68話 愛する者たちのため

 試し撃ちを終えて、汗を拭く。だいぶ練習していたな。

 手元にあるI2E武装ウェポンをみる。


(これは……なぁ)


 物凄い威力だ。そして何故か、持っていると体が軽い気がする。身体能力が少し向上するのかもしれない。


亜人デミスマンは、あの改造された身体に加えてこのI2E武装ウェポンを持っていたわけか……そりゃあ強いわけだ」


 苦笑いしながら、クルリと手に持っているロギヌをまわす。取りあえず、これから俺の相棒になってくれる武器だ。大事にしていかないとな。


「ああ、悪い。スーを知らないか?」


「スティアさんならば先ほどあちらの修練場に」


「そうか、ありがとう」


 俺はその辺にいた使用人の一人に話かけてスーの居場所を聞いてから、修練場に向かう。あいつがあそこにいるとかなかなか珍しいな。

 そこに着くと……


「スー、そんでミラ。……なんでお前らがここに」


「ミラ殿に呼ばれたんでござるよ」


 ミラに?

 俺がミラの方を見ると、肩をすくめられた。ああ、ミラはもう作戦の内容を知っているのか。


「二人いるならちょうどいい。さっきライアが考案した作戦を伝える」


 俺はスーとミラに作戦の内容を伝える。


「……それは、とても重大な任務でござるな」


 噛みしめるように言うスー。


「心配するな。今、リグルが通信できる機械を作っている。何かあったらすぐに助けを向かわせるし――何より」


 ミラの方をちらりと見てから、スーの肩を叩く。


「ミラもいる。二人なら何とかなるだろ」


 そう言いながらも、俺が不安なんだ。当事者のスーはもっと大きな不安に襲われていることだろう。

 とはいえライアが立てた作戦は有効なものであることは認めざるを得ない。今俺たちの中で戦闘能力があり、かつ自由に動ける男はスーを置いて他にはいない。

 それと、スーは、妙なカリスマがある。このミラとの共同ミッションを通じて暗殺小隊みたいなのを組ませる練習にもなるだろう。無論、そんなことのためだけに命をかけさせるわけはないが。

 スーは……少し、思いつめた表情をしている。

 それもそうか。


(死ねって言っているようなもんだからな……)


 スーは今のところ人事なんかの仕事をしてもらっていた。つまり、知っているのだ。オルレアン王国に行ったスパイがほとんど帰ってこれていないということを。

 しかし、それでも敵戦力――第一世代機兵の詳細、および第二世代機兵の正確な数は知らないとまずい。

 オルレアン王国はI2E鉱石の世界的産出国ということはこの世界では有名だ。当然、他の国が狙ってくることもこれまでよくあった。しかしそれでも国を護り切っていたという事実は確かな実力があるということが分かる。

 世界でも有数の戦力を持つ国家。それがオルレアン王国なのだ。


「知っていると思うが……」


「ええ。機兵に関連する情報を集めている間者がすべて排除されていることは知っているでござる」


「そう、だからこそ――機兵に関する情報が欲しいんだ」


 機兵に関する情報は、持っているのと持っていないのとでは戦争での有利不利がえらく違う。うちの数倍はいると言われている第二世代機兵だが、実際は何機なんだろうか。

 第一世代機兵についても気になる。ライネル王国にはゴクウとムサシの二機だが、果たしてオルレアン王国の第一世代機兵はどんな機体なのか。

 ……よく考えたら一機だけとも限らないのか、第一世代機兵の数は。


「なんなら、拙者一人でもよいんでござるよ? ……ミラ殿は貴重な第一世代機兵を操縦できる方でござろう?」


 ミラの方をちらりと見てからスーは自嘲気味に唇をゆがめる。そんなスーに向かって、俺は正論を言う事しかできない。


「そういうわけにもいかないだろう。お前もミラも――さすがに一人じゃ亜人デミスマンに囲まれたら突破出来ない。あれの中には最低でも四人の亜人デミスマンがいるんだぞ」


「……そうでござるな」


 正論というのは、正しい。そして人間、正しいことにはなかなか言い返せない。

 スーが言っていることは分かっている。


(スー……お前は、捨て石じゃない)


