第62話 成長の証

「はっはっは、まあ、ワシにとってはお主とエドとサニーくらいしか友人がおらんからの。それ以外のやつらはみんなワシの発明したものにしか目がくらんでおらん。疑り深くなるのも当然じゃろう」


 そして再び笑い合う。いや、何を和んでるんだテメェら。

 二人は旧交を温め合うように、さらに話を続ける。


「しかし、ライア。お主はまだ腕は衰えちゃおらんようじゃの。さすがは我がライバルじゃ」


「そういうあなたは、少し反応速度が落ちたのではありませんか? 昔のよりも、『殺戮の武器庫』の展開速度が遅くなったように感じましたが」


 なんだよ、『殺戮の武器庫』って。名前が恐ろしすぎるんだが。


「ぬ、そうだったか? ふむ……ああ、この前改良を加えてな。その時に一度に出せる物の量を多くしたんじゃが、その際に多少展開速度が遅くなってしまったのかもしれぬの」


「0.02秒遅かったかと」


 そんな一瞬、誤差だろ。


「ふむ、そんなにか……また改良が必要なようじゃ」


 頭イカレテルのかこいつら。

 こいつらに話させていてもらちが明かないと思った俺はやっとこさ戦いが終わったので、二人の方へ向かう。


「また今度は本気でやりあいたいのう」


「そうですね、たまには本気でやらないと体がなまってしまいますから。どこか適当な空き地を見つけて、サニーとエドとも一緒にやりあいたいものですね」


「そうじゃな」


 こ、こいつら……アレで本気じゃねえっていうのかよ。

 もうこいつらに常識を期待するのは諦め、俺は話しかける。


「あー……取りあえず、ライア。いいか?」


「おや、これはすみません、ユーヤさん。私としたことが、つい夢中になってしまいました」


「そうか」


 いつも通りの笑顔を向けるライア。この笑顔、殴りたい。


「それと、リグル。取りあえず、話の続きをいいか?」


「よいぞ。しかし、疑ってすまなかったの、ユーヤとやら。本物のライアが言っておるんじゃ、エドから言伝でお主に武器を作ってくれと言うのも本当なんじゃろう」


「できれば、次からは戦い以外の方法で確認して欲しいものだがな」


 俺はぼやきながら、改めてリグルを見る。


「はっはっは。すまんの。ところで、お主の主武装はなんじゃ? おそらく銃のようじゃが」


 豪快に笑って流された。もういいや。

 俺は懐からΣを抜いて、リグルに見せる。


「その通り、俺は主に銃で戦っている。一応、嗜みレベルではあるが棒術と、剣も扱えないことは無い。それと、体術も」


「体術は天ノ気式戦場活殺術の初段レベルはありますね」


 ライアが補足してくれる。


「ふむ……その銃の腕前はどんなもんじゃ?」


 興味深げにΣを覗き込んでくるリグル。どうも、俺の武装が気になるらしい。この世界に来てからずっと死線を潜ってきている銃だから愛着もあるので(元は誰の物か分からんけどな)、Σの性能を見せるためにも少し気合を入れる。

 一度Σを肩の下に着けているホルスターにしまい、懐から一枚のコインを取り出す。


「お前らみたいな人外の後で腕前を見せるのは恐縮なんだがな……」


 そう言って、コインを指ではじいて宙に放り投げる。

 チィン……と澄んだ音が響くと同時に、俺は懐からΣをクイックドローして、腰だめにして撃ち抜く。

 しかしそれだけでは終わらない。弾丸によって弾かれた不規則に飛ぶコインに、さらにもう一発。右側に弾かれたコインにさらに一発。今度は真上に弾かれたコインに、もう一発。

 最後に、二発同時に撃って、一発目でコインを二発目の弾丸が当たるように弾いて……コインが、結果的に俺の手元に戻ってきた。


「ま、曲芸の範囲は出ないけどよ」


 コインをキャッチして、リグルの方に少し得意げな顔を向ける。初めてやったにしては、だいぶ上手くいった。こっちに来て毎日毎日射撃の練習をしていた甲斐があったな。

 スーとライアはぱちぱちと拍手していて、リグルも感心そうに俺の銃を見ている。……職人としては、そちらの性能の方が気になりますか。いやまあ、俺も驚くほどこれは性能がいいけどさ。

