第53話 お前ら、出る作品間違えてないか?
「さて、どうするか」
子供たちが泣いてるのを見つつ、俺はライアの方に向き直る。
「この中に、さっきスーが言っていた保護者の女はいない。だからどっか別のところにいると考えるのが当然だが」
「さて、そのどっかというのがこの世ならいいんですが」
そうなんだよな。
今回の敵の狙いが子供たちだった場合……その邪魔となる彼女はもう殺されている可能性がある。
そしてその事実をスーに伝えるのは――
「ちょっと、酷かもしれねえな」
「とはいえ、伝えなくては始まりません。それを判断するにしても、私たちだけで判断してはいけないでしょう」
これで進むにしろ、戻るにしろ、な……
俺はため息がつきたくなるのを堪えて、スーの方へ歩いていく。
「おい、スー」
「な、なんでござるか?」
もみくちゃにされているスーを一度引っ張り出し、ライアに子供の世話を一瞬任せてから、こそこそと耳打ちする。
「(言いづらいことだが――)」
「(……分かっているで、ござる。ここに彼女がいないということが、一体どういうことなのかは)」
スーが、かなり悲痛な声を。押し殺しながらギリッとこぶしを握り締める。
その姿を見て、なるほど――と、少し納得してしまった。
こいつも、やっぱりそれなりに経験を積んでいる、男なんだ。
……よし。
「(取りあえず、子供たちを連れて帰ろう。じゃないと、身動きがとれない)」
「(……了解したでござる)」
少し冷静になっているからか、今までのように取り乱すことも無く、俺の意見に了解する。
しかし、本音の部分では納得していないらしく、握った拳からは血が垂れていた。
……だが、なぁ。
「それで、ユーヤさん」
ライアが普通の声量で話しかけてきた。
まあ、もう子供たちも泣いてしまっていることだし、普通の声量で話してもいいか。
「なんだ、ライア」
俺が尋ねると、ライアはいつも通りの顔で廊下を指さした。
「向こうから、人の気配が。二十人弱ですかね」
「先に言えよお前は!?」
「気づいているものと思っていましたから」
ニヤニヤ顔のライア。こ、この野郎……。
「あー、くそっ……」
頭をガシガシと掻くが、特に何かいいアイデアが思いつくわけでもない。
「子供たちをどうするか」
「取りあえず、ここは私が食い止めます。すぐに追いつきますので、先に行ってください。何、心配はいりません。すぐに追いつきますので」
「なんでそんなにフラグを建てる!?」
「フラグとは?」
「あー……アレだ、お約束ってやつだ!」
「そうですかね」
とはいえ、ライアなら負ける気がしないのも確か。
俺は一つため息をついてから、前を見る。
「じゃあ、俺たちは来た道を通って外へ出よう。スー、子供たちを連れて……って、もう来たぞ!?」
子供たちをもたもた集めていると、その隙にかすでに五人ほどの盗賊がこちらへやってきていた。
(くそっ……)
仕方ない、なるべく抜きたくはなかったが。
俺は懐から銃を引き抜こうとしてライアに止められる。
「早く行ってください」
ライアがそうつぶやいた瞬間、スッと彼の手が光った。
……え? ライアの手が光った?
俺が驚愕したのもつかの間、さらにその光の輝きが増し……カッ! とビームが飛びだした。
って、えええええええええええええ!?!?!?!?!?!? か〇はめ波!? 嘘だろ!?
そのかめは〇波を浴びた盗賊どもは、声を出すことも出来ず、消し飛ばされてしまった。
……嘘、だろ?