 けれど、俺がどう思おうと、どう言おうと――スーを捨て石にするような扱いをしているのは間違いない。

 だからどう言葉を取り繕っても無駄だ。それなら、行動で示すしかない。


「以上だ。……取りあえず、これから任務までの間暇を取らせる。レジーのところへ行ってこい。あんまり思いつめられても困るからな」


「それはどういうことでござるか?」


「簡単な話だ。二~三日かかるんだよ、リグルが作る通信機が完成するのが。発信側だけじゃなくて受信側にも必要だからな。詳細は書面で追って伝える」


 俺はそれだけ言うと、鍛練場から出ようと踵を返す。しかし、その肩をスーに掴まれた。


「ユーヤ殿」


「……なんだ?」


 俺が振り返ると、スーが先ほどまでとは打って変わって自信に満ち溢れた表情をしていた。

 そのことに驚くと、スーはニッと笑って俺の方へ拳を突き出してきた。


「拙者を舐め過ぎでござるよ」


「そんなことは――」


「作戦の変更をライア殿に要求してくるでござる。内部に潜入するのは拙者一人だけ。ミラ殿には拙者の逃亡の手引きをしてもらうでござる」


 スーが突拍子もないことを言いだしたので、俺はガシッとスーの両肩を掴んだ。


「何言ってるんだ、そんな危険な真似――」


 ――させられるはずないだろ、そう言いかけたところでスーは首を横に振った。


「ユーヤ殿、中途半端でござるよ」


 強い口調のスー。


「ミラ殿を危険な目には出来るだけ合わせることが出来ない。しかし、連れていけるのは拙者とミラ殿のみ――ならば、拙者が内部に潜入し情報を奪い、そのままミラ殿に準備してもらって逃げる方がよほど確実でござる」


「……そうだろうか」


 考えてみるけど、俺には少しわかりかねる。ただ、そちらの方がミラの危険が少ないことはよくわかる。

 だから、スーはこう言いたいんだろう。

 やるんなら、徹底的にやれ、と。


「中途半端か……」


「そうでござるよ。中途半端に拙者のことを守るからそうなるんでござる。拙者はI2E武装ウェポンを手に入れて強くなった。修行も欠かしてはござらん。なのに守られる――戦わねばならない時に中途半端に踏み込めないなど、いつ拙者は戦うんでござるか」


 強い決意に満ちた眼。俺はこいつの覚悟を見誤っていたのかもしれない。


「この国が落とされたらレジーは、子供たちはどうなるんでござるか。拙者は愛する者たちのため、死ぬ気で戦う覚悟でござるよ」


 愛する者たちのため、か――


(一番、強くなる言葉だな)


 そんな言葉を臆面もなく言えるスーのことを尊敬する。

 だけど、そんなことは口が裂けても言えない。だから俺は肩をすくめて嘯く。


「国のため、って嘘でも言っていいんだぜ?」


「上司であるユーヤ殿がそもそも護国のためではなくアンジェリーナ国王陛下のために戦っているのでござろう? ユーヤ殿に言われたくはないでござるよ」


 ニヤリと笑って、俺は指でピストルの形を作った。


「何言ってんだ。リーナはこの国の主君だぜ? 主君のために戦うのはこの国のために戦うことと同義だろう」


 そして「BANG!」とスーの胸に指を突き付けた。


「ライアには自分で言いに行け。その結果を報告したら作戦開始まで休暇だ」


「畏まりましたでござる」


 恭しく礼をするスーをしり目に、俺は鍛練場を出た。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「さて」


