第三章 オルレアン王国との戦い
63話 王家直属特別兵会議
「失礼します! ……おや、私が最後だったのであるか」
最後に入ってきたギルが、少し申し訳なさそうな顔をして俺たちを見た。
……ふむ、別にそう遅刻ってわけじゃないんだがな。
「いや、今ようやく俺も来たところなんだ。やっとリーナへの謁見許可が出たからみんなを待とうと思ったら殆ど揃っていて少し残念だったよ」
俺はそう言ってみんなの方を見回す。ミラはリーナの部屋にいるだろうからここにはおらず、ライアとスーと……そして王家直属特別兵ではないが、連れてこられたリグルがいる。
「それで……お話とは、なんであるか?」
「それはリーナのところでリーナにも一緒に聞かせる。……とはいえ、お前も薄々感づいているだろ?」
「ええ」
ギルが頷いたので、俺は自分の仕事部屋からみんなを連れてリーナの部屋まで行く。
「リーナ、入るぞ」
「はい」
リーナは、どうやら書類を全て片付け終わっていたらしい。ミラが人数分の紅茶を用意して待っていた。
「正式に謁見許可をとって来たという事は……ユーヤ、大変なことが起きているようですね」
リーナは、かなり真剣なまなざしで俺の方を見つめてくるので、俺は頷いてからソファに座る。
「ああ、大変というか、面倒というか。……お前のところにも報告は届いてるだろうから、前提は確認程度で話を進めるぞ」
「オルレアン王国のことですね?」
「ああ。どうにも厄介なことになりそうだ」
俺はみんなにも座るように言い、改めて場を仕切り直す。
俺の隣にライア、その隣にリグル。
そして向かいにはスーとギルが座り、リーナの横にはミラが立っている。
「さて……まず、みんなも知っての通り、先日俺とスー、そしてそこにいるリグルが、オルレアン王国の刺客から襲われた。オルレアン王国であることは間違いないが、捕虜からの言質は獲れていないからこちらから攻め込むことは出来ない」
「ちなみに、現在の捕虜は二名で、そのうち一人は亜人と書いてデミスマンと呼ばれている、改造人間でござり、魔魂石を使う武器で拙者とユーヤ殿を襲ってきたでござる」
スーが補足してくれたので、俺はそれに続けて説明する。
「さらに、もう一人はオルレアン王国風に言うならデミス、うちの国で言うなら魔気の力で異能を使ってきた。具体的に言うなら、一目見た人間の姿かたちを模倣する能力を持っていた」
コピーマンという名称は分からないだろうから、ふつうに説明した。そして、この英語に関することが――今回の肝なんだよな。
「そして、さらに――その、
「なるほど……では、どうやって撃退したんであるか?」
「俺は炸裂弾を持っていたからな。アレが無かったらまず勝てなかっただろう。……しかし、攻撃力自体は『身体能力が高い人間』程度の強さだから、その火力を用意できれば一般兵でも十分対処は可能だろうな」
「つまり、武装によっては倒すことが可能ということですね、ユーヤ」
リーナのセリフに頷き、俺はリグルを見る。
「そんなわけで――リグルには、小型で火力のある武装を依頼したい。アレが何人来るかは分からないが……市街戦に本来機兵は投入すべきじゃないからな。こちらも同じような改造人間……は、少し倫理的にマズいから、強化外骨格の製作が出来るのなら今後研究していこうと思う」
「ふむ、まあよいじゃろう。ワシはなるべく誰でも扱えるが、それでいて機兵を貫くような威力のある武器を用意すればよいのじゃろう?」
「ああ、そうしてくれると助かる。できれば、魔魂石を使わない武器をな」
「当然じゃ」
リグルが協力的なのは助かる。今後もこいつに頼ることになりそうだからな。魔魂石を使わない武器だったとしても、こいつの科学力はそうとうなものだから、こちらのリクエストにも対応してくれるだろう。
仮面ラ○ダーみたいな……そういう強化スーツが作れたら、制圧戦で優位に立てそうなものだしな。
「そして、さらに……相手は、魔魂石を使用した武器を使ってきた。俺とスーが交戦したが、やはり威力は凄まじかった。ただ……」
俺が言葉を続けようとしたら、リグルが「フン」と鼻を鳴らして、ふんぞり返って腕を組んだ。
「あんなもん、ワシから言わせてみれば非効率も非効率じゃ。奴らは魔魂石の表層からほんの少しエネルギーを取り出しているにすぎん。しかも、制御も何もない、ただ破壊力だけの物品。あの程度じゃ脅威には成りえん。スーでもユーヤでも、ワシの作った武器を使えばそもそも苦戦すらせんわ」
……職人の目から見ると、アレはそんな非効率な代物なのか。確かに、制御できているというよりは破壊をまき散らすものでしかなかったけどさ。
「お主も、戦ったのならばわかるじゃろ。そうとう燃費が悪かったんじゃないか?」
そう言われて考えてみれば……確かに、だいぶ勝負を焦っていたような気がする。
「本来の力の出し方をすれば、どんなものも半永久的に使うことが可能なのが魔魂石の力じゃ。事実、第一世代機兵を除けばどの機兵も動力源切れにはならんじゃろう」
「言われてみれば……GR20は、動かなくなったりしないな。動かなくなったらどうやって回復させるのかわからなくて困っていたが」
「アレはワシが作ったんじゃ。動かなくなるなんてことはありえんよ」
ヒラヒラと手を振って首を横に振るリグル。なるほど……本来の魔魂石とはそういう代物だったんだな。
「一度に一気に力を使おうとすると、一度動力源が枯渇する。それが、第一世代機兵が強大な出力を持つ代わりに、活動制限がある理由じゃ。しかし、活動制限があっていいのなら、他の力でも代用出来なくはない。ちと難しいがの」
