは私の分である」
「そういうことか。……足りるか?」
「ふっ……愚問であるな」
そうカッコつけたギルは顎髭を撫でながら俺にキメ顔を向けてきた。
「当然足りないのである!」
「ダメじゃねぇか」
溜息を一つ。なんか余ってる食材があるだろうか。
「ギル、料理は?」
「恥ずかしながら……私はずっと軍の寮で暮らしているので自炊をした経験が無いのである」
「マジか。お前だいぶ高給をもらってただろ」
「私はこの国に命をささげると決めたのである。伴侶もいなければ趣味も無いのである。だから特に金を使う必要も広い部屋もいらないから引っ越していないのである」
こいつ根っからの仕事人間だな……というか結婚くらいしたらいいのに。
「お前、いくつだっけ」
「私は今年で35である。もうこの年になってしまうとさすがに彼女とかの歳でもないであるからな……」
あ、一応女っけは気にしてたんだな。
「昔はいい仲の女性はいたんであるが……私が仕事に熱中している間に逃げられてしまって……」
ヤバい、地雷だった。
「ま、まあ別に女が人生の全てじゃないしな」
「アンジェリーナ陛下といい仲なのはどこのどなたでしたかな?」
やっべなんかさらに地雷いった気がする。
「えーとその……」
「まあ、いいんであるよ私は……この国のために生きてこの国のために死ぬのである……」
ヤバい目からハイライトが失われて行っている……。
「しかも昔付き合っていた女性が子供を産んだらしくてであるな……」
ダメだ、現代日本だったらFacebookで見て絶望する奴だ……。
ああ、ギルの顔がどんよりと曇っていく。こんな顔は滅多に見たことないぞ……。
「ま、まあそれは置いておいてだな」
必殺、話しをそらすの術。
俺は言い忘れていた案件を言うことにする。
「そうそう、お前の機兵を試作型として武装を追加することにした」
「……今、であるか?」
少し険の籠った声を出すギル。ああ、そうかこいつ軍人だから信頼性の薄い武器なんて使いたいわけが無いか……。
とはいえ、I2E
「あー……まあ、嫌なのはわかるがなんせ扱いの難しい武器だ。お前くらいしか使いこなせそうにも無いんだ」
「だったら次の戦争からでもよいのではないのであるか? 今、その武装を追加して故障でも起きたらどうするつもりであるか?」
「だがしかし、今回は兵力に差がありすぎる。その差を埋めるにはある程度の賭けは必要だろ? 兵力差はそっちに情報としていってるだろ」
「むぅ……」
押し黙るギル。プロであるギルから見てもあの兵力の差はこうして押し黙るくらいのレベルなんだろう。
「分かってると思うが俺とミラは15分間しか本気でやれないぞ」
「そうではあるが……分かったのである」
溜息とともに頷くギル。割とあっさりだな。
「……私はこの国を護るためにいるのである。たしかにあの兵力差は圧倒的であるからな……それに、私が強くなれるならそれに越したことは無いのである。とはいえ危険なことに代わりはないのであるからなるべく使いたくはないのであるがな」
やる前から「最後の手段」を欲するレベルでは機兵の数に差がある。
ライアが「勝てる」って言っていたから俺は割と楽観視していたが……前線に立って戦うのは俺だけじゃないからな。
やっぱりギルは、その辺をいろいろまわしてくれてるんだろう。
現場の兵士たちの不満とか。
その……クマ、なんだろうな。
「そうか……すまん、ありがとう」
ギルに礼の意味を込めて余っていたご飯で握り飯をいくつか作る。
「足りんかもしれんが。後で俺が料理長に謝っとくよ」
「かたじけないのである。ユーヤ殿もあまり根をつめないようにするのである」
「ああ」
ギルの気遣われた笑顔を見て、俺ももう少し頑張ろうという気になる。
さて――こっからが真の戦いだ。
「待ってろよオルレアン王国」
お前らは俺の――射程圏内だぜ。
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