 正味、前の世界でシューヤが俺に渡したシューヤ製の拳銃と遜色ない性能だ。


「どうだ? リグル。これでも物足りないか?」


「まあ、及第点といったところじゃろう。ワシが作る武器も、これなら操れそうじゃ」


 よかった、認めてもらえたようだ。

 俺はそのことにホッと胸をなでおろし、Σをホルスターにしまう。

 ……よく考えたら、たぶんだけどリグルがさっきたくさんの銃を出したりしていたのは魔魂石によってだよな。魔魂石のエネルギーってのはそうまでのことが出来るのか。

 どんな武器を作ってもらえるだろうか。

 なんて俺は作ってもらえる武器を少し夢想していると、リグルはスーの方を向いた。


「いい目をするようになったのぅ、小僧」


「守るものと、仕える人が出来たでござるから。以前までの拙者ではござらん」


「そうか。では、見せてみよ」


 そう言って、リグルは構えた。それに応じるようにスーも両手にナイフを展開する。リグルの雰囲気は、先ほどライアとやりあっていた時のようなものではなく、あくまで稽古をつけてやろう、というような感じだ。

 それじゃあ、スーに食われるぞ――?


「行くでござる」


「来い」


 スーはまず両手のナイフを投げつける。その数、全部で八本。それらがすべて急所に向かって飛んでいく。

 しかし、リグルはそれらをすべて叩き落し、一歩でスーまでの距離を詰めると、裏拳でスーの顎を狙う。

 のけぞって躱しつつ、スーは低くリグルの懐にもぐりこむ。上手い、リグルは裏拳で体勢を崩しているし、あの角度ならばリグルも認識しづらい。

 俺が心の中でガッツポーズをしていると……そこは、化け物。一筋縄ではいかない。裏拳の勢いをそのまま利用し、一気に体を逆方向にもっていき、スーの攻撃範囲から外れる。

 しかしスーも負けてはいない。いつの間にか懐から出していたナイフを、リグルの逃げた方向に三本も投げる。

 リグルは体勢を立て直しつつ、それらを全て躱してしまう。なんて動きだ。

 さらにリグルは地面の砂を巻き上げてスーに肉薄して――肝臓を狙った一撃。


「ガハッ!」


 スーもさすがにガードしきれず喰らってしまったが、後ろに飛んでその衝撃を上手く逃がす。


「なかなかやりますね、スーさんも」


「お前ら化け物と比べる方が間違っているんだ。アイツはそうとう強いぞ」


 ライアのつぶやきに応えると、ライアは笑みを少し深めて俺の方を向いた。


「ということは、スーさんに一度勝っているあなたは相当強いと、そう仰りたいんですか?」


「誰がそんなこと言った。俺は別に修行も何もしていない一般人だぞ。射撃の腕前には多少自信があるが、こと戦闘力に関しちゃ一般人の域を出るかよ」


「さようですか」


 何やら面白そうな顔をしているライアを見て少し不快感を覚えたが、どうせこいつが腹に一物抱えていることはいつものことなんだろうと思ってそれを流す。

 なんてやっているうちにどうも、スーとリグルの戦いにも決着がついていたみたいだ。スーが尻餅をついて、リグルが少しホッとした顔をしている。


「なかなかやるようになりおったの、小僧」


「ありがとうございますで……ござる」


「もう小僧とは呼べんのう。さて、お主らの実力も大体把握した。どんな武装を作るかは分からぬが、取りあえず待っておれ。その依頼、受けようではないか」


 ニヤリと笑うリグルの顔を見て、ああ、こいつは根っから職人なんだな、ということが分かる。職人というか、モノを作ることを生業としているというか。

 そういう人種は、決まってこういう顔をするんだよな……何かを作ろうという時の、心底楽しいという顔。

 楽しそうで何よりだよ。


「それと、何やら面白いものを鹵獲したんじゃろう? それの研究も手伝わせんかい」


「ああ、こちらからお願いしたいところだ。しかし、そうなると城都の方に来てもらうことになるぞ?」


「構わん。どうせワシの工房を直す間はどこかに居を移さねばならんと思っておったところじゃ。どうせ動かすためにはワシの車がいるじゃろうから、お主らにも手伝ってもらうがの」


 車……ああ、GR20なんてモンを作った人間だ。車を作るのくらいは朝飯前か。


「分かった。その辺のことにかかる費用はこっちで受け持つ。だから……王家直属特別兵にならないか?」


 無理だとは思うが、一応勧誘してみる。キャラ的に不可能だろうがな。

 リグルは少し検討するような表情を見せたが、すぐに首を振った。


「ワシのことをライアやエドから聞いておらんか? ワシの力はワシの趣味で振るわれるものじゃ。ワシが協力したいと思った相手には協力するが、そうでない場合は権力じゃろうと何がこようとワシは作らん。本気で言っておるんじゃったら武器を作るのも取りやめようかと思ったが、ダメ元で言ったようじゃから今回は見逃してやろう」


