第57話 VSアンガー
敵の使っている、炎の魔斧。アレは間違いなく魔魂石由来の武器だろう。じゃなきゃ、あんなに異常な炎を何もない場所から出せたりしないはずだ。
俺は銃口をアンガーに向けて、スーと背中合わせになる。
「さて、お前のその斧……強そうだな、俺の国に持ち帰って研究材料にするぜ」
「アァ? くだらねえこと言ってんじゃねえぞ。いいからとっとと、かかってこいよ!」
そうアンガーが叫んだ瞬間、またもどでかい火柱が奴の頭上に現れる。
「チッ!」
「ッ!」
俺はΣで、スーは得意の投げナイフでアンガーの急所を狙う。
――が、
「無駄だァッ!」
炎がアンガーの周りを渦巻き、俺たちの攻撃が消滅させられてしまった。
「熱っ!」
しかも、その余波というか余熱(?)というかで、俺たちの髪が焦がされる。
というか、弾丸もナイフも一瞬で溶かされた……なんていう高熱だ。こんなん、機兵にでも乗ってないと無理だぞ、戦うなんて。少なくとも、鉄の融点なんかはあっさりと越えてるわけだからな。
しかし、今……何故、炎に驚いて無防備になった俺たちに追撃を加えなかったんだろうか? そうすれば簡単に殺せたと思うんだが。
そんな思いを抱きながら、Σをさらに連射するが、それらもすべて溶かされる。しかし、これもまた溶かすだけ。……ふむ、そういうことか。
とはいえ、なんだこの最悪の武器は。リアルで炎と対峙するとは思わなかったぞ。
「スー」
「ユーヤ殿……」
「短剣を使うのはやめとけ、スー。俺の残弾と違って、お前の短剣はそんなに数が無いだろ」
「……そうでござるが」
「オラぁ! 行くぜェ!」
もう一度、轟! と火柱が上がる。
「チッ、スー! 躱せ!」
「しかしそうするとレジーが!」
そうだった、今シスターは俺たちの後ろに……ッ!
「ブッ潰れろ!」
目の前に迫る火柱――どうにか、出来ないかっ!?
俺が一瞬のうちに頭を回転させて――もう、半ばヤケクソでGR20の方へ近寄る。
(魔魂石を使う武器に対抗するんなら、魔魂石を使ったこれしかねえ!)
俺は片腕だけでエンジンを起動させる。GR20は起動と同時にトップスピードが出せる。これで躱す!
「スー! お前は自力で躱せ!」
「無茶言わないで欲しいでござる!」
意識を失っているシスターを片腕で担ぎ上げ、なんとか炎の柱を躱す。
「ハッ! なかなかやるじゃねえか!」
「な、なんでござるかこの威力は! そしてその速度は!」
この回避は、そう何度も使えないな。死ぬほどのGがかかる。というか、シスターがいると邪魔で俺もスーも全力で戦えないな。
そんなことを考えていると、さすがに異常な加速過ぎたのか、シスターが「うう」と唸ってから、目を覚ました。
「ここ、は……ぁっ!」
「無理すんな。……と、言いたいところだが、無理してでもいいから即行で逃げろ。走れ」
俺は若干乱暴にも思えるが、エンジンを付けたまま、GR20からシスターを降ろす。
「え? え?」
「早く!」
「は、はい!」
「スー! 彼女を安全な場所まで逃がせ!」
「そうはいかせねえぜ!」
俺がスーに指示を飛ばして、さらにアンガーの足止めをしようとΣを撃つが、それらを意に介さずスーに向かって炎を向ける。
しかし、スーも戦闘慣れしているのが見て取れる。咄嗟に木の陰に隠れ、炎の持続時間が切れるのを待って、うまくやり過ごした。さすがに炎の持続時間が短いことには気づいているな。
さっき、長く持続するならば、弾丸を燃やし尽くすついでに俺たちを炎で巻くことも出来たのに、それをしなかったからな。
「レジー! 逃げるでござる!」
そのままシスターを走らせて、自分はこちらへ戻ってくるスー。俺はシスターと一緒に逃げろって意味で言ったんだがな。
まあ、戻ってきてしまったものは仕方がない。だったら、最大限戦ってもらうだけだ。
「どうする?」
「拙者は指示に従うでござるよ」
というか、シスターの方は逃がせたけど、背を向けた瞬間燃やし尽くされそうだ。いくら炎が出ている時間が短いとはいえ、目を離したらやられる。
「ありきたりだが、スーと俺、左右からツッコむぞ。たぶん、出来る」
「相談は終わったか!?」