俺が唖然としていると、ライアはこちらを見てニコリと笑った。
「ちなみに、私の教えでは今ので師範代です。さらにこの上もありますので、取りあえずユーヤさんには今の域まで到達して欲しいですね」
できるわけねーだろ……。かめ〇め波だぞ。
俺はため息を一つつくが、そんな暇はないと思い直し、子供たちを追いたてる。
「では、後から追いつきますので」
「わかった、待ってる」
俺は子供たちがスーに付いていったのを確認してから、そちらに付いていく。
後ろで派手なビーム音(どんな超人バトルだよ)が聞こえてくる中、なんとかこそこそと外へ行く道を探しつつ、スー達に追いつく。
「スー、俺が後方を警戒する。お前は子供たちのケアだ」
「……? ケアとは?」
「世話って意味だ」
だから、少しも英語が通じないのはどうにかしてもらえませんかね。俺しかわからない言語とか、怠すぎる。
「分かったでござ……っ!?」
スーが曲がり角を曲がろうとした瞬間、顔をゆがめた。
何事かと思うと、子供たちもパッと安心した顔になる。
なんだろうと思ってそこを見ると、
「きゃっ、ス、スー君!?」
「レジー!?」
なんと、連れ去らわれたはずのシスターが。
「無事だったんでござるか!?」
「「「レジー姉ちゃん!」」」
「みんな! スー君! 無事だったんですね!」
少し涙に目を浮かべて、こちらへと向かってくるシスター。
目尻に涙を浮かべ、安堵の表情を浮かべているけど……何か、暗いものが宿っている。
それに、動きも変だ。なんで、一人だけで今ここにいる? 逃げ出してきたにしては、足取りもしっかりしているし、手首や足首にも縄の跡すらない。
何より――それは、嘘をついている目だ。
「スー、ホントに――」
シスターがスーに抱き着こうとするので、俺はスーの身体をグイッと引っ張り、引き離す。
「ゆ、ユーヤ殿?」
「何もんだ、テメェ」
俺は懐からΣを抜いて、銃口をシスターに向ける。
「!?」
「取りあえず、動けなくなってもらうか」
問答無用でΣを撃ち、足を狙う。
「チッ!」
シスターになりすましていた誰かは、バックステップで、俺の銃弾を躱した。くそっ、そんじょそこらのチンピラじゃないな。
「スー、子供たちを避難させろ! こいつは俺が殺る!」
「ちょっ、ユーヤ殿!?」
「いいから行け!」
向こうは、隠し持っていたのであろう二振りの短剣を抜き、側にいた子供たちを斬りつけようとしたので、俺はもう今度は容赦なくヘッドショットを狙う。
タァン! と銃声と共に弾丸が発射されるが、向こうはぐにょんとブリッジで避ける。お前は荒川静香か。
バンッ! と子供たちを飛び越え、空中でさらに二発、連射するが、それらも躱される。こいつ、対拳銃にだいぶ慣れてやがるな。
「テメェ、どこのモンだ? ああ? ただのチンピラの動きじゃねえだろ」
チャキッ、と拳銃を向けながら凄むと、シスターの顔をしてる誰かは、へらりと笑った。
「いやー、声も一緒だと思うんですけどねー。なんでわかっちゃいました?」
「……俺を騙せると思うなよ? 嘘はすぐにわかる。シューヤ以外が俺のことを騙せると思うな」
「嘘なんてついてないんですけどねー」
「どこが」
また撃とうかとしたら、すぐさま距離を詰められてしまった。
これはマズいと思い、俺はバックステップで躱しつつ、ボディに蹴りを入れる。
「ぐふっ……!」
「そのまんま、くたばれ」
身のこなしとは対照的に、そこまで打たれ強くないのか、うずくまってしまった。
……殺さないで、情報を抜き取る方がいいだろう。俺は動きを封じるために、足を撃とうとしてΣを敵の足に向けた瞬間、敵の身体が震えていることに気づいた。
「?」
「くふ、くふふ、くふふふふ」
不気味な笑い方――マズい、と思った俺は、咄嗟に捕獲から殺害に切り替え、何も言わずに引き金を引こうとして、
「私に、触れましたね? くふふ」
彼女の身体が、突然俺のそれと同じものになった。
「!?」
「ほら、どうだ? これ。俺の能力、まあ変身能力ってところかな」
口調も、服装も俺にそっくりなやつが現れた。
(マズい――マズいマズいマズい!)
発言からして、接触がトリガーになるみたいだが、触れた人間を模倣することができるのか。
「ふーん……つーか、凄いな、俺。この記憶」
「は?」
まさか、仕草や服装、容姿だけじゃなくて――記憶も、読み取れるのか?