 俺は鍛練場を出た後、一人で機兵の訓練場に来ていた。……久々にムサシで訓練しようと思って。


「みんなと訓練する時は退役機じゃないと相手にならないからな……」


 だいぶ他の兵も強くはなってきたんだが、それでもまだまだだ。ギルの指揮があってやっとというところだろう。

 ムサシに乗り込み、起動させる。


「訓練と言っても、敵がいないのが寂しいが」


 まずは刀を振る。水平に斬った後に縦に振るう。さらにその流れで一度転がって攻撃後の硬直をキャンセル、立ち上がると同時に踏み込んで刀を下から斬り上げる。

 さらにコンボを消さないように突き、そのまま縦に斬って横に転がり、立ちあがると同時に横に斬る。斬った方向に移動しながら右下から斬り上げた。

 突き、横に斬って縦から振り下ろす。さらに降り降ろされた刀を斬り上げる。そして横に刀を振るって一度転がった。


「ふぅ……」


 中は水平を保っているとはいえ、メインカメラに映る映像はグルグル回る。俺は乗り物酔いをしない性質だからいいが、そうじゃなかったらこれは目をまわしていただろうな。

 こういう部分がWRBと違うところだが……まあ、もう慣れた。

 さらに刀を振り上げたところで、下に人影があることに気づいた。


『リグルか、どうした?』


 俺が問いかけると、リグルは手メガホンをして大きな声で「降りてこい」と叫んだ。


(……なんなんだろう)


 俺は少し不思議に思いながらも、降りてリグルのところへ行く。


「どうした、リグル」


 リグルはいつもの表情――ではなく、何故か無表情で話しかけてた。


「凄いですねー、なんであんな動き出来るんですかー」


「ん?」


 ……この口調、どこかで聞いたことあるぞ。

 念のため、俺はロギヌを抜いてから構える。


「何の用だ、コレット」


「……あはは、敵だと思ったら即銃を抜くんですねー。さすがですー」


「とぼけるな、何の用だ」


「別にこれといった用はー。強いて言うなら信用させるためですかねー」


 何を言っているんだ、こいつは。

 意図が読めずに、首を傾げていると後ろからライアが出てきた。


「そのことに関しては私から説明を。……と言っても、特に説明はありませんが。彼女とは契約を交わしまして、正式に私どもの部下として加えることになりました」


「お前の判断か?」


「最終判断を仰ごうと思いまして、こちらへ連れてきた次第であります」


「リグルに変身していたのは……」


「単純に、廊下を歩いていても怪しまれない人で且つあまり出歩かない人であればだれでもよかったんですが」


「そうか」


 まあいいか、と納得してから俺はコレットに向き直る。


「取りあえず、変身を解け」


「服はどうしますかー? 脱いで踊りましょうかー?」


「……着てろ」


 リグルの声、リグルの顔でそんな冗談を言われると怖気が走る。

 コレットが粒子的なのにつつまれて変身を解いた。……相変わらず小さいな、この女は。以前とは服装が違い、うちの兵の服になっているが……この無表情は変わらないようだ。

 コレットの冗談に呆れてため息をつきつつ、質問を始める。


「で? なんで俺たちに協力するというか、部下になるんだ?」


「単純な話ですー。ライアさんがオルレアン王国を潰してくれると聞いたのでー。そしてオルレアン王国が潰れたら働き口が無くなるわけですからー、ここに雇ってもらえたら死ぬことも無いですしー」


 コレットの言葉に嘘は無い。無表情だから分かりにくいが、真実のみを言っていることは分かる。


「分かっていると思うが、お前は裏切者なわけだ。他国を裏切ってうちについた以上、それなりの扱いであることは理解しているな?」


「はいー。でもわたしが変身能力を持っていることはー、ライネル王国のあなた方だけですよー? それだけでも有用だと思いませんかー?」


「……何?」


 コレットの表情、声音、どれをとっても嘘は無い。ライアの顔を見ると、いつものニコニコ顔だが……これが、話の肝か。


「どうです? 彼女の言葉に嘘はありますか?」


「無い。……まさかと思うが」


「そうですよー。この能力を知った人は全員殺していますー。この能力を知っているのは、ユーヤさん、ライアさん、その他王家直属特別兵の皆さんだけですー」


 なるほど。

 それは確かに信用に値する言葉かもしれない。


「私が変身していてもー、どうもライアさんにはバレてしまうようなのでー」


 恨めしそうな顔を作るコレット。ライアもその言葉を受けていつもの笑みを深める。


「なので、私の直属の部下とすることにしました。よろしいですか?」


「ああ、もちろんだ」


 制御できるならこれほど有用な能力も無い。


「さて……オルレアン王国を崩しにかかるか」


 俺はムサシを見上げながら決意するのであった。

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