第51話 自分の価値
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雑なあらすじ
ござる口調で喋るスーという少年に親近感を感じていたユーヤ。スーを助けたいと思っていた矢先、スーが血まみれで倒れているのを発見する。
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「おい! スー!」
俺は急いでスーを抱き起し、呼吸を確認する。
……よし、呼吸はしてるな。男同士で人工呼吸とかいう不快なことはしなくてすんだようだ。
「しっかりしろ、おい!」
この傷からして、頭を打ったであろうことは間違いない。だったら下手に揺らしたりするのはよくないな。
俺は取りあえず手持ちの道具で止血をしようと試みる。
「……さっきテキトーにいろんなもの買っておいてよかったな」
手持ちの中から、使えそうなものでササッと止血をすませる。
そうこうしているうちに、スーが目を覚ました。
「う……」
「スー、目が覚めたか」
ぼんやりとして、若干焦点があってはいないが、命に別状はなさそうだ。
俺は取りあえず水でも飲ませようと思い、スーに水を差しだそうとしたところで――
「ッ! あ、アイツらは!?」
途端に正気に戻ったスーが、ガバッと身を跳ね起こし、俺に顔を向けてきた。
「落ち着け。アイツらが誰かは知らんが、今ここには誰もいない。人っ子一人な」
「ッ!」
スーはすぐさま立ち上がると、出口に向かって駆けだした。
「おい! 落ち着け!」
しかし、そう長いことではないだろうとはいえ、意識を失っていた人間が、すぐさま動けるようになるわけもない。足をもつれさせて、こけてしまった。
慌ててスーの傍に駆け寄り、肩を掴んで無理やりにでも座らせる。
「おい、スー。何があったか話せ」
「は、早くいかないと! 子供たちが! レジーが!」
「だから落ち着け! 何があったか話せと言ってるだろ!」
しかし、スーはそれでも落ち着かず、じたばたと暴れるので俺はボディに一発入れる。
「がぁっ……」
「ったく、落ち着けって言ってるだろ」
スーの身体を触ってみると、鍛え上げられているのが分かる。このスーをこんなんにしているんだから、相手は相当強いのか、それとも相当数がいるのか……どのみち、厄介な相手であることは間違いなさそうだ。
「は、早く行かないと……」
「だーかーらー、行くのは構わんが、お前1人じゃどうにもならなかったから、今この状態になってるんだろ? 同じ轍を踏むつもりかお前は。いいから、まずは落ち着け。それで? 何があったんだ」
つーか、暴れたせいでまた出血したらどうするつもりなんだこいつは。
俺はため息をついて、懐からケータイ……が無いから、ライアに連絡を取る手段がないな。困った。
さてどうしたものか――俺は取りあえずスーにさっき差し出そうとして、結局スーが飲まなかった水をもう一度差し出す。
「ほら、飲め。そして冷静になれ」
スーは少しためらっていたものの、諦めたような表情をしてから、それを飲んだ。
「落ち着いたか?」
「……多少は」
よし、会話が通じるようになった。
「まず、俺が出て行ってから何があったのか教えてくれ」
「はい……」
そうしてスーが話した内容を要約するとこうだ。
ご飯の用意をして、子供たちを集めた時に、窓が割れる音がしたかと思うと、まずシスターの子――レジーと言うらしい――が首筋にナイフを当てられていたらしい。つまり、人質にとられたわけだ。
そうしてスーは身動きがとれなくなり、数人の子供たちが見せしめのように殴られ、激昂したスーがその人さらいどもに殴りかかろうとしたところで、後ろで隠れていた奴に殴られて気絶、気づいたら全員いなかったということらしい。
「子供たちは何人いた?」
「18人でござる……」
「となると、そのレジーって子含めて19人か。連れて逃げるのには大所帯だな」
というか、そもそも、何故スーを殺さなかったのか疑問が残る。普通、目撃者は消すだろうし、そうでないのならスーも連れ去るはずだ。
こいつだけ、この場に何故残されていた?
「その前に、どうして子供たちをさらった?」
こうやって子供たちを浚う理由なんて、身代金目的か、人身売買くらいしか思いつかない。そして、彼らは孤児。身代金目的ならば人身売買が目的だろう。化粧っ気はなかったが、あのレジーという子も美人の部類だった。それなりの値段で売れることだろう。
この国では、人身売買は禁止されているはずだが……まあ、裏の市場とか、ありそうだからな。俺たちが見逃していることもあるだろう。悔しいことに。
「まあ、ここは国にも知られていない教会兼孤児院。さらうなら絶好の場所だろう。だけど、なんで俺が来た今日この日に、いきなり誘拐事件が起きた?」
スーが生きていたこと、タイミング、何もかもが怪しすぎる。
チッ、ライアがいてくれてよかったぜ。俺じゃあ手に余る。
「スー、取りあえず、いったん宿まで戻ろう。幸い、さらわれたのは19人。この人数を連れて、そう遠くまでは逃げられない。態勢を整えてから、子供たちの奪還を目指そう」
「し、しかし! 早くいかないと殺されてしまうかもしれないんでござるよ!?」
「落ち着け! そんなに簡単に殺すんだったら、最初からここで殺しているよ。そうじゃなくて連れ去ったんだから、まだ時間はあるはずだ。お前1人でどうにもならなかった相手が、俺一人加わったところでどうにかなるとは思えん。ライアに手を借りて、場合によっちゃあリーナ……ああいや、アンジェリーナ陛下の許可を得てからになるが、俺の部下を呼び寄せる」
というかまあ、ライア一人いれば足りそうな気もするが、一応そう言っておく。ライアは放っておけと言うかもしれないしな。
「しかし!」