またも、デカい火柱。俺は右から、スーは左からその火柱を躱すようにして距離を詰める。
しかし、敵もさるもの、俺たちの行動から、瞬時に振り下ろしから切り替え、薙ぎ払ってきやがった。
心の中で舌打ちしつつ、跳躍してやっとのことで致命傷だけは避ける。ある程度服が焦げてしまったのはしょうがない。
燃えかけた上着はバッと脱ぎ去り、アンダーシャツのみとなる。シューヤ製のコレ、本当に有能だな。全く燃えてない。耐火性まであるのかよ。
スーの方はと言うと、普通に躱して体勢を立て直している。ふむ、身の軽さは期待以上だな。
「スー! 今だ、行け!」
しかも、炎を出してすぐだから、連続で炎は出せないはず。いや、むしろ出せたとしても、そこまでの間隔を図ることで、今後の情報収集にもなる。ここは、攻め一択だ。
俺が言うまでも無かったのか、スーは俺が言う前に走り出していた。
「ッ!」
目にもとまらぬ早業で、数えるのが面倒なほどのナイフを投げる。おい、何本あるんだそれ。
しかし、アンガーは、それらを読んだのか、自らに迫るそれらを、炎でなく普通に斧を楯にして弾く。くそ、ふつうに阻まれるな。
だが、そこに俺はΣの三連射で追撃を加える。
「ちょろちょろとメンドクセェ!」
――が、それはアンガーの周りに巻いた炎が溶かしてしまう。
「ユーヤ殿!」
「スー、大丈夫か!?」
わざと焦ったような声を出しつつ、俺は冷静に考える。
……連続で出すには、せいぜい二秒必要なようだな。
残弾は……まだ、30発くらいは残っている。ずっと連射していれば、炎の壁を破れるだろうか。
いや、それは無謀だろう。それで残弾が尽きたら、いよいよ詰む。
「連続で出すには二秒、そして出している間の持続時間は1秒ってところか」
これだけ聞くと、大したことが無いように聞こえる。
しかし、近接戦闘中の一秒はでかいし、まして弾丸を溶かすような高温だ。なぶられただけでも致命傷を負う。
しかも、スーの投げナイフを受け止めたところから、純粋に戦闘スキルもかなり高いと予想される。
……これは、炎の斧を抜きにしても大分厄介な相手だぞ。
銃口を向けながら、脳を回転させる。
(もしもの時のために持ってきた炸裂弾があることにはあるが……)
弾数は2発。しかし、この炸裂弾が炸裂する前に溶かされてしまっては元も子も無い。いや、炎にさらされたら爆発するか。だったら、撃つ隙さえ作れれば何とかなる。
どうにかして、動きを止めたいところだが……
落とし穴でも掘るか? いや、そんな時間ねえよ。
「スー、なんかほかに隠しワザとか無いのか?」
「拙者に使えるのは、習った武術と、暗器技術くらいしかないでござる」
「――なら、仕方ねえな。隙を作ってくれ、俺がアイツに一発かます」
PISを出して、俺は炸裂弾を装填する。ミラとの訓練で筋力は多少ついたが、さすがにΣのように取りまわせるものでもない。しかも、炎に阻まれなくても、躱されてしまっては意味が無い。Σの弾丸すら今のところ当たってないんだからな。
「何か策があるでござるか?」
「デカい威力の弾丸がある。これで息の根を止める」
「――分かったでござる」
スーは落ちていたナイフを拾っていたのか、いつの間にかナイフが彼の手に再装填されている。こいつのナイフの腕前もかなり素晴らしいものだからか、アンガーの方もどちらかというとスーの方を警戒しつつ戦っているように見える。まあ、そっちの方が、都合がいいからいいんだが。
スーがナイフを投擲すると、やはりアンガーはそれを炎で溶解させて迎撃しようとしてくる。
が――そのタイミングを狙って俺がΣで銃撃すると、アンガーは炎を俺の弾丸に向け、迎撃してから、スーのナイフを斧で防御している。
……もしかして、炎そのものを操れているわけじゃないのか? 炎そのものを操っているんだとしたら、今のはナイフと弾丸を同時に溶かしてしまえばすんだわけだから。いや、さっき体を巻いていた。……ということは、炎を出す時に、すでに炎の軌道を決めてから放出するパターンと、斧と連動して動くパターンの二つの出し方があるのかもしれない。便利と言えば便利だが……ふむ、あの斧、見た目ほど怖い武器じゃないかもしれないぞ?