 ……どうやら、機嫌を損ねるギリギリのところだったらしい。

 俺はため息をついて、リグルに握手を求める。


「ああ、すまなかった。では、前王の友人として、ライアの友人として、俺たちに協力してくれ」


「うむ、わかった」


 ガシッと握られた手は……死ぬほど痛かった。





 さて、それらの出来事から数日。リグルの工房も城都へ越してきて、俺は相変わらずライアからしごきを受けていた。


「っ痛ぅ……」


「やれやれ、今からこれじゃ先が思いやられますよ? ユーヤさん」


「うるせえ」


 俺は痛む体に鞭を打って立ち上がる。

 ……なんていうか、少しずつ動きを掴めてきた感じがするな。

 動きの無駄がなくなっていく感じだ。洗練されていくというか。

 懐からゴム弾を装填しているΣを取り出し、もう一度構える。


「さて、やろうぜ、ライア。続きだ」


「いいでしょう」


 そう言って、ライアがまた死ぬほど捉えづらい動きでこちらに接近してこようとした時に――


「報告でござる!」


 ――バン! と訓練室の扉が開け放たれて、スーが中に入ってきた。


「ん? どうした、スー」


「先ほど、捕虜であるコレットが使っていた武器や、さらに彼女が亜力デミスと呼んでいた力等の解析が完了したので、ご報告に参ったのでござる」


「――そうか」


 俺とライアの間に、ピリッとした緊張感が走る。

 当然だが、どの国かは検討が付いている。この辺の隣国で、うちに敵対してきそうな国なんてのはあそこくらいのもんだからな。


「で、どこの国の技術だった」


「オルレアン王国で、ござる」


「……やっぱり、な」


 これで、確定だな。

 オルレアン王国は、俺たちの国に喧嘩を吹っ掛けてきている。こっちが城都の再興が完全にすんでいないタイミングで俺を殺しに来たんだから、当然だろうけどよ。


「オルレアン王国に忍ばせている間者の報告だと、向こうはまだ戦争準備が完了してないってことだったが……」


「どうも、あのアンガーと同様の魔改造人間――向こうの呼び方では、亜人デミスマンらしいでござるが――を複数製作することに成功した故に、このような強気な攻めが出来るようでござる」


「あのクラスの化け物が……あと複数体残ってるってことか。アレは正直、一般兵を何人突っ込んでも、火力負けするからな。機兵で倒しに行くしかないだろうが……それらが全部市街地で暴れられたら、マズそうだな。というか、デミスマン?」


 俺が問い返すと、スーはこくりと頷いた。


「亜人、と書いてデミスマンと呼ぶようでござる。そして、どうやら……その亜人デミスマンたちは、オルレアン王国の中で極秘裏に制作されていたものを、革命軍側が盗み出し、使う……という表現が正しいのかは分からないでござるが、それこそ市街地で――機兵の使えない場所でアレを複数体投入して一気に制圧するという形でオルレアン王国自体を奪取していたようでござる」


「つまり……オルレアン王国の革命の際、機兵は登場していないと?」


 ライアが問い返すが、俺の反応したところはそこじゃない。

 ――英語が、出てきただと……?


「そういうことになるでござるな」


 俺は動揺を表に出さないようにして、ライアに意見を求める。


「ライア、どう見る?」


 俺がライアに尋ねると、ライアはふむと顎に手を当てて、少し考えるような仕草をした。


「俺は……今回、機兵の出番が無いんじゃないかと思うんだが」


「そうですね。彼らはゲリラ戦を挑んでくるでしょう。あのレベルの人間を複数体投入するような……ゲリラ戦を」


 だろうな。

 俺は頭が痛くなるような感じがしつつ、銃を仕舞ってスーの方を見る。


「全王家直属特別兵に伝令。全員、直ちに俺の仕事部屋に集合! 俺はリーナに謁見許可をとってくる!」


「かしこまりましたでござる! ……それと、朗報でござるよ?」


「なんだ?」


 俺が訊き返すと、スーはニヤリと笑った。


「ユーヤ殿の武装が完成したとの報も届いたでござる」


 俺の専用武装が――。

 ニヤリと笑って、さらにスーに指示を加える。


「リグルも招集してくれ。勿論、俺の武装を持ってな」


「かしこまりましたでござる!」


 勇んで外へ出ていくスーを見送って、俺はライアに声をかける。


「行くか、ライア」


「畏まりました、ユーヤさん」


 英語、改造人間、等々……面倒なことが多くなってきたな。

 さて――忙しくなりそうだ。




 第二章、完

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