「しかしじゃない。このまま行っても犬死にだ。少なくとも、誰かに伝えるまではいけないぞ。もしこのまま行って、俺たちが殺されたらどうする。この事件は闇から闇だ。そうなったら、誰もこの後助けに行かないし、行けないんだよ。わかってるのか?」
「…………ッ!」
スーはとても悔しそうな顔をしたが、黙ってうなずいた。よし、だんだん冷静さが戻ってきているようだ。
俺は取りあえず付近に誰もいないことを確認してから、スーを連れて宿まで走った。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「ライア! いるか!?」
ノックもせずに、俺はライアの部屋のドアを開ける。
そのことにライアは少しも不快感を見せずに、俺の方を見据えてきた。
「どうしましたか?」
「話がある。下の階まで来てくれ。今すぐ」
「おや、スーさんは見つかったんですか。それはよかったです」
「そんなことよりも早く!」
俺がライアをせかすと、ライアもこれはただ事ではないと分かってくれたのか、素早く立ち上がり、俺の方へ来た。
「それで、どうされたんですか?」
「スーが通っていた孤児院から、子供たちとそこの管理人がさらわれた。幸い、スーは生きていたから奴らの特徴は分かる。奪還しに行きたいんだが、手伝ってくれ」
一応、命令口調で言う。平時は、指揮権は俺にあるからな。
ライアも手伝うことに異論はないらしく、顎に手を当ててから、ふむと考え出す。
「なるほど……まず、相手の目星は?」
「わからないでござる……見たことのない集団でござったし、顔は覆面で隠していたでござる。最近は恨みを買った覚えもござりませんし……」
ござる口調のせいで、文法がしっちゃかめっちゃかになっている気がする。ござるって丁寧語だったっけ。まあ、その件に関しては、今はいいんだ。
「スーが助けた人の敵とかかもしれないしな……」
「その線は薄いでしょうね。そうでしたら、直接スーさんを狙うはずです」
確かに。
だとすると……
「じゃあスーの恨みは無いんだったら……他に何が考えられる?」
「最近、変わったことと言えば?」
「特にないでござる……あ」
スーが俺の顔を見る。
そして、ライアも少しため息をついて、俺の方を見る。
「でしょうね。偶然として片づけるには、あまりにも時期が悪すぎます。この誘拐事件はユーヤさんが絡んだことによって起きた可能性もあります」
「……とはいえ、可能性の域だろう」
俺が関わったことが原因の一つだとするのなら、それこそ偶然が過ぎる。
「そうですね。可能性の域を出ません。ですが、だからこそ――ユーヤさん、貴方に救出に向かってもらっては困ります」
「何?」
俺が問い返すと、ライアは少し半眼になった。
「ご自分の価値を自覚していただけませんか? 貴方は、機神――百の兵に匹敵すると言われる機兵が、さらに百あっても敵わないと言われる機神、ムサシの搭乗者なのです。あなた一人を失うことが、この国にとってどれほどの損失だと思っているんですか?」
真剣なまなざしで睨むライア。
「貴方が殺されるだけでも凄まじい痛手なのに、まして囚われて洗脳でもされたらどうするんです? その程度のことが分からないあなたじゃないはずです」
「俺は洗脳なんか――って、言いきれないか」
「そうですよ」
そう言われて、少し黙る。
確かに、俺の価値は機兵を操縦することしかない。
しかし、この世界ではそれこそが重要な役割を果たすんだ。
文字通り一騎当千――いや、一機当千と言うべきか。その戦力を、手放すのは惜しいというところだろう。
「貴方は、ご自分が戦を左右する存在であるということをそろそろ自覚していただきませんと。そのためにエドは貴方に魔魂石をたくしたんでしょうから」
「そのために?」
「ええ。誰か警護が間に合うまでに殺されては困りますから。私一人に勝てないあなたが、私よりも強い人間複数に囲まれたらどうするつもりなんです?」
お前より強いやつがいるわけないだろ――とは思ったが、この世界、何が起こるか分からない。あの最強の王(リーナ)よりも強いドS軍師(ライア)がいるんだ。もしかしたらそれを超えてくる人がいるかもしれない。
そんな奴らに囲まれたら? ――リーナ一人に勝てないんだ。ましてライアなんて言わずもがな。勝つどころか逃げることすらおぼつかない。
「……あの、機神とはなんでござるか?」
スーが手をあげて話に入ってきた。そういや、ムサシのことは一般人は知らないんだった。
「つーか、なんで部外者の前でこんなこと言ってるんだ、ライア」
「貴方は部外者にするつもりはないんでしょう? 彼を。短い付き合いですが、貴方がここで手を退くなんて思っていませんよ」
スーが、何が何だか分からないという顔をしているが、今はそれをスルーする。
「じゃあどうするんだ?」
俺が尋ねると、ライアは当然と言わんばかりの顔で、サラリと言った。
「私も行きましょう」
「え?」
あまりにも意外な展開に、俺は少しアホ面をさらしてしまう。
それが面白くなかったのか、ライアは苦笑しつつ肩をすくめた。
「貴方の機嫌を損ねるのもよくない、しかしあなたから目を離すわけにもいかない――なら、選択肢は一つでしょう」
「いいのか?」
「貴方が奪われるよりはマシです。というか、そもそもあなたが手伝えと言ったんでしょう?」
アレは知恵を貸してほしいという意味だったんだが……まあ、ありがたい。
「……すまん、助かる」
「構いませんよ。上に立つ者を愚者にするか賢者にするかは、ひとえに補佐するものにかかっているものです」
しれっと皮肉を入れてくるあたりがムカつくが……これで百人力だ。
「じゃあ、行くぞ」
俺は話においていかれてるスーの背を叩いて、外へ向かう。
さて――奪還作戦開始だ。
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