ふむ、なるほど。
「しかし――しっかりと出力を調整すれば、そこまで力が枯渇することは無い。どうも、ワシがその出力を調整することによって魔魂石の強大な力を小さな物品に閉じ込めておるが、オルレアン王国の作ったものは……意図的に暴走させることによって、超常の力を制御しているようじゃな。お主らも……そうじゃな、もしもピンと張ってある縄の上を歩こうと思ったら、どうする?」
唐突だな。ピンと張った縄の上……要するに、綱渡りか。まあ、ふつうはゆっくりと進むような。
「普通に歩けばよいのでは? そうですよね、ユーヤ」
「そうですね、私もそう思います」
「リーナ、ライア。お前らの常識が人間に通用すると思わないでくれ。……まあ、ふつうはゆっくり歩くだろうな。一歩一歩、慎重に」
俺がそう言うと、ギルもスーも頷いた。もちろん、リグルも。
「そうじゃろう、しかし、もう一つあるじゃろう? ゆっくり慎重に歩くのと」
もう一つ? ゆっくり慎重に歩く以外なら……ふむ。
「縄から落ちる前にその縄を渡り切るために……めちゃくちゃ急ぐ」
「その通り。つまり、凄くゆっくり歩くか、落ちる前に素早くわたり切るか。そして、もしも後者の場合はとても大変じゃな。ワシがやっていることは、先ほどライアやエドの娘が言ったように、バランスを完璧にしてゆっくりだろうと急いでだろうと、わたり切れるようにすることじゃ。しかし、それが出来ないのでどちらかをとったんじゃろう、オルレアン王国は。わたり切ることは無理でも……」
「なるべく終着点に向かえるように、素早く縄の上を移動する、と。落ちる――動かなくなることを前提で」
「そうなんじゃろうな。ちなみに、デミスマンというのは前者の技術が使われておったな。出力を最低限にして、長く使えるようにしたものじゃ」
アレで出力が最低限かよ。アイツ、地面に穴開けてなかったっけ。……ああいや、そうか。よく考えたら第二世代機兵の出力はそんなもんじゃないか。そう考えたら、アレで出力が少ないとも言えなくはないのか。
「そんなわけで、アレはそこまで脅威でもなかろう。単体で来ても、武装さえしっかりしていれば、問題あるまい。アレで怖いのは……」
「ああ、東西南北の砦で暴れられることだな」
リグルの言葉を受けて、俺は言う。この国は、山に囲まれているんだが――一応、東西南北に、砦を配置している。天然の砦である山などの部分ではなく、一応交易が出来るようになっている部分にだが。
「砦を壊すくらいなら、容易でしょう。そして、どこかの砦に我々の戦力を集中させて――」
「別方向から、第二世代機兵で乗り込んでくる、か。まあ……単純な手だが、効果的だよな」
誰でも考えることではあるが、効果的なのは間違いない。もっとも、その辺もライアなら相手の考えを読み切ってくれるだろうが。
俺はそう思いながら……これからの本題のために、コホンと一つ咳ばらいをする。
「というわけで、これ以外の共有事項は資料に目を通してもらうとして……ここからが本題なんだ。……ただ、一つ言わせてくれ」
俺は立ち上がり、リーナの方を見る。
「俺は、この国のため――というよりも、リーナ個人に忠誠を誓っている。そして、その気持ちに偽りがないことは皆信じてくれ。誓おう、俺はこの国のために命を賭して戦うと」
「突然、どうしましたか? ユーヤさん」
ライアの目は……俺が今から言おうとしていることを分かっているような顔だな。まったく、ニコニコとした笑顔が逆にイラつくぜ。
それはさておき……俺は、意を決して、口を開く。
「Take my tip-don’t shoot it at people, unless you get to be a better shot」
俺の唐突な英語に、ライアを除いた全員が、キョトンとした顔をする。だからなんでライアは驚いてねぇんだよ。
ライアは放っておくとして、俺はさらに口を開く。
「今のは、俺の元いた国――ここではない、行くことも来ることも困難な国で使われていた言語だ。ちなみに、今言った言葉は『撃っていいのは、撃たれる覚悟のある者だけだ』って意味になる」
俺が元いた国、と言ってライア以外の顔が驚愕の色に染まる。
「その……ユーヤ殿、は……ライネル王国人では、無いのでござるか……?」
「――ああ」
スーの言葉に肯定で返す。ここにいる人間なら、そうそうバッシングが来ないとは思うが……それでも、人間は『自分とは異なるもの』を排除したがる人間だ。元から知っているリーナや、なんとなく感づかれているライアはさておいて、他の皆にはどういう反応されるだろうか。
かなり――ドキドキしながらみんなの言葉を待っていると、スーがガタリと立ち上がって、俺の方へと歩いてきた。
「ユーヤ殿――」
その眼は伏せられていて、俺の方からは見えない。だから、怒っているのか、困惑なのか、それとも――もっと、他の感情なのか、それが見えない。
俺が何を言われようとも、動じないように、覚悟を決める。男らしくないが、最悪の場合はリーナが俺を認めているんだと言って、開き直ることすら視野にいれてスーの言葉を待っていると、パッと尊敬のまなざしを向けられた。
……え?
「さすがでござる! ユーヤ殿!」
なんでやねん。
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