むしろ、それを扱っているアンガーの方が凄まじいな。弾丸にも的確に対処しているし、スーの投げナイフもガードしている。しかも、もしも炎を最初に設定した軌道でじゃないと斧と連動して動かさないといけないとするならば、俺たちの攻撃を読んで軌道の設定をしていることになる。
というかそもそも、あの重量のありそうな斧をぶんぶん振り回せている時点で、怪力も相当なものだしな。
「スー! 右から周りこめ!」
「承知!」
スーに指示を飛ばすことで、一瞬俺の方に注意を向けてから、俺はバックステップで弾丸を入れ替える。
アンガーの方は、俺よりもスーの方を危険視しているからか、すぐさま俺からは意識を逸らしてスーに正対する。
今だ――!
(くらえっ!)
スーの方に顔が向いた瞬間、俺はまずΣを三連射で放つ。狙いは、肩だ。
「ハァッハァーっ!」
しかし、それを読めていたとばかりに、全て炎で迎撃するアンガー。しかも、今度は斧を動かしていない。チッ、あらかじめ起動として設定していたのか?
そして、振りかぶった斧を、スーに向ける――が、俺の銃が、三連射しかできないと思ったら大間違いだぜ、アンガー。
(狙いは、今度も肩)
真正面から撃つと、スーまで一緒に吹き飛ばしちまう。スーには当たらないように、爆風すら当たらない角度で、冷静に――
ふっ、と小さく息を吐いて、俺は腰のホルダーからドローすると同時に、撃鉄を起こし、構え、スタンスを整えて、狙いを定め、足を踏ん張る。この際、僅か0.15秒。散々練習した、最速のクイックドロー。
弾丸は当然炸裂弾。威力を高めるために指向性のものだから、そんなに爆風は広がらない。こんな時のために改良していてよかったぜ炸裂弾。
「スーっ!」
スーの名を叫ぶと同時に、ガン! と肩に衝撃が走る。PISはやはり、そもそもが強力な銃。俺の肉体じゃ、そんなに連射できるようなもんじゃない。
アンガーの眼が、俺の弾丸をとらえるが、遅いぜ。
スーは、俺に呼ばれたことですぐに俺の意図を察していたらしい。すぐさま飛びのいて、炸裂弾がかすりもしないように距離をとる。
しかし、そこで俺の意図も予想もしていないことが起きる。
なんと、アンガーが俺の弾丸に反応して、斧を炸裂弾からの盾にしようと構えやがった。
「無駄だぜ!」
機兵の頭すら吹っ飛ばす威力。そう簡単に防げてたまるか!
直後、奴の斧にぶち当たり、炸裂弾が起爆する。
ドッオォォォ!
かなりデカい音があたりに響き、眼が閃光でくらむ。
「やったか!?」
すぐさまPISにもう一発の炸裂弾を再装填し、Σもリロードしてから俺は呟く。
「こんな爆発、人間が耐えられるわけがないでござる……なんていう武器でござるか」
スーが戦慄した声を出すが、機兵のすさまじさを目の当たりにしている俺としては「指向性がいまいちだな、もっと改良しないと」なんて感想が先に出てきてしまう。麻痺してるのかな。
……と、暢気に構えていると、ぴりっ、と空気に緊張が走った。
「オイオイ、マジかよ……ッ!」
「どう、なってるんでござるか……っ!?」
もうもうと立ち込める煙が晴れたその先には、
「今のはァ……効いたぜ……ッ!」
――片腕を失いながらも、半分壊れた斧を構えながら、こちらを睨みつけるアンガーが立っていた。
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