しかも、口調からして、思考パターンとかもコピーできるのかもしれない。
「ああ、俺の能力はな。変身するだけじゃなくて――相手の、記憶とか、癖とか、そのほか諸々、相手のすべてを手に入れられる能力だ。ま、全てを奪う能力と思ってもらってかまわないぜ」
ヤバい――ヤバすぎる! 出る作品間違えている奴がここにもいる!
敵は、少し肩をすくめて、短剣を仕舞う。
「……ってか、おいおい、お前、よくこれで正気を保ってられるな。正直、なんで今まで生きていられるのかが不思議だわ」
「黙れ!」
ダン! と引き金を引くが、まるで俺のように、するりと躱す。
――ヤバい、ヤバい、ヤバい!
「一応、ここでお前を殺せば――今度こそ、成り代われるだろうな」
それが、目的か!
ってことは、敵国のスパイ……オルレアン王国以外は、あまり考えられないな。
「くらえ!」
俺の動きとそっくりな動きで、剣で斬りつけてくる。
しかし、逆に言うなら、俺にそっくりな動きなので、どうくるかは手に取るように分かる。だったら、回避も簡単だ。
しかし、逆に言うなら敵の方も俺の動きが読めるようで、俺の攻撃が一発も当たらない。近接だから、Σは使わずに戦っているが、ギリギリのところで躱される。
「はっ、慣れない戦い方をしてると、死ぬぜ?」
「はっ、そっちこそ。しゃべりすぎる奴は早死にするぜ?」
がっ! と敵の刃を受け止めつつ、蹴りと同時にバックステップで距離をとる。
そして、もう一度Σを敵に向けるが、同時に奴も短剣を投げて――
「「ああもう!」」
俺と敵の声が重なる。本当に俺のコピーがいるみたいだ。
「こんの、コピー野郎が!」
「あ? わけわかんねえこと言ってんじゃねえ!」
「俺が本物だぞボケが!」
中距離なら俺の方が有利だ、Σでさらに撃つが、どうにもこうにも決まらない。
ラクサル――アイツと比べると、ラクサルの方が強いかもしれないが、面倒くささならこっちの方が上だ。
しかし――確かに、俺の動きをコピーするのはウザい。
だけど、それよりも不思議なことは。
(――なんで、俺以外の人間にならないんだ?)
確かに、こいつの能力で俺に成り代わるのが目的かもしれないが――それならば、真っ先に俺を殺すことが目的のはずだ。
確かに、さっきのシスターよりは動きが、俺の方がましかもしれないが、それでも、他に使い勝手のいい人間はいるだろうし、そうでなくても、自分と戦うなら、引き分けはあっても負ける気はしない。
(直前にコピーした人間の姿かたちにしかなれない?)
それならば、俺の姿で戦うのは分かる。
そしてもう一つ。動きはコピーでまかなっているというのならば、さっきのシスターの身のこなしが分からない。シスターのくせに、俺の動きを見切れるくらい鍛えていたということになる。
しかし、そんな技量は昨日会ったシスターからは感じられなかった。
だとすると、その動きはシスターのものではなくて、この敵の能力だと思われる。
「「死ね!」」
俺の撃った弾丸が、敵の真正面から吸い込まれていくが、それを回避して敵がさらに俺の方へ突っ込んでくる。
(そう――この動きも、おかしい)
敵の動きは、短剣を用いたら、俺が動くであろう動きだ。
だけど、本来の俺のメインウェポンは、銃。
こんな動きは、出来ないこともないが、俺の本来の動きじゃない。
……そういえば、待てよ?
「Hey, I do not know what my husband is saying. What is happened?」
俺がテキトーに英語を言うと、敵はきょとんとする。
これで確定だな。
「なるほど」
ピタッと動きを止めた俺を怪訝な目で見てくる敵。
それを見ながら、ニヤニヤと俺はΣに続いて――PIS50を取り出す。
「やれやれ、まんまと騙されたぜ」
「は?」
「お前には負けないな。お前――コピーできるのは姿形だけだな?」
「は? 何言ってんだ。つーか、こぴーってなんだよ。俺の知らない言葉を使って戸惑わせようっても無駄だ――」
「この時点で察しだ。自分の表情って読み取りづらいもんなんだな。一瞬、マジで騙されかけたぜ」
さて――と俺は、気合を入れ直す。
「やるか」
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